音楽、映画、エンタメ「ここだけの話」
宇多田ヒカルが「本気で頑張ってきたんだな」と涙した楽曲 ベスト盤制作の裏側を語る

宇多田ヒカルが「本気で頑張ってきたんだな」と涙した楽曲 ベスト盤制作の裏側を語る

宇多田ヒカルとSHELLYがJ-WAVEで対談。その中で宇多田が、自身初となるベストアルバムをリリースした今の心境や、ロンドンでの暮らしと子育て、これからについて語った。

トークを繰り広げたのは、“私たちの生活、未来のために、明日からすぐ行動できる身近なアクションのきっかけを作る”というコンセプトでお届けする『J-WAVE SELECTION ITOCHU DEAR LIFE, DEAR FUTURE』。オンエアは毎月第4日曜。ここでは、8月25日(日)の放送回をテキストで紹介する。

ポッドキャストも配信中。後編は9日に配信予定

開催中の全国ツアーは、今までで一番“私のツアー”

宇多田は昨年12月にデビュー25周年を迎え、今年4月に自身初のベストアルバム『SCIENCE FICTION』をリリース。現在、6年ぶりとなる全国ツアー「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」を開催中だ。

SHELLY:久しぶりのツアー、前回と変化を感じることはありますか?

宇多田:今回は今までのどのライブよりも、演出やセットデザインをゼロから一緒に作っているというか。誰にセットデザインをお願いするかなども自分で考えたりお願いしたりして、実際に会話して「いいな」と思った人とやれることになりました。最初はカニエ・ウェストなどの舞台を手掛けている人に打診をして、スケジュールの都合が合わなかったんです。だけど、その方が「合いそうな人がいるから私の仲間を紹介したい」ということで、(紹介してもらった)その人とミーティングをするなかで、どんなコンサートにしたいのかコンセプトもいろいろと浮かんで明確になっていったんです。そこから始まったから、今までで一番“私のツアー”って感じがすごくしていて。過去の曲を再現して歌うとかではなく、完全に新しいコンサートというものを作っているんだという意識があってすごく楽しいです。

SHELLY:なぜ今回はすべて自分の演出にしたいと思ったのでしょうか。

宇多田:もちろん演出家の人にも入ってもらっているし、私ひとりでやっているわけではないけれど、一番関わっているというか、軸に自分がいるっていう感覚があって。あまりツアーをやっていなかったし、私は初めてのコンサートをする前にブレイクしちゃったんですね。

SHELLY:確かにそうですよね。

宇多田:15歳だったから、ライブ経験もないまま知名度だけ上がっちゃって。音楽もワッと広がったけれど、そこからライブで築き上げたものが何もなくて苦手意識もあった。どういう感覚なのかよく分かってなかったというか……そこから頻度は少ないけれど、だんだんと(ライブを)やっていくうちに、少しずつ自分のやり方みたいなものが分かってきて。今回それが一番出ているから、友だちにも来てくれたファンの皆さんにも「今までで一番楽しそうで、自由にしていていいね」って言ってもらえているのがうれしいです。

宇多田は今回のツアーでは環境に配慮したプロテイン繊維「ブリュード・プロテイン・ファイバー」を取り入れた衣装も着用しているという。

SHELLY:そういう環境に優しいものを取り入れたりすることも、宇多田さんが意識的にしたんですか。

宇多田:「こういうのがあるけど一緒にどう?」とお話をいただいて。「最高じゃん、じゃあお願いしましょう」と、カッコいいドレスができました。自分では南国の鳥みたいだなって思います。

SHELLY:すごくお似合いで素敵でした。
240903_DLDF_2.jpg

Photo 横山マサト/ Masato Yokoyama

初めて自分の人間性に客観的に触れた気がした

続いては、宇多田のベストアルバム『SCIENCE FICTION』の話題に。番組では本アルバムに収録されている新曲「Electricity」をオンエア。伊藤忠商事のCMソングにも起用されている。
SHELLY:このアルバムを作るにあたって、あらためてご自身の楽曲をいろいろと聴かれたと思います。その曲たちを聴いてみてどんな感情になりましたか。

