音楽、映画、エンタメ「ここだけの話」
映画監督・黒沢 清、「これが映画なんだな」と感じる瞬間は? 音楽家・大友良英が共感

映画監督・黒沢 清、「これが映画なんだな」と感じる瞬間は? 音楽家・大友良英が共感

坂本龍一がナビゲートする、J-WAVEで放送中の番組『RADIO SAKAMOTO』。3月7日(日)の放送では、療養中の坂本に代わって音楽家の大友良英がナビゲート。ここでは、映画監督の黒沢 清と大友とのリモート対談の様子をお届けする。映画『岸辺の旅』や大河ドラマ『いだてん』の音楽の話や、映画館への思いを語り合った。

オーケストラを使った、贅沢な映画音楽

大友は黒沢が監督した2015年公開の映画『岸辺の旅』で音楽を担当。大友は当初「映画音楽にオーケストラを使いたい」という黒沢のアイデアに驚いたと振り返る。

大友:黒沢さんのアイデアがすごく面白くて。最初、映像とか本を見たときにオーケストラっていうアイデアは全くなかったんです。通常の日本映画だとあまりオーケストラは使わず、ピアノとか小さい編成でやっていくんですよね。だからオーケストラと言われたときは「この映像と合うかな」と思ったんですけど、頭の中でシミュレーションしてみると全然映画の見え方が変わるなって思って。あのときはびっくりしました。
黒沢:そんなに規模の大きな映画ではなかったんですけれども、生音でやりたいと思っていたので、つい「オーケストラで」と口走ってしまい。そのときはオーケストラといっても、いくつかの生楽器はあるけれどメインは打ち込みで作るんだろうなと思っていたら、実際は本当にオーケストラで逆にこちらがびっくりでした。
大友:今の音楽を作る方たちは打ち込みもすごく多いし、打ち込みでも全然遜色ないくらいできるんですけども、ただ僕は技術的に打ち込みの技術がないので、そうすると人に依頼することになっちゃうからそれは嫌かなと。せっかくオーケストラを使えるならオーケストラでやりたいなと思いました。
黒沢:これまで僕はいろんな映画でオーケストラっぽい曲を作ってきたんですけど、本当に全てが生楽器で全てが本当のオーケストレーションの構成で映画を作ったのはこの作品が初めてでした。音楽的に言うと、実はあの映画がいちばん贅沢だったんですよね。
大友:オーケストラでやっちゃうとスタジオミュージシャンのギャラもそこそこかかりますもんね。小ぶりのオーケストラではあったのですが。
黒沢:とても楽しかったです。本当にありがとうございました。
大友:こちらこそ。これまでに映画の音楽で世界の見え方が変わる経験は何度かしているんですけども、あんなに変わったことないっていうくらい僕にとっては変わりましたね。

黒沢が思う「映画監督」の仕事とは

黒沢は映画の音楽について、“はっきりとしたイメージ持って依頼をしなくても、この人であれば自分が予想もしない効果をつくり出してくれるだろう”と考えて依頼をするそうだ。

黒沢:『岸辺の旅』では「音楽でこんなになっちゃうんだ」というのがいちばん強烈に表現できたのですごく嬉しかったですね。ああなるとは全然思っていませんでした。いつも映画を作るときは何か思いもよらぬことになるだろうと思いますし、それはもう楽しみですね。
大友:それは音楽だけではなくて黒沢監督の撮り方にもそういうものを感じるんです。100パーセントでコントロールしているわけじゃなくて、そこで起こってしまったことを逃さないような感じってあるんじゃないですか。
黒沢:そうですね。そんなにいつもメチャクチャなことはしていないですし、脚本通りにやってはいるんですけど、俳優が思わぬ表情をしたり、カメラマンも思わぬ方向から撮っていたりすると、「これが映画なんだな」と感じてとても楽しいですね。しめしめ、みたいな感じで現場をやり過ごしています。
大友:ちょっと距離を置くと、(黒沢さんって)悪い人だなって思います(笑)。
黒沢:いやいや、全然悪さはなくて、映画監督ってこういう仕事なんだと思います、文字通り“監督”ですね。自分に何かの才能があってそれを発揮しているんじゃなくて、いろんな人の才能をちょこちょこといただいて、まとめさせていただいているという。ただ、おそらく監督がいないとまとまらない。あまりにみなさんには才能があるので、その才能をそこそこの部分でつなぎ合わせるのが僕の仕事ですかね。
大友:それは音楽のバンドのリーダーとかディレクターをやっていてもそうです。野放しにするとすごく楽しくはなるんですけど、通常は形にはならないですよね、2、3人ならなるんですけども、それ以上の大きな規模になるとやっぱり必ずそういう(監督みたいな)ものがいないと。

