かつて「夢と希望の地」だった団地は、今や孤独死や外国人居住者との異文化摩擦、ヘイトなどの問題が集積しているといいます。『団地と移民』を刊行したジャーナリストの安田浩一さんをお迎えし、団地をとりまく問題を伺いました。
6月18日(火)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/火曜担当ニュースアドバイザー:青木理)
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190618202049
■プライバシーは筒抜け!? でも心地よかった昔の団地
今から40年ほど前、自身も団地で育ったという安田さん。『団地と移民』を書いたきっかけとしてノスタルジーが根底にあることは否定できないといいます。同じような世代の人々、同じような収入の人々がまとまって暮らしていたという当時の団地事情について語りました。
安田:僕は田舎生まれで、父親の転勤で初めて東京に行きました。東京で初めて見たのが団地の風景だったわけです。それまで東京というと都会の風景だったんですけど、同じような建物が連なっているというところが僕にとっての東京の第一歩だったんですね。にぎやかで、子どもの声がしてというイメージ、まさにその時代ですよ。
現在、マンションなどの集合住宅に住んでいる人も大勢いますが、隣にどういった人たちが住んでいるかなど知らないことも多いでしょう。しかし、安田さんが育ったころの団地は、隣近所が何をしているか、どんな家族構成かなど筒抜けだったそうです。
安田:つまり、大人同士が子どもを通してつながっていた状況だと思うんです。集合住宅は非常に活気がありましたから、僕の団地では鍵をかける家もあまりなかったです。僕も自由にいろんな家を出入りしていましたし、中には勝手に冷蔵庫を開けて飲み物を飲んでいるような子どももいたりして。最近、母親と話す機会があったんですが、僕よりもよく覚えています。誰がどこに住んでいて、年収がいくらでどこに勤めていて、下手すれば寝室の会話まで知っていますよ。そのぐらいプライバシーというものが筒抜けになるような状況で、むしろそれを心地よいと思っていた人々によって団地は成り立っていたと思います。
■外国籍住民を排斥しようとする空気があるいっぽうで……
こうした昔ながらの団地は遠い過去のものとなり、近年、首都圏の外延部の団地は高齢化が進むいっぽうで、中国人や日系ブラジル人などの外国人が住み始めました。ここで起きてきたのが、いわゆる外国人排斥やヘイトスピーチの問題です。
安田:今の団地では高齢化と国際化という二つの現象がありますが、同時に隠されたテーマというのがヘイトの問題です。外国籍住民を追い出そうとする外部の人々がいる。それはまさに今の社会の空気ですよね。
実際の住民だけでなく、団地内において対立が起きているかのように見せて、それをおもしろおかしく取り上げるメディアもあります。外国人が増えていくことを問題視する人々がいるというのは事実としてあるようです。
安田:いっぽうで、その壁を乗り越えて交流する、あるいはそもそも同じ場所に住んでいる同じ人間としてどうやって生きていくのかということを考えながら共生に取り組んでいる人々がいる。そうしたものを網羅して書きたかったというのがあります。
■痛み止め的な言葉にすがらない勇気
外国籍住民に対する排斥やヘイトのいっぽうで、同じ地域に住む住民同士、国籍や世代を超えて手をつなごうとする動き。ここに安田さんは希望を見出しています。
安田:たとえばこの本の中に取り上げた若者は、中国人だから日本人だからというよりも、同じ地域に住んでいて手をつながない理由がない、若い世代と高齢者が手を組んだら怖いものなしだというわけです。働き盛りの外国人は力と行動力があり、高齢者は経験があり知恵がある。これが手を結んだら、地域運動とすればすごいものではないかと。おそるおそる最初はお見合い状態でもって手を組むわけですね。うまく行くのかわからない。でも、やってみればうまく行ってしまう。言葉が通じなくても、同じ人として、同じ地域に住んでいるという一種の連帯感もそこで生まれてくる。そうすると外国人世帯の行動力と、高齢者世帯の知恵と経験が見事なまでに一緒になって昇華していく。それは何も私の本で取り上げた事例だけではなくて、いま各地で進んでいる。僕はそこに希望を持ちたいと思っています。
現状としてさまざまな問題はあれど、団地は老いていくいっぽうではなくて新たな動きや希望も生まれているようです。この問題に興味を持った方は、『団地と移民』を読んで、さらにじっくり考えてみてはいかがでしょうか?
