
メディアの現場に女性が増えることで、どのような変化が起きているのか? 共同通信社の山脇絵里子さんが語った。
山脇さんが登場したのは、8月18日(月)放送のJ-WAVE『JAM THE PLANET』の、いま注目すべきニュース&トピックスを掘り下げていく特集コーナー「TODAY’S SPECIAL」。今回の聞き手であり、本番組の月曜・火曜のオンエアをナビゲートする吉田まゆは共同通信社の出身で、NHK WORLDの経済レポーターや、元ロイターテレビ特派員という経歴を持つ。
この日の「TODAY’S SPECIAL」では、メディアに女性が増えることで実際にどのような変化が起きているのか、その最前線で変化を感じてきた社団法人共同通信社 編集局 局次長の山脇絵里子さんを迎えて話を聞いた。
吉田:(吉田にとって、共同通信社の)大先輩ということで。
山脇:吉田さんも共同通信にいらしたことがあって。
吉田:報道のいろはを最初に教えてもらった場所です。
山脇さんは1992年に共同通信社に入社し、20年以上にわたり社会部に所属。2021年に男性が歴代務めてきた社会部長に女性として初めて就任。2023年から共同通信が配信する全国のニュース編集を統括する編集局 局次長を務めている。
吉田:まず私が驚いたのが、社会部の部長に女性が入ったんだと。私が退社してからかなり経ちますが、すごく驚きました。
山脇:社会部は間口が広くて、事件、事故、災害といったものをはじめ、教育や医療福祉も報道します。共同通信最大の100人近い部員がいる部です。歴代部長は「ザ・事件記者」みたいな人。警視庁か東京地検特捜部の取材を極めた、本当の事件記者の先輩たちが務めてこられました。女性として初めてというのもありますが、事件記者じゃない人間が部長になったというのも珍しかったと思います。
吉田:事件記者というと、事件、事故を取材するために夜、朝関係なくずっと取材をしているというイメージが強いですが、そういった働き方がいままでは強かったのでしょうか?
山脇:いまでもやっています。それが社会部の中心の仕事ですが、ただいわゆる「夜討ち朝駆け」という夜遅く、朝早く警察官の家の前で待っていて、話を訊くみたいな取材が、私は29歳で娘を出産したのでできなくなって。そこからは医療や福祉、ジェンダーといった取材を部の隅っこのほうでやりたいことをやらせてもらったような立場でした。
吉田:共同通信に私が入社したころに「女性がいちばん多い代なんだ」と言われて、それでも3割とかだった気がします。入社当時とくらべて、女性記者はどのくらい増えたのでしょうか。
山脇:共同通信では、私が入社した30数年前は20数人、同期の記者がいて、女性は4人だけでした。しかも、私以外全員、子育てとかいろいろな理由で辞めてしまいました。ただ、いまは採用は男女半々になっていて、20代は完全に同数ぐらいです。ただ、これ世代によってすごくギャップがあって、30代はだいたい3、4割。私みたいな50代ぐらいになると1割ほどしか女性はいません。それは当然、管理職の割合にも反映していて、いま共同通信の管理職の女性割合は10パーセントぐらいになっています。
吉田:記者の構造って現場を取材する記者がいて、その上にデスクがいて、デスクがいろいろなものをチェックしたり判断してくれて、その上にもいろいろあります。となると、現場を取材する女性記者が多くて「これを取材したい」と問題提起を上げても「これ、なんで取材するの?」と理解されずにプッシュバック(差し戻し)されてしまう。女性に限らずそうかもしれませんが、視点が欠けているとそういうことも起きそうですが、いかがですか。
山脇:世代間のギャップは注意しないといけない点です。若手のみなさんは、たとえば外国人との共生やジェンダーのことにすごく興味がありますが、40、50代のデスクや管理職たちは圧倒的に男性だから、そういうことを取材したことがない人たちも多いんです。だから、デスクに女性を増やすということは、ものすごく大事なことだと思っています。
吉田:実際に女性記者、そして女性のデスク、特に女性のデスクが増えることで報道の視点や内容はどう変わりましたか?
