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舞台『チョコレートドーナツ』 ダウン症の少年役オーディションで感じたことは…宮本亞門が明かす

舞台『チョコレートドーナツ』 ダウン症の少年役オーディションで感じたことは…宮本亞門が明かす

J-WAVEの番組『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』(ナビゲーター:中井智彦)。9月18日(金)のオンエアでは、演出家の宮本亞門がリモートで登場。ニューヨークとロンドン、日本の演劇シーンの違いや、今年初演を予定している新作舞台『チョコレートドーナツ』について語った。

演劇の街・ロンドンとショービジネスの街・ニューヨーク

宮本は1987年にオリジナルミュージカル『アイ・ガット・マーマン』で演出家デビュー。数々のミュージカルを手掛け、海外でも2004年にアジア人として初めてニューヨークのブロードウェイで『太平洋序曲』を、2010年にはロンドンのウエストエンドで『ファンタスティックス』を演出。ミュージカルに限らず演劇、オペラ、歌舞伎など幅広いジャンルで手腕を発揮している。

中井:ブロードウェイとウエストエンドにはどんな違いがありましたか?
宮本:まだどちらも一本ずつしか手掛けていないのであまり言えないけど、オーディションから違っていますね。ブロードウェイは大変な人数が受けに来るので、次々とシステマティックに進むのですが、ウエストエンドは一人ひとりと話し合いながら進める感じです。稽古場の雰囲気は、ニューヨークはやはりショービジネスというか、すごいシステムがあって、次々と展開して時間にもうるさい。だけど、ロンドンはいい意味でジワジワと話したりして、ちょっと時間がずれても誰も怒るわけでもない。演劇の街・ロンドンとミュージカルのショービジネスの街・ニューヨークという雰囲気で、それぞれちょっと違うかなと思います。
中井:(宮本)亞門さんはどちらが好きですか?
宮本:どうだろう……どっちも好きかな(笑)。僕は単純に演出ができることがうれしいですね。それこそヨーロッパでオペラを手掛けていると、それぞれの場所で考え方が違うんです。毎回その違いを「えっ!?」と驚いている間もなく、とにかくフレキシブルに彼らと「ああでもない、こうでもない」「だったら、こうかな」とむしろ楽しむことが大切。それがちょっと気になってやりづらいと感じてしまうと、おしまいなんです。

一方、宮本は日本の演劇界の印象について、こう表現する。

宮本:日本は、みなさんが先に察してくれたり感じてくれたり、次々と自分の責任として舞台を作っていくので、日本ほど全員が集まり物事を作っていくことができるところは他にないかと思います。
中井:日本の良さが見えた気がします。
宮本:ただ、僕は身勝手な演出家なので、稽古をしている途中で「あそこを変えたいんだけど」と伝えたときの緊張感は日本が一番あります(笑)。日本は「えっ!?」って顔をされるけど、海外は「いくらでも変えられるでしょ」と思っている人たちが多いですね。日本のほうがきっちりやって責任感もある分、「ここまでやったのに、なんで変えるの?」って思われるのは怖いなと、気の弱い僕は思います(笑)。

舞台『チョコレートドーナツ』は「本当に強い愛情が溢れている作品」

宮本が演出を手掛ける舞台『チョコレートドーナツ』が、12月7日(月)より東京・PARCO劇場で開幕する。

『チョコレートドーナツ』あらすじ
1979年、カリフォルニア。シンガーを夢見ながらもショーパブのダンサーとして生活の糧を得るルディ。正義を求めながらも、ゲイであることを隠して生きる地方検事のポール。母の愛情を受けずに育ったダウン症のある少年マルコ。街の片隅で3人は出会った。

マルコの母親が薬物所持で逮捕されるのをきっかけに、“いとこ”同士と偽り、生活環境の整っているポールの家で共に暮らし始める。まるで本当の両親のように、二人はマルコを愛し、大切に育てた。3人で暮らし始めてしばらく経ったある日、ポールの上司に誘われたハロウィンパーティで、ポールとルディがゲイのカップルであることが周囲に知られてしまう。二人の関係を偽ったことが原因で、マルコは家庭局に連れて行かれ、ポールは仕事を解雇されてしまう。

絶望する二人。しかし、「今こそ、法律で世界を変えるチャンス」というルディの言葉を聞き、ポールは正義で世界を変えたい、と法を学んでいた頃の情熱を取り戻す。そして、差別と偏見で奪われたマルコを取り戻すために裁判に挑むことを決心するが…… (PARCO STAGE ホームページより)

中井は同舞台の原作である同名映画が大好きで、「これを亞門さんが演出するとどんな世界になるのかドキドキ、ワクワクしている」と開幕が待ち遠しい様子。

宮本:僕もこの映画は何回も観て泣きました。舞台が1970年代の設定なので、今とは違う状況ではありますが、ダウン症の子どもたちやドラァグクイーン、自分が何を見つけていいかわからない人、マイノリティというか弱者たちが、一緒に集まって自分たちの考えている家族を作り上げていこうと必死になって頑張る。しかし、政治的なことや法律的なこと、いろいろなものが彼らを許さないという作品です。この作品の舞台化の話をいただいて、本当にうれしかったです。タイミング的に「Black Lives Matter」の人種差別抗議運動もあるなか、この作品は差別とか社会の矛盾が全部詰まっていて、だけどそのなかに本当に強い愛情が溢れている作品なので、面白くなると思います。

この作品の主人公・ルディは東山紀之が演じる。宮本は東山とタッグを組むのは初めてだという。

宮本:東山さんは蜷川幸雄さんの舞台でも女形の役をやっておられたりして、面白い表現をする方だなと思っていたのですが、一緒にするのは今回が初めてです。『チョコレートドーナツ』の映画でルディはキレイでもなんでもないドラァグクイーンで、見方を変えれば素っ裸で全てをさらけ出す、役者としてはすごく面白い役なんです。それを東山さんが挑戦してくれるということで、僕も楽しみです。
中井:作品で重要な存在となるのが、ダウン症の少年マルコだと思います。この役を実際にダウン症のある13歳の高橋 永さんと21歳の丹下開登さんがダブルキャストで出演されます。ふたりは亞門さんがオーディションで選ばれたと伺いました。
宮本:オーディションで一人ひとりの演技を見せてもらいました。彼らの演技って本当にうそがないんです。他の役者にうそがあるわけではないけど、彼らは心の中へストレートに入らないと言葉が言えないので、それがすごくストレートに伝わってきたとき、何回も涙ぐんじゃって。僕や役者たちは本気で彼らと向き合わないと失礼になるし、生意気な言い方をさせていただくと、勉強させてもらえるかもしれません。
中井:なるほど。僕ら役者から見ても、演じていけばいくほど役を固めてしまい、それがうそに見えたりしますよね。でも、亞門さんの「彼らにうそはない」というお話を聞いて、それに挑む役者たちは逆にプレッシャーだなと感じました。
宮本:僕もそう思います。演出家もプレッシャーですが、それはとても幸せなプレッシャーだと思っています。

『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』では、ミュージカル俳優の中井がゲストを迎えて、ミュージカルの話や作品の解説など、さまざまな形でミュージカルの魅力をお届けする。放送は毎週金曜の22時30分から。

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