J-WAVEで放送中の番組『CLASSY LIVING』(ナビゲーター:村治佳織)。3月20日(土)のオンエアでは、直木賞作家の桜木紫乃がリモート出演。作家デビューに至るまでの経緯や、新刊となる初の絵本『いつか あなたを わすれても』(集英社)、書く技術を上げる方法について語った。
桜木:小説を書き始めて4年くらいで、わりと簡単に新人賞を獲ってしまったので「これはちょろいぞ」と。こんな簡単に賞をもらえるものなんだ、私は天才ではないかと思ったのが大間違いでした。それから6年近くデビューできなくて、ずっと寝てましてね。毎日書いていたんですけど、活字になるわけでもなく。
村治:その時期は「もう少しこうしたらどうか」など編集者のアドバイスがあったりするんですか?
桜木:4年を過ぎた頃は、そういう状態じゃなく、誰からも連絡が来ないという。それでもずっと編集部に作品を送っていたんです。誰が担当かわからない状態で。そこから2年くらいでデビューすることになりました。1年ですぐに有名になる人もいる世界ですけれど。
その後、『ホテルローヤル』で直木賞を受賞。仕事が途切れることはなく、桜木は「追いかけながら、追いかけられながら書いている」と表現した。
村治:最初に『ホテルローヤル』が注目されたときは「新官能派」と言われたそうですね。
桜木:びっくりですよね(笑)。「官能って言われてもな」という気はしたんですけど、そういうことを求められているのであれば、そういうのも書けるようにならなきゃって気負ってたところはあると思いますね。30代、40代は官能というか男女のことに興味があったんだけれども、50代半ばを過ぎてきますと、最近は家族のことに特化して物事を考えることが増えました。
村治:桜木さんの『家族じまい』(集英社)を読ませていただきましたが、まさしく家族のお話ですよね。
桜木:ええ。書き手も歳を取るんですね。
もともと専業主婦をしていた桜木が小説を書き始めたのは「一種の反逆だった」と語り、「いい嫁でいい娘だったところから、ちょっと飛び出してみようかな」と感じたことが大きな動機だったそうだ。
桜木:何か家族関係について確かめたいことがあったんだと思います。
村治:その旅は今も続いているわけですね。
桜木:続くんですよね。終わらないですね(笑)。
桜木:文章だけで何かを伝えるということを20年もやってきたんですけど、初めて文章を削いで説明をとって、絵を描く人に任せようって気持ちになりました。任せられることは任せようって。
【『いつか あなたを わすれても』あらすじ】
記憶という荷物を下ろし始めたさとちゃんは、ママのおかあさん。そして、わたしのおばあちゃん。おばあちゃんに忘れられてしまったママはこれまでの思い出の荷造りを始める。「あんしんしていいよ。これは、たいせつな、たいせつな、わたしたちのじゅんばん」。やがて訪れるお別れを前にして、ママからおばあちゃんへの、そしてわたしへの思いが語られる…。
(集英社公式サイトより)
桜木:認知症のおばあさんをお母さんはどう思っているのか、それを孫がどう見ているのかということを孫の視点で書きました。
村治:私はこの絵本を読む直前に『家族じまい』を読んだんですけど、それも主人公のお母さんが認知症になるっていうテーマでしたよね。
桜木:実際に私の母も認知症で、あるとき、私の名前を忘れたんですよ。そのときに自分が全く悲しくなかったので、ものを書くことでその悲しくない理由を知りたいなと。いつもものを書く時の動機は知りたいとか、好奇心なんですけどね。自分の気持ちを知りたいというベースがあって書いたものだったと思います。
村治:やはり桜木さんの作品はご自身の思いや経験がかなり反映されているんですね。絵本にも、ママは悲しくないんだけどね、という悲しくないことに驚いている描写がありましたよね。
桜木:それは私の経験そのままですね。
桜木:昭和50年を舞台にしたお話で、20歳の「俺」が勤めるキャバレーにマジシャンとブルーボーイとストリッパーがやってきたという、一カ月間の共同生活の疑似家族を書いてみようと思いました。
村治:この作品も家族がテーマですね。家族のかたちだけれども、血縁関係とは違う家族がどうなっていくかと。
