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日本は「休む国」ではなく「休ませる国」 有給休暇の課題とは

日本は「休む国」ではなく「休ませる国」 有給休暇の課題とは

「働くこと(休むこと)」について、千葉商科大学准教授で働き方評論家の常見陽平さんと、藤原しおりが語り合った。常見さんが登場したのは、J-WAVEの番組『HITACHI BUTSURYU TOMOLAB. ~TOMORROW LABORATORY』。オンエアは8月6日(土)。

同番組はラジオを「ラボ」に見立て、藤原しおりがチーフとしてお届けしている。「SDGs」「環境問題」などの社会問題を「私たちそれぞれの身近にある困りごと」にかみ砕き、未来を明るくするヒントを研究。知識やアイデア、行動力を持って人生を切り拓いてきた有識者をラボの仲間「フェロー」として迎えて、解決へのアクションへと結ぶ“ハブ”を目指す。

今は「安心・安全・安定」を前提に生きられない社会

常見さんは一橋大学大学院社会学研究家修士課程を修了、リクルート、バンダイ、コンサルティング会社、そしてフリーランスの活動を経て、現在は千葉商科大学国際教養学部准教授。雇用、労働、若者論などをテーマに執筆・講演活動もおこなっている。

そんな常見さんが「仕事をする意味」について、時代による変化とともに解説した。

常見:この30年ぐらいの日本社会は、数年ぐらい前までは「自分探しの時代」だったと思うんですよね。猿岩石が「ユーラシア大陸を横断するぞ」みたいなのも、広い意味で自分探しでした。そもそも、その前の尾崎 豊の歌詞なんかも「自分探しの象徴」という風に言われたんですね。しかもこの20年間ぐらい、自己啓発がはやって「もっとできる人になる」「成長する」「自分らしく生きる」みたいなことがキーワードになっていたんですけど、そのわりには現実路線で言うと「生きていくため」「お金のため」というのがシェアを占めているなと。いま「安心」「安全」「安定」が前提じゃない社会に生きているんです。

藤原:そこが強く言われるということは「そうじゃない」ことの裏返しだと。

常見:突き詰めると2020年から2022年、コロナショック、ウクライナショックなどもあり、「安心」「安全」「安定」を前提に人々が生きていけない時代になった。特定の職業を差別的に言うつもりはありませんが、一部の業界が致命的なダメージを受けたり、正規と非正規でいうと非正規雇用の方がダメージを受けたり、フリーランスがダメージを受けたり。そういったなかで生きていくため、お金のためという部分が非常に大きくなりました。

常見さんによると「働く理由」は大きく2つに分けるとすると、「生きていくため」と「喜びのため」であると話す。

常見:「喜びのため」という理由が重視されていた時代がいいのかと言ったらそんなことは決してなくて。皮肉なことに「喜びのため」を重視した結果はびこったのがブラック企業です。ブラック企業って意外と居心地がいいんです。それはなぜかと言うと、キツい仕事を乗り越えるために、ものすごくモチベーションが上がるようになっている。たとえば目標達成したらボーナスをはずむとか、あるいは表彰制度がやたらとあるとか。モチベーションを管理するために上司は部下に対する声掛けだとか、メチャクチャ工夫しているんです。

模索した30代、転職に迷いはなかったのか

常見さんが現在の仕事に至るまでの人生を振り返った。幼稚園のときには七夕に「作家になりたい」と書くほど、文章を読むのが大好きな少年だったそうだ。大学卒業後はリクルートに8年半務め、その後バンダイへ。しかし「大きな会社で小さなことをやるよりも、小さな会社で大きなことをやりたい」と思い、ベンチャー企業に飛び込む。そのため転職するたびに年収は200万円ずつ落ちていったという。

常見:30代は模索でした。

藤原:そのときって「これでいいのかな?」と思ったりはしたんですか?

常見:思ったりしたんだけれども、すごく自然な選択で。僕は「自分のブランドで有名になろう」と思って、会社はOKしてくれたから本を出したり講演したりメディアに出たりという活動をしていて、そのあとに自分には勉強が足りないと思って、ちょうど10年前に大学院に入り直しました。

藤原:そのタイミングだったんですね。

常見:そのへんでも非常勤講師はやってたんですけど、2015年から千葉商科大学の教員をやっていて、こういう言論活動をしているんです。だから「このままでいいのかな?」とか、いろいろ悩む時期があるんだけど、明確に自分が「移ろう、こっちしかないよな」と思う瞬間、気持ちよく前の会社は辞めているんです。模索の繰り返しですね。ただ、「作家になりたい」と書いたことは一応達成しているんです。いままでで40冊本を出してきたので。

藤原:達成してますね! そんな常見さんに「なぜ働くんですか?」という問いが学生さんからきたりしませんか?

