“これぞ葉加瀬太郎の真骨頂”とも言える美しい楽曲が誕生した。伸びやかに広がる心地よいメロディに身を委ね、目を閉じれば、美しく雄大な風景が自然と目の前に広がっていくかのよう。そんな楽曲のタイトルが『BEAUTIFUL WORLD』だ。
同曲はSDGs週間「GLOBAL GOALS WEEK」が始まる9月17日から、COP27会期末(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)の11月18日までの2か月間、J-WAVEがSDGsを推進する「BEAUTIFUL WORLD」企画のために書き下ろされたもの。J-WAVE NEWSでは葉加瀬にインタビューを行い、日々、変容する世界に向けて放つ『BEAUTIFUL WORLD』の真意から、音楽家としての矜持まで話を聞いた。
J-WAVEのSDGsキャンペーンに向けた楽曲制作の依頼を受け、そのテーマに合った曲を、と作り始めました。実は『BEAUTIFUL WORLD』というタイトルを最初に決めて、そこからインスピレーションを膨らませていったんです。今作はバンドの有機的なサウンドではなく、コンピューターを駆使した、いわゆる打ち込みのサウンドで構築されています。このサウンド感は、実は2000年頃から何年も何年もシリーズ化して開催していたイベント「ライブ・イマージュ」から着想を得ています。
――というのは?
それまでのインストゥルメンタルコンサートというと、ジャズロックやフュージョン的なアプローチでテクニカルなものを競い合う音楽が多かった中、「ライブ・イマージュ」は、ゆっくりと音楽を鑑賞してもらって、ヒール(癒し)とリンクさせるというコンサートでした。そういったライブを20年近く行ってきたんですけど、この曲のコンセプトを考えるにあたり、僕の中で「『ライブ・イマージュ』的なものをリバイバルしよう」というアイデアが浮かび、そこからスタートしていきました。
意識するというより、それに尽きるという感じですね。日々、目の当たりにする視覚的なことはもちろん、旅先で感じる空気や風、そういうものは全て自分の頭に蓄積されていきますし、作曲というのはある種、その記憶を引っ張り出す作業。昭和の文豪であれば物語を書くために温泉宿に篭ったりしていたけど、僕にはそういうルーティーンがありません(笑)。ふとメロディが思い浮かんだときに、スマホのレコーダーで記録しておくんです。例えば釣りの最中なんかでもね。それらを定期的に聞き返して「使える/使えない」のジャッジをします。こうした書き下ろしのために引っ張り出してくることも、しょっちゅうあります。
――暮らしの中で生まれた音楽が作品へと繋がっていくのですね。お話に出た魚釣りも自然を感じるアクティビティですが、作曲にいい影響を与えますか?
音楽制作に直接良い影響を与えるというよりも、やっぱり釣りをすることでリフレッシュできることがいちばん大きいですね。海を相手にしていると、我々人間はこんなに大きなものの中で生活をしているのかと実感できる。月に1回でも、自然と触れ合うことで、環境について何かを考えるきっかけにもなるし、最近はキャンプがブームだけど、みんなそういうところに気がつき始めているからなんじゃないかな。
――地球の気温上昇などの問題で、これからの社会には、環境制約が重くのし掛かってくるという話も出ています。
今、自然環境は激変していますよね。夏の厳しい暑さに豪雨による水害。それこそ魚釣りに関連したことで言うと、釣れる魚種もここ10〜20年で変化しています。最近ではサンマが食べられなくなる可能性も報じられている。いろんなことが変化していく中で、自分たちは現実を認め、できるだけそれを食い止めていかないと、本当に手遅れになるんじゃないかな。
――世界を知る葉加瀬さんから見た、日本の現状はどう映っていますか?
環境問題に関して日本は、諸外国から遅れを取っている印象です。ヨーロッパのほうが意識が高く、ドイツや北欧なんかは特に進んでいる印象です。やはり地続きの環境でエネルギーをどうやって賄うかって考えると、同時に環境問題についても考えざるを得ないというか。ただ、日本も近い将来に大きな問題として自分たちの身に降りかかってくることなので、その意識は大きく変えていく必要があるんじゃないでしょうか。
――『BEAUTIFUL WORLD』は、地球環境についてはもちろん、あらゆる人の幸せを願うという意味も込められているのでしょうか?
ぜひ、そういうイメージでこの曲が広がっていってほしいと思っています。人間の歴史を振り返ってみると、何遍も同じことを繰り返している現実がある中、その悲劇の速度はどんどん加速していっている。コロナも3年が経って、そこから得られた時間や感覚というものもあるとは思うんですが、同時に失ったものの大きさは計り知れないと感じるんですね。
――葉加瀬さんが考える“失ったもの”とは?
