J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。1月21日(月)のオンエアでは、月曜日のニュース・スーパーバイザーを務める津田大介が登場。批評家の東 浩紀さんをお迎えして、ゾゾタウン社長・前澤友作さんが年始に行った総額1億円のお年玉企画を取り上げました。
■拝金主義が肯定される時代になった
1月上旬、前澤さんによる「お年玉企画」が話題となりました。前澤さんのTwitterアカウントをフォロー&RTすると、100名に100万円、総額1億円がプレゼントされるというものです。応募締め切り時点では550万リツイートを突破し、それまでのリツイート世界記録を樹立。50万だった前澤さんのフォロワーは、この企画によって600万に激増しました。これについて東さんは「拝金主義が肯定される時代になった」と語ります。
東:お金を持っている人がみんな「金をばらまいて人気があって何がわるいの?」と言って、それに対して「お金だけじゃないんじゃないの」とか言うと、「老害!」などと言われる世の中になってしまいました。
津田:先日、東さんはイベントで「堀江貴文さんがブイブイ言わしている時代に同じようなことをやったとしたら、おそらくもっと世の中から叩かれたんじゃないか」と言われていましたよね。
東:そうですね。そっちがまともだったと思います。これは「若者を叩く」とか「IT企業を叩く」とかではなく、「俺は金持ちなんだから、俺にとって100万円なんてワイン代にもならない。それをばらまいたらこんなにフォロワーがきちゃうんだ」って、これはダメですよ。
このお年玉企画を、前澤さんが悪意をもってやったと思わないとしながらも、東さんはこう続けます。
東:こういうことをされてしまうと、「100万円をばらまくと、こんなに多くの人が群がるんだ」と、みんながその光景をみてしまうわけですよね。また、みんなプライドをかなぐり捨てて「100万円ください」という姿が見えてしまった。こういうことが積み重なってしまうと、社会は壊れていくわけです。
「人間にはもっと大切なものがある。そういうことを真面目に訴えていかなければならない」と東さん。さらに、この企画がこれほどまで話題になることを、前澤さんは予測できたはずと指摘します。
東:この企画は広告としては天才的で、実際にこの企画の宣伝効果は何億円と言われるほど、効率もよかったと思います。でも、今の世の中は「いいね!」の数は数えられるけど、「わるいね!」の数は数えられないんです。広告効果の裏側で「この企画はよくないんじゃないの」と思っていた人も多くいたはずです。その否定的な声は見えないから意見として加わらず、見える部分だけで突っ走って、みんながこれと同じようなことをやってしまうと、社会は壊れるし、経済も壊れます。前澤さんは日本を代表する資産家だから、そういうことに対してもう少し責任感を持ってもらえたらと思います。
■「わるいね!」はカウントされない
先に述べたように、今のITやSNSの世界は万能のように見えますが、「いいね!」だけがカウントされて、「わるいね!」はカウントされません。
東:つまり、人々が抱いている評価の一部分が可視化され、数量化されるシステムになっているので、数量で勝とうと戦略を立てていると、実は見えない部分でわるい評判が高まって、ガラッと崩れることもあります。伝統的に道徳とか倫理と呼ばれるものは、長期的で合理的に考えた場合に「これが勝利戦略だよ」という指針でもありました。
津田:なるほど。
東:今のSNS時代で、ちょっと「いいね!」やリツイートが可視化されるだけで、「今までの倫理感や道徳感が壊れたんだ。こらからはシンギュラリティ(技術的特異点)に向けてばく進だ」みたいなことをやっていると、けっきょくのところ罰が当たることになるかと思います。
■10億円持っている人は、1円持っている人より10億倍えらいのか?
