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アジカン・後藤とNulbarich・JQが語る、アメリカと日本の違い。歌詞で英訳できない“感覚”とは?

アジカン・後藤とNulbarich・JQが語る、アメリカと日本の違い。歌詞で英訳できない“感覚”とは?

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)がNulbarich・JQと、アメリカと日本の表現の違いについて語り合った。

後藤とJQがトークを展開したのは、2月14日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。後藤は同番組の第2週目のマンスリーナビゲーターを務める。

アメリカは日常に音楽が鳴っていて違和感がない国

JQは昨年1月、アメリカ・ロサンゼルスに移住した。現地では新型コロナウイルスの影響により、同年3月からロックダウンがスタート。その後、「Black Lives Matter」運動が起こるなど、現地の人から「すごい時期に来たね、と言われた」と苦笑いする。

後藤:僕も2010年とか2011年くらいにアメリカに住んでみたいと思ったことがあります。その前まではニューヨークのインディーロックが盛り上がっていて、その空気を吸って音楽を作ってみたいなって。
JQ:僕もニューヨーク推しなんですけど、ニューヨークは長時間のフライトになるからしんどいなって思ってロサンゼルスにしました(笑)。あとニューヨークに住むなら学生が上京するようなかたちで行きたかったんですけど、今はミュージシャンの人たちもロサンゼルスに行っちゃってるから。
後藤:ニューヨークは家賃が高くてびっくりしましたよ。
JQ:そうなんです。ニューヨークのマンハッタン島はほぼ現地の人が住んでいなくて、お金持ちしか住んでいないって言われていますからね。
後藤:何年か前から、一番アメリカの音楽が面白いのはロサンゼルスだって思いますからね。僕が今住むとしたらロサンゼルスがいいなって思います。
JQ:たしかに、昔みたいなアメリカの西と東の垣根がなくなってきたというか。
後藤:リモートでもできるし、人ともネットによって街を越えて繋がりが作れるので。坂本龍一さんが以前、「どこに行ってもこの機材があればその音が出せるから、街の音から人の音になってきたな」みたいなことを言われていましたね。

JQはアメリカでの生活を振り返り、「音楽が鳴っていることが当たり前な地域なので、音楽も生き生きしてる」と実感したという。後藤もこれに共感する。

後藤:仕事でニューヨークに行ったときに驚くのは、毎日すごい数のミュージカル公演が行われていたり、夜はジャズのエリアが広がっていたりして、一日中音楽が鳴っていること。日本の人がテレビを惰性でつけているような感覚で音楽があるんだなって感じて。
JQ:日常の中に音楽がありますよね。僕たちが好きで聴く音楽とはまたちょっと違うというか。それこそテレビをつける感覚なんでしょうね。音楽が鳴っていて違和感がない感じで、いつも音楽が鳴っているんですよね。

Nulbarich・JQが抱く、東京のイメージ

Nulbarichは1月27日に『TOKYO』を配信リリース。タイトルにちなみ、JQはアメリカから見た東京について語った。

JQ:東京は世界各国、もしくは地方の人たちが何かの目的で集まって、そこで謎のケミストリーが起きている場所。良くも悪くも何でも手に入るから、東京に出てきてダメになっちゃう人もいれば、目的にフォーカスして成り上がる人もいる。まさにニューヨークっぽいというか、“すごく危なっかしいキレイな女性”みたいなイメージですね(笑)。
後藤:すごい比喩だな。
JQ:翻弄されるし、やめられない。時に距離を置きたくなるけど、離れるとまた違う。理由もなく東京にいるけど、何が好きなのかわからない、ごちゃごちゃした街ですね。
後藤:なるほどね。僕は田舎出身だから、東京への眼差しってすごく複雑なんですよね。憧れもあるけど、嫉妬もするというか。東京って何でもあるじゃないですか。世界中でやっているような美術展は必ず回ってくるし、人もいるしね。だから、うらやましいっていう気持ちもあるし、ズルいって気持ちもあるし。やっぱり文化的な格差って生まれちゃうよね、みたいな。でも、日本人としては東京を外部化できないなって思う。本当に豊かなのかなって思うこともあるし。一文無しのやつにはとことん冷たい街だと思う。

