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作家・柚木麻子が「こんな話は読んだことがなくて」と語るほどハマった一冊

作家・柚木麻子が「こんな話は読んだことがなくて」と語るほどハマった一冊

作家の柚木麻子が、自身の本棚に置いておきたい書籍や、初のエッセイ集『とりあえずお湯わかせ』について語った。

柚木が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:玄理)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。10月30日(日)のオンエアをテキストで紹介する。

古本は「当たり」が続く印象がある

柚木さんは。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』(文藝春秋)でデビュー。2015年『ナイルパーチの女子会』(文藝春秋)で山本周五郎賞を受賞。10月には食と料理を通して、2018年から2022年の4年間を記録した、初のエッセイ集『とりあえずお湯わかせ』(NHK出版)を発表した。

柚木の本棚の写真を見て玄理は「新刊よりも古い本が多い」と印象を語る。



柚木:古本で買ったものとか小さい頃から読んでいる本とかありますね。有吉佐和子の本は古本で買ったような気がします。

玄理:それだと、よく古本屋さんには足を運ぶんですか。

柚木:コロナでこの3年間は、実店舗より古本屋のサイトから買ったりすることが多いです。

玄理:古本を買うきっかけって何ですか?

柚木:小さい頃に限って言えば、古書を集めたお店が街にけっこうあって、買うようになった気がします。

玄理:古本の良さってありますか。

柚木:今、流通されてない絶版になっているものを買えるのがいいってことが単純にあるんですけど、一冊当たりを出すとまた当たりが出るみたいなところがあるんですよ。だんだん勘が鋭くなっていって。

“積読”について、柚木は「買っておけば、私は絶対に読むタイプ」と語る。

柚木:なので、連れて帰る感が強いんです。一冊面白い本に当たると、また次に買えるような気がしているんですよね。

超展開する魔法使いのお話

そんな柚木は、本棚に残したい一冊として、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『大魔法使いクレストマンシー 魔女と暮らせば』を紹介。児童書だ。

柚木:大魔法使いの一家に引き取られる小さいきょうだい、グウェンドリンっていうお姉ちゃんとキャットっていう弟の話です。キャットは魔法が使えないんですけど、グウェンドリンは世界一の魔法使いを目指している野心家で。普通は(児童書で)野心家で世界一を目指す子ってかなり挫折が描かれるけど、この子は最後まで世界一を目指していて。大魔法使いの家に引き取られてきたので、事あるごとにお仕置きをされたり、グウェンドリンが「私は世界でいちばんパワーがある」ってことを見せるたびに心を折られたりして、最終的には魔法の力を取り上げられたりするんですけど、グウェンドリンは負けないで、ミミズや虫を巨大化させたりとか、食べ物に魔法をかけてマズくして一家中の食事を台無しにしたりっていう、わりと小さめの魔法で一家を恐怖に陥れようとするんです。

玄理:あはは(笑)。

柚木:魔法使いの家なのでいつもグウェンドリンが負けるんだけど、グウェンドリンは世界一を諦めないということを、弟のキャットの視点から描いていて。この後が超展開で、グウェンドリンがこの世界で世界一になれないと気が付くと、今話題になってるマルチバースを召喚するんです。特別な魔法使いを除き、みんな9つの世界を持ってるんです。そこから世界一になって神輿にかつがれて、王様になっている自分の世界に行き、今の世界に別の世界の自分を召喚しちゃうっていうことをやるんです。そのくらい世界一になりたくて。もし世界一になれなかったら自分が世界一になっている世界線を見つけて、そこに自分が乗り込むっていうことをやるせいで、いろんなトラブルが起きて、別のグウェンドリンがこっちの世界に来ちゃうんですよ。こんな話は読んだことがなくて。

玄理:本当ですね(笑)。

作者のダイアナ・ウィン・ジョーンズは、スタジオジブリの映画にもなった『ハウルの動く城』の原作者でもある。

柚木:『ハウルの動く城』も、ちょっと変わった話じゃないですか。少女がどんどん歳を取っていくっていう。歳を取ってヒーローになるというところも、すごく面白くて。この『大魔法使いクレストマンシー 魔女と暮らせば』だったら、世界一になれなかったら努力しようとか、世の中とうまく折り合いをつけようじゃなくて、自分が世界一になっている世界線をマルチバースから見つけて、そこに行くっていうのが、ちょっと読んだことがなくて、本当に面白くて。今魔法モノにハマってるんですけど、これがすごく面白かったです。

どんどん社会に目が行くようになっていった4年間

番組では、柚木の初のエッセイ集『とりあえずお湯わかせ』についての話題にもなった。

【『とりあえずお湯わかせ』あらすじ】
このエッセイもまた、公開の日記帳だ。前向きで後ろ向きで、頑張り屋で怠け者で、かしこく浅はか、独特な人物の日々の記録だ(前書きより)――はじめての育児に奮闘し、新しい食べ物に出会い、友人を招いたり、出かけたり――。そんな日々はコロナによって一転、自粛生活に。閉じこもる中で徐々に気が付く、世の中の理不尽や分断。それぞれの立場でNOを言っていくことの大切さ、声を上げることで確実に変わっていく、世の中の空気。食と料理を通して、2018年から2022年の4年間を記録した、人気作家・柚木麻子のエッセイ集。各章終わりには書下ろしエッセイも収載。
NHK出版公式サイトより)

柚木:子どもが生まれる前くらいに、NHK出版さんからエッセイの連載の依頼を受けました。子どもを生んだばかりの頃は日々手探りだったので、自分と子どもしか見えてないっていうような日々の中でも連載ができてたけど、そのうち保育園に落ちまくったり、ベビーカーを蹴られたり、コロナになったりして、だんだん笑えなくなってきて、どんどん社会に目が行くようになっていく様子が日記みたいになっているので、ちょっと面白いかもしれないです。コロナ禍を通じて日本どうなんだろうとか、家事・育児って女性ばかりが負担してないかなって。最近のニュースとかを見ていると、日本人全員がちょっと気が付き始めてる感じはあるんですけど、私もそのうちの1人で、この4年間で段々世の中に目が行き始めた感じです。

玄理:今、ちょっとコロナが前よりも落ち着いてきている雰囲気で読むと、自分もどうやってコロナ禍を過ごしてたっけとか、柚木さん独特の文体でクスッと笑えて。ご本人はすごく大変だったと思うんですけど。

柚木:みんな大変だったと思うんですよね。私より大変な人って絶対にいると思いながら書いていました。言っても、作家は家から出なくて済む仕事だから、コロナの感染拡大の時期に私は恵まれていたと思うんです。でも、恵まれている人が「私は恵まれてますけど、こんなんでした」って言うことってけっこう意味があるんじゃないかって思っていて。恵まれていてもこれだよ、と正直に言うことってすごく意味があるんじゃないかなと思ったので、得をしている部分はちゃんと書くようにしました。

『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。

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