今話題となっている老後2000万円問題。法政大学教授で経済学者の小黒一正さんを迎え、この問題を考えました。
【6月17日(月)のオンエア:『JAM THE WORLD』の「UP CLOSE」(ナビゲーター:グローバー/月曜担当ニュースアドバイザー:津田大介)】
http://radiko.jp/share/?sid=FMJ&t=20190617202002
■20代から40代の2割は貯蓄をしていない
6月3日、金融庁が公表した報告書が波紋を呼んでいます。夫が65歳以上、妻が60歳以上の無職世帯が年金に頼って暮らす場合、毎月5万円の赤字が出ると試算し、定年後に夫婦で95歳まで生きる場合にはおよそ2000万円が不足するとしています。この提言を受け、野党は政府への追及を強めています
まず、金融庁が公表した報告書の内容はこれまで政府が発表したことなのに、ここまでの騒ぎになることに驚いていると小黒さんは話します。
津田:ある種、2000万円という数字が一人歩きしているようにも見えますよね。おそらく数字だけ見れば老後に2000万円が足りなくなることは自明であるが、今の若年層に対してこの負担を押しつけるような政策をやっている以上、老後に2000万の貯蓄ができるような経済成長もしてないし、しかも若者の負担が大きくなっているのに、これを今さら発表されたって……そんな若年層に不満がたまっているように見えます。
小黒:現役世代の3人に1人は非正規雇用ですからね。薄々自分で感じていたけれど、現実が厳しいことを金融庁の報告書で突きつけられたことが波紋を呼んだひとつの理由かもしれません。でもだからこそ、この問題をどうしていくべきかを考えなくてはいけません。
20代から40代の若い人たちは特に貯蓄が厳しい状況にあると小黒さんは続けます。
小黒:その年代の2割くらいは貯蓄をしていないし、年収も下がっているので、本当に2000万円貯まるのかと。高齢者の人たちもよく考えなければいけないのは、平均値だと現状2000万円くらいの貯蓄を持っている人が(高齢者には)いる一方で、60代の人たちの2、3割は貯蓄がない人もいるわけなので、格差がある。その部分もこの問題が反響を呼んでいるひとつの理由かもしれません。
■金融庁の報告書より実際はさらに深刻な状況
さらに、金融庁が公表した今回の報告書を、麻生太郎財務大臣が正式な報告書として受け取らないと発言したことも波紋を呼んでいます。
小黒:これは、これから参議院選挙があることも視野に入れた発言ではないでしょうか。本来、金融庁が言いたかったことは、いま社会保障が厳しくなり、年金もカットされていく。今の高齢者は平均的に19万円くらいの年金を受給しているけど、今後しばらくすると12、13万円になるとわかっている。だから、今から今後の資産形成を考えて促すことが目的だったと思います。それが本来の金融庁の仕事であり、今回の報告書は画期的なものだったと思うんですけど、それを撤回するのかと。
ただし、この報告書はいまの高齢者がどのくらい深刻で、今後どうなるのか、それに対してどう対応していくのかという部分が少し弱かったので、多くの人に疑問が残り、その声が大きくなってしまった、と小黒さん。では、実際にどれくらいの年金で生活している高齢者が多いのでしょうか。
小黒:金融庁の報告書では、男性が65歳、女性が60歳の高齢者を想定する場合、月額の年金(国民年金と厚生年金)は世帯で19万円です。この金額はかなり裕福な高齢者で、月額19万円を1年間支給されると年間228万円になり、ひとり当たりでは年間で114万円。しかし厚生労働省が出している年金受給の分布に当てはめると、115万円以下の人が実は46パーセントくらいいます。
津田:約半数は115万円以下なんですね。
小黒:だから非常に厳しい。場合によっては国民年金の月額支給は5.5万円なので、1年間だと60万円くらいにしかなりません。収入が少なければそれだけ支出も抑えると思うんですけど、今回の報告書の中では持ち家の人を想定しているので、けっこう厳しいんですよね。
津田:今回の報告書がモデルにしている世帯自体があまり適正ではなく、これからより適正ではなくなっていくことでもあるわけですね。
加えて、高齢者の生活保護者の増加も問題視されています。
