J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。6月11日(月)のオンエアでは、月曜日のニュース・スーパーバイザー、津田大介が登場。映画監督の森 達也さんをお迎えし、森さんたちが呼びかけて立ち上げた「オウム事件真相究明の会」について詳しくお話を伺いました。
【関連記事】 地下鉄サリン事件、関連の裁判が終結…被害者遺族はどう過ごしてきたか?
■法廷に、事件のキーパーソンである麻原がいなかったワケ
6月4日、著名なジャーナリストらが呼びかけ人となり「オウム事件真相究明の会」が発足しました。一連のオウム事件の裁判が1月に終了し、3月に死刑が確定した教団関係者13人のうち7人が東京拘置所以外の拘置所に移送され、死刑執行のカウントダウンが迫っているといわれるなか、なぜこのような会を立ち上げたのでしょうか?
「オウム事件真相究明の会」呼びかけ人のひとりで、オウム真理教の内部を取材したドキュメンタリー映画『A』などで知られる森さんは、津田に「『オウム事件真相究明の会』の呼びかけ人にならないか」と声をかけたそうです。
津田:オウム真理教の事件は僕自身も考えることもあり、教団関係者の死刑も間近になったことで関心も高まっていたのですが、十分にこの問題を追いかけているわけではなく、何かを言える立場ではないので、会の呼びかけ人は辞退させていただきました。ただ、オウム事件の真相究明はされるべきだと思ったし、もし法のプロセスに瑕疵(かし)があるのであれば、それに対してもきちんと議論がされるべきだという立場で、「オウム事件真相究明の会」の賛同人として名を連ねさせていただきました。
なぜこのタイミングで森さんは「オウム事件真相究明の会」を立ち上げたのでしょうか?
森:大前提として麻原(松本智津夫死刑囚)の法廷がいかに不備があったかということを認識している人が本当に少ないので、(「オウム事件真相究明の会」は)とても唐突だという受け取り方をされると思うんですよ。僕は『A』と『A2』というオウム真理教のドキュメンタリー映画を撮って、そのあとに麻原法廷の一審判決公判の傍聴をして、麻原の状況にショックを受け、それをきっかけに『A3』という本を書きました。それは、麻原法廷が一審以降はドタバタになり、結局は二審が行われなかった。つまり麻原の裁判って一審だけで終わっているんですよね。戦後最大の犯罪と言われながら、一審だけで終わる、しかも麻原自身はほとんどまともなことを話していません。
その過程と並行して森さんは『A3』を書き、事あるごとに「この裁判はおかしい」と言い続けていました。しかし、これまでは多くの人が森さんの考えに聞く耳を持ってくれなかったと言います。
森:でも、さすがに(死刑が確定した教団関係者の)死刑執行が間近に迫っているということもあり、「オウム事件真相究明の会」の呼びかけ人や賛同人になってくれた方の多くは『A3』とか読んでくれたりもしていたので、「たしかにこの裁判はおかしい。まずはやっぱり事件の真相を麻原に語らせるべきではないか」と。そもそも、いまの麻原の状況であれば処刑できないんですよ。例えば、一連のオウム真理教の事件の最後の裁判となった高橋克也の裁判にはオウム真理教の死刑囚が何人か証人として例外的に出廷していますけど、麻原はこの中にいないんです。「なぜ事件のいちばんのキーパーソンである麻原がいないんだ」という疑問を持ってほしいし、それは麻原を法廷に出せない状況であるってことなんですけどね。
■精神鑑定を受けさせるべきだった
オウム事件の真相を探るために、松本智津夫死刑囚に精神鑑定を受けさせる必要があったと森さんはいいます。
森:僕は麻原の責任能力は否定していません。犯罪が行われた時点において彼の精神は極めて正常だったと思います。ただ、徐々におかしくなっていきました。いまになって思い出せば、一審のときに彼が英語混じりの陳述をはじめたりとか、「自分はいま空母エンタプライズの上にいる」とか、わけのわからないことを言っている時期がずいぶん長く続きました。本来はこの段階で「言動がおかしい」ということで精神鑑定をすべきですよね。ところが結局は精神鑑定をしないままに裁判が進行して、最終的に麻原は話さない状態になってしまいました。これが一審の過程です。
「オウム事件真相究明の会」発足によって森さんは多くの反発を受けたといいます。
津田:記者会見でも厳しい質問が飛んでいましたし、そのあとのネットの反応もありました。また、オウム事件に直接関わられた人たちからは不快感を示されたこともあったと思うんですけど、それらの反応はどのように受けとめられましたか?
