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Perfumeのライブ演出は、自由度の高いオファーが功を奏した─メディアアーティスト・真鍋大度が語る裏側

Perfumeのライブ演出は、自由度の高いオファーが功を奏した─メディアアーティスト・真鍋大度が語る裏側

クリエイティブチーム「ライゾマティクス」主宰者でメディアアーティストの真鍋大度さんが、今の創作活動に繋がる原体験や、転機となった出来事について語った。

ライゾマティクスは、人間とテクノロジーの関係を探求しながら、メディアアートの領域を超えて活動するクリエイティブ集団。Perfume、ビョーク、野村萬斎、坂本龍一とのコラボワークや、2016年のリオオリンピック閉会式におけるフラッグハンドオーバーセレモニーの映像演出など、アート表現の可能性を追求。また、J-WAVEでは『INNOVATION WORLD ERA』(毎週日曜23:00-23:54)で毎月第一週のナビゲーターを担当している。

そんな真鍋が登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。

このプログラムは、ポッドキャストでも配信中。

・ポッドキャストはこちら
https://www.j-wave.co.jp/podcasts/

「ツクールシリーズ」が創作活動の原点に

真鍋を乗せて走り出した「BMW iX xドライブ40」は、六本木通りを経由して、霞が関ICから首都高速道路へ。ランプを下り、トンネル内で都心環状線に合流すると、現在の表現活動に繋がる小学生時代の思い出を語り始めた。

真鍋:小学1年生の頃、母が音楽の勉強をする都合から、アメリカのニュージャージー州に住んでいました。そのときに「パックマン」「フロッガー」といったゲームをプレイしたことが、インタラクティブな音と映像に触れた最初の体験だったと記憶しています。帰国後も相変わらずゲームが好きで。あるとき、パソコンでゲームが作れることを知ってからは、「マイコンBASICマガジン」に掲載されているソースコードを写経したりして簡単なプログラムを覚えたり、「ツクールシリーズ」やマイクロソフトのPC「MSX」でゲームを作って遊んでいました。僕は当時からゲームの効果音が好きで。なので、シューティングゲームで敵を倒すとメロディが鳴るというギミックを構築してみたり、簡易的な“ゲームと音楽の融合”にチャレンジしていました。この時期の経験が、僕にとっての原点と言えるかもしれません。

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高校~大学時代はDJに熱中

こうしてゲームプログラミングの面白さに目覚めた真鍋少年。高校生になる頃には、その旺盛な好奇心は音楽へと向かっていく。

真鍋:両親がミュージシャンということもあって、もともと楽器はやっていたんです。最初にピアノを習っていたのですが、すごく嫌いで、泣いてやめさせてもらいました(笑)。でも、高校1年生くらいから始めたDJに関してはかなりハマりました。大学へ入学する頃には、六本木のお店から声をかけられたのをきっかけに、多いときは週6回とか、1日3~4件とか、ほとんど毎日クラブでプレイするという生活をしていましたね。

DJへの熱中ぶりは相当なもので、一時は学校を中退して本気でプロを目指そうとも考えていたとのこと。しかし同級生に説得されて踏みとどまり、どうにか大学を卒業。卒業後はシステムエンジニアとして大手企業に就職するも、転職したITベンチャー企業の経営が不安定になり、ついには「クビになった」という。

真鍋:そこからハローワーク生活になりました。あのときは不安でしたけど、友だちに相談するわけでもなく、自分の中で「どうしたもんかな」と抱えこみながら過ごしていました。ほどなくして、IAMAS(国際情報芸術アカデミー)に入学し、プログラミングを使った表現を学んでいたのですが、そのときに、初めて友人の齋藤(精一)とライゾマティクス名義で作品を発表しました。当時の「ライゾマティクス」は会社ではなく、アートユニット。その後2006年に「会社にしよう」という話になり、役員3人、社員1人の4人で「株式会社ライゾマティクス」を設立しました。

ライゾマティクスを世に知らしめたPerfumeとのコラボ

真鍋が30歳のときに、会社組織として始動した「ライゾマティクス」。ここから数々の実績を残しエンタメ界にその名を轟かせていくわけだが、転機となったのは、あのアーティストとのコラボレーションだった。

