建築デザイナーでモデルのサリー楓さんが、セクシュアルマイノリティであることをカミングアウトしたときのことや、女性として生きていくことを決断した自身の姿を追ったドキュメンタリー映画「息子のままで、女子になる」への想いなどついて語った。
1993年生まれのサリーさんは、慶應義塾大学・大学院在学中にセクシュアルマイノリティであることを打ち明け、働くLGBTQ+の当事者として積極的に意見を発信している人物。現在は大手建築会社「日建設計」に所属し、建築デザイン、コンサルタント業務に従事する傍ら、ダイバーシティ&インクルージョンに関するアクティビティにも積極的に参加している。
サリーさんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。
このプログラムは、ポッドキャストでも配信中。
・ポッドキャストはこちら
https://www.j-wave.co.jp/podcasts/
サリー:福岡の田舎で暮らしていた小学生の頃、学校の窓から見える風景が山だけだったんですね。そこから徐々にマンションや家が建設され、街が変わっていく様を目の当たりにしました。そんな景観の変化に惹かれて、建物の絵を毎日描いていたら、親から「建築家になるといいんじゃないか」とアドバイスされたんです。そのときに初めて建築家という職業を知り、「目指してみようかな」と思いました。
こうして建築家を志すようになった小学生時代、サリーさんはある違和感を抱くようになる。幼稚園では一歳違いの姉と一緒に遊んでいたのだが、小学校に上がると、男女が分かれて別の遊びをしたりするようになる。その違和感は、思春期に身長が伸び、外見の男らしさが増すことで、さらに膨らんでいく。当時、「LGBTQ+」という言葉さえ知らず、一人悩みを抱えていたというサリーさん。彼女はどのようにして、カミングアウトに踏み切ったのか。
サリー:カミングアウトしたのは大学院生のときでした。当時、就職活動が目前に迫るタイミングで、このまま男子大学生として就活を始めれば、今後きっかけがないかもしれないと焦り、「最後のチャンスだ」と覚悟を決めて、大学の中でカミングアウトをしたんです。正直なところ、もっと驚かれると予想していたのですが、いざ打ち明けてみると、意外とすんなり受け入れてくれてびっくりしました。今思えば、周りが国際性豊かなメンバーで、他にカミングアウトしている人もいたこともあって受容する環境が整っていたのでしょうね。
私からすると、カミングアウトという言葉があること自体、一つの「励み」になると考えているんです。というのも、小学校、中学校、高校の思春期で、カミングアウトしたい子たちって実はいっぱいいるはずで。そういう子たちにとって、「カミングアウト」や「LGBTQ+」という言葉があることで、自分が何者かを説明しやすい社会になってきている気がするので、それは素晴らしいことだと思います。
サリー:当時の「ミスインタナショナルクイーン」は、学生さんや会社員の方の参加が少なくて。どちらかと言えば、タレントさんや夜の世界の方が出場される傾向の強いコンテストでした。そんな中で自分が、就職活動と同時並行で出たらセンセーショナルなんじゃないかと思ったのが、エントリーを決めた理由の一つです。それに加えて、若い大学生や高校生のロールモデルになれたらいいという思いもありました。
結果として出場後、LGBTQ+当事者で高校生・大学生の方からたくさんお問い合わせをいただきました。また、就職活動の相談を直接受ける機会もあったりして。私がコンテストに出たことで救われた人がいるのか、はっきりとはわかりません。ただ、そういった方々の目につくような場所に参加したことは、よかったと思っています。
サリーさんが「ミスインタナショナルクイーン」に参加したときの模様は、映像として記録され、後にドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』として公開されている。本作の中では、女性になったサリーさんを見て、戸惑い葛藤する父親の姿も映し出されている。彼女はこの作品を「LGBTQ+について、よくわからない人にこそ観てほしい」と説く。