【この記事の放送回をradikoで聴く(2019年6月25日)】
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
6月18日(火)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/火曜担当ニュースアドバイザー:青木理)
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■プライバシーは筒抜け!? でも心地よかった昔の団地
今から40年ほど前、自身も団地で育ったという安田さん。『団地と移民』を書いたきっかけとしてノスタルジーが根底にあることは否定できないといいます。同じような世代の人々、同じような収入の人々がまとまって暮らしていたという当時の団地事情について語りました。
安田:僕は田舎生まれで、父親の転勤で初めて東京に行きました。東京で初めて見たのが団地の風景だったわけです。それまで東京というと都会の風景だったんですけど、同じような建物が連なっているというところが僕にとっての東京の第一歩だったんですね。にぎやかで、子どもの声がしてというイメージ、まさにその時代ですよ。
現在、マンションなどの集合住宅に住んでいる人も大勢いますが、隣にどういった人たちが住んでいるかなど知らないことも多いでしょう。しかし、安田さんが育ったころの団地は、隣近所が何をしているか、どんな家族構成かなど筒抜けだったそうです。
安田:つまり、大人同士が子どもを通してつながっていた状況だと思うんです。集合住宅は非常に活気がありましたから、僕の団地では鍵をかける家もあまりなかったです。僕も自由にいろんな家を出入りしていましたし、中には勝手に冷蔵庫を開けて飲み物を飲んでいるような子どももいたりして。最近、母親と話す機会があったんですが、僕よりもよく覚えています。誰がどこに住んでいて、年収がいくらでどこに勤めていて、下手すれば寝室の会話まで知っていますよ。そのぐらいプライバシーというものが筒抜けになるような状況で、むしろそれを心地よいと思っていた人々によって団地は成り立っていたと思います。
■外国籍住民を排斥しようとする空気があるいっぽうで……
こうした昔ながらの団地は遠い過去のものとなり、近年、首都圏の外延部の団地は高齢化が進むいっぽうで、中国人や日系ブラジル人などの外国人が住み始めました。ここで起きてきたのが、いわゆる外国人排斥やヘイトスピーチの問題です。
安田:今の団地では高齢化と国際化という二つの現象がありますが、同時に隠されたテーマというのがヘイトの問題です。外国籍住民を追い出そうとする外部の人々がいる。それはまさに今の社会の空気ですよね。
実際の住民だけでなく、団地内において対立が起きているかのように見せて、それをおもしろおかしく取り上げるメディアもあります。外国人が増えていくことを問題視する人々がいるというのは事実としてあるようです。
安田:いっぽうで、その壁を乗り越えて交流する、あるいはそもそも同じ場所に住んでいる同じ人間としてどうやって生きていくのかということを考えながら共生に取り組んでいる人々がいる。そうしたものを網羅して書きたかったというのがあります。
■痛み止め的な言葉にすがらない勇気
外国籍住民に対する排斥やヘイトのいっぽうで、同じ地域に住む住民同士、国籍や世代を超えて手をつなごうとする動き。ここに安田さんは希望を見出しています。
安田:たとえばこの本の中に取り上げた若者は、中国人だから日本人だからというよりも、同じ地域に住んでいて手をつながない理由がない、若い世代と高齢者が手を組んだら怖いものなしだというわけです。働き盛りの外国人は力と行動力があり、高齢者は経験があり知恵がある。これが手を結んだら、地域運動とすればすごいものではないかと。おそるおそる最初はお見合い状態でもって手を組むわけですね。うまく行くのかわからない。でも、やってみればうまく行ってしまう。言葉が通じなくても、同じ人として、同じ地域に住んでいるという一種の連帯感もそこで生まれてくる。そうすると外国人世帯の行動力と、高齢者世帯の知恵と経験が見事なまでに一緒になって昇華していく。それは何も私の本で取り上げた事例だけではなくて、いま各地で進んでいる。僕はそこに希望を持ちたいと思っています。
現状としてさまざまな問題はあれど、団地は老いていくいっぽうではなくて新たな動きや希望も生まれているようです。この問題に興味を持った方は、『団地と移民』を読んで、さらにじっくり考えてみてはいかがでしょうか?
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