山脇:「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」という、私たちがやっているジェンダーの報道は、まさに女性のデスクたちが担ってくれています。やはり、記者が増えたことでも大きく変わってきていると思っています。
山脇:ひとつ、私の書いた記事の例をご紹介します。先ほどお話した、私が29歳のときに子どもを産んだのは大阪だったんですが、当時、地下鉄の改札口に「ベビーカーは折りたたんでご乗車ください」という貼り紙が貼ってあったんです。私はすごくびっくりして「なんで改札の奥のエレベーターにベビーカーのマークがついているのに、私がここでベビーカーをたたんで背負って、娘を抱っこして電車に乗らないといけないんですか?」と、駅員さんに抗議したんです。
吉田:しかも赤ちゃんが寝ているかもしれませんよね。
山脇:大きなバッグも抱えてね。だけど、全然聞いてもらえない。市に抗議しても聞いてもらえない。だから、育休から復帰したあとに、全国の鉄道80社にアンケートをしたんです。「ベビーカー乗車は認めていますか?」「認めていない理由はなんですか?」と。いまであれば当然広げて乗れますが、ホームは水が溜まらないように斜めになっていて、スルスルと線路に落ちて危ないといった理由もあって。だけど、そのアンケートをしたときに、首都圏の鉄道の何社かが「共同さんがこれを出す日に、僕たちも『この貼り紙を撤去します』と発表します」と言ってくれたんです。「子育て支援の時代だから」って。
鉄道会社の動きに喜んだ山脇さんだったが、同時に驚いたこともあったという。
山脇:この記事を出したときに、見てくれたデスクも周りの男性の同僚も、誰もこの貼り紙のことを知らなかった。ようするに当事者じゃなかったら、気づかない社会の課題ってあるんですよね。だから女性が増えれば、そういう女性が感じる、たとえば「生理の貧困」とか、いろいろな視点が報道に入ってきます。もっと言えば、ハンデのある人や若者といった、いろいろな人のいろいろな課題を書いていくのがメディアの役割なので、多様性はすごく大事だなと思います。その一歩が、女性が増えることだと思っています。
吉田:たしかに、メディアというのは社会を写す鏡なので、そこにいろいろな視点が入らないと、当事者として取材をしたい人も増えないということだと思います。まずは山脇さんがおっしゃるように、女性が増えることで、たとえば社会にニュースとかを伝える際に、どのような工夫や配慮が加わるようになったのでしょうか。
山脇:まずは気づきが増えたということです。女性が当事者として「あれ、おかしい」と感じたことが字になるようになった。たとえば、2024年には移住婚、地方に嫁いで移住をする女性に、政府が数十万円の支援金を出すというニュースが話題になりました。あれは共同通信が最初に書きましたが、記者がそのことを取材してきてくれて。編集会議でみんなで議論したときに「おかしくない?」って私が言ったんです。「だってこれ、なんで女性だけなの?」と。男性だって地方に移住していく人もいるだろうし、性的少数者の人はどうなるんだろうとか「ものすごく矛盾だらけの制度じゃない?」と問題提起して、みんなで議論して批判的に報じて、結局、政府はそれを撤回したんです。「これがおかしい」と気づいて記事にするということが増えたんじゃないかなと思います。
吉田:女性が増えることで、たとえばメディアの組織の働き方や、制度にどんな変化が生まれていると感じていますか?
山脇:女性が採用半数になったので、女性たちが働き続けられる組織じゃなければ、メディアも続けていけないですよね。だから、働き方の改革にも私は社会部長のときに取り組んできました。ひとつはデスクになることの条件を変えた。いままで共同通信の社会部では、デスクになるときに必ず一度、地方に2、3年転勤をして、戻ってきたら全員が泊り勤務を月に何回かする。それができない人は、女性も男性も部から去っていっていたんです。特に女性にハードルが高かった。なので、子育て中の双子を育てている女性、短時間勤務の女性をデスクにしたんです。泊りや転勤は、いずれ子どもが大きくなって、できるときにやったらいいって。決まった単線型、真っ直ぐ1本道のキャリアパスじゃなくて、ジャングルジムみたいにみんながいろいろなことをしながら上に上がっていったほうがいいと思って、変えました。それはこれからほかの男の人たちだって、いま共働きで一緒に担っているから、そういう多様な働き方をしていったほうがいい。女性が増えたことが、そのきっかけになっているなと思います。
