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母・樹木希林が語った「人間界の現状」 内田也哉子が海外生活で感じた“家族のあり方”

母・樹木希林が語った「人間界の現状」 内田也哉子が海外生活で感じた“家族のあり方”

文筆家・内田也哉子が、子ども時代の海外生活を振り返り、忘れられない旅の思い出や、印象的だった母・樹木希林さんの言葉を語った。

内田が登場したのは、ゲストに様々な国での旅の思い出を聞く、J-WAVEで放送中の番組『ANA WORLD AIR CURRENT』(ナビゲーター:葉加瀬太郎)。オンエアは4月22日(土)。

世界中の国々で過ごした子ども時代

俳優の樹木希林さん、ロックミュージシャンの内田裕也さんを両親に持つ内田也哉子。エッセイの執筆を中心に翻訳、作詞、ナレーションなどで活躍している。また、俳優の本木雅弘を夫に持つ、3人の子どもの母でもある。幼少期は日本、アメリカ、スイス、フランスなど、世界各地のさまざまな場所で暮らしていたそうだ。

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葉加瀬:小さい頃って、どんな人生だったんですか?

内田:実質、母子家庭でしたね。私は一人っ子で。インターナショナルスクールに通っていて学校の休みは2カ月ぐらいあって、母の手に負えないからっていうので、小学3年生からは一人でどんどん海外でホームステイをしていました。見ず知らずの方の家に滞在するプログラムに登録していて、なんていうのかな、子どもの頃、旅は楽しみっていうよりかは神経の擦り減る作業でした。「次はどこに飛ばされるんだろうな」って。

葉加瀬:「飛ばされる」って感覚なんだね。

内田:見ず知らずの方のお世話になるって、すごくストレスフルでもあるじゃないですか。

葉加瀬:そうだね。

内田:楽しいこともありましたけど。旅を通して私はもまれて成長できたし。母のポリシーが「私一人で人間を育てられるわけがない」だったから、世間にもまれて育ってほしいっていう。後付けかもしれないですけれど(笑)。そんな感じで、ちょっと無責任に放り投げられましたね。9歳のとき初めてニューヨークの、アジア人が一人もいない郊外で一年間。ちょっと「捨てられたのかな?」と思いましたね(笑)。

葉加瀬:そう思うよね。

内田:手紙も電話も一回も来ない一年間で。そろそろ期限が近付いてきましたよってときには、もう日本語が話せなくて。子どもだからすぐに(英語が)馴染んじゃったんですよね。帰ってきたら親とコミュニケーションがとれない日々が続いたっていう(笑)。

葉加瀬:すごいドラマティックだねえ。

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内田:大人になってからようやく旅の醍醐味みたいな、自由であることの面白さを知ったんですよ。子どもの頃はあまりにも自由を与えられすぎていて、その責任の重さ、すべて自分で責任を取らないといけないのが自由だって先に教わっちゃったから、むしろ怖くてしかたがなかった。

葉加瀬:そうだよね。インターナショナルスクールとはいえ、日本の学校のお友だちもいるでしょう? そういう子たちは価値観の差異を感じて生きていたんですか?

内田:すごく孤独な子ども時代でしたね。というのも、やっぱりインターナショナルスクールに通っている家族ってエクスパッツ(国外居住者)だったり、日本でもある程度ゆとりのある家庭が多いんですよ。私はお父さんがはちゃめちゃで家にいなくて、母親もほとんど仕事をしてたから、ごはんも小学校低学年から一人で作る鍵っ子で、すごく孤独だったんですね。なので、やっぱり友だちのなかにいても、何か浮いているなって自分自身が一番感じてた。無邪気に子ども同士で遊ぶのって、やっぱりお父さんとお母さんが家にいて「早く帰っておいで」と言ってくれるからこそ、いつまでも外で遊んでいたいって気持ちが生まれると思うんですよ。

葉加瀬:そうなんだよね。

スイスの学校に行きたい…母にプレゼン

そんな内田が自発的に海外へ行きたいと思ったのは、高校生の頃だったそうだ。

内田:思春期のモヤモヤがグレるとか反発するとかじゃなく、自分の生まれてきた意味を探すのはここじゃないんじゃないかと思って、「フランス語の学べる国に行きたい」と思って、フランスとカナダとスイスの大使館を自転車で巡って、一番親切だったのがスイス大使館だったんですね。パンフレットを見せてくれて、「一番いろんな子どもたちが来る学校はどこですか?」と訊いて自分で決めました。それからいろんな書類も自分で送って、母には「受かったから行ってもいいですか?」とあとで訊きましたね。ただ、ものすごく額が高いから却下されるだろうなと思いながらプレゼンをしたら、「いいわよ、振込先だけ教えて」と、数週間後には(スイスに)飛んでいましたね。我が家は確固たるポリシーがあるのかないのか不思議な感じで(笑)。子どもとしてもいつも拍子抜けするっていうか。「こういう風に言うだろうな」と思っているとそうじゃなくて、いつも裏切られていましたね。

