一夜限りの音楽×テクノロジーLIVE「J-WAVE 30th ANNIVERSARY INNOVATION WORLD LIVE PLUS supported by CHINTAI」(通称・イノプラ)を、1月24(木)に豊洲PITで開催した。
イノプラは、2018年9月に開催された、J-WAVEが主催するテクノロジーの祭典「INNOVATION WORLD FESTA 2018 Supported by CHINTAI」(通称・イノフェス)の“リベンジ公演”だ。 イノフェスは2018年9月に六本木ヒルズにて2日間の開催予定だったが、残念ながら台風の影響により、2日目のアリーナで予定されていた演目は中止を余儀なくされた。すでにリハーサルまで終えていた、アーティストとクリエイターから「ぜひ実現させたい!」と声が上がり、開催が決定した。
この日の出演者は、ASIAN KUNG-FU GENERATION feat. AR三兄弟、androp feat. 武藤将胤、カサリンチュ×宇宙兄弟、Awesome City Club feat. Nu.inkの4組。テクノロジーと音楽が組み合わさり、これまでにない斬新なパフォーマンスが繰り広げられた。
■拍手で映像が変化! Awesome City Club feat. Nu. ink
トップバッターは、Awesome City Club。筑波大学の学生によるクリエイティブチームチーム「Nu ink.」とのコラボレーションだ。演奏中、バックモニターに流れるのは「オーディオリアクティブ映像」。客席の反応がリアルタイムで映像に反映されるのだという。
ライブが始まる前に、観客はモニターに表示されたQRコードをスマートフォンで読み込んだ。画面には数字が表示され、スマホをシェイクするたびにカウントアップしていく。ステージ両端にある縦型のサイドモニターにはパワーゲージが表示され、シェイクするほどに溜まっていく仕組みだ。観客が力を合わせて1万回シェイクし、満タンになったところで、メンバーが大きく両手を振りながら登場した。
1曲目は『ダンシングファイター』。モニターには、ピンク、イエローなどAwesome City Clubのイメージに似合う蛍光カラーを用いたデジタル映像が流れる。PORINは跳ねるようにピアノを弾き、会場の熱が高まっていった。続いては『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』。映像は、カラフルな細胞のような模様がチカチカと点滅。クラブで夜通し遊びながら、恋愛の駆け引きを楽しむ男女を描いた、色気のある同曲にぴったりだ。atagiとPORINのハーモニーが会場を震わせ、夜のムードに満ちていく。
「豊洲ピット元気ですか? 夜は長いですから、しっかりゆっくり楽しんで帰ってください。ライブの最後に面白い試みをやるので楽しみにしておいてください!」とatagiのMCを挟んで、昨年12月にリリースされたフルアルバム『Catch The One』のタイトルチューンがスタート。モニターには、赤と青の水滴のような模様が現れて消える。PORINも腰でリズムをとり、会場はすっかりAwesome City Clubの世界だ。「踊ろうぜ、イノフェス!」というatagiのかけ声で、『Don’t Think, Feel』へ。モニターでは、ドットがドラムに合わせて大きさを変え、リアルタイムで反応していることがわかる。単に映像を流すより一体感があり、デジタルの世界に入り込んだ感覚が味わえた。
ラストは『SUNNY GIRL』。この曲は、観客の拍手の音量や波形がモニターに映し出されると、atagiは説明した。曲が始まり、観客がリズミカルにクラップすると、都会のビル群のようなホワイトの長方形がモニターに映り、クラップの音に合わせて伸び縮みする。また、炭酸を思わせる気泡も、拍手に合わせて弾けていく。一緒にライブをつくりあげている実感がある演出だ。atagiも「ナイスクラップでした! どうもありがとう!」と満足げにステージを去った。
■セットリスト
01. ダンシングファイター
02. 今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる
03. Catch The One
