ガザ出身の医師イゼルディン・アブラエーシュ博士に迫ったドキュメンタリー映画『私は憎まない』に注目した。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のワンコーナー「WORLD CONNECTION」。10月6日(日)のオンエアをテキストで紹介。
今回は、来日したアブラエーシュ博士にインタビューをおこない、映画に込めた思い、パレスチナ問題の解決策について聞いた。通訳はキニマンス塚本ニキが担当。
小川:映画を拝見しました。2009年、ガザにあるご自宅を攻撃されて娘さん3人、姪っ子の合わせて4人を亡くされています。アブラエーシュ博士は現場からイスラエルのテレビ局の方に電話をかけて発信をされているんですよね。かなり緊迫されている状況だったと思うのですが、そのときのことについて教えていただけますか。
アブラエーシュ:忘れもしない2009年1月16日、私の自宅がイスラエル軍によって砲撃され、娘3人と姪を失いました。そのときの痛み、苦しみは今でも続いています。と言いますのも、つい今朝のことです。私は朝の2時半にスマホが何度も鳴ってるので目が覚めました。あの映画のなかに出てくるあの自宅、同じ家がまた今日も昨日も爆撃され、私の甥が負傷し、病院に運ばれたという報せを受けました。
「こうやってガザの人々は、世代を超えて何度も攻撃を続けられているのです。ガザの人々の血は今でも流れ続けているのです」と話すアブラエーシュ博士。絶え間なく続くガザへの攻撃について、世界の沈黙は虐殺に加担をしていると言わざるを得ないとアブラエーシュ博士は訴える。
アブラエーシュ:私は、愛する3人の娘と姪を1人、2009年の1月16日、失いました。そのほか、多くの愛する家族、親族を失っています。この世から抹消されてしまった人たちのために活動を続けていますけども、この状態が続いていることそのものが、人類への冒涜だと言えるほどの大きな危機なのです。こうやって私たちは今、このガザの現状について話し合いをしていますけれども、話し合いをするだけではもうダメなのです。とにかく即停戦、これを求めなければ何も変わりません。
アブラエーシュ:世界のみなさん。ガザの現状をただ見るだけではなく、一度でいいので人として、人間らしい世界を求めて立ち上がってほしいのです。パレスチナ人もみなさんとまったく同じ、変わらない人間です。今、世界では、動物の権利、動物の福祉、アニマルウェルフェア(家畜の感受性を理解し、できる限り健康的な生活ができるような考え方)などが叫ばれています。そして、動物よりも酷い扱いを受けているガザの人たち、パレスチナの人たちがいます。「これはもう受け入れられない」と、みなさんにも言ってほしいのです。そして、この虐殺を世界がただ見つめているだけではもういけません。
10月7日、ハマスのイスラエルへの攻撃から1年が経過。「これ以上続けること、語るだけのことはもうやめてほしいのです」とアブラエーシュ博士は発言する。
小川:映画を観ただけでも悲惨な状況がひしひしと伝わりました。アブラエーシュ博士の主張、この映画のタイトルにもなっています「私は憎まない」という言葉があります。もちろん、パレスチナの人たちみなさん怒っています。叫んでいます。でも、憎しみはやはり憎しみしか生まないというメッセージが、映画からすごく伝わってきました。そこに対する思いを教えていただけますか。
アブラエーシュ:とてもありがたい質問です。私たちすべての人々が、今このガザで起きている虐殺に対して怒りを持たなければならないと私は思います。しかし、その怒りというのは、私は“ポジティブな怒り”として表現しています。ポジティブな怒りとは、今の現状、 決して受け入れることはできないという正義の怒りですね。日本はかつて第2次世界大戦で、ここ、今我われがいる東京も焼け野原になりました。そこから日本の人々は再出発をし、ここまでこられたと存じ上げております。
戦争の悲惨さ、痛みを知っている人々だからこそ、日本人には「虐殺をやめろ」というメッセージを発信してほしいとアブラエーシュ博士は話す。
アブラエーシュ:憎しみというのは病気であり、私たちの体内にすむ毒です。憎しみに呑まれてしまうと、火のように焼かれてしまうような状態になります。しかし、私は決して憎しみに負けたくありません。私はこれからのガザの正義のため、娘たちの名誉のためにも、戦うために、健康であり、勇気を持って前進しなければならないのです。憎しみに負けず、怒りを持ち続ける。そして、「ストップジェノサイド(虐殺を止めろ)」と言い続ける。これが私の信念です。