真鍋:Perfumeとの仕事が2010年にあって。僕はPerfumeのおかげで、プログラミングやデジタル技術を使ったパフォーマンスおよびアートの面白さが、日本に広く伝わっていった気がしているんです。またPerfumeの仕事に関しては、オファーのされ方も良かったと思っています。オファーは具体的になればなるほど、職人的に対応するしかない。たとえば、「舞台美術に合わせてプロジェクションマッピングがしたい」と依頼された場合、手法が決まってるから、こちらの仕事はコンテンツを考えるだけになってしまうわけです。

ただ、Perfumeとの初仕事となったドーム公演の依頼では、そんなことはなかった。演出家のMIKIKOさんからは「ドームで3人だけでパフォーマンスをするにあたって、普通であればバックダンサーを入れたりしてステージを大きく見せるけど、それはやりたくない。3人の存在感と3人の踊りが大きく見えるような表現を考えてほしい」という注文をいただきました。ある程度、抽象的なお題だったので、僕らもたくさん提案できる余白がありましたし、いろいろなプロトタイプを作って完成する度に観に来てもらうということもできました。しかも当時、ライゾマティクスは全然大きな会社ではなかったから、プロトタイプを作って実験するといっても、近所の公園に照明装置などを置いて、デモをMIKIKOさんたちに観てもらっていたんですよ(笑)。おそらく「大丈夫かな、この人たちは……」と内心思っていたはずなんですけど、ありがたいことに最後まで信じてもらえて。おかげで、さまざまなチャレンジができましたね。

「同じことはもうできない」初の大規模展覧会の思い出

真鍋を乗せた「BMW iX」は、首都高速9号深川線・木場ICを降りて、東京都現代美術館に到着した。同美術館は2021年の春から初夏にかけて、ライゾマティクス初の大規模個展であり、テクノロジー×アートの祭典である「ライゾマティクス_マルティプレックス」を開催した施設。思い出の場所にやってきた真鍋の脳裏には、2年前の情熱の記憶が蘇る。

真鍋:あの頃はコロナ禍の真っ最中でしたから。予定していた仕事がなくなり、みんながリモートになって全く会えない期間が続き、メンタル的にもかなりつらい時期でした。配信の番組を毎週金曜日にやったり、とにかく何かを作って発信しようと試行錯誤していましたね。そんなときに開催が決まったのが「マルティプレックス」でした。コロナで色々なダメージを受けて以来やっとみんな集まってでまたモノをつくれる機会でしたから、一人ひとりが特別な思いをもって取り組んでいたと思います。

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余談ですが、僕らの展示って作り手側から見ると、非常に効率が悪いんですよ(笑)。なぜかというと、同じ展覧会をまたどこか別の場所でやってほしいと言われても、できないくらい大変なことをやっているから。やりたいと思ったことは全部、展覧会の中に入れると意気込み、展示中もずっとアップデート、アップデートの繰り返しで…。それこそ、作り手の人が観に来たら「よくこんなことやったね」「この後どうするの?」と言われるくらいやり切った展覧会でした。同じことはもうできないですけど、あのとき、あの時代のスナップショットとして良いものになったと自負しています。

4月1日から4年ぶりの個展が開催

ライゾマティクス一丸で臨んだ「マルティプレックス」から2年――。真鍋は自身4年ぶりとなる個展「EXPERIMENT」を、4月1日から5月10日にかけて山梨県清春芸術村「光の美術館」にて開催する。チームではなく、一人のクリエイターとして久しぶりに手掛ける展覧会にどんな思いを抱いているのか。

真鍋:とてもラッキーなことに、今までチームとして数多くの大きなプロジェクトや展覧会をやる機会をもらってきましたが、今回は個展ということで原点回帰した作品を展示しています。

ライゾマティクス、そして個人としてますますの活躍が期待される真鍋。彼にとって“未来への挑戦“とは?

真鍋:「やってきたことをどれだけ捨てられるか」に尽きると思います。今までの知見・資産を活用することも大切ですが、本当に新しいことをやろうとなったら、それすらも捨てなければいけない。大変なことですけど、それが一番リスクが高いからこそ、自分含めてみんながやれないことなのかなという気がします。

『BMW FREUDE FOR LIFE』では、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招いて話を聞く。オンエアは毎週土曜 11:00-11:30。公式サイトはこちら(https://www.j-wave.co.jp/original/freudeforlife/)。

(構成=小島浩平)

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