第32回東京国際映画祭の特別招待作品であるNetflix映画『アースクエイクバード』。10月29日(火)に本作の来日会見が六本木・アカデミーヒルズで行われ、主演を務めるオスカー女優のアリシア・ヴィキャンデルとウォッシュ・ウェストモアランド監督、そして共演の小林直己(EXILE/三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE)が登壇した。
本作は、日本在住経験のある英作家スザンヌ・ジョーンズによる同名ミステリー小説を映画化。1980年代の東京を舞台に、外国人女性リリーの殺人容疑をかけられた、女性ルーシーの揺れ動く心理を繊細な描写で描くサスペンス・ミステリーだ。アリシア・ヴィキャンデルが主人公のルーシーを、小林はミステリアスな日本人カメラマン・禎司(テイジ)を演じる。
ウェストモアランド監督とヴィキャンデルは登壇早々、「おはようございます。監督のウォッシュ・ウェストモアランドです。よろしくお願いします」「みなさん、こんにちは。今日は本当にありがとうございます。日本に戻ってこられて本当にうれしいです」(ヴィキャンデル)と日本語で挨拶。一方の小林は、「Hi, everybody」と英語で挨拶を披露。報道陣の笑いを誘いながら、「ふたりが日本語で挨拶してくれたのを、日本人として光栄に思いました」と喜びを露わにした。
本記事では、およそ40分の会見で交わされた質疑応答を余すところなくお届けする。
――完成した作品について、また日本での撮影を振り返ってみての感想はいかがですか?
ウェストモアランド:今回、完成品を観るまでに時間がかかりました。というのも、何か月も編集に時間を要してしまったからです。本作は私にとって特別な物語です。ある西洋人女性と日本、そして日本人との関わりを大切に描きました。初めて完成版を観たときは、とても嬉しく思いました。日本にきた外国人がどういった気持ちになるのかが、きちんと描かれていると思います。
アリシア:幸いにも、編集段階の本編を何度か観させていただき、うまく編集されていく過程を見守ることができました。完成版を観たときは、すぐに監督に電話をして「とても独創的な映画になっています。西洋では見たことがないような気持にさせていただける、初めての作品です」と伝えました。日本での撮影中はスタッフや出会ったみなさんが本当に優しくて、仕事熱心でした。日本での撮影は、私にとって光栄な経験です。
小林:生まれ育った日本で撮影された素晴らしい映画です。日本を尊重する監督・キャスト・スタッフの皆さんと仕事をできたことを嬉しく思います。自分にとって初めて英語を中心に話す役で、本作を皆さんと共に作ることができて光栄です。この作品は日本で生まれ育った方、日本語を使う方、日本に興味を持っている方にとって、非常に興味をそそる内容だと思うので、ぜひ多くの方に観ていただきたいと思います。
――(アリシアへ)本作は第32回東京国際映画祭の正式出品作品です。28日のレッドカーペットはいかがでしたか?
アリシア:レッドカーペットでの体験は素晴らしいものでした。昨年、3ヶ月ほど日本に滞在していましたが、そのときはこのような大きな映画祭での上映を夢見ていましたし、期待を口にしていました。その想いが実現し、レッドカーペットでファンの皆さんとお会いできて、謙虚な気持ちになりました。
――アリシアさんは非常に日本語のセリフが多い役どころでした。日本語に挑戦してみての感想をお聞かせください。また、印象に残ったロケ地や食べ物などがあれば教えてください。
アリシア:(冒頭の挨拶で)短い日本語を使うだけでもとても不安で緊張していたので、どれだけ大変だったかお分かりになるかと思います。でも、現場は安心して話せる環境でした。私も直己さんと同じように、もともとスウェーデン語を話しながらも、そこから英語を話す作品に転換した経験があります。ここ数年、世界がより身近になり、様々な文化が混ざり合うような、新しい芸術が生まれる環境にあると感じています。日本語を覚えるということは、日本の文化を知ることであり、私が演じたルーシーの役作りにつながるものでした。
完全に日本に住んで仕事をして、日本を体験できて嬉しく思っています。さまざまな人々と出会い、友人を作ることができました。お蕎麦も食べに行き、今ハマっています。たくさんの冒険をすることができました。
小林:アリシアは、とても箸の使い方が上手なんですよ。
――小林さんにとって、本作はハリウッドデビュー作です。これまでに出演されてきた映画作品との違いはありますか? また、今後の展望をお聞かせください。
小林:日本に生まれ育ったので、(英語は)母国語ではないためトレーニングは必要でしたが、準備をしっかりして臨みました。禎司という役には、同じ日本に育った身として共感する部分や、禎司が内に秘めている価値観や大切なものでリンクする部分がありました。そこから、役作りをしていきました。日本のカルチャーや精神性に関しては、監督とたくさん話をして役作りをしました。アリシアとは役を超えて信頼関係を築くことができたので、そういった中で二人にサポートしていただきました。先日、ロンドン映画祭で(製作総指揮の)リドリー・スコットさんから「映画にとって必要な存在感が君にはあるから、続けたほうがいい」というお言葉をいただいたり、ふたりからも「また一緒に仕事しよう」という言葉をいただいているので、日本語も英語も使いながら、二人に追いつけるように挑戦していきたいです。
――(ウェストモアランド監督へ)東京と佐渡島で撮影されましたが、「日本らしい」と思った出来事はありますか? また、本作は世界190ヵ国で配信されますが、世界配信で意識したことはありますか?