04. Don't Think, Feel
05. SUNNY GIRL
■カサリンチュ、『宇宙兄弟』ムッタになって熱唱! 楽曲歌詞と漫画の世界がリンク
Awesome City Club feat. Nu ink.のステージのあとは、『宇宙兄弟』とカサリンチュがテクノロジーを使ってコラボレーション。ボーカル、ギターのタツヒロと、ヒューマンビートボックスのコウスケのふたりから成るカサリンチュのステージは、AR三兄弟の力も加わり、『宇宙兄弟』の世界観を拡張した演出で展開された。
まず、コウスケが紡ぎ出すビートにタツヒロが言葉を乗せた『OPENING~ASIVI~』では、タツヒロが『宇宙兄弟』の主人公ムッタ(南波 六太)に変身。スマートフォンで自撮りした映像が会場前方のモニターに投影されるのだが、タツヒロの顔がムッタとなって表示されるという仕組みだ。まるでムッタが漫画から飛び出し、実際に豊洲PITのステージに立って歌っているかのような錯覚を覚える演出に、場内からも驚きの声が上がった。
「昨年の9月に台風により中止となったイベントをリベンジできてうれしく思います。たくさん集まってくださりありがとうございます!」と、MCを挟んで始まったのは『宇宙兄弟』27巻のテーマソング『あと一歩』。「作者の小山宙哉さん、そしてファンの皆さんが漫画となって出てくるこの曲を、映像とともにお届けしたい」と、ミュージックビデオが流れ始める。
『宇宙兄弟』27巻は、父親をALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くした宇宙飛行士・伊東せりかが、困難を乗り越え、ALSの新薬開発に臨む姿を描く。楽曲歌詞とシンクロしながらストーリーが展開するMV。何度倒れても立ち上がる、頑張る人を応援する『あと一歩』のメッセージは、タツヒロの優しくも力強い歌声で場内に届けられた。
カサリンチュのラストは『満月』。10周年を迎えた『宇宙兄弟』のために書き下ろした楽曲だ。中学からの同級生で、家族よりも長く一緒にいる存在であるカサリンチュ。その関係は「ヒビト(南波 日々人)とムッタの兄弟と重なる」と明かす。長く一緒にいると、本音を言わなくなったり、葛藤もいろいろあるものの、そういったものを素直に「仲間」というテーマで書いた曲だ。
『満月』では、AR三兄弟による特別な仕掛けが用意。楽曲歌詞から抜き出した単語を打ち込むと、リアルタイムで『宇宙兄弟』の物語のなかを言葉で検索し、その言葉が出てくる漫画のコマがモニターに映し出された。楽曲歌詞と漫画の世界がリンクするパフォーマンスに、オーディエンスは釘付けに。最後は楽曲タイトルであり、『宇宙兄弟』の物語には欠かせない要素である「月」がモニターに現れる。自分のそばに居る仲間との時間を大切にしたいと思う楽曲の温かさが会場を包み込み、ステージは終了した。
■セットリスト
01. OPENING~ASIVI~
02. あと一歩
03. 満月
■目でVDJ! androp feat. 武藤将胤、限界を超えたパフォーマンス
andropは、ALS患者でクリエイターの武藤将胤とコラボ。この日の武藤は“EYE VDJ MASA”だ。眼球や顔の動きだけで音や映像をコントロールする、メガネ型ウェアラブルデバイスを使ってVDJを行った。
ライブが始まる前には、武藤のインタビューが流れた。昔から音楽を愛し、DJを始めようと思っていた矢先に、ALSを発病。それでも、自分の感じたことを音楽や映像で表現するという夢を諦めず、EYE VDJという方法に行き着いた。
モニターには、美しいビーチが映っている。次第に、分割、反転し、不思議な世界が広がっていく。「手が使えなくても、イマジネーションは自由」という武藤の意思を打ち出したところで、『Summit × You Make Me Mash Up』の演奏が始まった。ステージ中央の武藤の前にはPCが置かれている。首がわずかに動くのみだが、曲に合わせてモニターに映し出された図形が回るなど、リアルタイムでリンクしていることが伝わってくる。観客も両手を上げて体を揺らし、武藤とandropのパフォーマンスに応えた。
