音楽プロデューサーの小林武史が、印象に残った海外でのエピソードや、今後旅したい場所について語った。
小林が登場したのは、ゲストに様々な国での旅の思い出を聞く、J-WAVEで放送中の番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。オンエアは3月23日(土)。
そんな小林が印象に残った場所としてまず挙げたのは、ニューヨークの音楽スタジオだ。
小林:80年代に合理的なデジタルが入り込んできて、合理的なレコーディングをすることから僕は音楽業界で活躍しだしたんですね。だけど、どこかで「何かが違うな」と思っていて。それは60年代から70年代に聴いてきた、僕は初期衝動って言い方をするんだけど、いわゆる「アナログサウンド」なんだってことがだんだんとわかってきたんですね。そこから90年代少し前、レニー・クラヴィッツがデビューしてきて、黒人も白人もソウルもロックも渾然一体としているんだけれどもアナログな“命の手触り”があって、音がめちゃくちゃよかった。
小林は音の秘密を探るべく、ニュージャージー州ホーボーケンにあるウォーターフロントスタジオに出向いた。
小林:スタジオの連中とはMr.Childrenの『深海』という、いまだにミスチルのファンに愛されているアルバムと、YEN TOWN BANDの作品を作ったんですよ。95年、96年ぐらいのとき、その2枚に一気に入り込んで。ニューヨークでやりとりした経験は、僕の音楽人生の大きな部分を占めているんですよね。
葉加瀬:味わいも音色も違うのはわかるんですけど、アナログとデジタルって根本的に何が違うんでしょうね?
小林:最近はアナログのレコードがいいって言われることはみんなわかっていることなんだけど、デジタルでやるときはどうしても(音が)カットされていってしまうことがあるんだよね。レコーディング自体はめちゃくちゃやりにくいんですけれども。特にパンチイン(すでに録音された音を部分的に差し替える録音方法)なんてね(笑)。
葉加瀬:そうだよね(笑)。僕らがデビューした頃ってアシスタントが命がけでパンチインをやっていたもんね。そういう緊張感がスタジオにあるのって今だと考えられないですもん。ピアノも電子ピアノと電気ピアノの違いがあるもんね。
小林:もちろんです。ヘンリー・ハッシュというエンジニア兼プレイヤーと一緒にいろんなミュージシャンを呼んでやっていたんだけど、ノーデジタルですよ。YEN TOWN BANDの場合だったら、僕がボーカルのフェーダーを持ってヘンリーと一緒に上げ下げしました(笑)。エフェクターをかけるときも「ここはテープフェーズをかけるから」と別に落としてテープで貼るんですよ。
葉加瀬:面白い。
小林:今でもYEN TOWN BANDや『深海』を聴くと、そういうことをしないと出てこない“音の気配”があるんですよね。今はアナログのテープレコーダーをキープするのも難しいけれど、デジタルの世界に何かヒントを持ち込めるような気がします。
小林:2000年以降に行ったところで象徴的な場所の話を。僕がやっている畑とか野菜とかに繋がってくることはなくもないけど、もっと直接的に変わったと思っているのは、やっぱり「リゾート」なんです。僕は水泳が大好きで、そこが高じてスキューバダイビングもやるようになったんですね。スキューバダイビングでリゾートに何回も行くようになると、太陽光とともに生きる暮らしになるじゃないですか。考えてみるとね、僕はもっとも太陽光と縁から遠い暮らしをしているんだってことがわかるわけ(笑)。
葉加瀬:(笑)。
小林:起きるのが昼だしね。
葉加瀬:音楽をやっているとそうなるもんね(笑)。
小林:午後から仕事をスタートして夜中までスタジオだから太陽光を一切見ないでしょ。よく考えてみれば、僕らの目の前にあるようなものも、おおむね太陽があるおかげで(存在している)というのがあって。太陽とともに暮らす豊かさはあるなあと。
葉加瀬:スタジオワークだと太陽光が必要ないですもんね。僕の場合はコンサートだから旅が多くて、移動しているあいだは外にいますけども、楽器弾きは基本的に家の中とスタジオとコンサートホールにいるので、僕は5、6年ぐらい前から魚釣りを始めました。
小林:いいですね。
葉加瀬:朝が早いから5時ぐらいには港にいるわけで。朝日が見られるし、海の上にいると大概のことがどうでもよくなるんですよね(笑)。
小林:けっこう上達しました?