ウェストモアランド:本作に関しては、できるだけ日本の体験をリアルに描きたい、信ぴょう性のあるものにしたい、日本の生活ぶりを描きたいと思っていました。私はイギリス出身で、若い頃に日本に住んだ経験はありますが、私一人では今回のプロジェクトをこなすことはできませんでした。本作の制作にあたり、非常に多くのコラボレーターの存在がありました。1989年の日本を再現した美術監督の種田陽平さん、衣装デザイナーの小川久美子さん、ヘアメイクの吉原若菜さんをはじめ、関係者の皆さんのサポートがあったからこそです。撮影時には、世界配信されることについて全く意識しておらず、ストーリーをリアルに描くことを常に意識していました。
――(アリシアへ)日本語を完璧にこなしていましたが、どのようにアプローチしましたか?
アリシア:日本、そして東京を舞台にした作品ですので、監督とは「全員が英語を話すことは不自然」であると話していました。そのため、例えば直己さんと話すときなど、シーンごとに細かく話し合いました。ルーシーは母国を捨てて、新しい国に根を張ろうという覚悟を持ってきています。そのため、日本語はできるだけうまく話せなくてはいけないと思いました。セリフに関しては、まずは全て英語で用意して、それを2~3回日本語へ翻訳しては変更を繰り返し、ようやく日本語のセリフができあがったんです。
――(アリシアへ)スウェーデンと日本にはどんな違いがありますか? 共感できたことはありますか?
アリシア:子供のころから日本に行ってみたいと思っていました。そのときは、両国の文化は全く異なるものだと認識していました。実際に来てみると、スウェーデンと日本は美意識が似ており、ミニマリストという部分も同じだと思いました。また、木材やガラスを使う、行列好き、家では靴を脱いで過ごす、漬物・生魚を食べる点でもスウェーデンと日本は似ている部分が多いと思いました。
ウェストモアランド:他の映画では、よく日本と西洋の違いを強調するものが多いですが、本作のルーシーは日本に溶け込んでいます。劇中で、警察から「君は日本の女性らしくない」と言われることがあるのですが、彼女は「私は日本人らしい」と反発する場面があります。ルーシーは、そういった意識が高い女性なのだと思います。
――(ウェストモアランド監督へ)日本と西洋で、スリラーは違いますか?
ウェストモアランド:私は、本作がスリラーだという感覚があまりありません。むしろ、精神的なドラマだと思っています。「謎」の大部分は、ルーシーの脳内で起きている、または過去に関係しています。よく90年代にみられた体系のスリラーではなく、黒沢清監督の『CURE』や石井聰亙監督の『エンジェル・ダスト』に近い、非常に心理的なドラマだと思っています。
――(ウェストモアランド監督へ)いつも素晴らしい女優たちと仕事していますが、本作でアリシアやライリー・キーオをキャスティングした理由と、実際に仕事をしてみての感想を教えてください。
ウェストモアランド:これまでに世界の名だたる女優たちと仕事してきました。私は本当にラッキーな男だと思います。『アリスのままで』のジュリアン・ムーアや『コレット』のキーラ・ナイトレイもそうです。本作のキャスティングについて考えたとき、すぐにアリシアのことを思い浮かべました。以前からアリシアとは知り合いで、彼女だったら必ずやってくれると確信を持っていました。最初はとにかく話し合いをして、詳細にわたってキャラクターの複雑な部分について詰めていきました。アリシアは、日本語だけでなくチェロも自分で弾いています。アリシアは、毎日現場で自身の役について深く深く掘り下げていっていました。アリシアとの仕事は喜びであり、彼女から多くを学ぶことができました。
リリー役をキャスティングするにあたり、ルーシーと真逆のキャラクターであると考えました。エネルギーが全く違うんです。リリーを演じたライリーとは何度かスカイプで話して、彼女からアリシアとは異なるエネルギーを感じました。私は彼女の出演作の大ファンでもあり、本作の複雑な関係性をアリシアとライリーなら出せると思いました。そして、明と暗が徐々に混ざり合っていく部分も、うまく演じ分けてくれると思いました。
――(小林へ)普段は写真を撮られることが多いですが、カメラマン役を演じてみていかがでしたか? 劇中ではディスコっぽく踊るシーンがありました。ダンスを普段しているなかで、どのように考えて演じましたか?