宇多田:振り返ってみて「私ってこういう人間なんだ」って、初めて自分の人間性に客観的に触れた気がして、すごく不思議な体験でした。25年前で15歳のとき……もっと前の26年前くらいの自分の歌を聴くわけで。そこから時間も経って、いろいろなことがあって、考え方も価値観も変わったかなって思っていたけど、あらためて聴いてみたら、今の自分の核と感じられるものを15歳の自分がはっきり出していた。「あれ、変わってない」「大事なところはずっとこうなんだ」ってびっくりして。タイムスリップとか、ワームホールを通って15歳の自分と対面しちゃったみたいな感じで、1人で泣いちゃって。

SHELLY:へえ。

宇多田:とにかく作品作りを通して自分が何を考えているか、何を思っているかを知るためのプロセスで。何より自分に正直であることが大事で。私は15歳くらいのときからずっと、本当に自分に正直に向き合って作品を作ってきていたんだ。だから、変わらないと思える人間性が出ているんだって思って、先輩から後輩に「頑張ったね」みたいな。「ずっと頑張っていたんだね」って、お母さん目線で自分を(見ていました)。

15歳くらいの自分が愛おしくなった

宇多田はベストアルバムを制作する中で、特に印象的だった1曲として「Automatic」を挙げた。
宇多田:家で洗濯物をしていて、乾燥機から服を出しながら聴いていたときに泣いちゃったのがこの曲でした。

SHELLY:それはどういう涙だったんですか。

宇多田:何だろう……実感が湧いたのかな。ずっと生きてきたことに。生きながらこうやって頑張って曲を作ったりして、同じことを何やかんや続けていて、ずっと本気で頑張ってきたんだなって感じて。15歳くらいの自分が愛おしくなっちゃって(笑)。

SHELLY:宇多田さんの音楽で励まされたり勇気をもらったりした方は世界中にたくさんいると思うんですけど、宇多田さんが音楽から励まされたり背中を押してもらったり受け止めてもらったりすることってあるんですか。

宇多田:音楽そのものに、そういう感じかな。自分がすごくしんどいときに音楽を聴こうとは思わなくて、じゃあ作ろうってなる。つらいときに音楽を聴くってあんまりないかな。そういうときに思い付いたり、キーボードの前に座って私は何を感じて、何でこんな気持ちなんだろうとか、どんな気持ちなんだろうとか、自分と話し合っているみたいな感じかな。

SHELLY:だから、それがそのまま素直に曲になっているんですね。

宇多田:励ましてくれる感じがするとか寄り添ってくれる感じがするって感想をファンの人にもらうとすごくうれしいんですけど、「よっしゃ、頑張れ!」ってことではなくて。それはたぶん、私が自分に必要なメッセージを書いていたから、それをみんなが感じてくれているんだなって思うとすごくうれしいです。

SHELLYは「今振り返って、このアルバムはどんな作品になりました?」と宇多田に質問した。

宇多田:何周年記念とか何歳とか年数で区切るって今まではそんなに意味を感じていなかったけど、やってみて振り返るきっかけやチャンスができて、節目を大切にすることは大切なんだなってすごく思って。歴史を知ることでどう先に進みたいか分かるというか、見えてくるものがあるじゃないですか。過去を見ることで見えてくる未来というか、それができたなと思って。これからどう生きていくかなって、楽しみになった感じですね。

SHELLY:すごくいい転機にもなったんですね。

宇多田:あらためて感謝もすごく感じましたね。スタッフにもファンの方にも、ファンでなくても曲を聴いてくれたり、1曲だけ好きな曲があって聴いてたってことでも、とにかくいろんな人とのご縁があるんだなってすごく感じました。

