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 「コーヒーの実のドロップ(しずく)のよう…」食の名著多数の文筆家が魅了された、デンマークの最先端のコーヒー

「コーヒーの実のドロップ(しずく)のよう…」食の名著多数の文筆家が魅了された、デンマークの最先端のコーヒー

文筆家・井川直子が、イタリア各地の食文化や旅の思い出、北欧での発見について語った。

井川が登場したのは、ゲストにさまざまな国での旅の思い出を聞く、J-WAVEの番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。ここでは、8月1日(土)にオンエアした内容をテキストで紹介する。

番組は、Spotifyなどのポッドキャストでも聴くことができる。

・ポッドキャストページ

アルバで出会った夢追う日本人たち

井川直子は、料理人や生産者への取材を重ねながら、食と酒をめぐる人々や、その時代背景をテーマにノンフィクションを執筆。『dancyu』や『おとなの週末』などで連載を持つほか、多くの著書を刊行。著書『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』(文藝春秋)では、第6回「食生活ジャーナリスト大賞」ジャーナリズム部門を受賞した。

井川は印象的な海外旅のエピソードとして、イタリア・ピエモンテ州のアルバでの出会いを振り返る。

葉加瀬:アルバってことは、トリュフのシーズンに行かれたんですか?

井川:そうですね。

葉加瀬:アルバの白トリュフは世界的だし、別格ですよね。(シーズンになると)世界中の人が集まりますよね。

井川:そうなんです。10月には世界的に有名なアルバのトリュフ市が開催されるので、その時期になると世界中からたくさんの人が集まります。普段は本当に小さくて、人影もまばらなコンパクトな街なんですけどね。

葉加瀬:そこで日本人のコックを見つけたそうで。

井川:はい。それはアルバが好きになって、もう一度訪れた2001年の話なんです。「前回はまだ見足りなかった」と思って、じっくり滞在しました。ある日、いい香りがしてきたトラットリア(大衆的な食堂)にふらっと入ったんです。街には日本人が誰も歩いていなかったのに、不意に「こんにちは」と声をかけられて。振り返ると、日本人のコックさんだったんです。「こんな街にも日本人がいるんですね」と言ったら、「いやいや、厨房のドアを開けたら日本人コックはうじゃうじゃいますよ」と言われたんです。その「うじゃうじゃ」という言葉が、なんだかすごく印象に残ったんですよね。

井川は当時を振り返り、「30代になっても自分のやりたいことがわからず、ずっともやもやしていて、大人になりきれない大人でした」と語る。しかし、遠く離れた異国の地で、自らのやりたいことを実現するために挑戦を続ける日本人たちと出会い、その話を聞けば自分も変われるかもしれないと思ったという。

井川:そして、2002年にもう一度アルバへ行って、彼らに取材しました。それが翌年、2003年に本として出版されました。

葉加瀬:なるほど。料理の世界に限らず、外国で暮らしながら夢を追いかけるというのは、本当に大変なことですよね。

井川:本当にそうですね。リストランテ(高級レストラン)では修業する人に部屋を用意してくれるんですが、お店によっては、いわゆる「タコ部屋」のような大人数部屋に詰め込まれることもあって。住環境も厳しくて、靴下を自分で水道で洗ったり、「無給でも働かせてください」という時代でした。

葉加瀬:若い人たちは「勉強になるから」と頑張るんですけど、傍から見てるとかなり大変そうですよね。

井川:特に、一度、会社員になってから「やっぱり料理人になりたい」と挑戦した30歳近い人たちは、苦労も大きかったと思います。

イタリアの美食とクラフトビールを堪能

続いて、井川がおすすめするイタリアの名店について訊いた。井川が紹介したのは、アルバから車で約20分の街、プリオッカにあるリストランテ「イル・チェントロ」だ。女性シェフが腕を振るうミシュラン一つ星のレストランで、家族経営ならではの温かい雰囲気も魅力だという。

葉加瀬:スペシャリテは何かあるのかな?

井川:私が思うには「タヤリン」(ピエモンテ州の伝統的な手打ちパスタ)や「アニョロッティ・ダル・プリン」(ピエモンテ州の伝統的な手打ちの詰めものパスタ)ですね。それから、ピエモンテ料理には「フリットミスト」という料理があります。(伝統的には)ミックスフライではなくて、前菜からドルチェまで揚げもので構成されたコースなんです。

葉加瀬:すごい! 面白そう。

井川:甘い揚げものも出ますし、衣や油も変えながら、お肉の内臓だったりさまざまな食材を使います。とても手間がかかるので、コースで提供するお店は少なくなっていますが、チェントロさんでは、たしか今でも冬の時期に楽しめると思います。

葉加瀬:さっき話に出たタヤリンも、まさにピエモンテならではですよね。

井川:お好きですか?

