映画監督/脚本家の濱口竜介が、自宅の本棚のなかからお気に入りの本を紹介し、最新作『急に具合が悪くなる』に込めた想いを語った。
濱口が登場したのは、6月14日(日)放送のJ-WAVE『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)の「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。本棚からゲストのクリエイティヴを探るコーナーだ。
6月19日(金)より全国公開となる最新作『急に具合が悪くなる』も、第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最優秀女優賞を受賞。今回、リモートでの出演となった濱口に、ナビゲーターの小川はまず「今年のカンヌ国際映画祭の雰囲気」を訊いた。
小川:今年はコンペ以外のマーケット部門などでも、けっこう日本の作品への注目が高かったのかなと思っていますが、そういった雰囲気、潮流は現地で感じられましたか?
濱口:そうですね。いわゆるマーケットマルシェでは、カントリー・オブ・オナーという名誉国が日本になりましたし、コンペも日本映画が3本など、日本映画の存在感が非常に強かった印象があります。
小川:『急に具合が悪くなる』も14分以上のスタンディングオベーションがあったと聞いていますが、現地での上映後、どのような反応がありましたか?
濱口:ありがたいことに、何人もの方から「私のパルムドール(最高賞)よ!」という言葉をいただきました(笑)。
小川:そうだったんですね(笑)。私もまだこの作品しか観ていませんでしたが、勝手に「絶対に何かしら受賞する」と確信していたくらい、素晴らしい作品でした。
濱口:ありがとうございます。
「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、ゲストの本棚の写真を見ながらトークを展開する。この日、濱口は本棚からお気に入りの5冊をピックアップしてくれた。
小川:まず、松嶋 健さんの『プシコ ナウティカ―イタリア精神医療の人類学』(世界思想社)。そして、小野和子さん『みちのく民話まんだら―民話のなかの男たち』(PUMPQUAKES)、岡部宏生さん『境を越えてPart2 それでも生きるか!?』(ぶどう社)、東田直樹さん『自閉症が30歳の僕に教えてくれたこと』(KADOKAWA)、最後に、池辺 葵さんのマンガ『ブランチライン』(祥伝社)。いろいろ挙げていただきましたが、『プシコ ナウティカ―イタリア精神医療の人類学』は、まさに今回の映画に関わってくるところですか?
濱口:そうですね。映画のなかで、フランコ・バザリアという人を使った演劇が登場します。この本はイタリアの精神医療のフィールドワークを松嶋さんがされて、そのことが書かれているんですが、そのなかでフランコ・バザリアが、イタリアの精神病院廃絶を主導した方として描かれています。その様子に私も非常に感銘を受けまして、当時は自分の興味で読んでいただけだったんですが、「映画のなかで、森崎真理という演出家を主人公にしよう」と考えたときに「いったいどんな演劇をやってるのか?」という問題が出てきました。その時点ですでにユマニチュードというフランス発祥のケア技法を扱おうと決めていたので、フランコ・バザリアがやってることに響き合うものを感じました。そこで「それ(『プシコ ナウティカ』)を演劇の題材とすることは、映画のひとつの統一性として非常によいのでは」と思って、使わせていただきました。
小川:今回の映画には演劇の場面が出てきますけど、その台本を作るうえで、この本を非常に参考にされたという感じですか?
濱口:そうですね。基本的には長塚京三さんがひとり芝居でいろいろなキャラクターを演じていくというものですが、そのなかでもおそらくフランコ・バザリアという人物を、いちばん多く演じているであろうというかたちで進んでいきます。(台本には)実際にフランコ・バザリアが発言したことも含んでますし、松嶋 健さんが書かれた言葉も出てきます。
小川:濱口さんはジョン・カサヴェテスが大好きで、卒論なども書かれていますよね?
濱口:そうですね。ちなみに(出版した)ビターズ・エンドは今回の『急に具合が悪くなる』を配給してくれた会社で、2000年には『カサヴェテス2000』という特集上映も行っています。自分もそのときに『ハズバンズ』『ミニー&モスコウィッツ』『愛の奇跡』という3本の映画を観て、今まで観たものとはまったく違う印象を持ったので、(ジョン・カサヴェテスは)自分の人生の行き先を変えてくれたと思っています。
小川:ジョン・カサヴェテスの生き方も含めて、大きな影響を受けているところはありますか?
濱口:あると思います。自分は当時21歳だったと思うんですけど、ちょうどこの本のなかで「人は21歳を生き延びなきゃいけない」ということを言っていて。「精神的に21歳の時点で死んでしまったら、アーティストになることはできない」という意味だと思いますが、要するに21歳の自分が感じてる「これはおかしい」「愛している」ということが、その後の人生では何かしらの理由によっておそらく叩きつぶされてしまう。けれど、それを抱えていかなくてはいけない、ということを言っているのかと思ってます。非常に夢中で読んで、勇気づけられる本であったことは間違いないです。
原作は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者・宮野真生子と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者・磯野真穂が交わした、20通の往復書簡からなる同名書籍だ。主演を務めたのは、ヴィルジニー・エフィラと岡本多緒。ヴィルジニー・エフィラは記者会見で、「濱口組の準備の時間は、神秘的なものを探っていくようなものだった」と語ったそう。
小川:今回、主演のおふたりと準備を進めるうえで、どのような時間を過ごされたのでしょうか?