感情を押し込めるのはよくない

宇多田はロンドンに移住して12年ほど経つという。出演する伊藤忠商事のCMはロンドンでも撮影され、宇多田の9歳の息子も後ろ姿で登場する。ここで、子育てについての話題に。
SHELLY:あるインタビューで宇多田さんが「子どもにあげられる一番大事なものは自己肯定感だ」みたいなことを言われていて。私もすごくそれを意識するように頑張っているんですよ。その中で感情を肯定してあげることが大事だってお話されていて、それってどういう風に実践しているんだろうって。

宇多田:私も不思議な家庭環境で育ったから、それに感謝したり、貴重で素晴らしいことだったんだなって思う面と、もうちょっと普通の育児論を知りたいってこともあって自信がなくて。とにかく本を読んで「これはよさそう」「これは自分のセラピーやカウンセリングで学んだことだから、子どもにもそういう知識を活かせばいいんだ」とか、そういう目線を持てばいいんだなって。例えば、感情はコントロールできないから、押し込めちゃうってよくなくて。自分でもよくないし、誰かにされたら嫌だよなって思う。でも、帰らなきゃいけないのに帰りたくないとかだったら、どうしようもないですよね。「置いていくわよ」とか「帰るって言っているでしょ」と言ってもどうにもならなくて悲しいだけだから、「そうだよね、もっといたいよね」「まだ帰りたくないよね。じゃあ、次にいつ会えるか話すからね」と(声をかける)。

SHELLY:すごい。

宇多田:「また今度来ようね」「次はこれやろうか」とか、そういうことを言うとこっちも楽なんですよね。「そうか、また来れるんだ」と思ってくれたら落ち着いてくれるから。

SHELLY:帰らなきゃいけないっていう事実に対して、帰りたくないっていう感情表現はしていいんですもんね。世代的に私たちはそういう感情表現もしちゃだめだったじゃないですか。「そんなことで泣くんじゃない」とか。

宇多田:聞き分けのいい子じゃないといけないみたいな。

SHELLY:だけどそうじゃないんですよね。

宇多田:そういうのを、気を付けてやっていますね。

10年後も変わらないけど、新しい自分でいたい

宇多田は、番組の締めの1曲として『SCIENCE FICTION』収録の「道」をリクエスト。番組でオンエアした。
宇多田:これを最後にかけてほしいなと思ったのが、ベストアルバムで結果的に「今までたどってきた道、これからの道みたいなものを感じる」というテーマになって。やっぱりこの曲って自分にとっても大事な曲だし、今の気分にもぴったりだなって思って選びました。

最後にSHELLYは「10年後はどんな自分になっていたいか。また10年後はどんな社会になっていてほしいか」と、宇多田に質問した。

宇多田:先のことってはっきり考えたことはないけど……10年後もある意味変わらないけど、新しい自分でいつもいたいなって思います。

SHELLY:10年後の社会は?

宇多田:みんなにとってとにかく安全な社会になればいいなって。安心できずに暮らすって一番悲しいことじゃないですか。人権というか、根本的に。子どもに対して親が思うのは安心できる環境にいてほしいって思うことだし、大人になったってみんなそれはそうだと思うから。

======

宇多田ヒカルは、9月3日(火)より公開の伊藤忠商事TVCM『君と僕の間に』篇に出演。作曲に真剣に取り組む様子や日々の生活の中で「おかげさまで」という想いが国を超えて人と人を繋いでいるストーリーとなっている。その他の最新情報は、公式サイトまで。

SHELLYがナビゲートするプログラム『ITOCHU DEAR LIFE, DEAR FUTURE』の放送は毎月第4日曜日の22時から。オンエアだけでなく、デジタル音声コンテンツとして提供・配信するサービス「SPINEAR」でも配信。SpotifyやApple Podcastsでも楽しめる。

この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。

  • 新規登録簡単30
  • J-meアカウントでログイン
  • メールアドレスでログイン
番組情報
ITOCHU DEAR LIFE, DEAR FUTURE
毎月第4日曜
22:00-22:54