小黒:いま、全年齢層で生活保護者は200万人くらいいますが、その半分が高齢者です。この高齢者の数字はすごい勢いで伸びていて、私の推計では、2050年くらいには100人に6人くらいになる。これは非常に厳しい状況です。2050年になると75歳以上の高齢者は2500万人くらいになるとも予想され、そのうち2、3割が生活に厳しい人だと想定すると、500万人から750万人くらいの高齢者が生活保護を必要とすることになる。いまの5倍とか7倍にも及んでしまいます。
■75歳まで働く覚悟を持つこと
今回の報告書で提示された今後の課題を、私たちがどう考えていくかが重要だと小黒さんは指摘します。
小黒:社会保障と税の一体改革として、今年おそらく消費税が10パーセントに上がるわけですけど、年金制度と公的扶助も含めて今後どうしていくのか。野党は批判するのもいいのですが、どういうふうにしていくのかを代案で出さないとあまり意味がないですよね。
津田:報告書で提示された課題に対して、現実の政策に落とし込むのが政治の役割なんですけど、今回はそれを政治が放棄しているように感じます。
小黒:それを我々が提示していかなければいけないでしょうね。
一方で、私たちが老後の資産形成を見据えて“自己防衛”できることについて、小黒さんはこう提言します。
小黒:政府は言っていませんけど、私は今の20代から40代は少なくとも75歳まで働く覚悟を持つことがひとつ重要だと思います。また、第一次ベビーブーマーと第二次ベビーブーマーがいたわけですけど、第三次ベビーブーマーはいないので人口のコブがないんです。
津田:僕たちの世代に当たる第二次ベビーブーマーから生まれる子どもが少なかったからですよね。
小黒:だから、我々世代でこの問題を解決する、次の世代にはこの負の遺産を残さないという覚悟を持つことが重要です。それはある意味で自己防衛とは違うんでけど、貯蓄できる人は働ける環境を作りつつ頑張って貯蓄して、もうひとつ重要なのはこの問題を先送りしないことです。
今、個人が国の状況を冷静に見つめ、未来に必要となる資産形成を考えることが必要となっています。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
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■20代から40代の2割は貯蓄をしていない
6月3日、金融庁が公表した報告書が波紋を呼んでいます。夫が65歳以上、妻が60歳以上の無職世帯が年金に頼って暮らす場合、毎月5万円の赤字が出ると試算し、定年後に夫婦で95歳まで生きる場合にはおよそ2000万円が不足するとしています。この提言を受け、野党は政府への追及を強めています
まず、金融庁が公表した報告書の内容はこれまで政府が発表したことなのに、ここまでの騒ぎになることに驚いていると小黒さんは話します。
津田:ある種、2000万円という数字が一人歩きしているようにも見えますよね。おそらく数字だけ見れば老後に2000万円が足りなくなることは自明であるが、今の若年層に対してこの負担を押しつけるような政策をやっている以上、老後に2000万の貯蓄ができるような経済成長もしてないし、しかも若者の負担が大きくなっているのに、これを今さら発表されたって……そんな若年層に不満がたまっているように見えます。
小黒:現役世代の3人に1人は非正規雇用ですからね。薄々自分で感じていたけれど、現実が厳しいことを金融庁の報告書で突きつけられたことが波紋を呼んだひとつの理由かもしれません。でもだからこそ、この問題をどうしていくべきかを考えなくてはいけません。
20代から40代の若い人たちは特に貯蓄が厳しい状況にあると小黒さんは続けます。
小黒:その年代の2割くらいは貯蓄をしていないし、年収も下がっているので、本当に2000万円貯まるのかと。高齢者の人たちもよく考えなければいけないのは、平均値だと現状2000万円くらいの貯蓄を持っている人が(高齢者には)いる一方で、60代の人たちの2、3割は貯蓄がない人もいるわけなので、格差がある。その部分もこの問題が反響を呼んでいるひとつの理由かもしれません。
■金融庁の報告書より実際はさらに深刻な状況