「東さんの言う『社会が壊れる』とは、どのようなことなのか」と、津田は深掘りします。
東:たとえば「この人は1万円を持っている」「この人は1億円を持っている」「この人は1兆円を持っている」と言ったら、1万円を持つ人より1兆円を持つ人のほうが1億倍の力があるわけです。でも、人間と人間は、身長も体重もあまり変わらないし、対等ですよね。それが人間としての基本的な社会を作っている原理であるから、1万倍の富を持っていたからといって1万倍えらいとはならないんですよ。
津田:東さんは、人間が平等であるということを、「正規分布」と「べき乗分布」を例にとって話していましたよね。
東:富は「べき乗分布」という、すごく極端な分布をするんですが、人間の身長とか体重とか知性は、「正規分布」といって、真ん中にピークがある山型の分布です。個人差があるにせよ平均値部分が一番多く、ぶれると言ってもその数値が2、3倍にまでならないんですよ。そういう人間の体の条件が私たちの人権とか社会の基礎になっています。一方で、富は集まる人に集まってしまうので、1億倍集まる人もいるし、10億倍集まる人もいるんですよ。じゃあ、10億倍集まる人がその力を持って「10億円持っている人が1円持っている人より10億倍えらいんじゃないの」という行動に出てしまうと、社会の基本が壊れてしまいます。お金を持っている人たちがその感覚を大切にしてほしいと思います。
「数字は残酷なもの。それに振り回されてはいけない」と東さんは懸念します。
東:前澤さんは芸能人とよく会食をして、何百万円もするワインを開けることで有名な人なので、彼にとって100万円はワイン一杯分なんですよね。でも、この世界では、そのワイン一杯分で助かる命って、すごくたくさんあるわけですよ。
津田:確かに。
東: 100万円ほしい人がたくさんいるし、100万円で人生が変わる人もたくさんいるんです。でも、それは前澤さんにとってワイン一杯分。それが今回のお年玉企画で明確に見えてしまった。やはり厳しい世界ですね。
一方で、今回の企画で100万円が当選した人は、「当たったらこんなふうに使いたい」とメッセージを添えている場合が多く見られました。「お年玉のように見えて、クラウドファンディングのようにお金が渡されている側面がありました」と津田。
東:それにしたって「自分にとってワイン一杯分の値段が誰かを救う」ってことは、大変なことですよ。本来、人間は対等に生まれてきているのに、なぜ自分のワイン一杯分がその人の人生を変えてしまうのか。そこのギャップから責任が生まれるわけですよ。だから「僕にとってワイン一杯分だから、みんなにあげちゃうよ」ってことは逆に無責任です。今回の前澤さんの行動は、結果的にクラウドファンディングのように有効な人に手渡っていたとしても、基本的な振る舞い方としてはダメだと思いますね。
格差社会といわれる昨今。東さんが言うように、可視化される「いいね!」の裏側にある「わるいね!」にフォーカスする視点も、大切なのかもしれません。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
■拝金主義が肯定される時代になった
1月上旬、前澤さんによる「お年玉企画」が話題となりました。前澤さんのTwitterアカウントをフォロー&RTすると、100名に100万円、総額1億円がプレゼントされるというものです。応募締め切り時点では550万リツイートを突破し、それまでのリツイート世界記録を樹立。50万だった前澤さんのフォロワーは、この企画によって600万に激増しました。これについて東さんは「拝金主義が肯定される時代になった」と語ります。
東:お金を持っている人がみんな「金をばらまいて人気があって何がわるいの?」と言って、それに対して「お金だけじゃないんじゃないの」とか言うと、「老害!」などと言われる世の中になってしまいました。
津田:先日、東さんはイベントで「堀江貴文さんがブイブイ言わしている時代に同じようなことをやったとしたら、おそらくもっと世の中から叩かれたんじゃないか」と言われていましたよね。
東:そうですね。そっちがまともだったと思います。これは「若者を叩く」とか「IT企業を叩く」とかではなく、「俺は金持ちなんだから、俺にとって100万円なんてワイン代にもならない。それをばらまいたらこんなにフォロワーがきちゃうんだ」って、これはダメですよ。
このお年玉企画を、前澤さんが悪意をもってやったと思わないとしながらも、東さんはこう続けます。
東:こういうことをされてしまうと、「100万円をばらまくと、こんなに多くの人が群がるんだ」と、みんながその光景をみてしまうわけですよね。また、みんなプライドをかなぐり捨てて「100万円ください」という姿が見えてしまった。こういうことが積み重なってしまうと、社会は壊れていくわけです。
「人間にはもっと大切なものがある。そういうことを真面目に訴えていかなければならない」と東さん。さらに、この企画がこれほどまで話題になることを、前澤さんは予測できたはずと指摘します。