『JAM THE PLANET』内のコーナー「TODAY’S SPECIAL」では、いま注目すべきニュース&トピックスを掘り下げる。放送は月曜~木曜の19時38分ごろから。
山脇さんが登場したのは、8月18日(月)放送のJ-WAVE『JAM THE PLANET』の、いま注目すべきニュース&トピックスを掘り下げていく特集コーナー「TODAY’S SPECIAL」。今回の聞き手であり、本番組の月曜・火曜のオンエアをナビゲートする吉田まゆは共同通信社の出身で、NHK WORLDの経済レポーターや、元ロイターテレビ特派員という経歴を持つ。
社会部長に女性として初めて就任、その後は編集局 局次長に
報道の世界でも、いま女性たちの活躍が少しずつ広がりを見せている。これまで男性中心と言われていた報道現場に女性の記者、さらには編集者が加わることでニュースの視点、そして伝え方にも新たな変化が生まれつつある。この日の「TODAY’S SPECIAL」では、メディアに女性が増えることで実際にどのような変化が起きているのか、その最前線で変化を感じてきた社団法人共同通信社 編集局 局次長の山脇絵里子さんを迎えて話を聞いた。
吉田:(吉田にとって、共同通信社の)大先輩ということで。
山脇:吉田さんも共同通信にいらしたことがあって。
吉田:報道のいろはを最初に教えてもらった場所です。
山脇さんは1992年に共同通信社に入社し、20年以上にわたり社会部に所属。2021年に男性が歴代務めてきた社会部長に女性として初めて就任。2023年から共同通信が配信する全国のニュース編集を統括する編集局 局次長を務めている。
吉田:まず私が驚いたのが、社会部の部長に女性が入ったんだと。私が退社してからかなり経ちますが、すごく驚きました。
山脇:社会部は間口が広くて、事件、事故、災害といったものをはじめ、教育や医療福祉も報道します。共同通信最大の100人近い部員がいる部です。歴代部長は「ザ・事件記者」みたいな人。警視庁か東京地検特捜部の取材を極めた、本当の事件記者の先輩たちが務めてこられました。女性として初めてというのもありますが、事件記者じゃない人間が部長になったというのも珍しかったと思います。
吉田:事件記者というと、事件、事故を取材するために夜、朝関係なくずっと取材をしているというイメージが強いですが、そういった働き方がいままでは強かったのでしょうか?
山脇:いまでもやっています。それが社会部の中心の仕事ですが、ただいわゆる「夜討ち朝駆け」という夜遅く、朝早く警察官の家の前で待っていて、話を訊くみたいな取材が、私は29歳で娘を出産したのでできなくなって。そこからは医療や福祉、ジェンダーといった取材を部の隅っこのほうでやりたいことをやらせてもらったような立場でした。
女性によって広がる視点
山脇さんは女性による視点が加わることによって増えた「気づき」について解説した。吉田:共同通信に私が入社したころに「女性がいちばん多い代なんだ」と言われて、それでも3割とかだった気がします。入社当時とくらべて、女性記者はどのくらい増えたのでしょうか。
山脇:共同通信では、私が入社した30数年前は20数人、同期の記者がいて、女性は4人だけでした。しかも、私以外全員、子育てとかいろいろな理由で辞めてしまいました。ただ、いまは採用は男女半々になっていて、20代は完全に同数ぐらいです。ただ、これ世代によってすごくギャップがあって、30代はだいたい3、4割。私みたいな50代ぐらいになると1割ほどしか女性はいません。それは当然、管理職の割合にも反映していて、いま共同通信の管理職の女性割合は10パーセントぐらいになっています。
吉田:記者の構造って現場を取材する記者がいて、その上にデスクがいて、デスクがいろいろなものをチェックしたり判断してくれて、その上にもいろいろあります。となると、現場を取材する女性記者が多くて「これを取材したい」と問題提起を上げても「これ、なんで取材するの?」と理解されずにプッシュバック(差し戻し)されてしまう。女性に限らずそうかもしれませんが、視点が欠けているとそういうことも起きそうですが、いかがですか。
山脇:世代間のギャップは注意しないといけない点です。若手のみなさんは、たとえば外国人との共生やジェンダーのことにすごく興味がありますが、40、50代のデスクや管理職たちは圧倒的に男性だから、そういうことを取材したことがない人たちも多いんです。だから、デスクに女性を増やすということは、ものすごく大事なことだと思っています。
吉田:実際に女性記者、そして女性のデスク、特に女性のデスクが増えることで報道の視点や内容はどう変わりましたか?