続けて披露された『MirrorDance』『World.Words.Lights.』では、andropと武藤との“掛け合い”が披露された。キーボードをたたくボーカルが手を挙げると、武藤が音を歪ませる。電子音がザクザクと刻まれ、観客はディープな世界に引きずり込まれていった。
MCでは、「うまくいった! 今、すげえことしてんすよ。リハでは音が出ないこともあって、どうなるかと思っていたけど、本番は成功した!よかった!」と興奮気味のandrop・内澤崇仁。武藤が行っていることについて、「遠目だとわからないよね」と、「目でエフェクトをかけたり、音を操作したりしてくれて、僕らはバンドでかけあいをしてました」と説明した。武藤も「メンバーのみなさんと一緒に、思いを込めて、時間をかけて準備をしてきたので、“限界”を超えたステージができてうれしいです。障害なんて関係なく、音楽で繋がってくださったみなさんに心から感謝します。盛り上がっていきましょう!」と喜びを伝え、観客は大きな拍手で称えた。
『Hikari』では、水面にきらめくような光が映し出され、「NO LIMIT, YOUR LIFE」というメッセージが重なる。湖など自然の映像が流れ、サビでは目が覚めるような青空が広がる。困難も光に変えていくという同曲に込められた思いを、武藤が見事に映像で表現した。
『Human Factor』では、先ほどまでとは一変し、モノクロの線で描いた球体が現れる。線が消えたり増えたりするうちに、それが眼球を描いたものであることが徐々に明らかになっていく。武藤のまなざしの強さが、視覚的に感じられる映像だ。
曲間のVDJでは、モニターで武藤の目がアップになり、まばたきや、眼球の動きが観客に伝えられる。内澤は体でリズムをとって微笑み、今回のチャレンジを心から楽しんでいることが伝わってくる。
ラストの『Yeah! Yeah! Yeah!』では、爽やかな曲の世界観に合う、花火や青空が次々と映し出された。メンバーの演奏も熱がこもり、総立ちの観客も手を上げて盛り上がる。始めは会場に、「いったい何が起こるのか?」と、どこか見守るような雰囲気が満ちていた。しかしライブ後は、あふれんばかりの拍手と歓声に包まれた。それは武藤の言葉通り、観客が障害など関係なくパフォーマンスを楽しんだことの証明だった。
■セットリスト
01. Summit × You Make Me Mash Up
02. MirrorDance
03. World.Words.Lights.
04. Hikari
05. Human Factor
06. VDJ
07. Yeah! Yeah! Yeah!
■デジタルとリアルが混ざり合う、ASIAN KUNG-FU GENERATION feat. AR三兄弟
トリを飾ったのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION feat. AR三兄弟。AR三兄弟は客席中央にあるPA席に、トレードマークである黄色い帽子を被って並んで座っていた。
ライブの幕開けを告げたのは、ギターをかき鳴らすイントロが印象的なザラついたロックナンバー『未来の破片』。観客が拳を上げて盛り上がるなか、AR三兄弟が手がける映像では、「トカゲ」「光る」など歌詞に合わせてポップなイラストが映し出された。楽曲とのギャップがユニークだ。
『荒野を歩け』では、跳ねるような軽快なメロディに合わせて、AR三兄弟がVJのために行ったとされるLINEの軽快なやり取りが、『ロードムービー』では電車のアニメーションがモニターに流れる。映像で電車の窓から光が差し込むと、会場もライトで照らされ、「AR=拡張現実」の名の通り、デジタルとリアルがリンクして世界が広がった。曲の終盤では激しいドラムに合わせて映像の町並みが崩れ落ち、観客はASIAN KUNG-FU GENERATIONとAR三兄弟が生み出す空間に没入していく。
MCでは、「集まっていただいてありかとうございます」とボーカル・後藤正文。本来の公演が台風で中止を余儀なくされたことについて、「俺たちが特別なことしようとすると台風が来るんだよね」と苦笑しつつ、「いろいろ準備してて悲しかったから、リベンジできて嬉しいです。見ての通り、ほがらかなおじさんたちなんで、ほがらかに楽しんでいただけたら」と観客の笑いを誘った。また、この日がギター・喜多建介の誕生日であることに触れ、会場は祝福ムードに。