小川:大変な状況のなか、日本の歴史についても思いを寄せてくださりありがとうございます。私たち日本人もパレスチナの歴史、今起きていることにもっと目を向けていきたいと思わされました。
アブラエーシュ:すでに国際社会には「国際ルール」というものがたくさんありますよね。ルールや秩序に“守られているはず”の世界に、私たちは暮らしています。しかしながら、このようなジェノサイドが続いているということ自体が国際ルールに反しています。そのことに関して、世界中で多くの人々が怒っています。先ほど言ったポジティブアンガー、前向きな怒りを持って即停戦を叫んでいます。それぞれの国、地域のリーダーたちが、即停戦を呼びかけ、政治の力を使ってくれと訴えています。しかし同時に、世界は分断されていることも事実です。正義や司法に則った、国際ルールに則ったジャスティスを求めることができるはずなのです。ですが、イスラエルのように、さまざまな世界的な国際ルールを破っていてもお咎めがないという状態が続いています。つい先日も、フランスのマクロン大統領が、「フランスからイスラエルに武器の輸出をストップする」という宣言をしました。それに対してネタニヤフ(イスラエル首相)は、「恥を知れ」とフランスのマクロン大統領に言ったんです。
暴君かのように振舞うイスラエルに対し、国際社会はそれを静止する術はすでに持っているはずだとアブラエーシュ博士は発言。
アブラエーシュ:イスラエルは中東地域の破壊だけではなく、国家そのものも破滅に導いています。しかし、国際社会はイスラエルをただ傍観しているように私は思うのです。イスラエルの狂信的な国家と私は表現しますけれど、この狂信的な国家の方針に従うのか、それを看過するのか、傍観するのかということが、今まさに問われていることなのです。
アブラエーシュ:先ほども申し上げましたように、日本のみなさまは戦争の苦しみ、尊いものを破壊される痛みを知っているとわかっています。日本の人々は焼け野原から、灰から立ち上がりました。それと同じように、パレスチナの人々も今、この虐殺、この破壊から立ち直りたいと願っているのです。パレスチナ人の痛みに、どうか、どうか耳を傾けてほしいと思います。そして、みなさんの国や地域の政治家、リーダーたちに、この苦しみを、即停戦をお願いだからしてくれと訴え続けてほしいです。
アブラエーシュ博士は「パレスチナ人も日本のみなさんのように戦争、虐殺、大量破壊から立ち直りたい、そのチャンスを与えてほしいと思っている」と語り、再度「何よりも優先となるのは、永久的な即停戦」と訴える。
アブラエーシュ:そして、その外交の力を使って、今虐殺にとても大きな力を持っているアメリカ合衆国の国家にも、外交で訴える力を日本の政府は持っています。パレスチナの人々が殺されているミサイルや武器、兵器などは、 広島、長崎に落とされた原爆、そして東京大空襲のときに落とされた爆弾と同じ工場で作られている武器です。それが今、パレスチナ人の頭上に降り注いでいるのです。そのことを理解していただき、どうか日本のみなさんの力を貸してください。
小川:博士の叫び、怒りが心に届いた方、まずは現在公開中の映画『私は憎まない』をご覧ください。そして、原作となった博士の著書も日本語版で出ております。まずは知って、考えるところから始まるのかなと思います。
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き世界の最新カルチャーに迫る。オンエアは9時20分頃から。
この内容をお届けしたのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のワンコーナー「WORLD CONNECTION」。10月6日(日)のオンエアをテキストで紹介。
ガザへの攻撃を止めるには即時停戦しかない
アップリンク吉祥寺にて映画『私は憎まない』の公開中だ。イスラエルとパレスチナの共存の可能性を信じて行動するガザ地区出身の医師・アブラエーシュ博士のドキュメンタリー映画となっている。<映画概要>
「医療でイスラエルとパレスチナの分断に橋を架ける」。ガザ地区の貧困地域、ジャバリア難民キャンプ出身の医師で、パレスチナ人としてイスラエルの病院で働く初の医師となったイゼルディン・アブラエーシュ博士は産婦人科でイスラエル人とパレスチナ人両方の赤ちゃんの誕生に携わってきた。