常見:月並みだけど僕「稼ぐため」と「喜びのため」だし、「社会のため」「みんなのため」「自分のため」だと思う。生きてきて突き詰めると社会や会社を少しでもよくしたという実感が持てるためかなというのと、「ああ、楽しかったな」と言って人生が終われたらというね。その瞬間に向けてなのかなという風に思っています。

日本は「休む」というより「休ませる」

日本で働く人の有給休暇の取得率は6年ぶりに改善し、過去11年の調査のなかでは最高となる60パーセントを記録したと、総合旅行ブランド「エクスペディア」が、世界16地域1万4544名を対象に実施した2022年の「有給休暇の国際比較調査」で発表されている。

しかし同調査における「休暇中に連絡を遮断するか?」という質問で日本は「遮断しない」と回答した人が16地域中もっとも多い結果となった。

常見:有給取得率が上がっているのはいいことですけど、その中身が気になります。つまりテレワークがコロナの影響などで広がったことにより、有給休暇はとるけど、オンラインで仕事をしていないか?みたいなところがあります。そもそも論で、2010年代後半に法律が変わって、年10日以上の有給が付与されている人は企業側の責任として年5日はとらせなさいよ、みたいなことが施行されています。「本当に上がったのか?」というのは疑問を持たないといけません。

常見さんは日本と諸外国の休みの違いについて、特にヨーロッパ諸国は休みを自分の裁量でとれる社会だが、日本は「休む国」ではなくて「休ませる国」なのだと解説した。

常見:「全員かならず5日間有給をとりなさい」というのも、さまざまな形で休むことが権利から義務にすりかわってきている、ということがひとつの論点です。いまサービス業に務める方がGDPベースでも就労者ベースでも7割ぐらいの国になっています。そういった方々にとってどうなのかとか、非正規雇用がこれだけ増えているなか、その休み方ってどうなのかというところで、自由に柔軟にもっと休めるのかが論点です。「つながらない権利」「オフラインの権利」はフランスで2010年代半ばに始まりました。ですが実際の議論はとても深くて、スマートフォンが普及する前の2000年代前半ぐらいから議論しているんです。日本も実はやっていないわけではなくて、企業単位では「サーバーを遮断する」「PCが特定の時間になると強制的に落ちる」といったこともやっています。ただしそこで「仕事」というよりも「会社」というものに帰属している国であるがゆえに、「仕事に就く」じゃなくて「会社に入っている」社会なんです。そういうことがあって「つながらない権利」よりも「つながる義務」が優先されてないかというね。ここが1つの論点です。

就職や転職に必要な「プチサプライズ感」

常見さんが就職や転職についての考えを述べた。

常見:就活マニュアル本には「軸を作りなさい」「業界・企業を絞り込みなさい」と書いてあります。間違ってはいないんですけど、時期ややり方によるんです。「私はラジオが好きだったから絶対にラジオ局に入るんだ」って、わかりやすいんだけど軸でもなんでもなくて。それが「人に影響を与えたい」「人に伝わるなにかを作りたい」といったときに、実はそれは化粧品メーカーや食品メーカーでもできるんじゃないかみたいな感じで、連想ゲームでどんどん広げていったりとか。個人的に思うのが、就職・転職って「プチサプライズ感」が必要だと思うんです。「僕にこの選択肢あったんだ。でも合ってるかもしれない」というね。自分も成長できるし、周りにも喜んでもらえる一皮むける仕事になるんじゃないかなって思います。

藤原:成長していくなかで「こんな仕事もあるんだ」「こんな働き方もあるんだ」というのを、その都度考え方を変えて仕事を変えていくのは、「ダメだったからこっちにする」とかじゃないんだという、ポジティブな意味なのかなと思えてきました。

同番組では13日(土)も「働くこと(休むこと)」をテーマにお届け。ジェーン・スーがゲスト出演する。オンエアは20時から20時54分。

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2022年8月13日28時59分まで

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番組情報
HITACHI BUTSURYU TOMOLAB.〜TOMORROW LABORATORY
毎週土曜
20:00-20:54