こういったコロナ禍が長く続くと、生きていくことへの自主性が揺らぎますよね。人は何かをしたいと考えると行動的になるものだけど、今の時代はそれが簡単ではありません。とはいえ、誰のせいにもできないし、そうなると責任の所在も曖昧になっていく。「俺たちが悪いわけじゃない」という言い訳が成り立つと、いろんなことが麻痺していくと思うんです。だからこそSDGsのような環境問題もそうだし、人間のメンタリティそのものも持続させていかなくてはならないと強く感じているので、この曲がひとつそのきっかけになればと思っています。
――葉加瀬さんは音楽市場の変遷をどう見ていますか?
僕らの幼い頃、それこそ70年代はロックを中心とした音楽がカルチャーを引っ張っていました。ラジオ局も含めて、メディアとしての影響力が強かったんですね。その後、多くの娯楽が生まれ、エンターテイメントというジャンルが多岐にわたるようになり、今ではスマホに全てが入っていると言っても過言じゃない時代になりました。そんな今だからこそ、“良質な音楽”を人の耳に届けていかなければいけないと、業界に携わる人間として感じています。「いい音楽を聴いてほしい」と、シンプルに願っているんです。
音楽を楽しむという行為自体は、ローマ時代から変わっていません。J-WAVEのリスナーは音楽に対して高いアンテナを張っていると思いますし、「これからも音楽と共に生きてください」とメッセージを伝えたいですね。
――これからの時代、葉加瀬さんはどんな音楽を届けていきたいと考えていますか?
それはずっと変わっていません。まず、音楽を仕事にしている人はタイプが2つにわかれます。1つは「音楽のために生きるか」。そしてもう1つは「音楽を使って生きるか」。音楽を使って自分の人生を切り開くというのは、決して悪いことではないと思う。けれど、僕はそういう生き方を選びたくなかったし、音楽活動を始めてからずっと、できるだけ消費期限が長い音楽を生み出したいと考えているんです。
先日、ヴァイオリン人生も50年を迎えました。もう大ベテランだけれど、いつまで経っても「色あせない音楽を作りたい」という欲は尽きない。これからもそういった活動をしていきたいし、音楽家としての自らの矜持にほかならないと思います。
・「FUTURE IS YOURS ~Imagine & Choice~」公式サイト
https://www.j-wave.co.jp/special/futureisyours/
(取材・文=中山洋平)
同曲はSDGs週間「GLOBAL GOALS WEEK」が始まる9月17日から、COP27会期末(国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議)の11月18日までの2か月間、J-WAVEがSDGsを推進する「BEAUTIFUL WORLD」企画のために書き下ろされたもの。J-WAVE NEWSでは葉加瀬にインタビューを行い、日々、変容する世界に向けて放つ『BEAUTIFUL WORLD』の真意から、音楽家としての矜持まで話を聞いた。
「『ライブ・イマージュ』的なものをリバイバルする」というアイデア
――『BEAUTIFUL WORLD』というタイトルの通り、非常に美しいサウンドを楽しむことができます。どういった思いから、このような作品に仕上がったのでしょうか?J-WAVEのSDGsキャンペーンに向けた楽曲制作の依頼を受け、そのテーマに合った曲を、と作り始めました。実は『BEAUTIFUL WORLD』というタイトルを最初に決めて、そこからインスピレーションを膨らませていったんです。今作はバンドの有機的なサウンドではなく、コンピューターを駆使した、いわゆる打ち込みのサウンドで構築されています。このサウンド感は、実は2000年頃から何年も何年もシリーズ化して開催していたイベント「ライブ・イマージュ」から着想を得ています。
――というのは?
それまでのインストゥルメンタルコンサートというと、ジャズロックやフュージョン的なアプローチでテクニカルなものを競い合う音楽が多かった中、「ライブ・イマージュ」は、ゆっくりと音楽を鑑賞してもらって、ヒール(癒し)とリンクさせるというコンサートでした。そういったライブを20年近く行ってきたんですけど、この曲のコンセプトを考えるにあたり、僕の中で「『ライブ・イマージュ』的なものをリバイバルしよう」というアイデアが浮かび、そこからスタートしていきました。
世界を見てきた葉加瀬が、日本の環境問題について思うことは
――ヴァイオリニストとして世界中で活躍されている葉加瀬さんは、数々の国に訪れていますよね。長年、J-WAVEでナビゲーターを務める『ANA WORLD AIR CURRENT』でも、ゲストの方々と旅のお話で盛り上がっています。訪れた先で見た景色を曲作りに活かすことはあるのでしょうか?意識するというより、それに尽きるという感じですね。日々、目の当たりにする視覚的なことはもちろん、旅先で感じる空気や風、そういうものは全て自分の頭に蓄積されていきますし、作曲というのはある種、その記憶を引っ張り出す作業。昭和の文豪であれば物語を書くために温泉宿に篭ったりしていたけど、僕にはそういうルーティーンがありません(笑)。ふとメロディが思い浮かんだときに、スマホのレコーダーで記録しておくんです。例えば釣りの最中なんかでもね。それらを定期的に聞き返して「使える/使えない」のジャッジをします。こうした書き下ろしのために引っ張り出してくることも、しょっちゅうあります。
――暮らしの中で生まれた音楽が作品へと繋がっていくのですね。お話に出た魚釣りも自然を感じるアクティビティですが、作曲にいい影響を与えますか?
