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「話し合いが苦手な男性」が多いのはなぜ? “男らしさ”という社会規範が生み出す問題

「話し合いが苦手な男性」が多いのはなぜ? “男らしさ”という社会規範が生み出す問題

J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:SKY-HI)のワンコーナー「WORLD CONNECTION」。1月17日(日)のオンエアでは、男性が抱える生きづらさや問題について考える「男性学」を取り上げた。

男性学とはどんな学問?

『ACROSS THE SKY』では昨年末、リスナーとのオンラインディスカッション企画「話そう!」を実施し、番組内で取り上げてほしいトピックを募った。今回の「WORLD CONNECTION」では、リスナーからの要望を受けて「男性学」をピックアップ。男性学とは、男性が抱える生きづらさや問題について考える社会学のひとつだ。

ゲストに登場したのは、「恋バナ収集ユニット」桃山商事代表・清田隆之。清田はこれまで1200人以上もの恋バナを聞き集め、恋愛とジェンダーの問題についてコラムやラジオで発信。男性問題を取り上げたエッセイ集『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)など、多数の著書を持つ。

玄理:まずは、清田さんが考える男性学や“男性性”について、いったいどんなものなのかをお聞かせいただけますでしょうか。
清田:女性たちから失恋や恋愛の話を聞くなかで、男性たちのひどい振る舞いや「それはないんじゃないの」という発言を知っていきました。(いろんな人の話を聞いているのに)共通点があるなと感じていたんです。そこから、自分も含めて「男性に共通する問題って何だろうな」と考えるようになりました。ジェンダーとしての“男性”。持って生まれた性別とは違った、社会的に構築されてしまうものがある。「男らしさ」「男なら◯◯だ」といったものですね。そのあたりについて考えるのが男性学だと思っています。

玄理は以前、この番組で清田と「脳の仕組みに男女差はほぼないことが研究でわかった」というトークを繰り広げた。男らしさや女らしさというのは、周りからの刷り込みによって生まれてくるものじゃないか、という内容だ。

玄理:わかりやすいフレーズで言えば「男だから泣くな」とか「男だから稼げ」とか。小さい頃から我慢を強いる刷り込みを経験された男性はいらっしゃると思います。

「男らしさ」や「男のプライド」によって形成されてきた日本社会。「我慢しろ」「泣くな」に象徴されるように、自分の感情を大事しようと教えられていないのではないかと、清田は指摘する。

清田:政治家が女性蔑視と受け取られる発言をして批判されたり、女性を軽視したCMが炎上したり、議員や会社の意思決定に関わる立場の人が男性ばかりだったりと、さまざまな問題があります。毎年発表されるジェンダーギャップ指数でも、日本は毎回下位に位置付けられています。そういった大きな問題がいっぱいありますよね。
玄理:たとえば子育ての話ですと、「男の子だから泣かないの」と言ったとしても、「男の子だから繊細でいろ」というフレーズはまず聞かないですよね。女の子に対しては教育の過程で「優しさ」や「繊細さ」は求められると思うんですけれど、男性がそれを求めて育てられたというのは少ないイメージがあります。
清田:そうですね。学校教育にも言えることですし、男同士の関係性からも影響を受けていると思います。「我慢強い人がカッコいい」とか「感情的でない人間はクール」とか「ケンカが強いやつがカッコいい」とか、集団のなかで肯定的に評価されるものに向かっていくじゃないですか。その結果、いろんな性質や性格付けが見えない形で蓄積して、いつのまにか「男らしさ」みたいなものが出来上がってしまうんです。もちろん、そういった問題は女性もそうだと思います。
玄理:(そういう男性性の話は)女性で言うところの生理みたいなもので、男性がいくら関心を持ったとしても(生理は)実体験ができないわけじゃないですか。男性が小さい頃から押し付けられてきた「男性らしさ」については、男性にお話を訊くことが一番だろうなと思っています。なので、今日は清田さんのお話をひたすら聞きたいと思っているんです。

責めていると思われてしまう…男女の「話し合い」の難しさ

男性が見ている景色と女性が見ている景色が異なることによって生じる「生活のなかでのすれ違い」。コロナ禍によって顕著になったケースが増えているという。

清田:コロナ禍によって、衛生観念の違いや政治に対するスタンスといった、いろんな人々の価値観のすれ違いが出やすくなっていますよね。それに加えて、家事や育児をすることも含めた、相手へ想像を馳せたり気を遣ったりということ一つひとつの積み重ねを怠って、知らぬ間にすれ違いが大きくなってしまう。お互いがずっと家にいるからストレスが溜まるのですが、何がストレス源なのかがわからず、ビクビクしたりイライラしたりしてしまう。そういったケースを耳にする機会が増えました。解決方法を考えるのは難しいですね。一つひとつ……。
玄理:人それぞれで解決法が違いそうですよね。いろんな男性がいるので「男性はこうだ」とひとくくりにしたくはないのですが、コロナ禍でギクシャクしてしまう男女において言えるのは、男性は話し合いが苦手な人が多いんですかね?
清田:話し合いをするには、自分の思っていることや感じていることを言葉にして伝えないといけないし、逆に相手の考えを適切に理解する必要があるじゃないですか。だけど、アウトプットが苦手という男性のお話や、「責められている」「怒られている」と感じて相手が過剰に自己防衛をするから話が前に進まないといったケースを聞くことが本当に多いですね。
玄理:自己防衛が過剰な人にはどう対応すればいいのでしょうか?
清田:怒りたいわけじゃなくて、ただ「話がしたい」と思っていると認識してもらう必要がありますね。
玄理:双方に「ちゃんとわかり合いたい」という気持ちがなければ、話し合いって難しいのかなという気がします。
清田:そうですよね。

