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セカオワ・Saoriが聞く、「不要なコミュニケーション」を実現するロボットの必要性

セカオワ・Saoriが聞く、「不要なコミュニケーション」を実現するロボットの必要性

SEKAI NO OWARI・Saoriが、分身ロボット「OriHime」の開発者で株式会社オリィ研究所所長の吉藤オリィと、これからの「社会」を支えるロボットについて語り合った。

Saoriは同番組の第5週スペシャルナビゲーターとして登場。11月29日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」でトークを展開した。

2人の出会いを振り返る

この日初対面となった吉藤とSaori。Twitterを介してお互いを知るようになったという。

Saori:来ていただけると思わなかった、というとアレなんですが、なかなか対談をやるような方ではないと伺っていたので「どうかな……?」と思っていたんです。なので、来ていただけてすごくうれしいです。
吉藤:こちらもうれしいです。
Saori:一番最初にオリィさんのことを知ったのは、たぶんTwitterだと思うんですが、「不思議なロボットを作っている人がいる」みたいなのが流れてきたんです。「なんだろう?」と思ってフォローをして、そこからずっと見ていました。活動がすばらしくて、大好きなんです。本当にお会いできてうれしいです。
吉藤:ありがとうございます。1人で深夜とかに開発をすることが多いんです。そのときに作業用というか開発のためのBGMをかけていくなかで、ちょうどセカオワ(SEKAI NO OWARI)さんの曲を聴いていた時期にSaoriさんからコメントをもらって、「あ、Saoriさんだ!」と印象的だったのを覚えています。舞台衣装とか演出が好きなんです。
Saori:うれしいです。

小学生のときに感じた「分身ロボット」の必要性

吉藤が創設したオリィ研究所が開発をしたプロダクトで代表的なものに、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」がある。同プロダクトは、どのような役割を担うのか。吉藤が自身の体験も交えて解説した。

https://orihime.orylab.com/

吉藤:私たちは生まれてから、体がひとつしかないわけですよね。昔、不登校というか、学校にあまり通えなかった時期が3年半ほどありました。そのときに「お腹が痛くなってしまう体を自分で介護できないし、その体を引きずって学校に通うことができない」と思っていたんです。「どうして自分にとっての体がひとつしかないんだろう?」ということをずっと思っていて。もうひとつ体があれば、それを学校に置いておいて、意識だけ瞬間移動で切り替えたり、もしくは自分がしんどくなっても、もうひとつの体でケアすることができる。小学生ぐらいのときに、そんな風に思っていました。そのまま時代が進んで、インターネットが登場してロボティクスが出たときに「これは作れるぞ」と思いました。

「OriHime」にはカメラ、マイク、スピーカーが搭載されている。入院中の状態であっても、スマホやタブレット、パソコンを使って、インターネットを介して地球の裏側の映像を観たり、学校の先生の話をリアルタイムで見聞きして挙手や発言することも可能となる。

吉藤には「不要なコミュニケーションが、人のコミュニケーションの本質」という想いがあり、「OriHime」はそれを実現するロボットだと続ける。

吉藤:家族や恋人であったとしても、電話をすると必ず「どうしたの?」って言われますよね。学校は授業を受けているだけに見えて、実は授業と授業のあいだの休み時間がすごく思い出に残っていたり、登下校のあいだに友だちが増えたりする。そういった用事のなかにある「不要なコミュニケーション」というのが、人間関係を作るのにとても重要だと私は思っているんです。だから「宿題だけ家でやればいい」とか、「家で遠隔でテレビ電話だけでやりとりをすればいい」と言うけど、テレビ電話を切ったあとにそこにいる人たちは延長戦を続けたり、コーヒーを飲みながら「さっきの会議どうだった?」みたいなことをやっている。でも、私はそこに参加できない。自分がそこに「いる」という状態でいられる機会をたくさん失ってきたと思っているので、その機会を平等にしたいと思ったんです。「OriHime」はこれまでに、結婚式で50回ほど使われているんです。
Saori:ええ! あー、なるほど。
吉藤:大切な学会がアメリカでおこなわれていて、学会と親友の結婚式のどちらを優先するか、ということがあるとします。でも「OriHime」を使えば、結婚式に出席する友人に分身ロボットを持ってもらって、アメリカから日本の結婚式に参加ができるんです。リアルタイムに首も動かせるので、新郎新婦の姿を追いかけて、拍手を送って、声をかけたりすることができます。