葉加瀬:そうだと思います。僕はマダイだけ釣っているんですけど、去年は183枚釣りました。
小林:すごい! 僕も人生の中に釣りが入ってきたらいいなって何回もトライしたけど、本当に続かない(笑)。向き不向きってありますね。
小林はスキューバダイビングで印象に残った海として沖縄とモルディブを挙げた。
小林:沖縄は本当に素晴らしいですね。最近はコロナ禍もあって行けていないけど、今年時間を取っていきたいなと思っているのはモルディブなんですよ。ダイバーの中では当たり前のようにモルディブと言うけれど、あの場所にしかないものがある。たとえば、1つのホテルが1つの島にある。その周りが全部コーラルになっていて、青い目玉焼きみたいになっているんですよね。
葉加瀬:そうだね。目玉焼きの白身の部分がサンゴで黄身がコテージのある陸地になっている。
小林:僕は潜るだけじゃなく泳いで島を一周したりもするんですよ。カメやサメなどいろんな生き物がいて、これこそ“地球の醍醐味”というか、繋がりを感じながら泳げる場所はモルディブしかない。
葉加瀬:そうですね。美しい海と聞かれたら、僕もモルディブって答えます。何度も行きましたけども、あそこまできれいな海はなかなか見られないですよね。
小林:とはいえ気候変動の影響を受け始めているところなんでね、切ない部分はあります。みんなで解決しないといけない問題です。
葉加瀬:本当にそうですね。
小林:僕たちはいなくなるけれども、100年後の未来に想いを馳せるということ。個人が自由になれる世の中になったとき、自分にとってお得なものは何なのかと探していくと、どうしても利己的なことがすごく増えすぎたかもしれない。いろんな技術が生まれ、奪い合うことも加速している気がする。
「いいことをしましょう」という考えだけで収まらない“利他的な感覚”を持つことは、結果としてそれぞれの利己に繋がっていくと小林は語る。
小林:内房総にはアクアラインが通っていて、昔は高かったけど今は安くなってみんなが行き来しやすくなったんですよ。考えてみると東京湾を挟んでいるから、ここから1時間で行けちゃうわけです。これから未来のことを見ていくとき、ニコイチというか、人口とか経済、お金の合理性だけで未来を引っ張っていけるのかと考えたとき、いけないですよね。東北の震災、福島の事故、能登半島地震があって、自然と僕たちはどうやっても切り離せないわけです。僕らは自然の一部なんですよ。
葉加瀬:間違いないです。
小林:そう考えると、こういった場所で芸術祭をやるのは相応しいんじゃないかっていう思いがあったわけですね。
小林:あとはドイツですね。ナチスのこともありましたけども、考え方としてアートを取り入れているのは面白い国だなと思うので。できればベルリンにしばらくいるぐらいの旅ができたらなと前から思っていたりします。日本のなかでも行ってみたい場所はいっぱいあります。僕は山形出身なので、歳を取ってくると雪を見に行きたくなるというか(笑)。
葉加瀬:(笑)。
小林:スキーとかじゃなくてもいいんですよ。雪のあるところ、できたら温泉があれば最高ですけどね。そういうところに浸りたいです。雪って光があたると眩しいけれど、とっぷり暮れたときの雪景色に優しさがあるんですよね。
葉加瀬:あと、静けさがいいですよね。
小林:その通りです。
葉加瀬:雪が降ったときだけの静けさがありますよね。僕も大好きだなあ。武史さんにとって、旅は何ですか?