彼は、ガザからイスラエルの病院に通いながら、病院で命が平等なように、外の世界でも同じく人々は平等であるべきだと、分断に医療で橋を架けようとする。しかし2009年、両者の共存を誰よりも望んできた彼を悲劇が襲う。彼の自宅がイスラエル軍の戦車の砲撃を受け、3人の娘と姪が殺されたのだ。砲撃直後、博士の肉声をイスラエルのテレビ局が生放送し、彼の涙の叫びはイスラエル中に衝撃と共に伝わった。その翌日、博士は突然、テレビカメラの前で憎しみではなく、共存を語りだす。
イスラエル政府に娘の死の責任を追求するも、決して復讐心や憎しみを持たない彼の赦しと和解の精神は、世界中の人々に感動を与え、“中東のガンジーやマンデラ”とも呼ばれる存在となる。しかし、2023年10月7日のハマスのイスラエルへの攻撃、それ以降のガザへの攻撃を経て、彼の信念は再び試されることになる。
(公式サイトより)
今回は、来日したアブラエーシュ博士にインタビューをおこない、映画に込めた思い、パレスチナ問題の解決策について聞いた。通訳はキニマンス塚本ニキが担当。
小川:映画を拝見しました。2009年、ガザにあるご自宅を攻撃されて娘さん3人、姪っ子の合わせて4人を亡くされています。アブラエーシュ博士は現場からイスラエルのテレビ局の方に電話をかけて発信をされているんですよね。かなり緊迫されている状況だったと思うのですが、そのときのことについて教えていただけますか。
アブラエーシュ:忘れもしない2009年1月16日、私の自宅がイスラエル軍によって砲撃され、娘3人と姪を失いました。そのときの痛み、苦しみは今でも続いています。と言いますのも、つい今朝のことです。私は朝の2時半にスマホが何度も鳴ってるので目が覚めました。あの映画のなかに出てくるあの自宅、同じ家がまた今日も昨日も爆撃され、私の甥が負傷し、病院に運ばれたという報せを受けました。
「こうやってガザの人々は、世代を超えて何度も攻撃を続けられているのです。ガザの人々の血は今でも流れ続けているのです」と話すアブラエーシュ博士。絶え間なく続くガザへの攻撃について、世界の沈黙は虐殺に加担をしていると言わざるを得ないとアブラエーシュ博士は訴える。
アブラエーシュ:私は、愛する3人の娘と姪を1人、2009年の1月16日、失いました。そのほか、多くの愛する家族、親族を失っています。この世から抹消されてしまった人たちのために活動を続けていますけども、この状態が続いていることそのものが、人類への冒涜だと言えるほどの大きな危機なのです。こうやって私たちは今、このガザの現状について話し合いをしていますけれども、話し合いをするだけではもうダメなのです。とにかく即停戦、これを求めなければ何も変わりません。
“正義の怒り”を持ってストップジェノサイドを訴える
ガザで多くの人々が血を流し続けている状況のなか、アブラエーシュ博士は医師として、人間として、虐殺をやめること、命を守ることを何年にもわたって訴え続けている。アブラエーシュ:世界のみなさん。ガザの現状をただ見るだけではなく、一度でいいので人として、人間らしい世界を求めて立ち上がってほしいのです。パレスチナ人もみなさんとまったく同じ、変わらない人間です。今、世界では、動物の権利、動物の福祉、アニマルウェルフェア(家畜の感受性を理解し、できる限り健康的な生活ができるような考え方)などが叫ばれています。そして、動物よりも酷い扱いを受けているガザの人たち、パレスチナの人たちがいます。「これはもう受け入れられない」と、みなさんにも言ってほしいのです。そして、この虐殺を世界がただ見つめているだけではもういけません。
10月7日、ハマスのイスラエルへの攻撃から1年が経過。「これ以上続けること、語るだけのことはもうやめてほしいのです」とアブラエーシュ博士は発言する。
小川:映画を観ただけでも悲惨な状況がひしひしと伝わりました。アブラエーシュ博士の主張、この映画のタイトルにもなっています「私は憎まない」という言葉があります。もちろん、パレスチナの人たちみなさん怒っています。叫んでいます。でも、憎しみはやはり憎しみしか生まないというメッセージが、映画からすごく伝わってきました。そこに対する思いを教えていただけますか。
アブラエーシュ:とてもありがたい質問です。私たちすべての人々が、今このガザで起きている虐殺に対して怒りを持たなければならないと私は思います。しかし、その怒りというのは、私は“ポジティブな怒り”として表現しています。ポジティブな怒りとは、今の現状、 決して受け入れることはできないという正義の怒りですね。日本はかつて第2次世界大戦で、ここ、今我われがいる東京も焼け野原になりました。そこから日本の人々は再出発をし、ここまでこられたと存じ上げております。
戦争の悲惨さ、痛みを知っている人々だからこそ、日本人には「虐殺をやめろ」というメッセージを発信してほしいとアブラエーシュ博士は話す。
