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「ライゾマティクス」から「アブストラクトエンジン」へ。齋藤精一×真鍋大度が語る、これからの展望

「ライゾマティクス」から「アブストラクトエンジン」へ。齋藤精一×真鍋大度が語る、これからの展望

2021年1月末、株式会社ライゾマティクスは株式会社アブストラクトエンジンへ社名を変更した。

2006年に設立した株式会社ライゾマティクスは、時代に先駆けた表現をアート、広告、エンターテイメントの分野で追求。2016年に「Research」「Architecture」「Design」の3部門を立ち上げ、各部門の専門性を高めた挑戦的なプロジェクトを展開、次々に社会実装してきた。

設立15年を迎え、2021年1月末より株式会社アブストラクトエンジンへと社名を変更。「ライゾマティクス」と「パノラマティクス」の2つのチームを設置し、新たな体制で実証実験、社会実装をさらに推し進め、世界をより面白くしていくことを目指している。

パラノマティクス主宰の齋藤精一とライゾマティクス主宰の真鍋大度が、出会いからこれまでを振り返り、これからのビジョンについて語り合った。

真鍋と齋藤がトークを展開したのは、2月7日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。真鍋は同番組の第1週目のマンスリーナビゲーターを務める。

大学で出会った2人。第一印象は…

真鍋と齋藤は、株式会社ライゾマティクスの立ち上げメンバー。出会いは、東京理科大学時代にさかのぼる。真鍋は数学科、齋藤は建築科で学んでいた。

真鍋:俺が最初に覚えているのは、大学のキャンパスなのに、(齋藤が)スノーボードに行くような格好をしているなって。
齋藤:超Bボーイだったからね(笑)。(真鍋の)第一印象は、学食でカラコン入れてハンチングかぶって、オーバーサイズの短パン穿いて、ビーサンで来ている人。理科大って他の進学校に入れなくて来ちゃった系の人が多かった印象だと思うんだけど、キャンパスライフってこういう人もいるんだなって思ったよね。
真鍋:数学科なんて暗黒だったよ。建築学科はいいじゃん。そう思ってた。
齋藤:どっちもどっちじゃない。
真鍋:建築学科はオシャレな人ばっかりで、課題もオシャレ。だけど、数学は紙と鉛筆でずっと証明をやって。でも、お互いDJをやってたから、それが接点だった感じだよね。

そこから仲良くなった2人。大学卒業後、真鍋はシステムエンジニアとして電機メーカーに就職。一方で齋藤は、アメリカ・コロンビア大学に留学して建築の勉強をつづけた。

齋藤:これは今の組織改編にもつながるかもしれないけど、結局建築って行き詰まっていて。かたちの話と経済の話にどっぷりなんだよね。80年代からずっと続いていたニュー・アカデミズムを引きずってる。なんなら60年代から引きずっていて、ポスト・モダ二ズムとかやっていたんだけど、コロンビア大学でWIRED誌の創刊編集長のケヴィン・ケリーから経済、哲学、実装みたいなことをたたき込まれて。最初は何を言っているのか分からなかったけど、だんだん分かってきて、そのへんからいろんなものがつながりはじめた。21歳くらいのときかな。
真鍋:俺とかみんなは大学を卒業して就職したけど、大先生(齋藤)はすごいところに行ったね、となってたよね。

新しいことを始められるんじゃないか

その後、齋藤はコロンビア大学で助手をしながらニューヨークの建築事務所で働き、帰国。真鍋は電機メーカーを退職し、ITベンチャーを経て、岐阜県にある国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)へ入学。2人はお互いにアートの道を考えるようになっていったという。

真鍋:それから東京藝術大学の先端芸術表現科の講師をやっていたけど、作品を作って食べていけると思ってないからね。そういうもんだと思って頑張っていたけど。大先生は広告の仕事をやってたよね。
齋藤:そう。広告とか内装とかやる一方で、いま考えるとアートは現代美術寄りの文脈に入っていて、ちょっと違うなと思ったんだよね。結局アートを作る人も観る人も、批評する人も同じ小さな輪の中でやっていて。じゃあ、アーティストとして一本立ちして儲かるかというとそんなわけもなく。そのときに大ちゃん(真鍋)と会って「どう?」って言ってたもんね。
真鍋:僕はその頃、月一とかで仲間内が集まるクラブイベントをやったりしたから、そこで一緒にやろうって。
齋藤:新しいことを始められるんじゃないかってことで、会社を作ろうって話になったんだよね?
真鍋:会社を設立したきっかけを訊かれると、違う答えになると思うわ(笑)。
齋藤:確か会社を作ったのは、ウェブサイトを作ればとか、それぞれ食える術が分かってきて、僕はだんだん広告代理店の仕事も来はじめて、そのときに個人だと契約ができなかったことが理由のひとつ。もうひとつは、「個人事業主は住宅ローンが組めないらしい」って大ちゃんに言われて。
真鍋:俺が言ってたら面白いけどね(笑)。たぶん俺は会社を作ってほしかったんだろうね。当時、経済的に安定してなかったのは絶対俺だからね。(真鍋と共に「ライゾマティクス」主宰の)石橋 素さんがいたおかげで、一緒にお仕事させてもらっていたけど。

