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ミスチル「終わりなき旅」が、16歳の蓮佛美沙子を支えた…今でも聴くときは“正座する勢い”

ミスチル「終わりなき旅」が、16歳の蓮佛美沙子を支えた…今でも聴くときは“正座する勢い”

伊藤潤二や角田光代ら稀代のストーリーテラーを戦慄させた小説を、俳優でもある齊藤工監督が実写映画化。その『スイート・マイホーム』(9月1日公開)で、新居に降りかかる恐怖と絶望に打ちのめされる賢二(窪田正孝)の妻・ひとみを、蓮佛美沙子が演じた。かつて『犬神家の一族』で俳優デビューした蓮佛が、再び“家”や“家族”の仄暗き秘密に巻き込まれる。「ホラーは苦手……」と言いながらも、透き通った肌がホラーな暗闇にピッタリ映える逸材。作品についてはもちろんのこと、かつてJホラーの現場で体験した怪異や“ミスチル沼”にハマった理由まで独占告白してくれた。

映画『スイート・マイホーム』本予告【2023年9月1日(金)公開】

齊藤工監督が丁寧に拾ってくれたリアルな反応

──俳優デビューが『犬神家の一族』(2006年)であり、『きれいのくに』『鵜頭川村事件』など奇妙かつ心をかき乱すような重厚な作品が似合う蓮佛さん。今回もズシンとくる怖い作品ですね!

確かに怖い作品です。作品の題材も“家”の秘密と謎に迫るホラーミステリーであり、得体のしれない何者かの影に怯えるようなお芝居もありました。とはいうものの、自分の中でホラーな演技をしようという意識はありませんでした。その方向性は齊藤工監督の意向でもあったと思うので、夫である賢二(窪田正孝)に対して、そして家の中で起こる事象に対して妻のひとみとして、ただただ反応する。その日常的なリアリティを齊藤監督が丁寧に拾い上げてくださいました。
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©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

──ホラーな演技という典型からあえて外したということですね?

あえてというか、「背後から何者かの視線を感じて振り返る」という表現も大仰にするのではなく、基本的にはナチュラルに。身近な例えだと、「誰かに肩をトントンされて振り返ったら誰もいなくて怪訝に思う」くらいの、リアルな反応をイメージして演じました。この映画で描かれる恐怖は幽霊が見えてビックリ!というようなジャンプスケア的恐怖ではなく、日常の中で起こる些細な異変の積み重ねが生み出す恐怖です。そのため序盤はホラーというよりもホームドラマのように見えるかもしれません。夢のマイホームを手に入れて幸せな一家がどうなっていくのか? 観客の皆さんには一家がたどり着く衝撃的結末を見届けていただきたいです。

──本作への準備として参考にした怖い映画はありますか?

ひとみという役には継承というテーマも含まれていることから、キャラクターの参考にと齊藤監督から『ヘレディタリー/継承』(2018年)をおすすめされました。怖くて目をそむけたくなるような瞬間もありましたが、見事なストーリーテリングに最後まで引き込まれました。『スイート・マイホーム』同様に怪物や幽霊などが出てきて驚かせて怖がらすのではなく、心の奥底にある人間の闇が怖いというドラマ部分に魅了されました。
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──ちなみにホラー作品はお好きですか?

実は大の苦手です……。大きな音で急に脅かしてくるような衝撃は心の準備が出来なくてシンプルに怖い。かといって人間が怖いということを突き詰めてその闇を見せつけられると心がグッタリしてカロリー消費量もすごい。そしてホラー作品を観ると怖くて夜眠れなくなる。シャワーに入った時に後ろに誰かいるのではないか?と想像して怯えたりして、もし自分の身に起きたら……と劇中で起きていることを自分に置き換えて考えてしまうからだと思います。

──想像力が豊かなのでしょうね!

ただ『スイート・マイホーム』を通して、ホラーと一口に言っても様々な視点があるものだと学ぶことができました。『呪怨』の清水崇監督が手掛けた『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』(2009年)には参加したことがあるので、苦手克服という意味も込めてホラー作品を観るという自分の間口を広げたいと思います。俳優としてオファーがあればJホラー作品にも挑戦したいです!

ロケ中のホラー体験

──聞くところによると『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』では不思議な体験をされたとか……。

遊園地にある本物のお化け屋敷を貸し切ってロケした際に、いまだかつてない耳鳴りがしたり、カメラのモニターに照明さんが仕込んでいない謎の赤い光が漂ったり。ホラー映画の撮影で不思議なことが起こるという噂は聞いてはいましたが、実際に起こるのかと驚きました。優しい幽霊だったらいいですが、祟る系の幽霊だったら嫌ですよね……。お祓いしたのになぜ!?と落ち込んだのを覚えています。

──そうなると今回は!?

今回は……全くありませんでした(笑)。作品のテイストとしてはギスギスした険悪な空気が漂っていますが、撮影現場は真逆。齊藤監督と窪田正孝さん、そして奈緒さんがとても優しい方だったので常に笑顔の絶えない温かい撮影期間でした。作品と現場のギャップはすごいですが、楽しく真摯に恐怖を突き詰めたと言えるかもしれません。

──齊藤工監督はどのような演出家でしたか?