さらに、金融庁が公表した今回の報告書を、麻生太郎財務大臣が正式な報告書として受け取らないと発言したことも波紋を呼んでいます。
小黒:これは、これから参議院選挙があることも視野に入れた発言ではないでしょうか。本来、金融庁が言いたかったことは、いま社会保障が厳しくなり、年金もカットされていく。今の高齢者は平均的に19万円くらいの年金を受給しているけど、今後しばらくすると12、13万円になるとわかっている。だから、今から今後の資産形成を考えて促すことが目的だったと思います。それが本来の金融庁の仕事であり、今回の報告書は画期的なものだったと思うんですけど、それを撤回するのかと。
ただし、この報告書はいまの高齢者がどのくらい深刻で、今後どうなるのか、それに対してどう対応していくのかという部分が少し弱かったので、多くの人に疑問が残り、その声が大きくなってしまった、と小黒さん。では、実際にどれくらいの年金で生活している高齢者が多いのでしょうか。
小黒:金融庁の報告書では、男性が65歳、女性が60歳の高齢者を想定する場合、月額の年金(国民年金と厚生年金)は世帯で19万円です。この金額はかなり裕福な高齢者で、月額19万円を1年間支給されると年間228万円になり、ひとり当たりでは年間で114万円。しかし厚生労働省が出している年金受給の分布に当てはめると、115万円以下の人が実は46パーセントくらいいます。
津田:約半数は115万円以下なんですね。
小黒:だから非常に厳しい。場合によっては国民年金の月額支給は5.5万円なので、1年間だと60万円くらいにしかなりません。収入が少なければそれだけ支出も抑えると思うんですけど、今回の報告書の中では持ち家の人を想定しているので、けっこう厳しいんですよね。
津田:今回の報告書がモデルにしている世帯自体があまり適正ではなく、これからより適正ではなくなっていくことでもあるわけですね。
加えて、高齢者の生活保護者の増加も問題視されています。
小黒:いま、全年齢層で生活保護者は200万人くらいいますが、その半分が高齢者です。この高齢者の数字はすごい勢いで伸びていて、私の推計では、2050年くらいには100人に6人くらいになる。これは非常に厳しい状況です。2050年になると75歳以上の高齢者は2500万人くらいになるとも予想され、そのうち2、3割が生活に厳しい人だと想定すると、500万人から750万人くらいの高齢者が生活保護を必要とすることになる。いまの5倍とか7倍にも及んでしまいます。
■75歳まで働く覚悟を持つこと
今回の報告書で提示された今後の課題を、私たちがどう考えていくかが重要だと小黒さんは指摘します。
小黒:社会保障と税の一体改革として、今年おそらく消費税が10パーセントに上がるわけですけど、年金制度と公的扶助も含めて今後どうしていくのか。野党は批判するのもいいのですが、どういうふうにしていくのかを代案で出さないとあまり意味がないですよね。
津田:報告書で提示された課題に対して、現実の政策に落とし込むのが政治の役割なんですけど、今回はそれを政治が放棄しているように感じます。
小黒:それを我々が提示していかなければいけないでしょうね。
一方で、私たちが老後の資産形成を見据えて“自己防衛”できることについて、小黒さんはこう提言します。
小黒:政府は言っていませんけど、私は今の20代から40代は少なくとも75歳まで働く覚悟を持つことがひとつ重要だと思います。また、第一次ベビーブーマーと第二次ベビーブーマーがいたわけですけど、第三次ベビーブーマーはいないので人口のコブがないんです。
津田:僕たちの世代に当たる第二次ベビーブーマーから生まれる子どもが少なかったからですよね。
小黒:だから、我々世代でこの問題を解決する、次の世代にはこの負の遺産を残さないという覚悟を持つことが重要です。それはある意味で自己防衛とは違うんでけど、貯蓄できる人は働ける環境を作りつつ頑張って貯蓄して、もうひとつ重要なのはこの問題を先送りしないことです。
今、個人が国の状況を冷静に見つめ、未来に必要となる資産形成を考えることが必要となっています。
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