「誰かの役に立っている」という感覚は希望になる

Saoriが「そもそもなぜこれを作ろうと思ったのか?」と問いかけると、そこには難病などを抱えた人たちと共有する想いがあると吉藤は語る。

吉藤:もともと私が欲しかったものを作ろうと思いました。車いすを作っていましたが、車いすに乗ることもできない人たちもいます。オンラインゲームの中だったら、確かに居場所や友だちを作ったりできますが、多様性がないという課題点もありました。「オンラインゲームをやっている」という限られたカテゴリーの人たちと出会うことはできるけど、多種多様な人たちと出会えるリアルの世界には参加ができない。それは大きな機会の損失です。現在は50人弱の難病や寝たきりの方、ALS(筋萎縮性側索硬化症)といった方々にメンバーに加わってもらっています。私たちは老後もありますし、いつ体が動かなくなるかわからない。「寝たきりになったあと、どうやって生きていけばいいのか」ということについて、仲間として入ってもらって一緒に研究しています。
Saori:仕事を一緒にできるというのはすばらしいなと思います。難病の方々に対して、一方的に「してあげること」ばかりになっちゃうじゃないですか。でも「OriHime」があることで、そういった人たちが力を発揮できる機会があるというのが、本当にすばらしいなと思います。それが仕事である、というのがいいなと思うんです。
吉藤:大事なのは「自分が誰かの役に立っている」という感覚なんです。ボランティアとか人助けをしなきゃいけないわけではないけど、それができると生きる価値を感じやすい。私も昔そうだったんですが、助けてほしいんですよ。助けてほしいんだけど、助けられ続けて生きていたいかというと、そういうわけではないんです。やっぱり自分も誰かのために何かしたいんですよね。だから、自分を介護してくれる人たちのために、なにかできるようにしてくれるツールを作ろうと思ったんです。
Saori:一番最初は「自分が自分を介護できたらいいな」みたいなご自分の気持ちから、ここまでになったんですね。
吉藤:寝たきりのメンバーたちに「友だちが作れない」と言ったら「一緒にいようよ」と言われたんです。ただ単にいただけではコミュニケーションはうまくいかないので、仕事といった「誰かとなにかを一緒にする」というものをちゃんと作りました。テレワークをその瞬間だけやるのはだめで、楽屋裏、休み時間みたいな「ちょっとご飯食べに行こうよ」みたいな、「友だちを作る」「仲間を作る」という時間がある。目的のなかに不要なコミュニケーションをどう作っていくのかということをメンバーたちに教えられました。

多様的で強く、生存の可能性を高めるための出会いを

2019年の参院選で初めて、ALS患者の国会議員が生まれた。舩後靖彦氏だ。舩後氏が使う視線入力装置(目だけで動かせるコンピューター)は吉藤が手がけたものだという。

吉藤によると、舩後氏にはミュージシャンとしての一面があるという。

吉藤:彼が使っている視線入力装置、目だけで動かせるコンピューターというのを私が作っているんです。実はあまり知られていないんですが、彼はギタリストでもあるんです。ALSが発症してからも口は少し動くので、チューブを噛んでセンサーにしていて、それを使って3音だけ弾けるギターを作られて、それで仲間たちとずっと活動を続けてらっしゃいます。口で噛んで、少しテンポを置いてからギターの音になるので、タイミングはシビアです。視線入力はそこにはまだ使われていないので、視線入力と噛むスイッチを組み合わせると、もっとたくさんの音が出せる。体が動かなくなったからといって、あきらめてしまうのが今までの常識でしたが、こういったテクノロジーによってできることが増えるんです。
Saori:音楽も続けられるんですね。けっこう音楽は難しいのかなと思っていたんです。
吉藤:できます。私の周りでは指先しか動かない子たちが、指先だけでドラムを叩けるようにしたり、ピアノを弾けるようにしたりして、それを遅延のないネットでデュエットするようなシステムを使って、遠くにいるみんなが演奏をしてセッションをするみたいなこともよく起きてます。

舩後氏が国会議員になった当初、世間ではさまざまな意見が飛び交った。吉藤は難病者が国政に参加することについて、こう語った。

吉藤:今までは多様性がなさすぎましたよね。「我々の国民の代表」という形においても、なんとなく似たような「政治家っぽい」という人たちしか政治家になっていなかった。その意味において、いろいろな人たちが増えていくことでむしろ議論が広がっていきます。まだまだ偏りはあると思いますが、いろいろな人に代表になってもらいたいなと思っていましたので、そういう点では大きな転機になったんじゃないかと思います。
Saori:多様性が政治家は特にないと言われています。女性が少ない、年齢が高いといった偏りがあると、意見も偏ると思うんです。うちの会社でも、スタッフの人が1人でも変わるとやっぱり空気や意見、考えることも変わります。出会いというか、その人たちのコミュニティーのなかで文化が生まれていくから、私もALSの方が議員になったのはすごくよかったと思っているんです。
吉藤:たまたますれ違うでもいいんです。私たちは街を歩いて一緒にご飯食べるといった、日常生活のなかで会う人たちすべてが世界のすべてのような気になってきちゃうんです。寝たきりの方や、1000万人の独り暮らし高齢者がいたり、5万人近くの病気が理由で学校に通えない子どもたちがいるみたいなことを数字で言われたとしても、実感はまったく湧きません。60人に1人が車いすを持っているはずなのに、街で全然見かけない。そうすると将来、私たちが“そっち側”になったときに、どこにいるんだろう?ということすら想像ができない。だけど、そういった外出困難やいろいろな病気と向き合いながら生きている人たちが友だちのなかにいれば、「そうか、こういう生き方になるんだ」というイメージつきますよね。多国籍もそうかもしれないけど、障害もそうだし、さまざまな人が友だちのなかにいればいいんです。理解を深める意味では、英語を勉強するために英語を使う友人を作るぐらいの気持ちで、いろいろな友人を作る。どんな風に自分が生きていくかという選択肢のひとつとして、自分と全然違う世界の方向に、知らず知らずにうまく誘導をしてくれる友人をどうやって作っていくか。遊びだけではなく、仕事のなかにおいて接点があった人たちともう少し関係性を作って、お互いが知らない世界のことをよく知っていくというような生き方というのが、この先国民を多様的かつ強く、生存の可能性を高めてくれると私は思っています。

『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。

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2020年12月6日28時59分まで

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