葉加瀬:大好きです。僕は白トリュフに目がなくてね! でも、トリュフが好きな人って、結局はシンプルな食べ方がいちばん好きじゃないですか。

井川:そうなんですよね。

葉加瀬:まず目玉焼きにたっぷり削ってひと皿。それからタヤリン。それで十分です。

井川:卵との相性が本当にいいですからね。

葉加瀬:お腹が空いてきちゃった(笑)。そして、直子さんはクラフトビールもいろいろ調べていらっしゃるそうですね。

井川:趣味でハマりまして(笑)。イタリアではクラフトビールを「ビッラ・アルティジャナーレ」と言うんですけど、「職人のビール」という意味です。私は、この言葉のほうがクラフトビールらしいなと思っています。イタリアはワインの国なので、ワインのようなビールなんですよね。とてもエレガントで、立ち上がる香りだけでなく、飲み込んだあとの香りや余韻までとても大切にしています。ワイングラスみたいなグラスで味わうビールですね。

葉加瀬:わかるわかる。イギリス人やオランダ人にとってのビールとは、ちょっと違いそうですね。

井川:そうですね、目指しているところが違いますね。リストランテでワインと一緒に出てきても、まったく違和感がありません。

葉加瀬:イギリスではビールは「飲むパン」だと言いますからね。

井川:そうなんですか!

葉加瀬:パンのように麦の香りがして、昼間に道路工事をしている人や建設現場の人たちがパイントで2杯飲んで、それがランチ代わりになるような存在なんです。

井川:まさに日々の糧、生きるための活力なんですね。

葉加瀬:そうそう。だからイタリアのビールとは、少し違いそうだよね。

井川:そうですね。(イタリアのビールは)楽しむためのもの、という感覚が強いですね。

北欧で体感したコーヒーの最先端

イタリア以外で印象に残っている街について尋ねられると、井川はデンマークのコペンハーゲンを挙げた。

2025年に初めてコペンハーゲンを訪れ、その前に足を運んだフィンランドのヘルシンキと合わせて、「北欧っていいところだな」と感じたという。コペンハーゲンでは、クラフトビールとコーヒーをテーマに街を巡り、現地の人々の親切さにも深く感動したと振り返る。

井川:本当にみんな親切で、たとえばバス停でスマートフォンを見ながら時間を確認しているだけで、「どうしたの?」って気軽に声をかけてくれるんです。とてもフレンドリーで過ごしやすい街でした。

葉加瀬:(コペンハーゲンの)クラフトビールとコーヒーは特徴的なんですか?

井川:そうですね。デンマークはコーヒー先進国で、人気のコーヒーショップでは必ず日本人に会いました。コーヒーの勉強でいらしているんですよね。

葉加瀬:ああ、そうなんですか。

井川:ワーキングホリデーで来てコーヒーを学んでいる人に、あちこちで出会いました。デンマークも面白いことになってるなと感じましたね。

葉加瀬:コーヒーのスタイルも、日本で知っているコーヒーショップとは違うんですか?

井川:そうですね。最先端のコーヒーを飲ませてもらったんですが、果汁のようでした。フルーティーで、ぎゅっと搾った果汁のような酸味があって、「どうやって抽出しているんだろう」「どんな焙煎をしているんだろう」と、とても興味が湧きました。これまで飲んできたコーヒーとは別次元の味わいでしたね。コーヒーというより、コーヒーの実のドロップ(しずく)のような印象でした。

葉加瀬:ヨーロッパでも南へ行くほど、イタリアに代表されるような深煎りになりますよね。それに北欧の人たちは、コーヒーに費やす時間そのものをとても大切にしていますよね。

井川:家族と過ごしたり、お気に入りのインテリアを調えたり、友人を招いて音楽を聴いたり。その時間そのものに価値を置いているんですよね。本当に素晴らしい文化だと思いました。

葉加瀬:だからこそ、新しいコーヒーの楽しみ方も生まれてくるのかもしれませんね。

井川:そうですね。より豊かな時間を過ごすための文化なんだと思います。

葉加瀬:ビールも、やっぱりそういう世界なんですか。

井川:はい。みなさん本当によくビールを飲まれますし、ビールの世界もどんどん変化しているので面白いです。

井川直子の最新情報は公式サイトまで。

葉加瀬太郎がゲストの旅のエピソードを聞くJ-WAVE『ANA WORLD AIR CURRENT』は、毎週土曜の19時からオンエア。

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