桜木:『家族じまい』ではリアルな家族を書いて、この本では疑似家族を書いて、自分の中でうまいことバランスを取れたなって思いました。
数多くの作品を生み出す桜木に村治は「書く技術を上げていくには何が必要か」と問うと、過去に作家の小池真理子から受けたアドバイスを紹介した。
桜木:小池さんから「短編を書きなさい」と言われたことがあって。「30枚のものを書けたらどんな長編でも書けます」って。だから集中的にずっと30枚の(短編)を勉強していた時期がありました。今も短編というと30枚を意識して書いているんですよね。
村治:30枚で起承転結を表すことができるんですかね。
桜木:30枚でちゃんと物語に遠近をつけて人を書いて景色を書いていくと、無駄なことが一切書けないんですよね。30枚は、腕が全部出ちゃうので怖い枚数です。きっとCMみたいなものですね。無駄なカットは一切入れられないけど、そのお話の全部を見せなきゃいけないので。
村治:だからこそ桜木さんの短編をまた読んでみたいという気持ちが高まりますね。
最後に桜木は今後について「最近、歌詞を書かせていただいたり、短文を書かせていただいたりしていて、年齢も56歳ですしね、ワクワクしたら何でもやってみようという気持ちでいる」と語った。いつか自分が書いた歌詞に村治が曲を付けてほしいと要望すると、村治は「よろしいんでしょうか」と喜んだ。
極上の音楽に包まれるゆったりとした週末の54分のプログラム『CLASSY LIVING』の放送は毎週土曜日20時から。
小説を書き始めたのは一種の反逆だった
桜木は『ホテルローヤル』(集英社)で直木賞を受賞し、以後快調に新作を発表。小説に加え、詩や歌詞、エッセイなど幅広く文筆活動を続けている。讀物新人賞を受賞したのは2002年だが、そこから2007年のデビュー作『氷平線』(文藝春秋)の刊行に至るまでは苦労したという。桜木:小説を書き始めて4年くらいで、わりと簡単に新人賞を獲ってしまったので「これはちょろいぞ」と。こんな簡単に賞をもらえるものなんだ、私は天才ではないかと思ったのが大間違いでした。それから6年近くデビューできなくて、ずっと寝てましてね。毎日書いていたんですけど、活字になるわけでもなく。
村治:その時期は「もう少しこうしたらどうか」など編集者のアドバイスがあったりするんですか?
桜木:4年を過ぎた頃は、そういう状態じゃなく、誰からも連絡が来ないという。それでもずっと編集部に作品を送っていたんです。誰が担当かわからない状態で。そこから2年くらいでデビューすることになりました。1年ですぐに有名になる人もいる世界ですけれど。
その後、『ホテルローヤル』で直木賞を受賞。仕事が途切れることはなく、桜木は「追いかけながら、追いかけられながら書いている」と表現した。
村治:最初に『ホテルローヤル』が注目されたときは「新官能派」と言われたそうですね。
桜木:びっくりですよね(笑)。「官能って言われてもな」という気はしたんですけど、そういうことを求められているのであれば、そういうのも書けるようにならなきゃって気負ってたところはあると思いますね。30代、40代は官能というか男女のことに興味があったんだけれども、50代半ばを過ぎてきますと、最近は家族のことに特化して物事を考えることが増えました。
村治:桜木さんの『家族じまい』(集英社)を読ませていただきましたが、まさしく家族のお話ですよね。
桜木:ええ。書き手も歳を取るんですね。
もともと専業主婦をしていた桜木が小説を書き始めたのは「一種の反逆だった」と語り、「いい嫁でいい娘だったところから、ちょっと飛び出してみようかな」と感じたことが大きな動機だったそうだ。
桜木:何か家族関係について確かめたいことがあったんだと思います。
村治:その旅は今も続いているわけですね。
桜木:続くんですよね。終わらないですね(笑)。
母が認知症になり、私の名前を忘れてしまった