小林:人生すべてが旅みたいなものだなという思いはありますね。僕は出会うっていうことが基本だと思っているので、旅は絶対に必要なものだし、最後まで続けていきたいなと思っています。
葉加瀬太郎がお届けする『ANA WORLD AIR CURRENT』は、J-WAVEで毎週土曜19:00-20:00オンエア。
小林が登場したのは、ゲストに様々な国での旅の思い出を聞く、J-WAVEで放送中の番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。オンエアは3月23日(土)。
音楽人生に大きな影響を与えた海外レコーディング
小林武史は1959年生まれ、山形県出身。キーボード奏者として音楽活動をスタートし、1980年代から現在まで数多くのアーティストのレコーディング・プロデュースを手掛ける。2003年に非営利組織ap bankを設立し、環境プロジェクトや復興支援活動をおこない、2019年にはサステナブルファーム&パーク「クルックフィールズ」をオープン。自然エネルギーの普及や食の循環を目指す試みなど、さまざまな活動に注力している。そんな小林が印象に残った場所としてまず挙げたのは、ニューヨークの音楽スタジオだ。
小林:80年代に合理的なデジタルが入り込んできて、合理的なレコーディングをすることから僕は音楽業界で活躍しだしたんですね。だけど、どこかで「何かが違うな」と思っていて。それは60年代から70年代に聴いてきた、僕は初期衝動って言い方をするんだけど、いわゆる「アナログサウンド」なんだってことがだんだんとわかってきたんですね。そこから90年代少し前、レニー・クラヴィッツがデビューしてきて、黒人も白人もソウルもロックも渾然一体としているんだけれどもアナログな“命の手触り”があって、音がめちゃくちゃよかった。
小林は音の秘密を探るべく、ニュージャージー州ホーボーケンにあるウォーターフロントスタジオに出向いた。
小林:スタジオの連中とはMr.Childrenの『深海』という、いまだにミスチルのファンに愛されているアルバムと、YEN TOWN BANDの作品を作ったんですよ。95年、96年ぐらいのとき、その2枚に一気に入り込んで。ニューヨークでやりとりした経験は、僕の音楽人生の大きな部分を占めているんですよね。
葉加瀬:味わいも音色も違うのはわかるんですけど、アナログとデジタルって根本的に何が違うんでしょうね?
小林:最近はアナログのレコードがいいって言われることはみんなわかっていることなんだけど、デジタルでやるときはどうしても(音が)カットされていってしまうことがあるんだよね。レコーディング自体はめちゃくちゃやりにくいんですけれども。特にパンチイン(すでに録音された音を部分的に差し替える録音方法)なんてね(笑)。
葉加瀬:そうだよね(笑)。僕らがデビューした頃ってアシスタントが命がけでパンチインをやっていたもんね。そういう緊張感がスタジオにあるのって今だと考えられないですもん。ピアノも電子ピアノと電気ピアノの違いがあるもんね。
小林:もちろんです。ヘンリー・ハッシュというエンジニア兼プレイヤーと一緒にいろんなミュージシャンを呼んでやっていたんだけど、ノーデジタルですよ。YEN TOWN BANDの場合だったら、僕がボーカルのフェーダーを持ってヘンリーと一緒に上げ下げしました(笑)。エフェクターをかけるときも「ここはテープフェーズをかけるから」と別に落としてテープで貼るんですよ。
葉加瀬:面白い。
小林:今でもYEN TOWN BANDや『深海』を聴くと、そういうことをしないと出てこない“音の気配”があるんですよね。今はアナログのテープレコーダーをキープするのも難しいけれど、デジタルの世界に何かヒントを持ち込めるような気がします。
モルディブの海でしか得られない感覚がある
続けて小林は、プライベートで訪れた海にまつわるエピソードを語った。小林:2000年以降に行ったところで象徴的な場所の話を。僕がやっている畑とか野菜とかに繋がってくることはなくもないけど、もっと直接的に変わったと思っているのは、やっぱり「リゾート」なんです。僕は水泳が大好きで、そこが高じてスキューバダイビングもやるようになったんですね。スキューバダイビングでリゾートに何回も行くようになると、太陽光とともに生きる暮らしになるじゃないですか。考えてみるとね、僕はもっとも太陽光と縁から遠い暮らしをしているんだってことがわかるわけ(笑)。
葉加瀬:(笑)。
小林:起きるのが昼だしね。
葉加瀬:音楽をやっているとそうなるもんね(笑)。
小林:午後から仕事をスタートして夜中までスタジオだから太陽光を一切見ないでしょ。よく考えてみれば、僕らの目の前にあるようなものも、おおむね太陽があるおかげで(存在している)というのがあって。太陽とともに暮らす豊かさはあるなあと。
葉加瀬:スタジオワークだと太陽光が必要ないですもんね。僕の場合はコンサートだから旅が多くて、移動しているあいだは外にいますけども、楽器弾きは基本的に家の中とスタジオとコンサートホールにいるので、僕は5、6年ぐらい前から魚釣りを始めました。
小林:いいですね。
葉加瀬:朝が早いから5時ぐらいには港にいるわけで。朝日が見られるし、海の上にいると大概のことがどうでもよくなるんですよね(笑)。
小林:けっこう上達しました?
