J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。8月21日(火)のオンエアでは、火曜日のニュース・スーパーバイザーを務める青木 理が登場。元厚生労働省事務次官の村木厚子さんをゲストに迎え、村木さんの著書『日本型組織の病を考える』について、また官僚や検察の問題点について伺いました。
■なぜ村木さんは冤罪被害にあったのか
身に覚えのない郵便不正事件で逮捕、起訴され、5カ月間に及ぶ拘置生活を送られた村木さんは、先日『日本型組織の病を考える』(角川新書)を上梓。自身が取り調べを受けた特捜部の問題点に端を発し、勤められた役所の経験などについても書かれています。
郵便不正事件は、障害者向けの郵便割引制度を悪用して利益を得ている業者に便宜供与したという事件。当時、厚生労働省の係長が手続きが遅れていることを理由に、本物の団体だと信じて証明書を発行してしまいます。それを大阪地検特捜部は、厚生労働省の課長であった村木さんが指示をしたとストーリーを作り、村木さんを逮捕、起訴します。その後、冤罪事件として村木さんは無罪が確定し、復職しました。
青木:検察の中でも独自の捜査をする特捜検察は、一般的に政治家とか官僚とか汚職や不正など悪さをしている巨悪に立ち向かう正義の機関なはずですよね。でも、郵便不正事件に関しては、村木さんは無実を訴えているのに、村木さんの周辺の人たちは「村木さんに指示された」という調書に署名をしてしまった。辛うじて村木さんは冤罪を立証できたけど、なぜ検察はそんなことをする必要があったのでしょうか。
村木:課長である私の名前が入った証明書だったので、まず私が疑われること自体は不自然なことではありません。検察側から言えば、そこで動いたお金は非常に大きかったので、彼らは「係長ごときがひとりでやれるわけがない」と思い込んだと(のちに)弁解しています。もうちょっと意地悪な見方をすると、捜査当時、関係者でいちばん高いポジションにいたのが私だったこともあり、検察は政治家や高級官僚が絡む事件を担当したいという気持ちが潜在的に働いたのかもしれません。
■検察の中だけにいると、世間と感覚が大きくズレる
村木さんは同書で、世の中の不正に切り込む存在であった検察官は、“真面目で純粋で正義感があるからこそ、(事件を成立させるために)突っ走ってしまう”と書いています。
青木:でも郵便不正事件は、特捜部が証拠の日付データの改ざんまでおこなっていますよね?
村木:純粋培養のような組織である検察の中にいると、感覚が世間と大きくズレていく。そのことを検事たちはあまり気づいていません。あのとき、ふたりの検事から「執行猶予が付けばたいした罪じゃない」と全く同じセリフを言われ、本当に驚きました。「実刑でなければいいじゃないか」という感覚は、私たち市民とは大きなずれですよね。彼らが、同質の仕事をする閉鎖的な世界に住んでいるんだと感じました。また、データの改ざんが分かった頃に、検察の中でも「これはおかしい」と言ってくれた人がいたそうです。でも、彼らは正義の味方で世の中からものすごく期待をされている存在だと自分たちで思っているので、途中で「間違えました」「ごめんなさい」「悪いことをしてしまいました」とは非常に言いづらかったんだと思います。
■忖度ができなくなっても消えないプレッシャー
財務省による公文書書き換えや、厚生労働省の裁量労働制を巡るずさんなデータなど、相次ぐ官僚の不祥事が問題視されていることについて、村木さんはどのように感じているのでしょうか。
村木:例えば行政の透明性や公平性をどう確保するかで言えば、情報開示や外部監査などいろいろなかたちでそれを確保する手段を取ってきたんですよね。総じて言えば、悪くなっているわけでない。ただ、いろいろなかたちでやってきたにも関わらず、「あそこに気を使わないと」「ここはうまくこなさないと」などプレッシャーが強く行政にかかっていたのかなと思います。
青木:政権が強く人事なども官邸が握ったりする中で、おおむね真面目で職務熱心な官僚が、以前よりも各所に気を使わなくてはいけないような状況になっているということですか。
村木:昔は補助金を出すにも「あそこには有力な政治家がいる」「あそこは総理の出身県だ」など、相当な忖度があったと思うんです。今は恣意的にそのようなことができない仕組みに変えてきています。しかし、それでもなお何らかのプレッシャーが働いている。実質的に忖度が行われたかどうかは分かりませんが、「忖度など決してあってはいけないから、疑われるようなことはなかったことにしよう」というように動いてしまった。検察も同じですよね、「取り調べは適正に行われているはずだ。どんな無理な取り調べをしていても、そんな取り調べはしていない」と言い続ける。そういう体質というか、どこかに無理があるのに、「役所の仕事はこんなものだ」「権力との付き合い方はこういうものだから仕方ない」と思って、その部分が流されているところがあるような気がします。
■役所も検察も…「できる/できない」を外に見せることが重要
世の中から正義の味方だと期待されている組織や、権限があってチェックが入りにくい組織ほど、間違いが起こってしまったときにそれを認められない傾向があると村木さんは指摘。これらを見直すことについて、以下のように話します。
村木:民間だと、できないことは説明責任を負いますよね。役所も検察も、できることとできないことをある程度は外に見せていくことだと思います。人間は弱いですから、忖度したいとか厳しい取り調べをして自白させたいと思うのは当たり前なので、できないようにしてあげるほうが、心ある公務員にとってはよっぽど楽です。そうすることにより、いい公務員がいい仕事をして、悪い公務員が減ると思います。