曲は、ゆったりとしたテンポの『ボーイズ&ガールズ』へ。結成20年を経た彼らだからこそ歌える、聴く人の背中をそっと押す優しい楽曲だ。モニターに流れる映像は実写で、ひとりで歩く女性、音楽を聴く青年、ダンスを練習する若者たちなど、街の記憶の断片のようだ。スマホで連絡しあったり、語り合ったりと、人と人との関係のぬくもりを感じさせる内容で、観客は歌詞の意味をより深く感じられたことだろう。
『Re:Re:』では一変、紫の光が飛び交う電子映像に。客席にも同色のレーザービームが注ぎ、画面の向こう側、ステージ、客席の境界線を壊していく。
AR三兄弟・川田は、今回のライブに先駆けて行ったインタビューで、本来の会場だった六本木ヒルズ全体をプロジェクションマッピングしたらどうなるか、拡張現実(AR)でシミュレーションしたものを作ったと述べていた。続く『リライト』にて、その映像が披露された。はじめはポリゴンで作られた六本木ヒルズ全体が映っており、空中飛行するようにカメラが動いたのち、ライブが行われる予定だった六本木ヒルズアリーナ(野外ステージ)へと舞い降りていく。現地で見ていれば、デジタルとリアルが交差する不思議な感覚が味わえていただろう。そう思ったところで、六本木ヒルズが光に包み込まれ、豊洲ピットへと変身! 観客は驚き混じりの声援を送った。
ライブの盛り上がりも最高潮に、弾むドラムが合図の『君という花』へ。モニターには、PCでプログラミングをする画面と、手書きの球体が映し出される。この段階で何が起こるのかは観客にはわからないが、サビ前で「次元花火」と表示され、CGで描かれた花火が弾けたことで、設計図と制作過程だったことに気づかされる。花火はレーザービームに変わって客席にも降り注ぎ、従来のライブにはない一体感が味わえた。
■セットリスト
01. 未来の破片
02. 荒野を歩け
03. ロードムービー
04. ボーイズ&ガールズ
05. Re:Re:
06. リライト
07. 君という花
ライブでモニターに映像が流れる演出は一般的だが、曲と同じタイミングで再生するだけではなく、リアルとリンクする仕掛けをつくることで、よりいっそうインパクトのある体験になる。ライブパフォーマンスの未来を感じさせるステージで、テクノロジーと音楽の祭典・イノフェスがようやく幕を閉じた。
Photo by 後藤壮太郎
イノプラは、2018年9月に開催された、J-WAVEが主催するテクノロジーの祭典「INNOVATION WORLD FESTA 2018 Supported by CHINTAI」(通称・イノフェス)の“リベンジ公演”だ。 イノフェスは2018年9月に六本木ヒルズにて2日間の開催予定だったが、残念ながら台風の影響により、2日目のアリーナで予定されていた演目は中止を余儀なくされた。すでにリハーサルまで終えていた、アーティストとクリエイターから「ぜひ実現させたい!」と声が上がり、開催が決定した。
この日の出演者は、ASIAN KUNG-FU GENERATION feat. AR三兄弟、androp feat. 武藤将胤、カサリンチュ×宇宙兄弟、Awesome City Club feat. Nu.inkの4組。テクノロジーと音楽が組み合わさり、これまでにない斬新なパフォーマンスが繰り広げられた。
■拍手で映像が変化! Awesome City Club feat. Nu. ink
トップバッターは、Awesome City Club。筑波大学の学生によるクリエイティブチームチーム「Nu ink.」とのコラボレーションだ。演奏中、バックモニターに流れるのは「オーディオリアクティブ映像」。客席の反応がリアルタイムで映像に反映されるのだという。
ライブが始まる前に、観客はモニターに表示されたQRコードをスマートフォンで読み込んだ。画面には数字が表示され、スマホをシェイクするたびにカウントアップしていく。ステージ両端にある縦型のサイドモニターにはパワーゲージが表示され、シェイクするほどに溜まっていく仕組みだ。観客が力を合わせて1万回シェイクし、満タンになったところで、メンバーが大きく両手を振りながら登場した。