葉加瀬:希林さんらしいよね。

内田:そうですね。天邪鬼なのかも(笑)。

葉加瀬:天邪鬼である人間の本質をちゃんと受け入れて人生を送られていた人だと思いますし、そうやって也哉子さんをお育てになられたんだろうなと思うよね。

「人間界の現状」忘れられない母からの言葉

現場にマネージャーをつけなかった樹木希林さんは、海外での撮影に内田を連れていくことが多かったそうだ。

内田:「言葉が通じるからこの子を通訳で連れていくわ」って言われて、平気で一週間とか二週間とか学校を休みましたね。母は二言目には「学校で勉強しているよりも世界を見たほうがあなたのためになるんじゃない?」と言ってました(笑)。当時の学校はすごく理解があって休ませてくれたので、本当にいろんな国に行きましたね。すごく印象に残っているのはエジプト。初めての中東文化との出会いだったので。そのときはドキュメンタリーの撮影だったから、母がいろんなエジプト文化と出会う番組でした。私もついていった手前なんとなく映っちゃってて、挙句の果てにはピラミッドも一緒に登っちゃって(笑)。

葉加瀬:あはは(笑)。

内田:そこで、すごく貧しいおうちにもお招きいただきましたし、サラリーマンの中流家庭にも呼んでいただいて、ものすごくゴージャスな暮らしも経験しました。普通の旅では味わえない、番組だからこそできた出会いがたくさんありましたね。

当時10歳ほどだった内田は、樹木希林さんから印象的な言葉をかけられたという。

内田:「人間って同じ国で同じ街にいても、一本道を隔てるとこれだけ生活水準が変わる。あなたは今そのことを理解できないかもしれないけど、これが人間界の現状だからよく覚えておきなさい。答えが出なくてもいいから、ずっとそのことを心に留めておける人間になりなさい」みたいなことを言われて。そのときはポカーンとしていましたけど(笑)、今になって思うと、やっぱりそれはものすごい財産をもらったんだなって感じますね。

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海外生活で知った“家族のあり方”の多様性

海外のさまざまな家庭の暮らしを経験した結果、内田は“家族のあり方”を改めて認識したという。

内田:孤独な子ども時代だったけど、違う家庭を見ると、それぞれ抱えている問題がある。一見楽しそうで幸せそうな、お父さんもお母さんもそろっている家庭でも、住んでみるとわかる事情が子どもながらに肌で感じることができました。「私はこれでいいんだ。こういうスタイルの家族で育ったけど、それを卑下することはないんだ」ってのも、文化とは別の部分で教えられたっていうか。もちろん「こんなハッピーな家族がいるの!?」ってところもありましたし、「やっぱり人間は一筋縄ではいかないな」と思うこともありました。

葉加瀬:ものすごい大金持ちが幸せなのかって言ったら、ね?

内田:全然そうじゃないんですよね。

葉加瀬:出会って確認して自分の立ち位置を知る。そこから自分がどうなってどこに行きたいか。

内田:早くに荒波に飲まれると、そういうことが突きつけられるんですよね。

葉加瀬:今の年齢になっても繋がっている人はいますか?

内田:フランス、イタリア、中国、台湾、アメリカもいるし、たぶん全大陸にいますね。それはスイスの高校に行って一番広がりましたね。あそこほど国籍が混ざっているところはなかった。その時代の経済状況で、私が行ったときは少し日本人が多かったです。25歳の息子が中学生のときに行ったときは、中東の人がすごく多かった。今のスイスってどうなんですかね? スイスのボーディングスクール(全寮制学校)を見ると世界情勢がわかるって聞いたことがあるんですけど。

葉加瀬:アラブは相変わらず多いと思いますよ。

内田:政治家の人たちは、内戦があると子どもをスイスに送るって言いますもんね。中立国だから、いろんな国の状況の人たちが来て。「あの人のお父さんは独裁者の手下だ」とかね。あとは、世界でも有名な俳優の息子さんが全然立ち行かなくて困っているとか(笑)。そういうのを見るのも面白いですよね。私は固定観念があって、「あの人はこういう人であろう」ってラベルを貼ってしまうんだけど、とんでもない、人間の奥深さはこんなものではないっていう洗礼を最初に受けた国がスイスでした。

葉加瀬:学校生活は楽しかったですか?

内田:楽しかったですね。いままでは家に帰っても人がいなかったけど、寮だったらいっぱいいましたから。むしろ一人になりたいぐらいいて(笑)。喧嘩はするわ、歓声は上がるわで、じっとしている時間がない。そういうなかでホームシックになる子もいるし、いろんなことが起きるんです。ドラマを濃縮して体験した感じだったので、あれは何物にも代えがたい。そういう経験があったので、最初の子どもにはその国に行かせたいなと思ったんですよね。

葉加瀬太郎がお届けする『ANA WORLD AIR CURRENT』は、J-WAVEで毎週土曜19:00-20:00オンエア。

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