齋藤は当時、広告の仕事に対して、どこか嘘をついているような気持ちになっていたと振り返る。

齋藤:せっかく精魂込めて作ったものが3ヶ月でなかったことになるじゃない。
真鍋:やったけど、もうネット上にもないものとかたくさんあるもんね。
齋藤:その儚さはあって。そのへんから、今アブストラクトエンジンのパノラマティクスとなったけど、やっぱり世の中に残る方法って何だろうって考え始めて、45歳にして2個目の大人の階段を上ったって感じですかね。
真鍋:それはここ最近のことってこと?
齋藤:うん。じゃあ、広告でとかイベントでとか、本当はここ使えたらいいのにとか、こんなものができたらいいじゃんとかって思いはあるんだけど、なかなかできないじゃん。その調整をするのがめちゃくちゃ楽しみになってきたんだよね。いちばん最初は自分が見たいものを作っていただけなんだけど、「もっとこういうものができるんじゃないか」みたいに思って、行政の人と調整することが多くなって。ネジ締めてテープ貼って設営してるところからずっと来て、最終的には条例とか法律、開発とか街とかの話ができるようになって、もしかしたら40歳を超えてもう1つの風景が見えるのかなって思ってるかな。

デザイン・シンキングよりもクリエイティブ・アクション

齋藤はこれまで、奈良県の吉野町、天川村、曽爾村の3カ所を舞台とした芸術祭で、地域を3〜5時間ほどかけて歩き、自然に包まれながら作品を鑑賞・体験するイベント「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」や、横須賀にほど近い無人島・猿島を舞台にしたアートイベント「Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島」などを企画してきた。

真鍋:こういうのって、場所を見つけてそこから動き始めるってことなの?
齋藤:「Sense Island」の場合は猿島をなんとかしたいって思いからきてる。
真鍋:そういうイベントは一定期間で終わっちゃうものも多いから、今後もそういう企画を続けていくことが前提なの?
齋藤:時と場合によって、毎回自分がやるべきかっていうと、そのときの旬な人とかいいアイデアを持っている人がやればいいと思う。ひとつ小さな穴をあけたら、次に誰かが入ってきてもいいと思ってる。それが大ちゃんが作っているものとどんどんつながっていくといいかなって。イメージ的には砂の山に両サイトからトンネルを掘っている感じ。仕組み的なところから掘っているのと、表現的なところから掘っているのと、それがどこかでバコンって合って、見たことのないものができたらいいなと思ってる。
真鍋:なるほどね。
齋藤:今僕が行政とか条例とかとやっているのは、逆に大ちゃんからの影響が大きいかな。というのは、僕はずっと広告をやってくると、話を聞いただけで大体のアウトプットが見えるようになるわけよ。でも、自分は新しいものを作っているのかなって考えるとハテナで。会社を設営して10年くらい経った頃、僕のいちばんの強みって何だろうって1年くらい自問自答をしていて、そのときに大ちゃんと石橋さんは新しい領域をバンバン切り開いていて、同じように僕なりにできることはなんだろうって考えて行き着いたのが今かな。違う会社だったら、俺はこんなことはやってなかったと思う。

齋藤の話を聞き、真鍋は「いろんな切り開き方がある」と続ける。

真鍋:俺と石橋さんは実装ドリブンで、最初は誰もできないことをやるみたいな。でも、そこに足跡を付けたらやったことになる。でも、行政と交渉して今までやったことのない場所とか環境でやるっていうのも大変な話だよね。
齋藤:これまでってそれがデザインじゃなかったけど、今の時代ってそれもデザインのひとつになったじゃん。今回の組織改編でパノラマティクスにしたけど、パノラマって鳥瞰的に今の社会を見るみたいな感じで、僕なりに経済とか法律とかやってみると、その領域はその領域で極めたくなって。だけど、アブストラクトエンジンという同じ組織体の中に、違う表現の人たちがいるから、これがひとつの組織体になっているってすごいよなって思う。
真鍋:俺もマネしているけど、プレゼントかで「デザイン・シンキングよりもクリエイティブ・アクションだ」って言ってるじゃない。それがライゾマティクスとかアブストラクトエンジンらしさになっているんじゃないかって思う。
齋藤:アクションをしないと何も残らないからね。今って実装しないと見えてこないものがあり過ぎるけど、そういうところにいたいよね。
真鍋:全体の流れとして実装したり作ったりする人がもっと評価されるような環境になったらいいと思うし、そういうこともあるから自分たちでやっているってことでもあるよね。

齋藤が携わる日本全国の3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」もぜひチェックしてほしい。

『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。

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2021年2月14日28時59分まで

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