村木さんのお話が気になった方は、村木さんの著書『日本型組織の病を考える』もぜひ手にとってみてください。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld
■なぜ村木さんは冤罪被害にあったのか
身に覚えのない郵便不正事件で逮捕、起訴され、5カ月間に及ぶ拘置生活を送られた村木さんは、先日『日本型組織の病を考える』(角川新書)を上梓。自身が取り調べを受けた特捜部の問題点に端を発し、勤められた役所の経験などについても書かれています。
郵便不正事件は、障害者向けの郵便割引制度を悪用して利益を得ている業者に便宜供与したという事件。当時、厚生労働省の係長が手続きが遅れていることを理由に、本物の団体だと信じて証明書を発行してしまいます。それを大阪地検特捜部は、厚生労働省の課長であった村木さんが指示をしたとストーリーを作り、村木さんを逮捕、起訴します。その後、冤罪事件として村木さんは無罪が確定し、復職しました。
青木:検察の中でも独自の捜査をする特捜検察は、一般的に政治家とか官僚とか汚職や不正など悪さをしている巨悪に立ち向かう正義の機関なはずですよね。でも、郵便不正事件に関しては、村木さんは無実を訴えているのに、村木さんの周辺の人たちは「村木さんに指示された」という調書に署名をしてしまった。辛うじて村木さんは冤罪を立証できたけど、なぜ検察はそんなことをする必要があったのでしょうか。
村木:課長である私の名前が入った証明書だったので、まず私が疑われること自体は不自然なことではありません。検察側から言えば、そこで動いたお金は非常に大きかったので、彼らは「係長ごときがひとりでやれるわけがない」と思い込んだと(のちに)弁解しています。もうちょっと意地悪な見方をすると、捜査当時、関係者でいちばん高いポジションにいたのが私だったこともあり、検察は政治家や高級官僚が絡む事件を担当したいという気持ちが潜在的に働いたのかもしれません。
■検察の中だけにいると、世間と感覚が大きくズレる
村木さんは同書で、世の中の不正に切り込む存在であった検察官は、“真面目で純粋で正義感があるからこそ、(事件を成立させるために)突っ走ってしまう”と書いています。
青木:でも郵便不正事件は、特捜部が証拠の日付データの改ざんまでおこなっていますよね?
村木:純粋培養のような組織である検察の中にいると、感覚が世間と大きくズレていく。そのことを検事たちはあまり気づいていません。あのとき、ふたりの検事から「執行猶予が付けばたいした罪じゃない」と全く同じセリフを言われ、本当に驚きました。「実刑でなければいいじゃないか」という感覚は、私たち市民とは大きなずれですよね。彼らが、同質の仕事をする閉鎖的な世界に住んでいるんだと感じました。また、データの改ざんが分かった頃に、検察の中でも「これはおかしい」と言ってくれた人がいたそうです。でも、彼らは正義の味方で世の中からものすごく期待をされている存在だと自分たちで思っているので、途中で「間違えました」「ごめんなさい」「悪いことをしてしまいました」とは非常に言いづらかったんだと思います。
■忖度ができなくなっても消えないプレッシャー
財務省による公文書書き換えや、厚生労働省の裁量労働制を巡るずさんなデータなど、相次ぐ官僚の不祥事が問題視されていることについて、村木さんはどのように感じているのでしょうか。
村木:例えば行政の透明性や公平性をどう確保するかで言えば、情報開示や外部監査などいろいろなかたちでそれを確保する手段を取ってきたんですよね。総じて言えば、悪くなっているわけでない。ただ、いろいろなかたちでやってきたにも関わらず、「あそこに気を使わないと」「ここはうまくこなさないと」などプレッシャーが強く行政にかかっていたのかなと思います。
青木:政権が強く人事なども官邸が握ったりする中で、おおむね真面目で職務熱心な官僚が、以前よりも各所に気を使わなくてはいけないような状況になっているということですか。
村木:昔は補助金を出すにも「あそこには有力な政治家がいる」「あそこは総理の出身県だ」など、相当な忖度があったと思うんです。今は恣意的にそのようなことができない仕組みに変えてきています。しかし、それでもなお何らかのプレッシャーが働いている。実質的に忖度が行われたかどうかは分かりませんが、「忖度など決してあってはいけないから、疑われるようなことはなかったことにしよう」というように動いてしまった。検察も同じですよね、「取り調べは適正に行われているはずだ。どんな無理な取り調べをしていても、そんな取り調べはしていない」と言い続ける。そういう体質というか、どこかに無理があるのに、「役所の仕事はこんなものだ」「権力との付き合い方はこういうものだから仕方ない」と思って、その部分が流されているところがあるような気がします。
■役所も検察も…「できる/できない」を外に見せることが重要
世の中から正義の味方だと期待されている組織や、権限があってチェックが入りにくい組織ほど、間違いが起こってしまったときにそれを認められない傾向があると村木さんは指摘。これらを見直すことについて、以下のように話します。
村木:民間だと、できないことは説明責任を負いますよね。役所も検察も、できることとできないことをある程度は外に見せていくことだと思います。人間は弱いですから、忖度したいとか厳しい取り調べをして自白させたいと思うのは当たり前なので、できないようにしてあげるほうが、心ある公務員にとってはよっぽど楽です。そうすることにより、いい公務員がいい仕事をして、悪い公務員が減ると思います。
村木さんのお話が気になった方は、村木さんの著書『日本型組織の病を考える』もぜひ手にとってみてください。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld
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