小林:普段カメラに撮られることが多いですが、撮る側になると考えたときに「禎司にとってのカメラとは何か」を考えました。僕にとってのダンスみたいなものだと思いました。自分の心の内を表現するときに、一番ピンと来るものだからです。そこで、これまでダンスと向き合ってきたように、カメラに向き合う時間が必要だと思いました。撮影が始まる5ヶ月ほど前から、劇中と同じモデルのカメラを買って東京の街を撮り始めました。もちろん当時はフィルムカメラだったので、自分で現像してプリントして......自分は何を撮りたいのか、同時に禎司は何を撮りたいのかを探っていくことで、自分と禎司のリンクを見つけていきました。
あのダンスのシーンは、僕も好きなシーンです。僕のダンスが好きな人には、喜んでいただけるシーンだと思います。そして、物語にとっても大事なシーンで、監督からリファレンスとして、黒澤明監督の『醉いどれ天使』を教えていただきました。劇中に参考になるシーンがあり、衣装や踊りのスタイルなどからインスパイアを受けて、監督やライリーとリハーサルを重ねながらシーンを仕上げていきました。
――(監督とアリシアへ)小林さんの演技についてどう思いましたか?
アリシア:初日から、監督から直己さんについて聞かされていました。リハーサルの際、どれだけ準備をしてきたか、役について深く掘り下げてきたことに感心しました。ダンスから演技に転向し、さらに英語で演じるという大きな役割がありました。いつもカメラを持って撮影していましたし、彼の目の奥にストーリーがありました。目でストーリーを語れるということは、俳優として非常に大事なことだと思います。今回直己さんと親しくなり、お互いに助け合い、高めあうことができました。
ウェストモアランド:キャスティングディレクターは、経験豊富な奈良橋洋子さんが務めました。いろいろな俳優さんを紹介していただきましたが、なかなか禎司役にが決まりませんでした。しかし、直己さんのオーディションを見て、彼だと決めました。彼の中の非常に激しい部分、闇の部分、複雑な部分などいろんな要素があったからです。本読みを重ねた上で、彼こそが禎司の役であると思いました。そのとき、奈良橋に「彼にはスターの力がある」と伝えました。
小林:光栄です。
――(ウェストモアランド監督へ)原作を映画化するにあたり、映画に向いている部分を抜き取ったのでしょうか?