サリー:けっこう、私の周りの人たちを撮っていくような映画だったんですよ。周りの人たちといっても、必ずしも全員が私のことを受け入れているわけじゃない。私に違和感を持っている人や、応援していない人もいる。なので、私にとって完成した作品は生々しいものでした。決してハッピーエンドな映画ではないですし、何か結論を出すわけでも、オチがあるわけでもない。私を取り巻く環境はリアルで、シビアです。そんなわけで、実際に映画を観た人たちからは「ドキドキした」「ハラハラした」「感情を揺さぶられた」といった感想をたくさんいただきました。私自身も、観るのに体力を使う映画だと感じました。内容がヘビーですし、見返したくないようなシーンもあったりする。ただ、飾らず、偽りのないストーリーが記録されていることは間違いありません。
サリー:建築を取り巻く状況は今、複雑になっています。というのも、昔のように「図書館を建てたい」「オフィスを作りたい」など、お客さまが明確な要望を持っているケースが減っているんです。その反面、「オフィスを建てたいんだけど、オフィスビルを建てても社員がリモートワークで集まらない。だから、働く場所というよりは、社員が集まるモチベーションを作りたい」といったような、込み入ったリクエストが増えていて。そういった様々な条件を整理し、最終的にデザインに落とし込むことが私の仕事です。
この仕事を進める上では、特に「中間点を見つけること」を意識しています。なぜなら、お客さまは一人ではないので。たとえば、オフィスビルだと、入居する企業の役員もお客さまですし、実際にそこで働くワーカーもお客さま。もっと言えば、そこに訪問するお客さまのお客さまも対象になります。このように、たくさんの関係者がいれば足並みを揃えることは難しく、みんな意見が違うものです。だからこそ、異なる一つひとつの希望を取りまとめて中間地点を見つけ、デザインに落とし込んでいくということが肝になるんです。難しい仕事ですが、挑戦し甲斐があると思っています。
サリー:男女トイレで「不便がない」という人がほとんどだと思います。その一方で、少数の方は今のトイレでは使いにくいと感じているわけですよね。この問題は、オールジェンダー化すれば解決できるのかもしれないけど、そうなると今度は、今まで男女トイレを不自由なく使っていた大多数の人は損した気分になる。だから、そこらへんが難しいと思っていて。LGBTQ+への配慮のためにジェンダーをとにかくなくせばいいというものではなく、そこの中間地点というか。妥協点を見つけるのに非常に苦労しましたし、いまだに答えを出せたのか、悶々としています。
サリー:どんな名前を付けるのかもすごく悩みました。たとえば、自宅のトイレって、ジェンダーがないじゃないですか。わざわざ「オールジェンダートイレ」とは呼ばないし、呼ばないからこそ、何の違和感もなく使えていると思うんですよ。
そう考えると、今回私が手がけたトイレを「オールジェンダートイレ」としてしまうと、その呼称で利用しづらくなるんじゃないかという不安もあって……。そこを使うことで、カミングアウトに繋がるみたいな。だからむしろ、オールジェンダーと言わないほうがいいのではないかと考え直し、究極のさりげなさを出すために「TOILET(トイレット)」という名前にしました。最初は「THE TOILET」にしたのですが、「THE」も付けたくないとなったんですよね。
サリー:ジェンダーに限らず、色々な領域を飛び越えた活動がしたいです。世の中には、年齢、性別、民族、宗教など、様々な境界線があります。そういったカテゴリーがあることで、膠着していたり、可能性を封じられていたりすることってまだまだたくさんあるような気がしていて。建築の分野でもそうです。これはオフィス、これは美術館、これは図書館といったカテゴリーが付くことで、豊かさが制約されている状況があるのではないかと。だからこそ、領域を超えたものをたくさん作っていきたいし、それを皆さんにも使ってほしい。それが私の「FORWARDISM」です。
『BMW FREUDE FOR LIFE』では、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招いて話を聞く。オンエアは毎週土曜 11:00-11:30。公式サイトはこちら。
(構成=小島浩平)
1993年生まれのサリーさんは、慶應義塾大学・大学院在学中にセクシュアルマイノリティであることを打ち明け、働くLGBTQ+の当事者として積極的に意見を発信している人物。現在は大手建築会社「日建設計」に所属し、建築デザイン、コンサルタント業務に従事する傍ら、ダイバーシティ&インクルージョンに関するアクティビティにも積極的に参加している。
サリーさんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。
このプログラムは、ポッドキャストでも配信中。
・ポッドキャストはこちら
https://www.j-wave.co.jp/podcasts/
カミングアウトは、就活のタイミングで
穏やかな陽光を浴びて輝くグレーのボディカラーの「BMW i4 M50」が、J-WAVE本社のある六本木ヒルズを発進した。モーターで走る静かな車内でサリーさんは、建築デザイナーを目指すようになったきっかけについて語り始めた。サリー:福岡の田舎で暮らしていた小学生の頃、学校の窓から見える風景が山だけだったんですね。そこから徐々にマンションや家が建設され、街が変わっていく様を目の当たりにしました。そんな景観の変化に惹かれて、建物の絵を毎日描いていたら、親から「建築家になるといいんじゃないか」とアドバイスされたんです。そのときに初めて建築家という職業を知り、「目指してみようかな」と思いました。
こうして建築家を志すようになった小学生時代、サリーさんはある違和感を抱くようになる。幼稚園では一歳違いの姉と一緒に遊んでいたのだが、小学校に上がると、男女が分かれて別の遊びをしたりするようになる。その違和感は、思春期に身長が伸び、外見の男らしさが増すことで、さらに膨らんでいく。当時、「LGBTQ+」という言葉さえ知らず、一人悩みを抱えていたというサリーさん。彼女はどのようにして、カミングアウトに踏み切ったのか。
サリー:カミングアウトしたのは大学院生のときでした。当時、就職活動が目前に迫るタイミングで、このまま男子大学生として就活を始めれば、今後きっかけがないかもしれないと焦り、「最後のチャンスだ」と覚悟を決めて、大学の中でカミングアウトをしたんです。正直なところ、もっと驚かれると予想していたのですが、いざ打ち明けてみると、意外とすんなり受け入れてくれてびっくりしました。今思えば、周りが国際性豊かなメンバーで、他にカミングアウトしている人もいたこともあって受容する環境が整っていたのでしょうね。
私からすると、カミングアウトという言葉があること自体、一つの「励み」になると考えているんです。というのも、小学校、中学校、高校の思春期で、カミングアウトしたい子たちって実はいっぱいいるはずで。そういう子たちにとって、「カミングアウト」や「LGBTQ+」という言葉があることで、自分が何者かを説明しやすい社会になってきている気がするので、それは素晴らしいことだと思います。
ビューティーコンテストへ挑戦した理由
就職活動時にサリーさんは、もう一つの挑戦としてトランスジェンダーを対象としたビューティーコンテスト「ミスインタナショナルクイーン」に参加することを決意。多忙な就活の合間を縫ってまでコンテストへ出場した裏には、こんな思いが秘められていた。サリー:当時の「ミスインタナショナルクイーン」は、学生さんや会社員の方の参加が少なくて。どちらかと言えば、タレントさんや夜の世界の方が出場される傾向の強いコンテストでした。そんな中で自分が、就職活動と同時並行で出たらセンセーショナルなんじゃないかと思ったのが、エントリーを決めた理由の一つです。それに加えて、若い大学生や高校生のロールモデルになれたらいいという思いもありました。
結果として出場後、LGBTQ+当事者で高校生・大学生の方からたくさんお問い合わせをいただきました。また、就職活動の相談を直接受ける機会もあったりして。私がコンテストに出たことで救われた人がいるのか、はっきりとはわかりません。ただ、そういった方々の目につくような場所に参加したことは、よかったと思っています。
サリーさんが「ミスインタナショナルクイーン」に参加したときの模様は、映像として記録され、後にドキュメンタリー映画『息子のままで、女子になる』として公開されている。本作の中では、女性になったサリーさんを見て、戸惑い葛藤する父親の姿も映し出されている。彼女はこの作品を「LGBTQ+について、よくわからない人にこそ観てほしい」と説く。
建築の仕事では「中間点を見つけること」を意識