話し合いについて取材を重ねた清田は、女性の怒りが収まったように見えると「問題は解決した」と錯覚する男性も少なくないと気付いたという。

清田:休憩のつもりで話を終えても、「解決した」と感じちゃうという。
玄理:「終わったね」っていう雰囲気に男性側がなると、女性は「じゃあ、もういいや」というモヤモヤが蓄積されそうですね。
清田:そうそう。かと言って、別の日に改めて話し合いを再開すると「話をぶり返した!」と男性側が反発しちゃうんですよね(笑)。
玄理:(笑)。清田さんの書籍『さよなら、俺たち』のなかで、「男性は自己の内面への解像度が低い」と書かれていましたけれど、本当にこの一言に尽きるなと感じます。自分の気持ちに無自覚というのは、言葉で捉えられていないということですよね。
清田:言葉で気持ちを捉えることができれば、「なるほど。今の自分はこんな風に感じているんだ」という風になっていくと思うんですよね。

社会問題を織り込んだ『逃げるは恥だが役に立つ』スペシャル

2021年1月1日(金)の深夜に放送された『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の新春スペシャルでは、男性の育児休暇や選択的夫婦別姓、男性における感情の言語化といった問題が随所に盛り込まれており、多くの視聴者の関心を集めた。人気ドラマというメジャーな場でこのような内容が扱われ、SNSで議論が起こったことについて「すごいことが起きている」と感じたという。

また、選択的夫婦別姓も、結論は見送られたものの議論は活発に行われていた。清田は「会社の制度だったり法律とかが変わっていく時代が、少しずつやってきているのかなという予感がしています」と期待を寄せた。

玄理:みんなを楽しませるコンテンツも大切ですが、「社会がこうなったらいいな」という姿を提示する作品というのもやっぱり必要ですし、あるとうれしいですよね。
清田:自分たちが抱えている困難が「こういう形で進んでいったらいいな」というイメージを、さまざまな葛藤を交えながらドラマで表現することはすごく素敵だなと感じました。
玄理:私も遅ればせながら、ぜひチェックしたいと思います!

大事なのは、恐怖を言語化すること

清田の最新著書『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)が1月17日に発売された。

清田:恋愛や失恋のエピソードをたくさん盛り込んだ1冊となっています。いろんな恋バナのなかにある困難、悩み、悲しみには恋人や夫が抱える「男性学的な問題」が実は背景にあるんですね。「一見、恋愛の問題に思えるけれど、これってジェンダーの問題だよね」って感じるエピソードを、ひたすら語り合いました。『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』というタイトルですが、男には「あいつら」というルビがふってあって、男友達には「ホモソーシャル(同性間の結びつきや関係性を差す社会学用語)」というルビが書かれています。
玄理:「ホモソーシャル」という言葉が初耳だという方は、ぜひ調べていただけると、「これだ!」という感覚があると思います。



この本で、「恋人よりも男友達を優先しがちなのはなぜか?」という問いに、回答を出せたのだろうか?

清田:実は……明確な解答が示されているわけでは、正直ないんです。1つの問題として、男性側の自覚の欠如があります。
玄理:男友達を優先している自覚が?
清田:そうです。彼女よりも男同士の飲み会を優先しているんだけど、その自覚がない。なので、まずは自覚するところからスタートするしかないんですよね。
玄理:私なりに思ったのは、群れから外れるのが怖いのかな、と。
清田:まさにその問題も本で語っています。男たちから「つまらないやつになったな」と思われるのが怖いという気持ちが原動力になっちゃっているのか。男同士のムラ社会から外される恐怖心を自覚して言語化するところからしか始まらない、という感じですかね。
玄理:何を大事にして何を優先するかは個人の判断で、「こうしたほうがいい」と一概に言えることではないですが、優先順位を正しくつけられる人でありたいし、男女関わらずそういう人と仲良くしたいなと私はやっぱり思っちゃいますね。

群れを作り、そこから外れるのが怖いという感覚が行き過ぎると、「男性しか役員がいない」「歴代首相に女性がいない」といった問題にも繋がっていく。「身近な恋バナから、そうした問題を考えていただければ嬉しい」と語った。活動の詳細はTwitterまで。

『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き一つの国にまつわる様々なトピックを取り上げる。オンエアは9時20分頃から。

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