濱口:神秘的と言うと、すごくスピリチュアルな感じがしますが(笑)。大前提として共有したのは、ヴィルジニー・エフィラはマリー=ルーというキャラクターではないし、岡本多緒さんは森崎真理というキャラクターではないわけですよね。ただ、キャラクターにはいちおう想定されている“人生”があるので、その人生を過ごしてきた人に見えるためにキャラクターを深く理解しなくてはいけないし、自分自身の魂とつながるものとして発見しなくてはいけない。そのための方法は、ずっと本読みをするとか脚本をひたすら読んでみるとか、自分が「このキャラクターはこういうキャラクターなのかもしれません」と記した文章を渡して本人たちにも考えてもらうとか、そういうシンプルなことでした。俳優の仕事はカメラの前に来てセリフを言って終わりではなくて、どうにかして不可能なものを可能にして、まさにその人物にしか見えないように演じなくてはいけないということなので、そのための準備を手探りで重ねていく感じでした。
小川:「ひたすら本読みをする」というスタイルは、過去作でも噂に聞いているところではあるんですが、もともとフランスの作家たちから影響を受けている映画作りをされていると思います。今回、それをフランスで実践して得た気づきを教えてください。
濱口:そもそも、フランス語と日本語では違うことは常々感じていたので、(これまでは)あくまで自分なりにやっていたんですけど、フランスでやってみて、フランス語のほうが抑揚をより多く含んでると思いました。それを1回抑圧して、実際に現場で解放したときに、一気にフランス語の抑揚が入ってきて感情が生じやすくなるのは、日本語よりもあるのかなとは思いました。ですから、基本的にはヨーロッパの言語の抑揚が作用しているやり方なのかなと、あらためて思いましたね。
映画『急に具合が悪くなる』の詳細は公式サイトまで。
『ACROSS THE SKY』のコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティブを探る。オンエアは10時5分ごろから。
濱口が登場したのは、6月14日(日)放送のJ-WAVE『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)の「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。本棚からゲストのクリエイティヴを探るコーナーだ。
この日の放送は6月21日(日)28時ごろまで、radikoのタイムフリー機能で楽しめる。
最新作の参考になった、イタリア精神医療に関する1冊
濱口竜介は、東京大学在学中に映画研究会に所属し、卒業後は助監督などを経て、東京藝術大学大学院に進学。修了制作の『PASSION』がサン・セバスティアン国際映画祭などに選出され、注目を集める。その後、『寝ても覚めても』『偶然と想像』『ドライブ・マイ・カー』『悪は存在しない』など、数々の作品が世界三大映画祭で主要な賞を受賞している。6月19日(金)より全国公開となる最新作『急に具合が悪くなる』も、第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で最優秀女優賞を受賞。今回、リモートでの出演となった濱口に、ナビゲーターの小川はまず「今年のカンヌ国際映画祭の雰囲気」を訊いた。
映画『急に具合が悪くなる』90秒本予告
濱口:そうですね。いわゆるマーケットマルシェでは、カントリー・オブ・オナーという名誉国が日本になりましたし、コンペも日本映画が3本など、日本映画の存在感が非常に強かった印象があります。
小川:『急に具合が悪くなる』も14分以上のスタンディングオベーションがあったと聞いていますが、現地での上映後、どのような反応がありましたか?
濱口:ありがたいことに、何人もの方から「私のパルムドール(最高賞)よ!」という言葉をいただきました(笑)。
小川:そうだったんですね(笑)。私もまだこの作品しか観ていませんでしたが、勝手に「絶対に何かしら受賞する」と確信していたくらい、素晴らしい作品でした。
濱口:ありがとうございます。
「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、ゲストの本棚の写真を見ながらトークを展開する。この日、濱口は本棚からお気に入りの5冊をピックアップしてくれた。
DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF
— ACROSS THE SKY (@acrossthesky813) June 14, 2026
映画監督・脚本家 #濱口竜介 さんの本棚を拝見#jwave #sky813 pic.twitter.com/jyskTzbfWR
濱口:そうですね。映画のなかで、フランコ・バザリアという人を使った演劇が登場します。この本はイタリアの精神医療のフィールドワークを松嶋さんがされて、そのことが書かれているんですが、そのなかでフランコ・バザリアが、イタリアの精神病院廃絶を主導した方として描かれています。その様子に私も非常に感銘を受けまして、当時は自分の興味で読んでいただけだったんですが、「映画のなかで、森崎真理という演出家を主人公にしよう」と考えたときに「いったいどんな演劇をやってるのか?」という問題が出てきました。その時点ですでにユマニチュードというフランス発祥のケア技法を扱おうと決めていたので、フランコ・バザリアがやってることに響き合うものを感じました。そこで「それ(『プシコ ナウティカ』)を演劇の題材とすることは、映画のひとつの統一性として非常によいのでは」と思って、使わせていただきました。
小川:今回の映画には演劇の場面が出てきますけど、その台本を作るうえで、この本を非常に参考にされたという感じですか?
