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「坂本龍一さんと思想は違うけど、音楽は好き」 その意見に見いだせる“可能性”とは【アジカン・後藤正文×哲学研究者・永井玲衣】

「坂本龍一さんと思想は違うけど、音楽は好き」 その意見に見いだせる“可能性”とは【アジカン・後藤正文×哲学研究者・永井玲衣】

3月28日に逝去した世界的アーティスト、坂本龍一さんについて、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Vo/Gt)と哲学研究者の永井玲衣が語った。

後藤は坂本さんと、さまざまな「D」をテーマに過去と向き合い未来を志向する「D2021」を行ってきた。永井も運営者のひとりだ。

2人が登場したのは、坂本龍一さんの追悼特番『J-WAVE GOLDEN WEEK SPECIAL A TRIBUTE TO RYUICHI SAKAMOTO』(ナビゲーター:サッシャ)。オンエアは5月5日(金・祝)。
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ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Vo/Gt)/哲学研究者の永井玲衣

まだ受け止めきれない…今の心境を明かす

後藤と永井は、坂本さんの逝去に関して現在の心境を語った。

後藤:最後に、お別れや感謝の気持ちを伝えられなかったのは心残りです。でも、いろいろなバトンを渡してもらったなという想いもあって。コロナ時代に突入してからは、坂本さんも私たちになにかを渡すような、病気の再発が決まってからも、そういうような接し方をしてくださったように感じているので、落ち込んでばかりもいられないなというか、「前を向いて、なにができるか考えないといけないな」という気持ちがふつふつと、ようやくですけど、湧きあがってきた感じがします。永井さんはどうですか?

永井:まだ受け止めきれていなくて寂しいですね。ようやく「あ、そうだ、これが“寂しい”だ」という風に思いました。「D2021」って坂本さんとゴッチさん(後藤)の呼びかけで開かれましたけど、最近だと坂本さんはご病気で、いらっしゃらないことも多くて。でもずっと坂本さんが活動のなかでそばにはいましたよね。

後藤:それはありました。遠くにいてもずっと近くにいて見守っていてくれるような、困ったときに肩にポンと手を添えてくれるような、そういう距離感でいてくれた感じがしています。インターネットに接していると、あっと言う間に世界中から追悼の言葉がタイムラインに並んで、そういうのを読んでいるとおいてけぼりにされちゃった感じというか。自分はまだよく受け止められていなくて、悲しいのか寂しいのか、きっぱり言葉にできないようないろいろな想いがあって。それをネット上の情報が追い越していくような感覚があります。みんなで集まったりして社会のこととか話していたら、Zoomとかでもフラッと坂本さんのアカウントが現れるような、そんな気がしてね。

坂本さんの「社会へのまなざし」には迫力があった

後藤は坂本さんの訃報に際し、坂本さんが所属していたYELLOW MAGIC ORCHESTRA(YMO)の話題ばかりになることに寂しさを覚えていることを告白した。

後藤:坂本さんって音楽もすばらしくて、歳を重ねながら進化していくことができるんだというのを、まざまざと見せつけてもらえました。僕は本当に、2000年代後半ぐらいからの坂本さんの音楽にずっと惹かれていて。それこそアンビエントだったりノイズだったりとか、特にスコアに書き起こさないような音の使い方みたいなところに興味がわいて。そういう音楽の一切合切が、坂本さんの生き方とか哲学とか思想とか、そういうところからやってきているんだというのが直感としてあります。

その想いは、「D2021」の活動を通じて永井などと一緒に坂本さんに接することで、「間違いない」という確信になっていったという。それゆえに、「坂本さんがいちばんポップだったころのグループの話だけに集約されちゃうと寂しい」と話す。

後藤:坂本さんの社会へのまなざしと坂本さんの音楽は、地下のなかではつながっている感じがしていたので。こうして永井さんと坂本さんの社会に対するまなざしとか、感覚を抱いて活動したかという話をするのは、大事なことなんじゃないかなって思ったりするんです。この何年か本当に一緒にいろいろな話を教授としましたよね。

永井:社会を“まなざす”ときって、注意深くいないと、すごく天高いところから語ってしまったりとか。

後藤:確かに。

永井:よくDのポッドキャストでもゴッチさんとよく話すのが、権力側の視点でしゃべっちゃうみたいな。自分がさばき手として「自分だったらこうする」とか、ゴッチさんが言う「武将目線」?

