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「死体と一緒に暮らしたり…」幽霊を信じない民族とは? 怪談研究家の吉田悠軌が語る

「死体と一緒に暮らしたり…」幽霊を信じない民族とは? 怪談研究家の吉田悠軌が語る

怪談研究家・吉田悠軌さんが、バリ島で目撃した怪奇現象や、印象的だった海外取材のエピソードを語った。

吉田さんが登場したのは、ゲストにさまざまな国での旅の思い出を聞く、J-WAVEで放送中の番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。オンエアは11月16日(土)。

2024年11月22日(土)28時頃まで

バリ島で起きた神秘的な出来事

吉田悠軌は1980年生まれ、東京都出身。現代オカルト文化、特に怪談についての調査と研究をライフワークとし、実話怪談の語り手としてさまざまなメディアで活躍。2024年7月には、『教養としての最恐怪談 古事記からTikTokまで』(ワン・パブリッシング)を出版した。

まずは旅のエピソードとして、吉田さんがオカルトや怪談の取材で何度か訪れたバリ島の思い出について語る。

葉加瀬:僕もバリ島は大好きで一時期足しげく通っていました。

吉田:神秘的なことが好きな人が多いところではありますよね。

葉加瀬:島全体に漂う、ただならぬ空気感がありますよね。

吉田:そんななかで私はニャイ・ロロ・キドゥルという、向こうの海の女神にまつわる取材に行ったんです。バリ島のとある有名なホテルには「緑の部屋」という、基本的には誰も入れない部屋が1室残されているんですね。それは、緑が好きなニャイ・ロロ・キドゥルが、海からやってきたときにお休みしてもらうために、緑一色にした部屋なんです。そこの取材に行って、頼みこんで見せてもらったんですよ。

葉加瀬:見せていただいたとき、どんな感覚でした?

吉田:私はそこだけ空気が違うなと感じました。私自身、霊感は一切ないんですけど、信仰の場として雰囲気は違いましたね。一緒に行った通訳兼ガイドは、現地の方だったんですけど、そのわりにはあまり不思議なことを信じていなかったんですよ。「迷信ですから何も起きないですよ」と言っていたんですけど、私がお参りをしている最中に、いきなり奇声をあげて倒れちゃったんですよね。

葉加瀬:ほう!

吉田:その部屋を管理している宗教関係の女性が慌てて聖水を振りかけるといった対処をしてくれて、ようやく落ち着きました。

葉加瀬:現場でそんなことが起こっちゃったんだ!

吉田:あとから聞いてみたら、いきなり目の前が真っ白になって魂を持っていかれるような感じがあった、らしいです。

葉加瀬:それってよく聞く憑依されたって話なんですかね?

吉田:そうですね。ニャイ・ロロ・キドゥルって本当に信仰されている、しかも怖い神様なんですよね。緑の部屋ができた経緯も、海の女神の部屋を作らなければいけないって話になったのに、ホテル側が迷信を信じていなくて拒否をして。そうしたら火事になってしまったらしいんです。幸い死傷者はゼロだったそうですけども、ニャイ・ロロ・キドゥルのために開けろと言われた部屋“以外”が燃えちゃったんですよ。それで「あの話は本当だったんだ」ということになり、緑の部屋が作られたそうです。

葉加瀬:へえ! バリは非常に信仰心が強い人が多い島でもあるし、宗教と日常が密接な場所ですよね。

吉田:はい。朝起きたら神様に捧げものを捧げたりしますからね。

葉加瀬:文化的にも絵画や音楽などの芸術もすごく盛んじゃないですか。そういう匂いというか、雰囲気が濃い島だなと僕は思います。

吉田:先ほどの憑依されてわーってなっちゃうみたいな、トランス状態になる人はほかの地域と比べて非常に多いと思います。そして、それを受け入れています。

葉加瀬:それをよしとしているってことだよね。そういえば、先ほど吉田さんご自身は霊感がないとおっしゃっていましたよね?

吉田:ないです。不思議な体験をした人から話を聞きます。実話怪談というのはそういうものですね。自分が「こういう霊に会っちゃったんだよ」って話をしても、正直どっちらけじゃないですか。そうじゃなくて、そういう体験をした人に取材をして、「こういう話を聞いたので語り出します」と実話怪談をしています。霊感ある・なしに関わらず、誰でも1つは不思議な体験ってあるものなんですよ。葉加瀬さんだっておありのはずです。

葉加瀬:毎日のように変な夢を見ていますよ(笑)。

若者たちのあいだで噂になっていたお化け屋敷の真相

続いて吉田さんは、台湾での印象的な旅のエピソードを語った。台湾もオカルトや怪談が盛んな土地だという。

吉田:宗教的なものが生きている土壌なので、いろんな話がありますし、心霊スポットも日本と同じような感じであります。“鬼屋”と呼ばれるお化け屋敷も台湾全土あちこちにありますね。

葉加瀬:どんなところを取材されたんですか?

吉田:私が取材したのは、台北から少し南、桃園(タオユエン)の龍潭(ロンタン)という街にあると言われている鬼屋なんですけど、ビジュアルがすごいんですよ。鉄筋コンクリートのようなものが積み重なった、わけのわからない見た目の高いビルがあって、地元の若者たちが鬼屋だと騒いでいたんです。日本人では誰も取材をしていないし、おもしろいなと思ったので行ってみたら、おじさんがDIYで作った“珍建築”でした(笑)。

葉加瀬:なるほど(笑)。そのビルにおじさんは住んでいるのかな?