ウェストモアランド:原作は、スザンヌ・ジョーンズが書いた小説です。彼女は80年代に日本で暮らしていました。私も同じ時期に日本に住んでいましたが、当時は彼女を知りませんでした。原作は2004年に出版され、多くの賞を受賞しています。私が最初に読んだとき、とてもつながりを感じたのを覚えています。主人公のルーシーの気持ちがよくわかったんです。本はモノローグで書かれています。いかにルーシーの視点をキープしながら全てのシーンを作っていくかが、非常にチャレンジングでした。この本はアダプテーションに向いていると思いました。具体的なシークエンスがあると同時に、原作にアイデアを付け足していったことに対して、作者は非常に協力的でした。本から映画化するときには、オリジナルのトーンや気持ち、その魂は必ず維持しなくてはいけないと思っています。本作は私にとって、とてもよい体験になりました。
――(アリシアへ)配信を楽しみにしている方に向けてメッセージをお願いします。
アリシア:本作は本当に美しい、詩的な物語です。同時に、スリラーでもありドラマでもある、ストーリーを楽しむことができる作品です。登場人物にも環境移入できる。本作のような、さまざまな文化が混ざり合った作品は、今後もっと多く生まれていくと思っています。
Netflix映画『アースクエイクバード』は、11月15日(金)より全世界独占配信開始。
(文=北瀬由佳梨)
本作は、日本在住経験のある英作家スザンヌ・ジョーンズによる同名ミステリー小説を映画化。1980年代の東京を舞台に、外国人女性リリーの殺人容疑をかけられた、女性ルーシーの揺れ動く心理を繊細な描写で描くサスペンス・ミステリーだ。アリシア・ヴィキャンデルが主人公のルーシーを、小林はミステリアスな日本人カメラマン・禎司(テイジ)を演じる。
ウェストモアランド監督とヴィキャンデルは登壇早々、「おはようございます。監督のウォッシュ・ウェストモアランドです。よろしくお願いします」「みなさん、こんにちは。今日は本当にありがとうございます。日本に戻ってこられて本当にうれしいです」(ヴィキャンデル)と日本語で挨拶。一方の小林は、「Hi, everybody」と英語で挨拶を披露。報道陣の笑いを誘いながら、「ふたりが日本語で挨拶してくれたのを、日本人として光栄に思いました」と喜びを露わにした。
本記事では、およそ40分の会見で交わされた質疑応答を余すところなくお届けする。
――完成した作品について、また日本での撮影を振り返ってみての感想はいかがですか?
ウェストモアランド:今回、完成品を観るまでに時間がかかりました。というのも、何か月も編集に時間を要してしまったからです。本作は私にとって特別な物語です。ある西洋人女性と日本、そして日本人との関わりを大切に描きました。初めて完成版を観たときは、とても嬉しく思いました。日本にきた外国人がどういった気持ちになるのかが、きちんと描かれていると思います。
アリシア:幸いにも、編集段階の本編を何度か観させていただき、うまく編集されていく過程を見守ることができました。完成版を観たときは、すぐに監督に電話をして「とても独創的な映画になっています。西洋では見たことがないような気持にさせていただける、初めての作品です」と伝えました。日本での撮影中はスタッフや出会ったみなさんが本当に優しくて、仕事熱心でした。日本での撮影は、私にとって光栄な経験です。
小林:生まれ育った日本で撮影された素晴らしい映画です。日本を尊重する監督・キャスト・スタッフの皆さんと仕事をできたことを嬉しく思います。自分にとって初めて英語を中心に話す役で、本作を皆さんと共に作ることができて光栄です。この作品は日本で生まれ育った方、日本語を使う方、日本に興味を持っている方にとって、非常に興味をそそる内容だと思うので、ぜひ多くの方に観ていただきたいと思います。
――(アリシアへ)本作は第32回東京国際映画祭の正式出品作品です。28日のレッドカーペットはいかがでしたか?
アリシア:レッドカーペットでの体験は素晴らしいものでした。昨年、3ヶ月ほど日本に滞在していましたが、そのときはこのような大きな映画祭での上映を夢見ていましたし、期待を口にしていました。その想いが実現し、レッドカーペットでファンの皆さんとお会いできて、謙虚な気持ちになりました。
――アリシアさんは非常に日本語のセリフが多い役どころでした。日本語に挑戦してみての感想をお聞かせください。また、印象に残ったロケ地や食べ物などがあれば教えてください。
アリシア:(冒頭の挨拶で)短い日本語を使うだけでもとても不安で緊張していたので、どれだけ大変だったかお分かりになるかと思います。でも、現場は安心して話せる環境でした。私も直己さんと同じように、もともとスウェーデン語を話しながらも、そこから英語を話す作品に転換した経験があります。ここ数年、世界がより身近になり、様々な文化が混ざり合うような、新しい芸術が生まれる環境にあると感じています。日本語を覚えるということは、日本の文化を知ることであり、私が演じたルーシーの役作りにつながるものでした。
完全に日本に住んで仕事をして、日本を体験できて嬉しく思っています。さまざまな人々と出会い、友人を作ることができました。お蕎麦も食べに行き、今ハマっています。たくさんの冒険をすることができました。
小林:アリシアは、とても箸の使い方が上手なんですよ。
――小林さんにとって、本作はハリウッドデビュー作です。これまでに出演されてきた映画作品との違いはありますか? また、今後の展望をお聞かせください。
小林:日本に生まれ育ったので、(英語は)母国語ではないためトレーニングは必要でしたが、準備をしっかりして臨みました。禎司という役には、同じ日本に育った身として共感する部分や、禎司が内に秘めている価値観や大切なものでリンクする部分がありました。そこから、役作りをしていきました。日本のカルチャーや精神性に関しては、監督とたくさん話をして役作りをしました。アリシアとは役を超えて信頼関係を築くことができたので、そういった中で二人にサポートしていただきました。先日、ロンドン映画祭で(製作総指揮の)リドリー・スコットさんから「映画にとって必要な存在感が君にはあるから、続けたほうがいい」というお言葉をいただいたり、ふたりからも「また一緒に仕事しよう」という言葉をいただいているので、日本語も英語も使いながら、二人に追いつけるように挑戦していきたいです。
――(ウェストモアランド監督へ)東京と佐渡島で撮影されましたが、「日本らしい」と思った出来事はありますか? また、本作は世界190ヵ国で配信されますが、世界配信で意識したことはありますか?
