音楽、映画、エンタメ「ここだけの話」
インスピレーション源は「日本科学未来館」。世界最高峰アートフェスに選出のメディアアーティストがそう語る理由

インスピレーション源は「日本科学未来館」。世界最高峰アートフェスに選出のメディアアーティストがそう語る理由

メディアアーティストでVJの芹澤碧さんが、映像表現の世界に足を踏み入れたきっかけやインスピレーションの源となっているお気に入りの場所、世界最高峰のアートフェスに選出された舞台裏などについて語った。

芹澤さんは2001年生まれ。VJ Syoronpoとしても活動する一方、世界的なメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ・フェスティバル」に出展するなど、多彩な映像表現を駆使して幅広いフィールドで活躍する人物だ。

芹澤さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。

メディアアーティストとはどんな仕事?

芹澤さんを乗せた「BMW X1 M35i xDrive」は六本木ヒルズを出発。まずは、メディアアーティストとしての活動内容について、お台場方面へと向かう車中にて語り始めた。

芹澤:メディアアートは、テクノロジーを用いた表現方法で、テクノロジーと人との関係性を問うような作品を制作するジャンルです。私自身の活動としては、メディアアーティストだけでなく、音楽イベントを演出するための映像を作ったり、VJとしてイベント会場で映像を流したりしていて。作品は本名の「芹澤葵」名義で発表しているのですが、VJの時は「Syoronpo」という名前で活動しています。

ちなみに、近年の代表作は「Is there そこにいる」です。この作品はすごくシンプルで「水滴を見る」という体験を表現しています。日常的に見る水のイメージといえば、蛇口から流れる水や雨が降っている様子などが浮かぶと思うのですが、そうではなく、一粒の水滴がアニメーションのように伸び縮みしたり、生き物のようにくるくるとダンスしたりする作品となっています。

数ある芸術のジャンルの中でも比較的新しい「メディアアート」という領域。その魅力を知るきっかけとなったのは、メディアアーティストの真鍋大度さん率いるクリエイティブチーム「ライゾマティクス」だったという。

芹澤:中学生の頃、テレビでライゾマティクスが紹介されているのをたまたま観たんです。それまでアートといえば絵画や彫刻のイメージが強かったので、「こういう形のアートもあるんだ」と大きな衝撃を受けたことを覚えています。また、当時流行り始めていたプロジェクションマッピングに触れて、筆で描く以外のコンピューターを用いた表現方法があると知り、メディアアートに一層関心を強めていきました。その後、高校生の時には文化祭で音楽の発表をする友だちのために映像を作ってVJっぽいことをやってみたり、メディアアートの展示を見に行ったりしていました。

日本科学未来館は「インスピレーションをもらえる場所」

「BMW X1 M35i xDrive」はレインボーブリッジを渡り、日本科学未来館に到着。同施設は、科学技術を文化として捉え、社会に対する役割と未来の可能性について考え、語り合うためのすべての人々に開かれた場として、2001年に完成した。芹澤さんにとっても、メディアアートに関する知識と教養を吸収する上で重要な場所となっているようだ。

芹澤:日本科学未来館は、小さい頃から大人になった今でもたまに遊びに来ています。特に好きなのが常設展示です。科学やテクノロジーと私たちの生活との関わりをテーマとした展示を楽しめるのですが、その見せ方がすごくキャッチーで、「こういう見せ方・作品の作り方があるんだ」とインスピレーションをもらえるんです。メディアアートは難しい部分もあるけど、工夫一つで専門知識のある大人だけでなく、小さな子どもにまで届けることができる。そう実感する場所なんです。

子どもの頃から科学未来館で刺激を受けつつ感性を磨き、中学生時代に観たテレビ番組を通してメディアアートの存在を知り、高校の文化祭でVJデビューした芹澤さん。武蔵野美術大学に進学し、いよいよメディアアーティストとしての第一歩を踏み出す。

20260422_serizawa2.jpg
芹澤:ムサビでは、大学で出会った友人たちと一緒に学外で展示をしたほか、「電子音楽研究会」という団体を一から立ち上げて音楽イベントやVJをしていました。「電子音楽研究会」は当初、ムサビの中だけで活動していたのですが、活動の様子をXやInstagramに投稿したところ、外部のイベント関係者さんの目にも留まり、お声がけいただくことが増えていったんです。その結果、渋谷PARCOのイベントに空間演出やDJ・VJとして携わらせてもらうなど、学外にも活動の幅が広がっていきました。