1曲目は『ダンシングファイター』。モニターには、ピンク、イエローなどAwesome City Clubのイメージに似合う蛍光カラーを用いたデジタル映像が流れる。PORINは跳ねるようにピアノを弾き、会場の熱が高まっていった。続いては『今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる』。映像は、カラフルな細胞のような模様がチカチカと点滅。クラブで夜通し遊びながら、恋愛の駆け引きを楽しむ男女を描いた、色気のある同曲にぴったりだ。atagiとPORINのハーモニーが会場を震わせ、夜のムードに満ちていく。
「豊洲ピット元気ですか? 夜は長いですから、しっかりゆっくり楽しんで帰ってください。ライブの最後に面白い試みをやるので楽しみにしておいてください!」とatagiのMCを挟んで、昨年12月にリリースされたフルアルバム『Catch The One』のタイトルチューンがスタート。モニターには、赤と青の水滴のような模様が現れて消える。PORINも腰でリズムをとり、会場はすっかりAwesome City Clubの世界だ。「踊ろうぜ、イノフェス!」というatagiのかけ声で、『Don’t Think, Feel』へ。モニターでは、ドットがドラムに合わせて大きさを変え、リアルタイムで反応していることがわかる。単に映像を流すより一体感があり、デジタルの世界に入り込んだ感覚が味わえた。
ラストは『SUNNY GIRL』。この曲は、観客の拍手の音量や波形がモニターに映し出されると、atagiは説明した。曲が始まり、観客がリズミカルにクラップすると、都会のビル群のようなホワイトの長方形がモニターに映り、クラップの音に合わせて伸び縮みする。また、炭酸を思わせる気泡も、拍手に合わせて弾けていく。一緒にライブをつくりあげている実感がある演出だ。atagiも「ナイスクラップでした! どうもありがとう!」と満足げにステージを去った。
■セットリスト
01. ダンシングファイター
02. 今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる
03. Catch The One
04. Don't Think, Feel
05. SUNNY GIRL
■カサリンチュ、『宇宙兄弟』ムッタになって熱唱! 楽曲歌詞と漫画の世界がリンク
Awesome City Club feat. Nu ink.のステージのあとは、『宇宙兄弟』とカサリンチュがテクノロジーを使ってコラボレーション。ボーカル、ギターのタツヒロと、ヒューマンビートボックスのコウスケのふたりから成るカサリンチュのステージは、AR三兄弟の力も加わり、『宇宙兄弟』の世界観を拡張した演出で展開された。
まず、コウスケが紡ぎ出すビートにタツヒロが言葉を乗せた『OPENING~ASIVI~』では、タツヒロが『宇宙兄弟』の主人公ムッタ(南波 六太)に変身。スマートフォンで自撮りした映像が会場前方のモニターに投影されるのだが、タツヒロの顔がムッタとなって表示されるという仕組みだ。まるでムッタが漫画から飛び出し、実際に豊洲PITのステージに立って歌っているかのような錯覚を覚える演出に、場内からも驚きの声が上がった。
「昨年の9月に台風により中止となったイベントをリベンジできてうれしく思います。たくさん集まってくださりありがとうございます!」と、MCを挟んで始まったのは『宇宙兄弟』27巻のテーマソング『あと一歩』。「作者の小山宙哉さん、そしてファンの皆さんが漫画となって出てくるこの曲を、映像とともにお届けしたい」と、ミュージックビデオが流れ始める。
『宇宙兄弟』27巻は、父親をALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くした宇宙飛行士・伊東せりかが、困難を乗り越え、ALSの新薬開発に臨む姿を描く。楽曲歌詞とシンクロしながらストーリーが展開するMV。何度倒れても立ち上がる、頑張る人を応援する『あと一歩』のメッセージは、タツヒロの優しくも力強い歌声で場内に届けられた。
カサリンチュのラストは『満月』。10周年を迎えた『宇宙兄弟』のために書き下ろした楽曲だ。中学からの同級生で、家族よりも長く一緒にいる存在であるカサリンチュ。その関係は「ヒビト(南波 日々人)とムッタの兄弟と重なる」と明かす。長く一緒にいると、本音を言わなくなったり、葛藤もいろいろあるものの、そういったものを素直に「仲間」というテーマで書いた曲だ。