濱口:そうですね。基本的には長塚京三さんがひとり芝居でいろいろなキャラクターを演じていくというものですが、そのなかでもおそらくフランコ・バザリアという人物を、いちばん多く演じているであろうというかたちで進んでいきます。(台本には)実際にフランコ・バザリアが発言したことも含んでますし、松嶋 健さんが書かれた言葉も出てきます。
20代のころに触れ、生き方に影響を与えた言葉
濱口は、ライフスタイル、人生に影響を与えた本としてレイ・カーニーの『ジョン・カサヴェテスは語る』(ビターズ・エンド)を挙げた。DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF
— ACROSS THE SKY (@acrossthesky813) June 14, 2026
映画監督・脚本家 #濱口竜介 さんの人生に影響を与えた一冊
ジョン・カサヴェテス著 レイ・カーニー編
「ジョン・カサヴェテスは語る」#jwave #sky813 pic.twitter.com/Cb4Fikg7RC
濱口:そうですね。ちなみに(出版した)ビターズ・エンドは今回の『急に具合が悪くなる』を配給してくれた会社で、2000年には『カサヴェテス2000』という特集上映も行っています。自分もそのときに『ハズバンズ』『ミニー&モスコウィッツ』『愛の奇跡』という3本の映画を観て、今まで観たものとはまったく違う印象を持ったので、(ジョン・カサヴェテスは)自分の人生の行き先を変えてくれたと思っています。
小川:ジョン・カサヴェテスの生き方も含めて、大きな影響を受けているところはありますか?
濱口:あると思います。自分は当時21歳だったと思うんですけど、ちょうどこの本のなかで「人は21歳を生き延びなきゃいけない」ということを言っていて。「精神的に21歳の時点で死んでしまったら、アーティストになることはできない」という意味だと思いますが、要するに21歳の自分が感じてる「これはおかしい」「愛している」ということが、その後の人生では何かしらの理由によっておそらく叩きつぶされてしまう。けれど、それを抱えていかなくてはいけない、ということを言っているのかと思ってます。非常に夢中で読んで、勇気づけられる本であったことは間違いないです。
“手さぐり”で進めた、役作りのための準備
『急に具合が悪くなる』の主人公は、パリ郊外の介護施設で働いているマリー=ルー・フォンテーヌと、日本からフランスにやってきた演出家の森崎真理。“マリ”という同じ響きを持ったふたりの女性たちがフランスで出会い、関係性を深めていく物語だ。原作は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者・宮野真生子と、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者・磯野真穂が交わした、20通の往復書簡からなる同名書籍だ。主演を務めたのは、ヴィルジニー・エフィラと岡本多緒。ヴィルジニー・エフィラは記者会見で、「濱口組の準備の時間は、神秘的なものを探っていくようなものだった」と語ったそう。
小川:今回、主演のおふたりと準備を進めるうえで、どのような時間を過ごされたのでしょうか?
濱口:神秘的と言うと、すごくスピリチュアルな感じがしますが(笑)。大前提として共有したのは、ヴィルジニー・エフィラはマリー=ルーというキャラクターではないし、岡本多緒さんは森崎真理というキャラクターではないわけですよね。ただ、キャラクターにはいちおう想定されている“人生”があるので、その人生を過ごしてきた人に見えるためにキャラクターを深く理解しなくてはいけないし、自分自身の魂とつながるものとして発見しなくてはいけない。そのための方法は、ずっと本読みをするとか脚本をひたすら読んでみるとか、自分が「このキャラクターはこういうキャラクターなのかもしれません」と記した文章を渡して本人たちにも考えてもらうとか、そういうシンプルなことでした。俳優の仕事はカメラの前に来てセリフを言って終わりではなくて、どうにかして不可能なものを可能にして、まさにその人物にしか見えないように演じなくてはいけないということなので、そのための準備を手探りで重ねていく感じでした。
小川:「ひたすら本読みをする」というスタイルは、過去作でも噂に聞いているところではあるんですが、もともとフランスの作家たちから影響を受けている映画作りをされていると思います。今回、それをフランスで実践して得た気づきを教えてください。
濱口:そもそも、フランス語と日本語では違うことは常々感じていたので、(これまでは)あくまで自分なりにやっていたんですけど、フランスでやってみて、フランス語のほうが抑揚をより多く含んでると思いました。それを1回抑圧して、実際に現場で解放したときに、一気にフランス語の抑揚が入ってきて感情が生じやすくなるのは、日本語よりもあるのかなとは思いました。ですから、基本的にはヨーロッパの言語の抑揚が作用しているやり方なのかなと、あらためて思いましたね。
映画『急に具合が悪くなる』の詳細は公式サイトまで。
『ACROSS THE SKY』のコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティブを探る。オンエアは10時5分ごろから。
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小川紗良