桜木が3月に刊行する初の絵本『いつか あなたを わすれても』をいち早く読んだ村治は、「おばあちゃんとお母さんと少女と、3世代の心の中で起こるお話ですので、読み手にとってもどの世代の人でもスッと入ってくるかなという感じがした」と感想を述べる。桜木:文章だけで何かを伝えるということを20年もやってきたんですけど、初めて文章を削いで説明をとって、絵を描く人に任せようって気持ちになりました。任せられることは任せようって。
【『いつか あなたを わすれても』あらすじ】
記憶という荷物を下ろし始めたさとちゃんは、ママのおかあさん。そして、わたしのおばあちゃん。おばあちゃんに忘れられてしまったママはこれまでの思い出の荷造りを始める。「あんしんしていいよ。これは、たいせつな、たいせつな、わたしたちのじゅんばん」。やがて訪れるお別れを前にして、ママからおばあちゃんへの、そしてわたしへの思いが語られる…。
(集英社公式サイトより)
桜木:認知症のおばあさんをお母さんはどう思っているのか、それを孫がどう見ているのかということを孫の視点で書きました。
村治:私はこの絵本を読む直前に『家族じまい』を読んだんですけど、それも主人公のお母さんが認知症になるっていうテーマでしたよね。
桜木:実際に私の母も認知症で、あるとき、私の名前を忘れたんですよ。そのときに自分が全く悲しくなかったので、ものを書くことでその悲しくない理由を知りたいなと。いつもものを書く時の動機は知りたいとか、好奇心なんですけどね。自分の気持ちを知りたいというベースがあって書いたものだったと思います。
村治:やはり桜木さんの作品はご自身の思いや経験がかなり反映されているんですね。絵本にも、ママは悲しくないんだけどね、という悲しくないことに驚いている描写がありましたよね。
桜木:それは私の経験そのままですね。
「30枚の短編を書けたらどんな長編でも書けます」と言われ…
最新小説は、2月に上梓した『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』(KADOKAWA)だ。桜木:昭和50年を舞台にしたお話で、20歳の「俺」が勤めるキャバレーにマジシャンとブルーボーイとストリッパーがやってきたという、一カ月間の共同生活の疑似家族を書いてみようと思いました。
村治:この作品も家族がテーマですね。家族のかたちだけれども、血縁関係とは違う家族がどうなっていくかと。
桜木:『家族じまい』ではリアルな家族を書いて、この本では疑似家族を書いて、自分の中でうまいことバランスを取れたなって思いました。
数多くの作品を生み出す桜木に村治は「書く技術を上げていくには何が必要か」と問うと、過去に作家の小池真理子から受けたアドバイスを紹介した。
桜木:小池さんから「短編を書きなさい」と言われたことがあって。「30枚のものを書けたらどんな長編でも書けます」って。だから集中的にずっと30枚の(短編)を勉強していた時期がありました。今も短編というと30枚を意識して書いているんですよね。
村治:30枚で起承転結を表すことができるんですかね。
桜木:30枚でちゃんと物語に遠近をつけて人を書いて景色を書いていくと、無駄なことが一切書けないんですよね。30枚は、腕が全部出ちゃうので怖い枚数です。きっとCMみたいなものですね。無駄なカットは一切入れられないけど、そのお話の全部を見せなきゃいけないので。
村治:だからこそ桜木さんの短編をまた読んでみたいという気持ちが高まりますね。
最後に桜木は今後について「最近、歌詞を書かせていただいたり、短文を書かせていただいたりしていて、年齢も56歳ですしね、ワクワクしたら何でもやってみようという気持ちでいる」と語った。いつか自分が書いた歌詞に村治が曲を付けてほしいと要望すると、村治は「よろしいんでしょうか」と喜んだ。
極上の音楽に包まれるゆったりとした週末の54分のプログラム『CLASSY LIVING』の放送は毎週土曜日20時から。
この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。
radikoで聴く
2021年3月27日28時59分まで
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
番組情報
- CLASSY LIVING
-
毎週土曜20:00-20:54
-
村治佳織