ウェストモアランド:本作に関しては、できるだけ日本の体験をリアルに描きたい、信ぴょう性のあるものにしたい、日本の生活ぶりを描きたいと思っていました。私はイギリス出身で、若い頃に日本に住んだ経験はありますが、私一人では今回のプロジェクトをこなすことはできませんでした。本作の制作にあたり、非常に多くのコラボレーターの存在がありました。1989年の日本を再現した美術監督の種田陽平さん、衣装デザイナーの小川久美子さん、ヘアメイクの吉原若菜さんをはじめ、関係者の皆さんのサポートがあったからこそです。撮影時には、世界配信されることについて全く意識しておらず、ストーリーをリアルに描くことを常に意識していました。
――(アリシアへ)日本語を完璧にこなしていましたが、どのようにアプローチしましたか?
アリシア:日本、そして東京を舞台にした作品ですので、監督とは「全員が英語を話すことは不自然」であると話していました。そのため、例えば直己さんと話すときなど、シーンごとに細かく話し合いました。ルーシーは母国を捨てて、新しい国に根を張ろうという覚悟を持ってきています。そのため、日本語はできるだけうまく話せなくてはいけないと思いました。セリフに関しては、まずは全て英語で用意して、それを2~3回日本語へ翻訳しては変更を繰り返し、ようやく日本語のセリフができあがったんです。
――(アリシアへ)スウェーデンと日本にはどんな違いがありますか? 共感できたことはありますか?
アリシア:子供のころから日本に行ってみたいと思っていました。そのときは、両国の文化は全く異なるものだと認識していました。実際に来てみると、スウェーデンと日本は美意識が似ており、ミニマリストという部分も同じだと思いました。また、木材やガラスを使う、行列好き、家では靴を脱いで過ごす、漬物・生魚を食べる点でもスウェーデンと日本は似ている部分が多いと思いました。
ウェストモアランド:他の映画では、よく日本と西洋の違いを強調するものが多いですが、本作のルーシーは日本に溶け込んでいます。劇中で、警察から「君は日本の女性らしくない」と言われることがあるのですが、彼女は「私は日本人らしい」と反発する場面があります。ルーシーは、そういった意識が高い女性なのだと思います。
――(ウェストモアランド監督へ)日本と西洋で、スリラーは違いますか?
ウェストモアランド:私は、本作がスリラーだという感覚があまりありません。むしろ、精神的なドラマだと思っています。「謎」の大部分は、ルーシーの脳内で起きている、または過去に関係しています。よく90年代にみられた体系のスリラーではなく、黒沢清監督の『CURE』や石井聰亙監督の『エンジェル・ダスト』に近い、非常に心理的なドラマだと思っています。
――(ウェストモアランド監督へ)いつも素晴らしい女優たちと仕事していますが、本作でアリシアやライリー・キーオをキャスティングした理由と、実際に仕事をしてみての感想を教えてください。
ウェストモアランド:これまでに世界の名だたる女優たちと仕事してきました。私は本当にラッキーな男だと思います。『アリスのままで』のジュリアン・ムーアや『コレット』のキーラ・ナイトレイもそうです。本作のキャスティングについて考えたとき、すぐにアリシアのことを思い浮かべました。以前からアリシアとは知り合いで、彼女だったら必ずやってくれると確信を持っていました。最初はとにかく話し合いをして、詳細にわたってキャラクターの複雑な部分について詰めていきました。アリシアは、日本語だけでなくチェロも自分で弾いています。アリシアは、毎日現場で自身の役について深く深く掘り下げていっていました。アリシアとの仕事は喜びであり、彼女から多くを学ぶことができました。
リリー役をキャスティングするにあたり、ルーシーと真逆のキャラクターであると考えました。エネルギーが全く違うんです。リリーを演じたライリーとは何度かスカイプで話して、彼女からアリシアとは異なるエネルギーを感じました。私は彼女の出演作の大ファンでもあり、本作の複雑な関係性をアリシアとライリーなら出せると思いました。そして、明と暗が徐々に混ざり合っていく部分も、うまく演じ分けてくれると思いました。
――(小林へ)普段は写真を撮られることが多いですが、カメラマン役を演じてみていかがでしたか? 劇中ではディスコっぽく踊るシーンがありました。ダンスを普段しているなかで、どのように考えて演じましたか?
