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具合が悪くても「休めない」社会病理に、医師が警鐘を鳴らす

(画像素材:PIXTA)

具合が悪くても「休めない」社会病理に、医師が警鐘を鳴らす

少しくらいの体調不良では会社を休まない、または休めない、という人は少なくないだろう。この“具合が悪くても休まない(休めない)”という状況こそが、社会に感染症を蔓延させている要因の一つではないか。J-WAVE『JAM THE WORLD』のワンコーナー「UP CLOSE」では3月2日(月)、医師の木村 知を招き、ジャーナリスト・津田大介が話を聞いた。木村は昨年、著書『病気は社会が引き起こす インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)を刊行した。


■風邪を引いても休めない社会環境

2019年12月に刊行された本書はインフルエンザの毎年の大流行の背景にある社会構造や医療現場の裏側を通して、現在の医療保険制度や「病気になるのはその人のせいだ」とする“健康自己責任論”に異議を唱えた一冊だ。

「風邪をひいたかな?」と思った人がメディアの医療情報に扇動され、初期症状でも受診する。そのせいで本当のインフルエンザ重症者に適切な医療が行き渡らなかったり、医療現場が混乱してしまったりといった状況を、本書では紹介している。これは現在の新型コロナウイルスにおける状況と全く同じだろう。

津田:「病気は社会が引き起こす」という点では、今回のコロナでトイレットペーパーの買い溜めなどの社会的パニックが起こっています。木村さんが書籍でご指摘されたことがより過剰な社会現象として表れていますよね。
木村:そうですね。私は現在、内科や小児科、初期診療を担うクリニックで診療をしています。風邪やインフルエンザの患者さんを診ると、個人が置かれた社会環境や労働環境、家庭環境において「休めない」と言う方がとても多い。医師は「休んだほうがいい」と言えますが、本当に休めるようにしてあげるところまでは介入できません。それをやるのは政治的な政策。だから、現場で起きていることを伝えたくてこの本を書きました。

インフルエンザは原則、陽性であれば出席や出勤を停止しなければいけない。しかし、「具合は悪いけれども仕事を休めない」という労働環境の人の中には、「陰性であることの証明書」をもらうことでなんとか出勤しようと考える人も多いのだそうだ。しかし、その時の検査の精度が100パーセント確実であることも言い切れない。検査では陰性だったために出勤したものの、実は陽性だった人が職場や家庭などにインフルエンザを蔓延させてしまう現状もある。

木村:実際の現場では陰性証明を求める人は多いです。また、検査の精度についても高くなく、たとえばインフルエンザで熱が出始めの段階で検査をしても陽性が出ないことがあります。「2日前に別の病院では陰性だったんですけど」という患者さんがうちに来たら、陽性が出ることも。ダイヤモンド・プリンセス号でも起きた、1回目は陰性だったのに2回目は陽性だったというケースは、多々ありますね。要は、鼻の粘膜を摂取しようと綿棒を入れてもたまたまそのときはウイルスがくっついてこなかったわけです。発症からの時間も、綿棒の鼻への入れ方など、ブレはあることを知っておいてほしいです。

医師の木村 知、津田大介
(医師の木村 知、津田大介)


■「病気=自己責任論」とするのは間違い

“休めない”マインドは、実は大人だけでなく子どもにもあることを木村は指摘する。

木村:今の若い人はわかりませんが、学校の皆勤賞のように小さな頃から「休まないで頑張っていくのが美徳」というのがあった気がします。風邪ぐらいなら休まないで行く、捻挫で足をくじいても部活や試合に行く。そういう子どもたちが今もまだいるんですよね。
津田:スポーツ漫画でも怪我をしたシーンでは「たとえこの場で足が壊れても、俺は試合に出るんだ!」となりますよね。
木村:「よくやった! 感動した!」ってね。そういうところから変えていかないといけないんじゃないかなと感じるんですよね。たとえば風邪をひくと「おまえの健康管理が悪かったんじゃないか」と言われがちだから、「みなさんに申しわけない。お休みさせていただきます」と謝る。そういうのが染み込んじゃっていますよね。

木村がこうした「休めない社会」に疑問を持ち始めたのは、実はここ数年のことだ。

木村:“自己責任”という言葉が大手を振って歩き出したのはここ最近ですよね。
津田:とりわけ、2000年代の小泉政権の頃ですかね。イラクでジャーナリストが拘束された人質事件で。
木村:それが健康にも及ぶことはあり得ることです。たとえば、1980年代から「治療から予防にシフトしないと医療費が抑制できない」という医療費抑制政策が言われ始め、医者の数も減らされました。つまり国の責務を個人につけ変えていく方向性が決まったと思うんですよ。予防医療として健康管理や生活習慣病という概念が出てきて、「糖尿病になるのは自己管理を怠って暴飲暴食をしたせいだ」というイメージも出来上がった。たしかにそういう人もいますがそればかりではないし、暴飲暴食をしなければいけない背景に何があるのか。貧困や労働環境などには触れないで、その方の生活を自己責任として押し付けるのは絶対に間違いだと思いますね。


■医療の質は、医療従事者の「過重労働」がギリギリで支えている

木村は本書の中で、「日本がこのまま高水準でアクセスのしやすい医療体制を続けることは難しい」と語る。どんな場所でも同水準の医療が受けられる医療アクセスと、医療費コスト、全体のクオリティという3要素を同時に満足させるのは非常に困難なのだそうだ。

木村:日本は国民皆保険で保険証があればどこの医療機関でも行けるフリーアクセスが担保されています。一方で、長年の医療費抑制政策によって低コストで受診できるとなると、通常は医療の質を犠牲にするしかない。しかし、日本はフリーアクセス、低コストにも関わらず健康寿命は世界トップクラス。つまり、医療の3要素が達成されている。
津田:そう見えますよね。
木村:ただそれは現場労働者の危険な過重労働によってギリギリで支えている現状があります。
津田:医師や看護師などの医療従事者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が犠牲にされている、と。
木村:そこでアクセスがもっと集中してパニック受診になったら、その3つは崩壊し、ギリギリで支えているクオリティが急落する場合がある。新型コロナウイルスで言えば、重症者が助けられなくなってしまいます。そこを危惧しているんです。

医療従事者の過労を防ぐためには、タスクシェアによって診断書や証明書といった事務仕事を診療ドクター以外の人が担うといった対策や、そうした書類を提出しなければ出勤や登校ができない状況を改善する必要がある。また政府の政策も大きな要因だ。

木村:少子高齢化もですが、医療技術が高度化すれば医療費は増えていきます。介護費も同様です。だた、日本の財産は人間。人間への手当てを削ってまで財政圧迫かと言われればそうではなく、他のことには大盤振る舞いしている現状がある。財務省は「このままでは財政破綻する」と言っていますが、実際はどっちなんだと。
津田:お金の使い方という面では外交や安全保障政策も、実は病気と関わってくるという話でもありますよね。

最後に木村は、新型コロナウイルスで日常生活が不安になっている人たちに向けてメッセージを送った。

木村:未知のウイルスということで皆さん不安になると思います。もちろん移される心配もありますが、移す心配を考える社会になってほしいですね。
津田:そのことを考えれば「休む」という選択肢になるわけですもんね。
木村:結局、人間は不寛容な存在です。それを理性で抑えて共同体で幸福になるのが国。一歩立ち止まって寛容な気持ちで人に移されるより移す心配をすれば、買い占めのような事態にもならないのかなと思いますね。

J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時15分頃から。お聴き逃しなく。

【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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