東:この企画は広告としては天才的で、実際にこの企画の宣伝効果は何億円と言われるほど、効率もよかったと思います。でも、今の世の中は「いいね!」の数は数えられるけど、「わるいね!」の数は数えられないんです。広告効果の裏側で「この企画はよくないんじゃないの」と思っていた人も多くいたはずです。その否定的な声は見えないから意見として加わらず、見える部分だけで突っ走って、みんながこれと同じようなことをやってしまうと、社会は壊れるし、経済も壊れます。前澤さんは日本を代表する資産家だから、そういうことに対してもう少し責任感を持ってもらえたらと思います。
■「わるいね!」はカウントされない
先に述べたように、今のITやSNSの世界は万能のように見えますが、「いいね!」だけがカウントされて、「わるいね!」はカウントされません。
東:つまり、人々が抱いている評価の一部分が可視化され、数量化されるシステムになっているので、数量で勝とうと戦略を立てていると、実は見えない部分でわるい評判が高まって、ガラッと崩れることもあります。伝統的に道徳とか倫理と呼ばれるものは、長期的で合理的に考えた場合に「これが勝利戦略だよ」という指針でもありました。
津田:なるほど。
東:今のSNS時代で、ちょっと「いいね!」やリツイートが可視化されるだけで、「今までの倫理感や道徳感が壊れたんだ。こらからはシンギュラリティ(技術的特異点)に向けてばく進だ」みたいなことをやっていると、けっきょくのところ罰が当たることになるかと思います。
■10億円持っている人は、1円持っている人より10億倍えらいのか?
「東さんの言う『社会が壊れる』とは、どのようなことなのか」と、津田は深掘りします。
東:たとえば「この人は1万円を持っている」「この人は1億円を持っている」「この人は1兆円を持っている」と言ったら、1万円を持つ人より1兆円を持つ人のほうが1億倍の力があるわけです。でも、人間と人間は、身長も体重もあまり変わらないし、対等ですよね。それが人間としての基本的な社会を作っている原理であるから、1万倍の富を持っていたからといって1万倍えらいとはならないんですよ。
津田:東さんは、人間が平等であるということを、「正規分布」と「べき乗分布」を例にとって話していましたよね。
東:富は「べき乗分布」という、すごく極端な分布をするんですが、人間の身長とか体重とか知性は、「正規分布」といって、真ん中にピークがある山型の分布です。個人差があるにせよ平均値部分が一番多く、ぶれると言ってもその数値が2、3倍にまでならないんですよ。そういう人間の体の条件が私たちの人権とか社会の基礎になっています。一方で、富は集まる人に集まってしまうので、1億倍集まる人もいるし、10億倍集まる人もいるんですよ。じゃあ、10億倍集まる人がその力を持って「10億円持っている人が1円持っている人より10億倍えらいんじゃないの」という行動に出てしまうと、社会の基本が壊れてしまいます。お金を持っている人たちがその感覚を大切にしてほしいと思います。
「数字は残酷なもの。それに振り回されてはいけない」と東さんは懸念します。
東:前澤さんは芸能人とよく会食をして、何百万円もするワインを開けることで有名な人なので、彼にとって100万円はワイン一杯分なんですよね。でも、この世界では、そのワイン一杯分で助かる命って、すごくたくさんあるわけですよ。
津田:確かに。
東: 100万円ほしい人がたくさんいるし、100万円で人生が変わる人もたくさんいるんです。でも、それは前澤さんにとってワイン一杯分。それが今回のお年玉企画で明確に見えてしまった。やはり厳しい世界ですね。
一方で、今回の企画で100万円が当選した人は、「当たったらこんなふうに使いたい」とメッセージを添えている場合が多く見られました。「お年玉のように見えて、クラウドファンディングのようにお金が渡されている側面がありました」と津田。
東:それにしたって「自分にとってワイン一杯分の値段が誰かを救う」ってことは、大変なことですよ。本来、人間は対等に生まれてきているのに、なぜ自分のワイン一杯分がその人の人生を変えてしまうのか。そこのギャップから責任が生まれるわけですよ。だから「僕にとってワイン一杯分だから、みんなにあげちゃうよ」ってことは逆に無責任です。今回の前澤さんの行動は、結果的にクラウドファンディングのように有効な人に手渡っていたとしても、基本的な振る舞い方としてはダメだと思いますね。
格差社会といわれる昨今。東さんが言うように、可視化される「いいね!」の裏側にある「わるいね!」にフォーカスする視点も、大切なのかもしれません。
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番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
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