齊藤監督は役者やスタッフさんに対してリスペクトを忘れない方で、各々がやりたいことをまずやらせてくれる。カメラの配置や動きの問題で上手くいかないときがあったとしても、どのように動くべきか提案をしてはくれるものの、こちらの気持ちが最優先。ここに動いてここで止まってそこからセリフ……とかっちり決められると段取りになってしまいがちですが、齊藤監督は指示を出しつつもライブ感を大切にする。そのスタイルがとてもやりやすく、それはご本人も役者としての視点を持たれているからこそだと感じました。
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©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社

ミスチル沼にハマったきっかけは?

──J-WAVE NEWSは音楽に力を入れるラジオ局のJ-WAVEが運営しています。そこでMr.Children好きとして有名な蓮佛さんに質問です。Mr.Children好きになったきっかけを教えてください。

好きになったきっかけは小学校低学年の頃に聴いた「抱きしめたい」です。母親が音楽好きで、習い事の送り迎えの車中で常に音楽が流れていて、そこで初めて「抱きしめたい」を聴きました。桜井和寿さんの綺麗な歌声とメロディが合わさって、なんてロマンチックな歌なのだろうかと。それが最初の入り口ですが、ミスチル沼にどっぷり浸かるきっかけになったのは「終わりなき旅」です。

Mr.Children 「抱きしめたい」

Mr.Children 「終わりなき旅」

──「終わりなき旅」は蓮佛さんが16歳で上京する際に、友人が勧めてくれた大切な一曲だそうですね。

そうです。友人が「何かあったら聴きな」と教えてくれました。鳥取から16歳で上京したものの、周りは大人だらけ。今までそんな環境に置かれたことはなかったし、しかも慣れない東京での生活。毎日が試練という大きな壁の連続で、どうしたらいいのかと思い悩んでいました。そんなときに「終わりなき旅」の「高ければ高い壁の方が登ったとき時気持ちいいもんな。 まだ限界だなんて認めちゃいないさ」という歌詞が心に響いて……。この曲が当時の自分にとっての心の支えでした。あまりに神格化しすぎて、今では気軽に聴くことができません。シャッフルで流れてきたとしたら「スミマセン! 今じゃないです!」と謝って飛ばすくらいです(笑)。聴くときは自分の背中を押してほしいとき。正座する勢いで集中して1曲をフルで聴きます。

──16歳当時と今とで「終わりなき旅」の受け取り方の変化はありますか?

心に刺さる部分は変わっていないと思いますが、曲の受け取り方に関しての変化は多少あると感じます。いまだに曲を聴くたびに歌詞に納得させられる一方で、年齢も人生経験も重ねてきたからなのか、歌詞の重みも感じるようになりました。10代の頃は曲を享受して勇気づけられるだけでしたが、今では作詞した桜井さんがどんな気持ちでどんな状況で書いたのかというところにまで想いを馳せるようになったというか……。桜井さんも同じ気持ちだったことがあるのだろうか?と自分と重ねてしみじみ聴けるようになりました。
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──ちなみに蓮佛さんは朝起きるときに音楽を目覚まし代わりにするタイプですか?

最近は音楽で起きるようになっています。というのも目覚まし機能で音楽が聴けるということを最近になって知ったからです(笑)。選曲はその時期に聴いている明るい曲にすることもあれば、朝起きるのがしんどい時は嵐の「Dandelion」を目覚まし音楽にしています。Mr.Children同様に嵐も小学校の頃から大好きで、「Dandelion」はアップテンポな曲ではないのですが、イントロ部分が朝の目覚めにちょうど良い。最近はその曲を目覚まし音楽にすることが多くて、今朝も「Dandelion」起きでした(笑)。

──蓮佛さんは寝ているときに見た夢を絵に描くらしいという噂を聞いたのですが……それはホントですか?

あはは。そんな時期もありました。見た夢を絵にしていたのは1年くらい。当時はミュージカルに挑戦し始めた頃でプレッシャーを感じていました。私は眠りが浅いタイプなのかよく夢を見ていて、しかも当時は舞台でセリフを飛ばしてしまうというリアルかつハードな夢ばかり見てしまって……。絵に描いたのはそんなマイナスな思考に対して「今のは現実じゃないよ! 安心して!」と自分に認識させる意味があったのかもしれません。

──現在は絵を描いていない……ということは万事順調ということですね!

そうだったら、うれしいです! 夢は見ますが、変な夢を見ることは少なくなりました。この仕事にも慣れてきて、上手に余裕を得ることが出来ているということなのかもしれません。
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『スイート・マイホーム』の詳細は、公式サイトまで。

(取材・文=石井隼人、撮影:夛留見彩)

■作品概要
タイトル:『スイート・マイホーム』
コピーライト:©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社
配給:日活 東京テアトル
公開日:9月1日 全国公開

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