『満月』では、AR三兄弟による特別な仕掛けが用意。楽曲歌詞から抜き出した単語を打ち込むと、リアルタイムで『宇宙兄弟』の物語のなかを言葉で検索し、その言葉が出てくる漫画のコマがモニターに映し出された。楽曲歌詞と漫画の世界がリンクするパフォーマンスに、オーディエンスは釘付けに。最後は楽曲タイトルであり、『宇宙兄弟』の物語には欠かせない要素である「月」がモニターに現れる。自分のそばに居る仲間との時間を大切にしたいと思う楽曲の温かさが会場を包み込み、ステージは終了した。
■セットリスト
01. OPENING~ASIVI~
02. あと一歩
03. 満月
■目でVDJ! androp feat. 武藤将胤、限界を超えたパフォーマンス
andropは、ALS患者でクリエイターの武藤将胤とコラボ。この日の武藤は“EYE VDJ MASA”だ。眼球や顔の動きだけで音や映像をコントロールする、メガネ型ウェアラブルデバイスを使ってVDJを行った。
ライブが始まる前には、武藤のインタビューが流れた。昔から音楽を愛し、DJを始めようと思っていた矢先に、ALSを発病。それでも、自分の感じたことを音楽や映像で表現するという夢を諦めず、EYE VDJという方法に行き着いた。
モニターには、美しいビーチが映っている。次第に、分割、反転し、不思議な世界が広がっていく。「手が使えなくても、イマジネーションは自由」という武藤の意思を打ち出したところで、『Summit × You Make Me Mash Up』の演奏が始まった。ステージ中央の武藤の前にはPCが置かれている。首がわずかに動くのみだが、曲に合わせてモニターに映し出された図形が回るなど、リアルタイムでリンクしていることが伝わってくる。観客も両手を上げて体を揺らし、武藤とandropのパフォーマンスに応えた。
続けて披露された『MirrorDance』『World.Words.Lights.』では、andropと武藤との“掛け合い”が披露された。キーボードをたたくボーカルが手を挙げると、武藤が音を歪ませる。電子音がザクザクと刻まれ、観客はディープな世界に引きずり込まれていった。
MCでは、「うまくいった! 今、すげえことしてんすよ。リハでは音が出ないこともあって、どうなるかと思っていたけど、本番は成功した!よかった!」と興奮気味のandrop・内澤崇仁。武藤が行っていることについて、「遠目だとわからないよね」と、「目でエフェクトをかけたり、音を操作したりしてくれて、僕らはバンドでかけあいをしてました」と説明した。武藤も「メンバーのみなさんと一緒に、思いを込めて、時間をかけて準備をしてきたので、“限界”を超えたステージができてうれしいです。障害なんて関係なく、音楽で繋がってくださったみなさんに心から感謝します。盛り上がっていきましょう!」と喜びを伝え、観客は大きな拍手で称えた。
『Hikari』では、水面にきらめくような光が映し出され、「NO LIMIT, YOUR LIFE」というメッセージが重なる。湖など自然の映像が流れ、サビでは目が覚めるような青空が広がる。困難も光に変えていくという同曲に込められた思いを、武藤が見事に映像で表現した。
『Human Factor』では、先ほどまでとは一変し、モノクロの線で描いた球体が現れる。線が消えたり増えたりするうちに、それが眼球を描いたものであることが徐々に明らかになっていく。武藤のまなざしの強さが、視覚的に感じられる映像だ。
曲間のVDJでは、モニターで武藤の目がアップになり、まばたきや、眼球の動きが観客に伝えられる。内澤は体でリズムをとって微笑み、今回のチャレンジを心から楽しんでいることが伝わってくる。
ラストの『Yeah! Yeah! Yeah!』では、爽やかな曲の世界観に合う、花火や青空が次々と映し出された。メンバーの演奏も熱がこもり、総立ちの観客も手を上げて盛り上がる。始めは会場に、「いったい何が起こるのか?」と、どこか見守るような雰囲気が満ちていた。しかしライブ後は、あふれんばかりの拍手と歓声に包まれた。それは武藤の言葉通り、観客が障害など関係なくパフォーマンスを楽しんだことの証明だった。