武蔵野美術大学卒業後は、岐阜県大垣市にある県立の2年制大学院・情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に進学。同大学院ではどんな学びを得ているのだろうか。

芹澤:卒業の条件として、美大では卒制のみを必要とする場合がほとんどですが、IAMASは制作と論文両方が必須なんです。そういった学術的な視点に基づくメディアアートの制作に取り組みたいと考え、ムサビ卒業後にIAMASへ進学することを選択し、現在も在籍しています。大学院しかない大学なので、学生数は40人程度。学生のほとんどが校舎の近くに住んでいる、アーティストレジデンスに近い環境のため、まるで2年間の合宿のように制作に集中できる環境です。また学生同士の距離が近いので、一緒に作品を作ったり、パフォーマンスをしたりする動きが活発に生まれる、とても良い学校だと思っています。

「アルスエレクトロニカ」に参加が決まった経緯

武蔵野美術大学とIAMAS。タイプの異なる2つの学び舎で磨き上げた感性と表現力が生み出す独創的な作品は、2024年の秋、海を渡ることとなる。世界最高峰のメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ・フェスティバル2024」への参加が決まったのだ。

芹澤:アルスエレクトロニカは、メディアアートの世界において有名なアートフェスで、いつかは参加したいと憧れていました。このフェスが変わっているのは、運営母体が、開催地であるオーストリア・リンツ市の公益企業ということです。公益企業……つまり、水道や交通網などと同じ位置づけで市の事業としてアートフェスを展開しているという構造自体が珍しく、他の国には見られない特別なフェスティバルだと感じていました。

そんなアルスエレクトロニカに先駆けて毎年コンペティションがあるのですが、そのコンペティションにとりあえず応募しようとダメもとで作品を出品したんです。そしたら、キュレーターの方が見てくださったらしく、「アルスエレクトロニカに出品しませんか?」とメールをいただきました。この時は本当にびっくりして。当時の私は日本でメディアアートとのつながりが深いわけでも、展示経験豊富なわけでもなかったので、「嘘じゃないかな?」と疑ったほどです。それに、海外での展示はもちろん、ヨーロッパに行くことさえ初めてで。何も知らないまま作品だけを担いで持って行き、現地で設営する……といった感じでした。

アルスエレクトロニカは、オーストリアのリンツ市を拠点として40年にわたり、先端テクノロジーがもたらす新しい創造性と社会の未来像を提案することを目的とした、世界的クリエイティブ機関が主催するフェスティバル。海外でのアートフェス出品は初めてということで、何もわからないまま作品を担いで現地に飛び立った芹澤さんだが、苦労して展示した作品の反響はどうだったのだろうか?

芹澤:メディアートのイベントは来場する層がどうしても偏ってしまう傾向にあるのですが、リンツ市との関わりが深いフェスということもあり、アート関係者だけでなく現地の学生さんや小さな子どもまで、幅広い層のお客さんが来場されていました。その中で私が出展したのは、水を使った作品です。水は誰にとっても身近で欠かせない物質なので、メディアートに関する背景知識などなくても鑑賞できるようなものとなっていて。「綺麗だね」と直感的な感想を伝えてくれる人もいれば、逆にコンセプトを深く聞いてくれる人もいたりと、様々な反応をいただきました。

「まだ自分が見たことのないものを見たい」が創作の原動力

新進気鋭の若手メディアアーティストとして、これからさらなる活躍が期待される芹澤さん。彼女にとっての挑戦、そしてその先にあるFreude=喜びとは何か。尋ねると、こんな答えが返ってきた。

芹澤:今、AIをはじめとしたテクノロジーの進歩が非常に早く、新しいサービスにどんどん適応していかなければならない状況だと感じています。そんな中でメディアアートは「テクノロジーとの関わり」について、一旦立ち止まって考える機会を作ってくれるものだと思っています。

私が何かに挑戦したいと思う時は、大抵「まだ自分が見たことのないものを見たい」という気持ちが根底にあります。完全に新しいものを作るのは難しいですが、メディアアートの活動やVJ、映像制作など、これまでに培った様々な経験を組み合わせて、新しい景色を見たいです。具体的には、今はまだ小さい規模で展示することが多いのですが、今後は、科学未来館のようにメディアアートに馴染みのない方も訪れる大きな施設で展示をしたリ、再びアルスエレクトロニカに出展したいという思いもあります。さらには、モントリオール発の「MUTEK」をはじめとした海外のフェスティバルや展示にもどんどん挑戦していきたいです。

(構成=小島浩平)

この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。

  • 新規登録簡単30
  • J-meアカウントでログイン
  • メールアドレスでログイン