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“双璧の天才”ハチ、wowakaも…ボカロは若者に何を伝えてきたか? 専門家が語る

鮎川ぱて『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』(文藝春秋)

“双璧の天才”ハチ、wowakaも…ボカロは若者に何を伝えてきたか? 専門家が語る

ボーカロイドは何を歌ってきたのか? 若者たちにとってどんな存在なのか? ボカロPで東京大学教養学部非常勤講師の鮎川ぱてさんが語った。

鮎川さんが登場したのはJ-WAVEで放送された番組『SONAR MUSIC』(ナビゲーター:あっこゴリラ)。オンエアは10月26日(水)。

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ボカロは若者の味方をし続けてきた

鮎川さんは2016年から、東京大学で開校されている講義「ボーカロイド音楽論」を担当。東大イチの大人気講義と呼ばれ、7月にはその内容が『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』(文藝春秋)として書籍化された。

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そんな鮎川さんに、あっこゴリラは「初音ミクの登場から15年。ボーカロイドは若者たちにとってどんな存在になっているのか?」と質問する。

鮎川:ボカロはずっと若者の味方をし続けていると思います。15年も経ったからこそ当時20歳だった人は今35歳になっているはずなんですけど、特定の世代のカルチャーとして固まってしまうのではなくて、今の若者もボカロを聴き続けている。だからユースカルチャーっていうポジションをずっとキープしていることが印象的ですね。

あっこゴリラ:確かに。

鮎川:そしてこれも前から変わらないのが、若者って今の社会のマイノリティだって思ってるんですよね。数の上でも、例えば今の10代は40代の半分しかいないんです。人口で言うと8パーセントくらいになるんですけど、これってLGBTQ+の割合と同じくらいなんですよね。今、日本で若者をやるってことはマイノリティをやること。だからこそ若者の味方をしなきゃいけないってことで、僕はずっとやっているところがあります。

ここで、鮎川さんはボカロの代表曲としてハチの『マトリョシカ』を紹介した。
あっこゴリラ:ハチと言えば、米津玄師さんのボカロPの名義となりますよね。

鮎川:ボカロシーンを代表する必ず知って欲しい1曲ですね。ハチと米津玄師さんが同一人物だって知らない人もまだいると思いますし、米津玄師さんの快進撃が続いているので、これからそういう人が増えていくかもしれないと思っています。この曲はそれ以降のボカロシーンの感性の重要な部分がすでに宿っていたと思います。これ2010年の曲なんですけど、ボカロシーン全体が持っていた信念みたいなものが表れてると思います。

あっこゴリラ:その信念とは?

鮎川:それはやっぱりマイノリティの味方をするということだと思っています。先ほど言った、若者の味方をすることです。

若い作家が哲学を持って闘っている

ここで鮎川さんは「哲学的な話をしたい」と前置きしながら、「言葉とは何か」について語り出した。

鮎川:言葉って基本的にマジョリティの味方をしちゃうんですよ。結局マジョリティに都合のいいようにできていて、言葉を自由闊達に操れる人なんて世の中の一握りしかいないのに、弱い立場になる人が「ちゃんと言葉で説明してみろよ」って強いられてくる。

あっこゴリラ:うんうん。

鮎川:だけど、自分が感じてることか内に秘めた気持ちとかをどう言葉にしたらいいか分からない人こそがマイノリティかもしれない。そういう人たちの味方をするために作家っていうのは表現を作っている部分があると思います。人によるとは思いますが。

あっこゴリラ:それはわかりますね。

鮎川:あっこさんも自分のことを語っているけど、きっとその言葉がリスナーの誰かが「私のことを語ってくれてる」って受け取られたことってありますか?