音楽制作に直接良い影響を与えるというよりも、やっぱり釣りをすることでリフレッシュできることがいちばん大きいですね。海を相手にしていると、我々人間はこんなに大きなものの中で生活をしているのかと実感できる。月に1回でも、自然と触れ合うことで、環境について何かを考えるきっかけにもなるし、最近はキャンプがブームだけど、みんなそういうところに気がつき始めているからなんじゃないかな。
――地球の気温上昇などの問題で、これからの社会には、環境制約が重くのし掛かってくるという話も出ています。
今、自然環境は激変していますよね。夏の厳しい暑さに豪雨による水害。それこそ魚釣りに関連したことで言うと、釣れる魚種もここ10〜20年で変化しています。最近ではサンマが食べられなくなる可能性も報じられている。いろんなことが変化していく中で、自分たちは現実を認め、できるだけそれを食い止めていかないと、本当に手遅れになるんじゃないかな。
――世界を知る葉加瀬さんから見た、日本の現状はどう映っていますか?
環境問題に関して日本は、諸外国から遅れを取っている印象です。ヨーロッパのほうが意識が高く、ドイツや北欧なんかは特に進んでいる印象です。やはり地続きの環境でエネルギーをどうやって賄うかって考えると、同時に環境問題についても考えざるを得ないというか。ただ、日本も近い将来に大きな問題として自分たちの身に降りかかってくることなので、その意識は大きく変えていく必要があるんじゃないでしょうか。
「良質な音楽を届ける」という、音楽家として矜持
J-WAVEは1988年の開局以来、SDGsの視点につながるメッセージやライフスタイルの提案を、世に先駆けて発信し続けてきた。それらの取り組みを「FUTURE IS YOURS ~Imagine & Choice~」と統括し、今後も様々な視点でサステナブルな社会を目指した全世界的な課題解決に向けて活動していく。
ぜひ、そういうイメージでこの曲が広がっていってほしいと思っています。人間の歴史を振り返ってみると、何遍も同じことを繰り返している現実がある中、その悲劇の速度はどんどん加速していっている。コロナも3年が経って、そこから得られた時間や感覚というものもあるとは思うんですが、同時に失ったものの大きさは計り知れないと感じるんですね。
――葉加瀬さんが考える“失ったもの”とは?
こういったコロナ禍が長く続くと、生きていくことへの自主性が揺らぎますよね。人は何かをしたいと考えると行動的になるものだけど、今の時代はそれが簡単ではありません。とはいえ、誰のせいにもできないし、そうなると責任の所在も曖昧になっていく。「俺たちが悪いわけじゃない」という言い訳が成り立つと、いろんなことが麻痺していくと思うんです。だからこそSDGsのような環境問題もそうだし、人間のメンタリティそのものも持続させていかなくてはならないと強く感じているので、この曲がひとつそのきっかけになればと思っています。
――葉加瀬さんは音楽市場の変遷をどう見ていますか?
僕らの幼い頃、それこそ70年代はロックを中心とした音楽がカルチャーを引っ張っていました。ラジオ局も含めて、メディアとしての影響力が強かったんですね。その後、多くの娯楽が生まれ、エンターテイメントというジャンルが多岐にわたるようになり、今ではスマホに全てが入っていると言っても過言じゃない時代になりました。そんな今だからこそ、“良質な音楽”を人の耳に届けていかなければいけないと、業界に携わる人間として感じています。「いい音楽を聴いてほしい」と、シンプルに願っているんです。
音楽を楽しむという行為自体は、ローマ時代から変わっていません。J-WAVEのリスナーは音楽に対して高いアンテナを張っていると思いますし、「これからも音楽と共に生きてください」とメッセージを伝えたいですね。
――これからの時代、葉加瀬さんはどんな音楽を届けていきたいと考えていますか?
それはずっと変わっていません。まず、音楽を仕事にしている人はタイプが2つにわかれます。1つは「音楽のために生きるか」。そしてもう1つは「音楽を使って生きるか」。音楽を使って自分の人生を切り開くというのは、決して悪いことではないと思う。けれど、僕はそういう生き方を選びたくなかったし、音楽活動を始めてからずっと、できるだけ消費期限が長い音楽を生み出したいと考えているんです。
先日、ヴァイオリン人生も50年を迎えました。もう大ベテランだけれど、いつまで経っても「色あせない音楽を作りたい」という欲は尽きない。これからもそういった活動をしていきたいし、音楽家としての自らの矜持にほかならないと思います。
・「FUTURE IS YOURS ~Imagine & Choice~」公式サイト
https://www.j-wave.co.jp/special/futureisyours/
(取材・文=中山洋平)
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