アブラエーシュ:憎しみというのは病気であり、私たちの体内にすむ毒です。憎しみに呑まれてしまうと、火のように焼かれてしまうような状態になります。しかし、私は決して憎しみに負けたくありません。私はこれからのガザの正義のため、娘たちの名誉のためにも、戦うために、健康であり、勇気を持って前進しなければならないのです。憎しみに負けず、怒りを持ち続ける。そして、「ストップジェノサイド(虐殺を止めろ)」と言い続ける。これが私の信念です。
小川:大変な状況のなか、日本の歴史についても思いを寄せてくださりありがとうございます。私たち日本人もパレスチナの歴史、今起きていることにもっと目を向けていきたいと思わされました。
国際ルールを破り続けるイスラエル
憎しみの負の連鎖を断ち切らない限り、パレスチナの人々の心が休まることは決してない。激化する国家間の争いに、国際社会ができることは何か。アブラエーシュ:すでに国際社会には「国際ルール」というものがたくさんありますよね。ルールや秩序に“守られているはず”の世界に、私たちは暮らしています。しかしながら、このようなジェノサイドが続いているということ自体が国際ルールに反しています。そのことに関して、世界中で多くの人々が怒っています。先ほど言ったポジティブアンガー、前向きな怒りを持って即停戦を叫んでいます。それぞれの国、地域のリーダーたちが、即停戦を呼びかけ、政治の力を使ってくれと訴えています。しかし同時に、世界は分断されていることも事実です。正義や司法に則った、国際ルールに則ったジャスティスを求めることができるはずなのです。ですが、イスラエルのように、さまざまな世界的な国際ルールを破っていてもお咎めがないという状態が続いています。つい先日も、フランスのマクロン大統領が、「フランスからイスラエルに武器の輸出をストップする」という宣言をしました。それに対してネタニヤフ(イスラエル首相)は、「恥を知れ」とフランスのマクロン大統領に言ったんです。
暴君かのように振舞うイスラエルに対し、国際社会はそれを静止する術はすでに持っているはずだとアブラエーシュ博士は発言。
アブラエーシュ:イスラエルは中東地域の破壊だけではなく、国家そのものも破滅に導いています。しかし、国際社会はイスラエルをただ傍観しているように私は思うのです。イスラエルの狂信的な国家と私は表現しますけれど、この狂信的な国家の方針に従うのか、それを看過するのか、傍観するのかということが、今まさに問われていることなのです。
紛争の即時停戦と平和的解決が最優先事項
アブラエーシュ博士の叫びがより鮮明に伝わる映画『私は憎まない』が現在公開されている。最後に、アブラエーシュ博士はリスナーに向けて「即停戦を訴えてほしい」とメッセージを伝えた。アブラエーシュ:先ほども申し上げましたように、日本のみなさまは戦争の苦しみ、尊いものを破壊される痛みを知っているとわかっています。日本の人々は焼け野原から、灰から立ち上がりました。それと同じように、パレスチナの人々も今、この虐殺、この破壊から立ち直りたいと願っているのです。パレスチナ人の痛みに、どうか、どうか耳を傾けてほしいと思います。そして、みなさんの国や地域の政治家、リーダーたちに、この苦しみを、即停戦をお願いだからしてくれと訴え続けてほしいです。
アブラエーシュ博士は「パレスチナ人も日本のみなさんのように戦争、虐殺、大量破壊から立ち直りたい、そのチャンスを与えてほしいと思っている」と語り、再度「何よりも優先となるのは、永久的な即停戦」と訴える。
アブラエーシュ:そして、その外交の力を使って、今虐殺にとても大きな力を持っているアメリカ合衆国の国家にも、外交で訴える力を日本の政府は持っています。パレスチナの人々が殺されているミサイルや武器、兵器などは、 広島、長崎に落とされた原爆、そして東京大空襲のときに落とされた爆弾と同じ工場で作られている武器です。それが今、パレスチナ人の頭上に降り注いでいるのです。そのことを理解していただき、どうか日本のみなさんの力を貸してください。
小川:博士の叫び、怒りが心に届いた方、まずは現在公開中の映画『私は憎まない』をご覧ください。そして、原作となった博士の著書も日本語版で出ております。まずは知って、考えるところから始まるのかなと思います。
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き世界の最新カルチャーに迫る。オンエアは9時20分頃から。
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