吉田:住んでいます。鉄鋼関係の社長さんなので、手作りで迷宮みたいなものを建てたそうです(笑)。

葉加瀬:その人しか理解できない世界観の建物ってたまにあるよね(笑)。

事実と噂のギャップを楽しむのも怪談の醍醐味

台北にある某有名ホテルには、昔から幽霊が出るという噂がある。かつて、かのジャッキー・チェンも幽霊を目撃したそうだ。

吉田:実際、昔の軍関係の施設があった場所なんですね。台湾の人の話では旧日本軍の処刑場があって、たくさんの台湾人が殺されたから幽霊が出るみたいです。1階ロビーの隅っこのほうに、それを封じるための巨大なお札があるという話があったので、おもしろいなと思って(取材に行った)。高級ホテルなので泊まれはしないんですけど、ロビーだったら入れますからね(笑)。

吉田さんは実際に現地へ赴いたところ、隅の目立たない場所には、1メートル以上あるお札のようなものが貼られていたという。

吉田:お札らしきものが額に入れてかけてあって、これだと思って一緒に写真を撮りました。そのあとに調べたんですけど、それはお札ではなくて有名な台湾の書家の方が書いたアート作品だったんですね。軍の施設だったことは歴史上の事実なんですけど、そこは処刑場ではなく補給庫でした。

葉加瀬:そうなんだ!

吉田:調べてみると、事実と噂に齟齬があったり間違っていたりするんですけど、それはそれでおもしろいんですよね。

葉加瀬:いろんな人の話からいろんな怪談が生まれてくるってことですね。

タイであえて“スペイン料理”をオススメする理由

オカルトや怪談の取材でもっとも足を運ぶ国はタイのバンコクだという。

吉田:実際タイに住んでいる日本人の知人もたくさんいて、怪談の現場取材もしたりします。

葉加瀬:いろいろ行かれているのねえ。

吉田:バンコクに一番行っていますね。

葉加瀬:バンコクって食べるものがおいしいでしょう?

吉田:屋台なんかもおいしいんですけども、私はどのお店がおいしいですかと訊かれたら、スペイン料理屋を紹介します。

葉加瀬:ほう! おいしい店があるんだ? 何がオススメ?

吉田:イカ墨のパエリアです。サワークリームの塊がどんと置かれていて、非常にカロリーは高そうですけども、それがおいしくて。いつもそこに行くと食べていますね。普通、バンコクでおいしいものに連れていくときは屋台やタイ料理だと思いますけども、あえてのスペイン料理屋です。そうすれば相手は「この人はバンコク通なんだな」と思ってくれます(笑)。

葉加瀬:そういうテクニックってあるかもね! タイでなかなかスペイン料理屋に行こうと思わないからこそだよね。

吉田:タイに長く在住している方に教えてもらいました。

怪談をまったく信じていないエリアもある

怪談の捉え方は死生観や宗教観などで大きく異なる。吉田さんいわく、インドネシアのトラジャという山岳民族は怪談を信じていないという。

吉田:基本的に台湾の方は私が話す実話怪談みたいな文化は受け入れやすいです。バリ島の方も怪談は非常に好きだし話がスッと通じます。でもインドネシアのトラジャという人たちは、基本的に死体と一緒に暮らしたりする文化があるんですね。

葉加瀬:なるほど。

吉田:数年に1回、家みたいな墓から家族の遺体を取り出して、服を着替えさせたりするんです。そういう方々は一切怪談を信じていないですね。お化けの話や不思議な体験はありますかって訊いても、「人が死んだあとに幽霊みたいな存在になるって話は小説とかにはあるけど、本当はないんだよ?」と言われるんです。

葉加瀬:おもしろいね(笑)。

吉田:子どもたちに聞いてもそういう話は一切ないと答えましたね。死生観が私たちと全然違うから、お化けになって出てくるっていう感覚がそもそもないんです。それをみんなが集まっている飲み会みたいな席で訊いたんですけど、1人だけ目をキラキラさせて話を聞いてくれるお兄さんがいて。でも、その人はトラジャではなくてジャワ島の人だったんですよ。

葉加瀬:ほう!

吉田:その人には怪談があって、村のはずれに腰から下がない女が雨の日になると出てくる、という話でした。同じインドネシアでも全然違いますね。

葉加瀬:宗教と密接に関係するのはあると思うし、長い歴史のなかで語り継がれてきたことっておもしろいですよね。

吉田:人型らしきものを見たとして、それを幽霊と解釈する・しないで不思議な体験談が生まれるかどうか変わってくるじゃないですか。アメリカ人だったらおそらく宇宙人だと思うでしょうね(笑)。まったく同じ体験をしたとしても、大事なのはその人がどういう解釈をして、それを不思議な体験として語るかどうかなんですよね。

葉加瀬太郎がお届けする『ANA WORLD AIR CURRENT』は、J-WAVEで毎週土曜19:00-20:00オンエア。

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番組情報
ANA WORLD AIR CURRENT
毎週土曜
19:00-19:54