大友は「『岸辺の旅』は映像に音楽が付くことで映画の外側に世界がすごくある」と実感したという。

大友:もともと『岸辺の旅』は現実の世界とそうではない世界があるように見える映画であり、そもそもリアルじゃないストーリーなのに、よりそういう感じがしたという。音楽が付いてない状態で観たときと付いてからとで変わりましたね。
黒沢:そのために大友さんにあそこまで分厚いというか、脚本を読んだだけではたぶん想定できない複雑な音楽を作っていただいたんです。
大友:いやあ、思いつかなかったですね。

大河ドラマ『いだてん』の音楽のヒントになった

大友はNHKの大河ドラマ『いだてん』の音楽を担当。黒沢は「めちゃくちゃよかった」とその音楽を絶賛する。

黒沢:僕、大河ドラマは結構観ているんです。
大友:そうなんですか、意外ですね。
黒沢:知り合いの俳優が出ているという理由もあるんですけど。冗談抜きに大概観ていて。1年間にわたってドラマを観るのでそのテーマ曲って嫌でも頭に入ってくるんですけど『いだてん』の曲は頭に入るのが早かったですよ。3話目ぐらいで、もう口ずさんでいましたから。
大友:やった。当然テレビの音楽を作るときは、それを目標にしていますからね(笑)。キャッチーにつかむっていう。黒沢監督と一緒に仕事をした少しあとくらいから本格的に『いだてん』の打ち合わせが始まったので、オーケストラ使った経験はそのあとに実はすごく参考になりました。
黒沢:そうですか。
大友:僕はそんなにオーケストラをやっていませんでしたから。大河ドラマはどうしてもオーケストラを使わなきゃいけないみたいな問題が出てくるので、僕の中で実は『岸辺の旅』と『いだてん』はつながっているんですよね。

映画はまだ存続すると信じている

新型コロナウイルスの影響により映画界も大きな打撃を受けている。映画を自宅で観る人も多くなっているが、その状況を黒沢はどう感じているのだろうか。

大友:映画はなるべく映画館で観てほしいという思いがありますか?
黒沢:それはできたら映画館で観てほしいですよね。でも時節柄、パソコンやテレビで観るのも仕方がない。ただ一方で『鬼滅の刃』の映画が大ヒットしているとか、客を半分しか入れてないけど新作が公開されていると映画館で観るとか。日本ではそうですよね。
大友:映画館もそこそこ人は入っていると聞きましたけど。
黒沢:数日前にイタリアにいる人と話したんですけど、イタリアはもちろんフランスも映画館が1年間も閉まっているんですよね。1年間全ての映画館が閉じていると「ああ、映画は終わったかもしれない」という気になってくるだろうなと。それは恐ろしいですね。幸い日本はそうなってはいないので、客が減っているとか、ちょっと閉めたけどまた開けてるとか、いずれ行けばいいんだとか、新作はやっぱり公開されたりしてるわけです。でも1年間も映画館が閉まっている状況って考えるとちょっとゾッとしますね。下手するとこの世からなくなってしまうんじゃないかっていう嫌な感じ。
大友:映画を上映する場所がなくなってしまうかもしれないし、そこへ行く習慣が消えてしまうかもしれないってことですよね。
黒沢:そうですね。映画館はもう思い出の中にしか存在しなくなるのかもしれないという。
大友:「昔、映画館があったんだよ」っていう話をしなきゃいけなくなる。
黒沢:そうなんですよね。まだ日本だとピンと来てないんですけど、ヨーロッパあたりではものすごくその危惧があるようですね。

黒沢は「映画はまだ存続する」と信じて、次回作の構想を練っていると言う。

黒沢:映画館で上映される映画の企画を何本か進めていています。みなさん「やろうやろう」と言ってはいるものの「本当にやれるのかな」という不安はどこかにはありますけどね。
大友:カンヌ国際映画祭で賞を獲られたりした関係もあると思うんですけど、黒沢監督は海外からのオファーあったりするんじゃないですか。
黒沢:実はあるんですよ。まだあまり言えない面もあるんですけど。海外だとみなさんポジティブで「やろうやろう」と言うし、かけ声だけじゃなくて着々といろんなものを作りつつあるようです。作品を作って「これ上映されるの?」と訊くと「まだ、それはわからないんだがね」と言われる。映画館が完全に閉じている分、作ることはできるし、「ここで作らなくなったらもう本当に終わりだ」っていう危機感もあるようで、まだ上映形態ははっきり分からなくても、可能な限り作ろうという気運は高まっているようですね。「今は作ることでしか映画が存続できないかもしれない」みたいな。だから海外では「コロナが何とか収まったらやりましょう」という企画を進めたりはしています。
大友:それは楽しみですね。

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