山脇:「都道府県版ジェンダー・ギャップ指数」という、私たちがやっているジェンダーの報道は、まさに女性のデスクたちが担ってくれています。やはり、記者が増えたことでも大きく変わってきていると思っています。
「ベビーカーは折りたたんで」なぜ? 記事をきっかけに状況が変化
山脇さんは、自身の経験で感じた変化の例を教えてくれた。山脇:ひとつ、私の書いた記事の例をご紹介します。先ほどお話した、私が29歳のときに子どもを産んだのは大阪だったんですが、当時、地下鉄の改札口に「ベビーカーは折りたたんでご乗車ください」という貼り紙が貼ってあったんです。私はすごくびっくりして「なんで改札の奥のエレベーターにベビーカーのマークがついているのに、私がここでベビーカーをたたんで背負って、娘を抱っこして電車に乗らないといけないんですか?」と、駅員さんに抗議したんです。
吉田:しかも赤ちゃんが寝ているかもしれませんよね。
山脇:大きなバッグも抱えてね。だけど、全然聞いてもらえない。市に抗議しても聞いてもらえない。だから、育休から復帰したあとに、全国の鉄道80社にアンケートをしたんです。「ベビーカー乗車は認めていますか?」「認めていない理由はなんですか?」と。いまであれば当然広げて乗れますが、ホームは水が溜まらないように斜めになっていて、スルスルと線路に落ちて危ないといった理由もあって。だけど、そのアンケートをしたときに、首都圏の鉄道の何社かが「共同さんがこれを出す日に、僕たちも『この貼り紙を撤去します』と発表します」と言ってくれたんです。「子育て支援の時代だから」って。
鉄道会社の動きに喜んだ山脇さんだったが、同時に驚いたこともあったという。
山脇:この記事を出したときに、見てくれたデスクも周りの男性の同僚も、誰もこの貼り紙のことを知らなかった。ようするに当事者じゃなかったら、気づかない社会の課題ってあるんですよね。だから女性が増えれば、そういう女性が感じる、たとえば「生理の貧困」とか、いろいろな視点が報道に入ってきます。もっと言えば、ハンデのある人や若者といった、いろいろな人のいろいろな課題を書いていくのがメディアの役割なので、多様性はすごく大事だなと思います。その一歩が、女性が増えることだと思っています。
吉田:たしかに、メディアというのは社会を写す鏡なので、そこにいろいろな視点が入らないと、当事者として取材をしたい人も増えないということだと思います。まずは山脇さんがおっしゃるように、女性が増えることで、たとえば社会にニュースとかを伝える際に、どのような工夫や配慮が加わるようになったのでしょうか。
山脇:まずは気づきが増えたということです。女性が当事者として「あれ、おかしい」と感じたことが字になるようになった。たとえば、2024年には移住婚、地方に嫁いで移住をする女性に、政府が数十万円の支援金を出すというニュースが話題になりました。あれは共同通信が最初に書きましたが、記者がそのことを取材してきてくれて。編集会議でみんなで議論したときに「おかしくない?」って私が言ったんです。「だってこれ、なんで女性だけなの?」と。男性だって地方に移住していく人もいるだろうし、性的少数者の人はどうなるんだろうとか「ものすごく矛盾だらけの制度じゃない?」と問題提起して、みんなで議論して批判的に報じて、結局、政府はそれを撤回したんです。「これがおかしい」と気づいて記事にするということが増えたんじゃないかなと思います。
働き方や制度を改革
さらに、山脇さんが組織の人々が働きやすくなるために取り組んできたことについて語った。吉田:女性が増えることで、たとえばメディアの組織の働き方や、制度にどんな変化が生まれていると感じていますか?
山脇:女性が採用半数になったので、女性たちが働き続けられる組織じゃなければ、メディアも続けていけないですよね。だから、働き方の改革にも私は社会部長のときに取り組んできました。ひとつはデスクになることの条件を変えた。いままで共同通信の社会部では、デスクになるときに必ず一度、地方に2、3年転勤をして、戻ってきたら全員が泊り勤務を月に何回かする。それができない人は、女性も男性も部から去っていっていたんです。特に女性にハードルが高かった。なので、子育て中の双子を育てている女性、短時間勤務の女性をデスクにしたんです。泊りや転勤は、いずれ子どもが大きくなって、できるときにやったらいいって。決まった単線型、真っ直ぐ1本道のキャリアパスじゃなくて、ジャングルジムみたいにみんながいろいろなことをしながら上に上がっていったほうがいいと思って、変えました。それはこれからほかの男の人たちだって、いま共働きで一緒に担っているから、そういう多様な働き方をしていったほうがいい。女性が増えたことが、そのきっかけになっているなと思います。
『JAM THE PLANET』内のコーナー「TODAY’S SPECIAL」では、いま注目すべきニュース&トピックスを掘り下げる。放送は月曜~木曜の19時38分ごろから。
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吉田まゆ、石田 健、グローバー