現在サリーさんは日建設計の会社員として、建築と都市のコンサルティング業務に携わっている。具体的には、どんな内容の仕事に取り組んでいるのだろうか?サリー:建築を取り巻く状況は今、複雑になっています。というのも、昔のように「図書館を建てたい」「オフィスを作りたい」など、お客さまが明確な要望を持っているケースが減っているんです。その反面、「オフィスを建てたいんだけど、オフィスビルを建てても社員がリモートワークで集まらない。だから、働く場所というよりは、社員が集まるモチベーションを作りたい」といったような、込み入ったリクエストが増えていて。そういった様々な条件を整理し、最終的にデザインに落とし込むことが私の仕事です。
この仕事を進める上では、特に「中間点を見つけること」を意識しています。なぜなら、お客さまは一人ではないので。たとえば、オフィスビルだと、入居する企業の役員もお客さまですし、実際にそこで働くワーカーもお客さま。もっと言えば、そこに訪問するお客さまのお客さまも対象になります。このように、たくさんの関係者がいれば足並みを揃えることは難しく、みんな意見が違うものです。だからこそ、異なる一つひとつの希望を取りまとめて中間地点を見つけ、デザインに落とし込んでいくということが肝になるんです。難しい仕事ですが、挑戦し甲斐があると思っています。
「誰もが快適に使えるトイレ」の難しさ
最新の仕事は、日建設計本社3階のオープンスペースにあるトイレのデザイン。サリーさんはセクシュアルマイノリティ当事者としての視点を活かし、当初はLGBTQ+向けにジェンダーレスのトイレを作ろうと考えていたそうだが、利用者全員の快適さを追求する中で「トイレって本当に難しい」と、壁にぶち当たったという。サリー:男女トイレで「不便がない」という人がほとんどだと思います。その一方で、少数の方は今のトイレでは使いにくいと感じているわけですよね。この問題は、オールジェンダー化すれば解決できるのかもしれないけど、そうなると今度は、今まで男女トイレを不自由なく使っていた大多数の人は損した気分になる。だから、そこらへんが難しいと思っていて。LGBTQ+への配慮のためにジェンダーをとにかくなくせばいいというものではなく、そこの中間地点というか。妥協点を見つけるのに非常に苦労しましたし、いまだに答えを出せたのか、悶々としています。
「TOILET」というシンプルな名前をつけた理由
結果的にサリーさんが生み出したのは、入り口に男女のサインがない「誰でも使えるトイレ」。リラックス・リフレッシュ・スタイリングという3つの用途別の個室があるという構成になった。このほか、入り口のマップで使用中の個室を確認できるため、他の利用者と顔を合わせたくない場合でも、安心して入れる設計となっている。このトイレは、名前にもこだわりがある。サリー:どんな名前を付けるのかもすごく悩みました。たとえば、自宅のトイレって、ジェンダーがないじゃないですか。わざわざ「オールジェンダートイレ」とは呼ばないし、呼ばないからこそ、何の違和感もなく使えていると思うんですよ。
そう考えると、今回私が手がけたトイレを「オールジェンダートイレ」としてしまうと、その呼称で利用しづらくなるんじゃないかという不安もあって……。そこを使うことで、カミングアウトに繋がるみたいな。だからむしろ、オールジェンダーと言わないほうがいいのではないかと考え直し、究極のさりげなさを出すために「TOILET(トイレット)」という名前にしました。最初は「THE TOILET」にしたのですが、「THE」も付けたくないとなったんですよね。
将来は「色々な領域を飛び越えた活動がしたい」
サリーさんが考案した「TOILET」は、コミュニケーションの活性化を図るとともに、多様なニーズを取り込んだトイレを目指してデザインされている。誰かのために誰かを犠牲にすることがないよう配慮するサリーさんにとって、「未来への挑戦=FORWARDISM」は何か。質問すると、こんな答えが返ってきた。サリー:ジェンダーに限らず、色々な領域を飛び越えた活動がしたいです。世の中には、年齢、性別、民族、宗教など、様々な境界線があります。そういったカテゴリーがあることで、膠着していたり、可能性を封じられていたりすることってまだまだたくさんあるような気がしていて。建築の分野でもそうです。これはオフィス、これは美術館、これは図書館といったカテゴリーが付くことで、豊かさが制約されている状況があるのではないかと。だからこそ、領域を超えたものをたくさん作っていきたいし、それを皆さんにも使ってほしい。それが私の「FORWARDISM」です。
(構成=小島浩平)
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