森:(麻原裁判の)一審を傍聴してきた人たちからすれば、「一日だけ傍聴しただけで何言ってるんだ」って感覚なんでしょうけど、逆に人の馴致能力って非常に強いですから、毎日傍聴することで逆に見えなくなることもあると思います。反発の半分以上は「被害者遺族の前でそれが言えるのか」「遺族の気持ちを踏みにじるのか」というような意見がとても多かったです。これに対していま言えることは、遺族は最大限に配慮しなきゃいけないことは大前提です。でも、その大前提だけを最優先にしてしまうと、例えばホロコーストは解明できなくなります。クメール・ルージュがなぜあれほどの人を殺したのかについて誰も触れられなくなる。絶対に遺族はいます。遺族に配慮することは大切なことなんだけど、それだけを最優先にしていては見えなくなることもあります。
オウム事件の真相解明が難しくなるなか、森さんたちは「オウム事件真相究明の会」を発足することによって何を社会に訴えたいのでしょうか。
森:ずっと「この裁判はおかしい」と(訴えています)。きちんと機能しない裁判のままで終わってしまったので、それがゆえに日本社会はどんどん変わってしまったんだということを言い続けている点は、僕のなかでは一貫しています。同時に死刑執行が7月にも、っていう説も浮上してきたなか、『A3』を読んでくれたり僕の考えを聞いたりしてくれた方が、「確かにこの裁判を終わらせていいのかな」と賛同してくれたんだと僕は解釈しています。ただちゃんと組織だって動いているわけではないので、とにかく意思を表明しようと。僕は大前提として麻原裁判がきちんと機能できなかったことをもう少し日本のみんなに理解してほしいし、せめて「そのうえで考えましょう」っていうところまでいけたらと思っています。
オウム関係者の裁判について、深く考えさせられるオンエアになりました。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
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■法廷に、事件のキーパーソンである麻原がいなかったワケ
6月4日、著名なジャーナリストらが呼びかけ人となり「オウム事件真相究明の会」が発足しました。一連のオウム事件の裁判が1月に終了し、3月に死刑が確定した教団関係者13人のうち7人が東京拘置所以外の拘置所に移送され、死刑執行のカウントダウンが迫っているといわれるなか、なぜこのような会を立ち上げたのでしょうか?
「オウム事件真相究明の会」呼びかけ人のひとりで、オウム真理教の内部を取材したドキュメンタリー映画『A』などで知られる森さんは、津田に「『オウム事件真相究明の会』の呼びかけ人にならないか」と声をかけたそうです。
津田:オウム真理教の事件は僕自身も考えることもあり、教団関係者の死刑も間近になったことで関心も高まっていたのですが、十分にこの問題を追いかけているわけではなく、何かを言える立場ではないので、会の呼びかけ人は辞退させていただきました。ただ、オウム事件の真相究明はされるべきだと思ったし、もし法のプロセスに瑕疵(かし)があるのであれば、それに対してもきちんと議論がされるべきだという立場で、「オウム事件真相究明の会」の賛同人として名を連ねさせていただきました。
なぜこのタイミングで森さんは「オウム事件真相究明の会」を立ち上げたのでしょうか?