■セットリスト
01. Summit × You Make Me Mash Up
02. MirrorDance
03. World.Words.Lights.
04. Hikari
05. Human Factor
06. VDJ
07. Yeah! Yeah! Yeah!
■デジタルとリアルが混ざり合う、ASIAN KUNG-FU GENERATION feat. AR三兄弟
トリを飾ったのは、ASIAN KUNG-FU GENERATION feat. AR三兄弟。AR三兄弟は客席中央にあるPA席に、トレードマークである黄色い帽子を被って並んで座っていた。
ライブの幕開けを告げたのは、ギターをかき鳴らすイントロが印象的なザラついたロックナンバー『未来の破片』。観客が拳を上げて盛り上がるなか、AR三兄弟が手がける映像では、「トカゲ」「光る」など歌詞に合わせてポップなイラストが映し出された。楽曲とのギャップがユニークだ。
『荒野を歩け』では、跳ねるような軽快なメロディに合わせて、AR三兄弟がVJのために行ったとされるLINEの軽快なやり取りが、『ロードムービー』では電車のアニメーションがモニターに流れる。映像で電車の窓から光が差し込むと、会場もライトで照らされ、「AR=拡張現実」の名の通り、デジタルとリアルがリンクして世界が広がった。曲の終盤では激しいドラムに合わせて映像の町並みが崩れ落ち、観客はASIAN KUNG-FU GENERATIONとAR三兄弟が生み出す空間に没入していく。
MCでは、「集まっていただいてありかとうございます」とボーカル・後藤正文。本来の公演が台風で中止を余儀なくされたことについて、「俺たちが特別なことしようとすると台風が来るんだよね」と苦笑しつつ、「いろいろ準備してて悲しかったから、リベンジできて嬉しいです。見ての通り、ほがらかなおじさんたちなんで、ほがらかに楽しんでいただけたら」と観客の笑いを誘った。また、この日がギター・喜多建介の誕生日であることに触れ、会場は祝福ムードに。
曲は、ゆったりとしたテンポの『ボーイズ&ガールズ』へ。結成20年を経た彼らだからこそ歌える、聴く人の背中をそっと押す優しい楽曲だ。モニターに流れる映像は実写で、ひとりで歩く女性、音楽を聴く青年、ダンスを練習する若者たちなど、街の記憶の断片のようだ。スマホで連絡しあったり、語り合ったりと、人と人との関係のぬくもりを感じさせる内容で、観客は歌詞の意味をより深く感じられたことだろう。
『Re:Re:』では一変、紫の光が飛び交う電子映像に。客席にも同色のレーザービームが注ぎ、画面の向こう側、ステージ、客席の境界線を壊していく。
AR三兄弟・川田は、今回のライブに先駆けて行ったインタビューで、本来の会場だった六本木ヒルズ全体をプロジェクションマッピングしたらどうなるか、拡張現実(AR)でシミュレーションしたものを作ったと述べていた。続く『リライト』にて、その映像が披露された。はじめはポリゴンで作られた六本木ヒルズ全体が映っており、空中飛行するようにカメラが動いたのち、ライブが行われる予定だった六本木ヒルズアリーナ(野外ステージ)へと舞い降りていく。現地で見ていれば、デジタルとリアルが交差する不思議な感覚が味わえていただろう。そう思ったところで、六本木ヒルズが光に包み込まれ、豊洲ピットへと変身! 観客は驚き混じりの声援を送った。
ライブの盛り上がりも最高潮に、弾むドラムが合図の『君という花』へ。モニターには、PCでプログラミングをする画面と、手書きの球体が映し出される。この段階で何が起こるのかは観客にはわからないが、サビ前で「次元花火」と表示され、CGで描かれた花火が弾けたことで、設計図と制作過程だったことに気づかされる。花火はレーザービームに変わって客席にも降り注ぎ、従来のライブにはない一体感が味わえた。
■セットリスト
01. 未来の破片
02. 荒野を歩け
03. ロードムービー
04. ボーイズ&ガールズ
05. Re:Re:
06. リライト
07. 君という花
ライブでモニターに映像が流れる演出は一般的だが、曲と同じタイミングで再生するだけではなく、リアルとリンクする仕掛けをつくることで、よりいっそうインパクトのある体験になる。ライブパフォーマンスの未来を感じさせるステージで、テクノロジーと音楽の祭典・イノフェスがようやく幕を閉じた。
Photo by 後藤壮太郎
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