後藤:武将目線とか、軍曹とか指揮官の目線とかにみんななるんですよね。

永井:だけど、坂本さんって決してそういうことはなくて。だからといって「あえてこの観点で見る」とかではなくて。ご自身がどういう仕方で社会に根差しているのかということにすごく自覚的だったところを、本当に尊敬していたんですね。自分は社会のなかでどういう立場なのかとか、社会のなかに坂本さん自身も飲み込まれながらも、もがきながらも、でも「こうじゃないか」という言葉を紡がれているところを目の当たりにするというか。オンライン越しでしたけど、その迫力にいつも驚いていました。

「D」に込めた意味

東日本大震災から10年経った2021年に始動した「D2021」の名称は、坂本さんが考えたものだという。後藤がその経緯を語った。

後藤:「NO NUKES」(「脱原発」をテーマにしたロックフェス)のあと、NO NUKESはもちろん必要な活動だったと思うんですけど、集まるバンドとか世代に偏りがあるというかね。40代~50代が増えて、坂本さんと40代の僕たちの世代のバンドという形で、「あまり広がりがないよね」というのが坂本さんとの共通の悩みで、「どうしましょう」という話になって。そんななか、永井さんとかいまのDのメンバー、僕らよりはちょっと若い世代の人たちと一緒になにかできたらと集まったんです。NO NUKESの次というか、「もう少し広く社会を見てなにか活動ができたらいいよね」「どんなタイトルがいいんだろう?」みたいな話になって。柄谷行人さんの「交換様式D」、要は「資本主義の次を考える」みたいな意思をみんなで確認しながら。私たちの命すら商品になるような、扱われるような時代のなかで、どうやってその流れに抗おうか、みたいな話になりましたよね。

永井:その射程の広さというか。根本的なことを問いつつも、そのイシューが全部連環しているという、その広がりをなるべく感じたいなというのがたぶんあったと思うんです。私も探求しながら、ときにDにこじつけながら(笑)。でも、Dで始まる大事なことっていっぱいあって、「大事の“だ”も“D”だ!」みたいにめちゃくちゃなことも言っていたんですけど。どうしても1イシューになっちゃうところを大きな広がりのなかで考えていく思考の歩み方は、すごく続けたい観点、視点、姿勢だなと思います。

「思想は違うけど、音楽は好き」という思いが持つ可能性

後藤は、坂本さんに対して「私とは意見が違う」と思う人々が一定数いる一方で、「でも、坂本さんの音楽はいい」という意見も多くある、と推察して私見を述べた。

後藤:それって僕たちにとっては“可能性”なんです。言葉のうえでは、軋轢がけっこう生まれてしまう。でも、言葉にできていない、言葉として知覚できていないところに、私たちは、まだ分かち合う可能性をたくさん持っていて。(生物学者で作家の)福岡伸一さんと坂本さんの『音楽と生命』(集英社)という本のなかでも書かれていましたけど、地図の話もすごく面白くて。地形はただ自然としてそこにあるんだけど、私たちは言葉によってそれを図にしていくというか、観念的に理解していく。だから地図はめちゃくちゃ人間的なものなんですよ。そういう形で、私たちは自然そのものをすべて、ある種のマッピングできていけると思い込んでいるけど、これってめちゃくちゃ傲慢なんだ、みたいな。だから坂本さんの音楽を聴いて、ぜんぜん思想の違う「誰かと誰か」「私とあなた」が、なにか共通の意識とかフィーリングを持てることって、やっぱり可能性を示しているというか。意見が違うままに「俺たちはやっていけるんじゃないか」みたいな。

永井:坂本さんの社会に対する態度みたいなものと、坂本さんの音楽を完全に分離してしまうのではなく、もちろんつながりあっている、連環し合っている坂本さんを私たちはずっと体験してきています。その言葉以外の奥行きや音楽、そういうところも全部坂本さんだった、そこがまたDの坂本さんだったなと。

後藤:ラジオを聴いている人のなかにも、お互いにバラバラだって思うことがあったとしても、たとえば坂本さんの音楽を通じて言葉にできないフィーリングを共有するとき、その先にある、同じところにお互いタッチしているのかもしれないという可能性を信じてほしい。

永井:確かにそうですね。

後藤:それを頼りに、それぞれの場所から社会にいろいろなエネルギーを戻していくことができたらいいんじゃないかなと思う。ものすごく憤っているような人たちと私たちと、絶対に分かち合えることがある。そういう気持ちを捨てたくない。言葉にするのは難しいですけどね。でもどこかに糸口を見つけたいなと思います。

永井:そうですね。

後藤:坂本さんはそういう可能性を見せてくれた人なんじゃないでしょうか。

永井:坂本さんが見せてくださった可能性や希望、あるいは問いってすごくしぶといもので、いますぐに言葉が出てくるものじゃない。でもその分、まだいくらでも考えられるんですよね。それはうれしいことかもしれないです。

後藤:我々にとっても、常に問いを投げてくれるような存在でしたね。

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2023年5月12日28時59分まで

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番組情報
J-WAVE GOLDEN WEEK SPECIAL A TRIBUTE TO RYUICHI SAKAMOTO
2023年5月5日(金・祝)
9:00-17:55