あっこゴリラ:結構ありますね。

鮎川:まさにボカロはそういった人たちのために、たくさんやってきているってことだと思います。

特に若者は言葉と付き合い始めて時間が短いのに、年長者は対等であるかのように「対話せよ」と言うことが、ときに全く公平ではないことになると鮎川さんが言うと、あっこゴリラが共感しつつ「あと、世代によって社会背景が違うから、くらっている呪いが違う」と語る。

あっこゴリラ:若者と年長者で感覚的な部分が違うから、日本語なのに通じ合えずに、共通言語が理論になっちゃうんですよね。

鮎川:さすがですね。そういうあっこさんみたいな哲学を若い作家たちが持って闘っているのがボカロシーンの非常に面白いところで。

あっこゴリラ:音楽って言葉にならない熱情みたいな部分を表現できるから、私も好きなんですよね。

鮎川:まさにそうです。ありきたりな言葉に置き換えるのではなく、音で表現してくれているからこそ。

あっこゴリラ:そう。歌詞だけ拾う人も多いけど音楽って全て込みなので。

鮎川:だからこそ、そのパッションがボカロシーンに集まっているって10何年来続いていることが本当にうれしいですね。

ハチとwowakaは、ボカロシーン「双璧の天才」

続いて、鮎川さんはハチと同じくボカロを代表するアーティストとしてwowakaを紹介した。

あっこゴリラ:ボカロと言えばハチとwowakaですよね。

鮎川:この2人がボカロシーンが持ち得た双璧の天才だと僕は思っています。彼らがボカロをやっていたのは10年前くらいになってしまうんですけど、これからボカロを知る人も必ずこの名前を覚えて欲しい。なぜならwowakaさんは今みなさんがボカロ的としているようなスタイルをほぼ1人で確立したような作家だからです。まさにそのエッセンスがギュッと詰まったような、それを象徴するような1曲が『裏表ラバーズ』です。
wowakaは2012年から「ヒトリエ」というバンドで活躍するなど、今後を期待される人物の1人であったが、2019年に急逝した。

鮎川:wowakaさんは非常に穏やかな人だけど、その中には激情をずっと抱えている感じがあって、プライベートでもすごく素敵な人でしたし、一緒にいるだけでワクワクするような作家で、今でも彼をリスペクトしています。今、紹介した『裏表ラバーズ』はいろんな解釈があるんですけど、性愛と格闘していると思います。みんなそれが当たり前の人がやることのように思う人もいるかもしれないけど、その性の最中にありながらどうしたらいいか分からなくて精一杯もがいている切実な曲だと思います。そのことも若者たちの共感を集めたんだと考えています。

あっこゴリラ:確かに先ほどのハチの楽曲とこのwowakaさんの楽曲っていわゆる分かりやすいベタな恋愛ソングではないですよね。J-POPってめちゃくちゃラブソングが多いじゃないですか。一方でボカロ楽曲は、自己との格闘とかそういう曲が多い印象が多い気がします。

鮎川:僕が書いた『東京大学「ボーカロイド音楽論」講義』で、アンチセクシャルな感性がボカロにはあると綴っています。チャートの音楽もラブソングばかりで、そうじゃないものを聴きたい人はどうしようもなかったけど、本当はそうじゃないんだ。もっと言うと、性とか性愛とかに違和感や疑問を感じている人もいいんだよって言ってくれるようなアンチラブソングがボカロにはたくさん芽吹いています。

あっこゴリラは、ボカロシーンは「自問自答でのたうちまわってる系が多い印象がある」と言うと、鮎川さんは「そういう意味でアンチラブソングの最高傑作のひとつが『裏表ラバーズ』だ」と語った。

また、先日、ボーカロイドの祭典『ボカコレ公式 2022秋』が開催され、鮎川さんが、その中で注目するアーティストとしてkamome sanoの『コトダマ』をセレクトした。
あっこゴリラ:サウンド的な部分がかなり今っぽくなってますね。

鮎川:めちゃくちゃ今っぽいですし、本格派、実力派です。一時期、ボカロ活動が少なくなってきてたんですけど、ボーカリストとユニットを組んで、今も活動をしていて、いきなりボカコレに戻ってきてくれたのがうれしくて紹介しました。ボカロシーンを代表する女性作家の中でもすごく好きな作家のひとりですね。

あっこゴリラ:ボカロの楽曲ってロック系が多い印象があったんですよ。だからこのサウンドは今っぽくてカッコいいなって思いました。

J-WAVE『SONAR MUSIC』は、月~木の22:00-24:00にオンエア。

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