葉加瀬:そうだと思います。僕はマダイだけ釣っているんですけど、去年は183枚釣りました。
小林:すごい! 僕も人生の中に釣りが入ってきたらいいなって何回もトライしたけど、本当に続かない(笑)。向き不向きってありますね。
小林はスキューバダイビングで印象に残った海として沖縄とモルディブを挙げた。
小林:沖縄は本当に素晴らしいですね。最近はコロナ禍もあって行けていないけど、今年時間を取っていきたいなと思っているのはモルディブなんですよ。ダイバーの中では当たり前のようにモルディブと言うけれど、あの場所にしかないものがある。たとえば、1つのホテルが1つの島にある。その周りが全部コーラルになっていて、青い目玉焼きみたいになっているんですよね。
葉加瀬:そうだね。目玉焼きの白身の部分がサンゴで黄身がコテージのある陸地になっている。
小林:僕は潜るだけじゃなく泳いで島を一周したりもするんですよ。カメやサメなどいろんな生き物がいて、これこそ“地球の醍醐味”というか、繋がりを感じながら泳げる場所はモルディブしかない。
葉加瀬:そうですね。美しい海と聞かれたら、僕もモルディブって答えます。何度も行きましたけども、あそこまできれいな海はなかなか見られないですよね。
小林:とはいえ気候変動の影響を受け始めているところなんでね、切ない部分はあります。みんなで解決しないといけない問題です。
葉加瀬:本当にそうですね。
「百年後芸術祭」の総合プロデュースを担当
市原市、木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市の内房総5市で、千葉県誕生150周年記念事業の一環として開催された「百年後芸術祭-内房総アートフェス-」。総合プロデューサーを小林が務め、総勢約 80 組の気鋭の現代アーティストを国内外から招聘し、絵画、彫刻、映像、インスタレーションなど、多様な手法を用いて表現されるアート作品を屋内外に展示する。開催期間は5月26日(日)まで。小林:僕たちはいなくなるけれども、100年後の未来に想いを馳せるということ。個人が自由になれる世の中になったとき、自分にとってお得なものは何なのかと探していくと、どうしても利己的なことがすごく増えすぎたかもしれない。いろんな技術が生まれ、奪い合うことも加速している気がする。
「いいことをしましょう」という考えだけで収まらない“利他的な感覚”を持つことは、結果としてそれぞれの利己に繋がっていくと小林は語る。
小林:内房総にはアクアラインが通っていて、昔は高かったけど今は安くなってみんなが行き来しやすくなったんですよ。考えてみると東京湾を挟んでいるから、ここから1時間で行けちゃうわけです。これから未来のことを見ていくとき、ニコイチというか、人口とか経済、お金の合理性だけで未来を引っ張っていけるのかと考えたとき、いけないですよね。東北の震災、福島の事故、能登半島地震があって、自然と僕たちはどうやっても切り離せないわけです。僕らは自然の一部なんですよ。
葉加瀬:間違いないです。
小林:そう考えると、こういった場所で芸術祭をやるのは相応しいんじゃないかっていう思いがあったわけですね。
歳を重ねて“雪国”の魅力を実感
今後の旅の予定として、今年大きな芸術祭が開催されるイタリア・ヴェネチアを挙げた小林だが、国内外問わずさまざまな場所に足を運びたいと話す。小林:あとはドイツですね。ナチスのこともありましたけども、考え方としてアートを取り入れているのは面白い国だなと思うので。できればベルリンにしばらくいるぐらいの旅ができたらなと前から思っていたりします。日本のなかでも行ってみたい場所はいっぱいあります。僕は山形出身なので、歳を取ってくると雪を見に行きたくなるというか(笑)。
葉加瀬:(笑)。
小林:スキーとかじゃなくてもいいんですよ。雪のあるところ、できたら温泉があれば最高ですけどね。そういうところに浸りたいです。雪って光があたると眩しいけれど、とっぷり暮れたときの雪景色に優しさがあるんですよね。
葉加瀬:あと、静けさがいいですよね。
小林:その通りです。
葉加瀬:雪が降ったときだけの静けさがありますよね。僕も大好きだなあ。武史さんにとって、旅は何ですか?
小林:人生すべてが旅みたいなものだなという思いはありますね。僕は出会うっていうことが基本だと思っているので、旅は絶対に必要なものだし、最後まで続けていきたいなと思っています。
葉加瀬太郎がお届けする『ANA WORLD AIR CURRENT』は、J-WAVEで毎週土曜19:00-20:00オンエア。
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葉加瀬太郎