森:大前提として麻原(松本智津夫死刑囚)の法廷がいかに不備があったかということを認識している人が本当に少ないので、(「オウム事件真相究明の会」は)とても唐突だという受け取り方をされると思うんですよ。僕は『A』と『A2』というオウム真理教のドキュメンタリー映画を撮って、そのあとに麻原法廷の一審判決公判の傍聴をして、麻原の状況にショックを受け、それをきっかけに『A3』という本を書きました。それは、麻原法廷が一審以降はドタバタになり、結局は二審が行われなかった。つまり麻原の裁判って一審だけで終わっているんですよね。戦後最大の犯罪と言われながら、一審だけで終わる、しかも麻原自身はほとんどまともなことを話していません。
その過程と並行して森さんは『A3』を書き、事あるごとに「この裁判はおかしい」と言い続けていました。しかし、これまでは多くの人が森さんの考えに聞く耳を持ってくれなかったと言います。
森:でも、さすがに(死刑が確定した教団関係者の)死刑執行が間近に迫っているということもあり、「オウム事件真相究明の会」の呼びかけ人や賛同人になってくれた方の多くは『A3』とか読んでくれたりもしていたので、「たしかにこの裁判はおかしい。まずはやっぱり事件の真相を麻原に語らせるべきではないか」と。そもそも、いまの麻原の状況であれば処刑できないんですよ。例えば、一連のオウム真理教の事件の最後の裁判となった高橋克也の裁判にはオウム真理教の死刑囚が何人か証人として例外的に出廷していますけど、麻原はこの中にいないんです。「なぜ事件のいちばんのキーパーソンである麻原がいないんだ」という疑問を持ってほしいし、それは麻原を法廷に出せない状況であるってことなんですけどね。
■精神鑑定を受けさせるべきだった
オウム事件の真相を探るために、松本智津夫死刑囚に精神鑑定を受けさせる必要があったと森さんはいいます。
森:僕は麻原の責任能力は否定していません。犯罪が行われた時点において彼の精神は極めて正常だったと思います。ただ、徐々におかしくなっていきました。いまになって思い出せば、一審のときに彼が英語混じりの陳述をはじめたりとか、「自分はいま空母エンタプライズの上にいる」とか、わけのわからないことを言っている時期がずいぶん長く続きました。本来はこの段階で「言動がおかしい」ということで精神鑑定をすべきですよね。ところが結局は精神鑑定をしないままに裁判が進行して、最終的に麻原は話さない状態になってしまいました。これが一審の過程です。
「オウム事件真相究明の会」発足によって森さんは多くの反発を受けたといいます。
津田:記者会見でも厳しい質問が飛んでいましたし、そのあとのネットの反応もありました。また、オウム事件に直接関わられた人たちからは不快感を示されたこともあったと思うんですけど、それらの反応はどのように受けとめられましたか?
森:(麻原裁判の)一審を傍聴してきた人たちからすれば、「一日だけ傍聴しただけで何言ってるんだ」って感覚なんでしょうけど、逆に人の馴致能力って非常に強いですから、毎日傍聴することで逆に見えなくなることもあると思います。反発の半分以上は「被害者遺族の前でそれが言えるのか」「遺族の気持ちを踏みにじるのか」というような意見がとても多かったです。これに対していま言えることは、遺族は最大限に配慮しなきゃいけないことは大前提です。でも、その大前提だけを最優先にしてしまうと、例えばホロコーストは解明できなくなります。クメール・ルージュがなぜあれほどの人を殺したのかについて誰も触れられなくなる。絶対に遺族はいます。遺族に配慮することは大切なことなんだけど、それだけを最優先にしていては見えなくなることもあります。
オウム事件の真相解明が難しくなるなか、森さんたちは「オウム事件真相究明の会」を発足することによって何を社会に訴えたいのでしょうか。
森:ずっと「この裁判はおかしい」と(訴えています)。きちんと機能しない裁判のままで終わってしまったので、それがゆえに日本社会はどんどん変わってしまったんだということを言い続けている点は、僕のなかでは一貫しています。同時に死刑執行が7月にも、っていう説も浮上してきたなか、『A3』を読んでくれたり僕の考えを聞いたりしてくれた方が、「確かにこの裁判を終わらせていいのかな」と賛同してくれたんだと僕は解釈しています。ただちゃんと組織だって動いているわけではないので、とにかく意思を表明しようと。僕は大前提として麻原裁判がきちんと機能できなかったことをもう少し日本のみんなに理解してほしいし、せめて「そのうえで考えましょう」っていうところまでいけたらと思っています。
オウム関係者の裁判について、深く考えさせられるオンエアになりました。
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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/
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