小林:普段カメラに撮られることが多いですが、撮る側になると考えたときに「禎司にとってのカメラとは何か」を考えました。僕にとってのダンスみたいなものだと思いました。自分の心の内を表現するときに、一番ピンと来るものだからです。そこで、これまでダンスと向き合ってきたように、カメラに向き合う時間が必要だと思いました。撮影が始まる5ヶ月ほど前から、劇中と同じモデルのカメラを買って東京の街を撮り始めました。もちろん当時はフィルムカメラだったので、自分で現像してプリントして......自分は何を撮りたいのか、同時に禎司は何を撮りたいのかを探っていくことで、自分と禎司のリンクを見つけていきました。
あのダンスのシーンは、僕も好きなシーンです。僕のダンスが好きな人には、喜んでいただけるシーンだと思います。そして、物語にとっても大事なシーンで、監督からリファレンスとして、黒澤明監督の『醉いどれ天使』を教えていただきました。劇中に参考になるシーンがあり、衣装や踊りのスタイルなどからインスパイアを受けて、監督やライリーとリハーサルを重ねながらシーンを仕上げていきました。
――(監督とアリシアへ)小林さんの演技についてどう思いましたか?
アリシア:初日から、監督から直己さんについて聞かされていました。リハーサルの際、どれだけ準備をしてきたか、役について深く掘り下げてきたことに感心しました。ダンスから演技に転向し、さらに英語で演じるという大きな役割がありました。いつもカメラを持って撮影していましたし、彼の目の奥にストーリーがありました。目でストーリーを語れるということは、俳優として非常に大事なことだと思います。今回直己さんと親しくなり、お互いに助け合い、高めあうことができました。
ウェストモアランド:キャスティングディレクターは、経験豊富な奈良橋洋子さんが務めました。いろいろな俳優さんを紹介していただきましたが、なかなか禎司役にが決まりませんでした。しかし、直己さんのオーディションを見て、彼だと決めました。彼の中の非常に激しい部分、闇の部分、複雑な部分などいろんな要素があったからです。本読みを重ねた上で、彼こそが禎司の役であると思いました。そのとき、奈良橋に「彼にはスターの力がある」と伝えました。
小林:光栄です。
――(ウェストモアランド監督へ)原作を映画化するにあたり、映画に向いている部分を抜き取ったのでしょうか?
ウェストモアランド:原作は、スザンヌ・ジョーンズが書いた小説です。彼女は80年代に日本で暮らしていました。私も同じ時期に日本に住んでいましたが、当時は彼女を知りませんでした。原作は2004年に出版され、多くの賞を受賞しています。私が最初に読んだとき、とてもつながりを感じたのを覚えています。主人公のルーシーの気持ちがよくわかったんです。本はモノローグで書かれています。いかにルーシーの視点をキープしながら全てのシーンを作っていくかが、非常にチャレンジングでした。この本はアダプテーションに向いていると思いました。具体的なシークエンスがあると同時に、原作にアイデアを付け足していったことに対して、作者は非常に協力的でした。本から映画化するときには、オリジナルのトーンや気持ち、その魂は必ず維持しなくてはいけないと思っています。本作は私にとって、とてもよい体験になりました。
――(アリシアへ)配信を楽しみにしている方に向けてメッセージをお願いします。
アリシア:本作は本当に美しい、詩的な物語です。同時に、スリラーでもありドラマでもある、ストーリーを楽しむことができる作品です。登場人物にも環境移入できる。本作のような、さまざまな文化が混ざり合った作品は、今後もっと多く生まれていくと思っています。
Netflix映画『アースクエイクバード』は、11月15日(金)より全世界独占配信開始。
(文=北瀬由佳梨)
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