JQは「東京は何かを求めて来ると意外と何もなく、結局自分で構築していかなきゃいけない場所。でも誘惑は死ぬほどある」と表現する。

後藤:通り過ぎるだけならニューヨークとかロンドンとかと同じで、何者でもないことを許してくれる感じで楽なんですよね。
JQ:いても違和感は全然ないですよね。

音楽って本当に壁がない

コロナ禍でのライブについても話題が及んだ。現在、国内では有観客ライブが少しずつ開催されるようになってきたが、海外でのライブはまだまだ見通しが立たない状況だ。

JQ:僕たちもアジアでしっかりとしたツアーを組んでやろうかって話があったんで、マジで何だよって感じでコロナにイラついています(笑)。でも、コロナで音楽の向き合い方を考える機会にもなりましたね。コロナってこともあったけど、去年のロサンゼルスって今までにはない年でした。1月にグラミー賞の授賞式を見させてもらう機会があって、その当日の朝にNBAの元ロサンゼルス・レイカーズの選手、コービー・ブライアントが亡くなってしまって。
後藤:ヘリコプター事故ですよね。
JQ:その日の昼くらいから街がコービーになってくんですよ。外出ればレイカーズのユニフォームを着ている人しかいないし、バスの行き先表示もコービーを追悼する文字になっていたり、コービーのグラフィティーが完成されていたり。グラミー賞はレイカーズのスタジアムでやるんですけど、その会場の広告がコービーになっていて、グラミー賞の進行もコービー仕様になっているんです。たぶん半年くらいかけて準備していたものを、ものの3時間で全部ひっくり返してエンターテインメントし直すところがアメリカのすごいところだなって思いました。日本だとこういうことが起こっても、たとえば渋谷の街頭ビジョンを全部それにするって利権が絡んでできないと思う。
後藤:そうですよね。
JQ:アメリカの「あのコービーがこうなったんだから、やらないわけにはいかない」ってパッションで乗り切るってことも、それはそれで美しいなと思いました。
後藤:ボディーランゲージもそうだけど、表すことによる美徳みたいなものが向こうの人たちにはあるような気がします。
JQ:いつ何が起こるかわからないような場所に住んでいるので、一つひとつ表現がはっきりしないとダメなんだろうなと思います。思ったことを言わないと、明日には言えなくなる可能性があるというか。

JQの言葉から、後藤は英語の特徴を実感したエピソードを思い出した。

後藤:僕は海外の人に向けて日本語で作った曲の英語訳をしているんです。日本語の歌詞を訳者と話しながら英訳していくんですけど、「この日本語の歌詞は主語がない」って指摘されるんです。「これは“彼”なんですか、それとも“あなた”なんですか」とか「この悲しみは誰の気持ちなんですか」とか訊かれたり。「日本語はそれを指定しない美しさがあるんです」と言っても「そういう感覚はないので、それだと英語には訳せません」と言われてしまう。そういう違いも面白いですよね。
JQ:本当にそういう国ですよね。だから、ああいうビルボードのチャートになるよなって。浮き沈みが激しいんですよね。
後藤:なるほどね。
JQ:僕はすごく人見知りで友だちを作るのも下手なんですけど、音楽によってこうやって後藤さんともお話ができたし、音楽って本当に壁がないんですよ。それを僕は死ぬほど体現してきて。そんな英語がペラペラなわけじゃないけど、海外で「ミュージシャンをやっている」と言ったときに「どんな音楽?」「聴かせて?」とか言われて、その場でビートを作ったりすると「お前、ヤベー」みたいになって。
後藤:いいっすね。
JQ:「どうやって話そうかなと思っていた自分って何だったんだろう」って思うくらい、ビートが鳴った瞬間に繋がっていて、それが全てみたいなことがある。僕の感覚で言うと、海外の人に伝わる英語はぶっちゃけていらないと思っています。それこそ「主語をなくした英語を流行らせましょう」みたいな、そういう日本の良さを伝えていけたらと思うので、寄り添うというよりは僕たちの存在に気付いてほしいって気持ちの方が強いですね。

Nulbarichの最新情報は、公式サイトまたは、オフィシャルTwitterまで。

『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。

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