J-WAVEの番組『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』(ナビゲーター:中井智彦)。5月15日(金)のオンエアでは、俳優の小野田龍之介がリモート出演。残念ながら公演中止となった2020年版ミュージカル『ミス・サイゴン』にクリス役で出演予定だった小野田に、その魅力を伺った。
■付け焼き刃で作ったものを観せるのは嫌だった
新型コロナウイルス感染防止の観点から、多くのミュージカル公演が延期・中止となっている。そのなかには一度も幕を上げることなく東京公演や全国ツアーをキャンセルせざるを得なかった作品もある。そのひとつが、5月19日(火)から東京・帝国劇場で開幕予定だった大人気ミュージカル『ミス・サイゴン』だ。
<あらすじ>
1970年代のベトナム戦争末期、戦災孤児だが清らかな心を持つ少女キムは陥落直前のサイゴン(現在のホー・チ・ミン市)でフランス系ベトナム人のエンジニアが経営するキャバレーで、アメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちる。お互いに永遠の愛を誓いながらも、サイゴン陥落の混乱の中、アメリカ兵救出のヘリコプターの轟音は無情にも二人を引き裂いていく。
クリスはアメリカに帰国した後、エレンと結婚するが、キムを想い悪夢にうなされる日々が続いていた。一方、エンジニアと共に国境を越えてバンコクに逃れたキムはクリスとの間に生まれた息子タムを育てながら、いつの日かクリスが迎えに来てくれることを信じ、懸命に生きていた。
そんな中、戦友ジョンからタムの存在を知らされたクリスは、エレンと共にバンコクに向かう。クリスが迎えに来てくれた−−−心弾ませホテルに向かったキムだったが、そこでエレンと出会ってしまう。クリスに妻が存在することを知ったキムと、キムの突然の来訪に困惑するエレン、二人の心は千々に乱れる。したたかに“アメリカン・ドリーム”を追い求めるエンジニアに運命の糸を操られ、彼らの想いは複雑に交錯する。そしてキムは、愛するタムのために、ある決意を固めるのだった−−−。
(公式サイトより)
この作品にクリス役で再出演が決まっていた小野田は、全公演がキャンセルとなった経緯を振り返る。
小野田:『ミス・サイゴン』は濃厚接触ミュージカルだから(笑)。
中井:そうですよね(笑)。
小野田:稽古をしている段階からいろんなことに気を張って慎重にやっていました。キスシーンはしないとか、からみのシーンも段取りだけとか、そういう感じだったので、キャスト・スタッフ一同が不安ではあったんですよね。ちゃんとしたものをお客さんに観せられるのかなって不安もあったので、公演中止の話を聞いたときはすごく残念でしたけど、作品のことを思うと、どこか仕方ないなという気持ちになりました。お客さんにはいい状態で作品を観せたい。だから、なんとなく付け焼き刃で作ったものを観せるのは演じる側も嫌だった。作品を愛する我々は、上演できるときにしっかりお観せしたいという気持ちで最終的には団結しました。
■クリスは常に葛藤している人物
ミュージカルファンからは、クリスは敬遠されがちな役どころだという。しかし、同役を演じる小野田は、前回登場したこの番組で「クリスの人生の相場を変えたい」と語っていた。
【関連記事】
小野田龍之介「この役をやり続けたいと初めて思った」 『ミス・サイゴン』出演で湧き上がった感情
中井:今回の稽古を踏まえて、(小野田)龍之介くんにクリスはどう映りました?
小野田:クリスはベトナム戦争時にアメリカ軍としてベトナムにいて、混沌とした中でこの戦争を生きている人間のひとりで、特別に何かあるわけではなく本当に普通の男性なんです。戦争の中で、「なんでこんなことをしているんだろう」とか、どんどん自分の生き方に疑問を持つようになったときに、キムと出会うわけです。
そんなクリスを、小野田は「生きることに真っすぐで、そのとき最大限にできることを選択しながら生きている男性」だと感じたという。
小野田:『ミス・サイゴン』って究極の愛の物語と言われることも多いんです。でも、キムとクリスに愛はあるにせよ、クリスはキムを守ることで、自分の犯してきた罪を浄化していく。キムはそういう特別な存在です。自分はキムを守ることができると思っていたけど、結局はうまくいかなくなり、ふたりの関係は引き離されてしまった。その後、クリスはエレンと結婚するけれど、キムを忘れたわけではなく、他に気があるわけでもなく、キムに対してどこか諦めているというか。そんなときに聖母マリアのような存在のエレンに包まれて「もう一度自分はやり直したい」と強い気持ちになりました。だから、クリスは常に葛藤している人物かなと感じています。
■クリスの人生を全うに命がけで生きる
中井は、『ミス・サイゴン』第二幕で、クリスが夢でうなされ、隣にエレンがいるシーンを、小野田がどう演じるかについて注目していたという。
中井:第二幕はクリスがどんどん打ちのめされていくというか。
小野田:苦しいシーンが続きますからね。
中井:クリスは最後の最後までつらいじゃないですか。
小野田:つらくて終演後は立てなくなるんですよ。『ミス・サイゴン』ってどのキャラクターも常に緊張感があって命がけで、壮絶な物語なんです。だけど意外と、メロディアスな曲が多かったりするんです。もちろん、アタックの強い曲もあるけれど、クリスの歌やキムの歌など、バラードになると意外と優しい感じになるんです。でも、俳優としてそこに抗わなければいけない。メロディーとしてきれいに歌うのではなく、メロディーの中で鋭さとか幹の太さを絶対に離さない。そこがちょっとでも離れてしまうと、(クリスが)軟派で色仕掛けの男として嫌われる要素になっているのかなと思います。「なに都合よく言っているんだよ」って。
中井:なるほど。
小野田:都合よく思われないためには、クリスの人生をまっとうに命がけで生きることかなと思います。
クリスはキムとのラブシーンが多いが、「そこにはカジュアルなラブシーンはひとつもない」と小野田は語気を強める。
小野田:クリスはとにかくキムを守る、キムを包んでいくという感情がずっとあるので、その緊張感や強さは演じる上で絶対に離さないようにしたいなと心掛けています。
中井:そのクリス、観たいなあ。
小野田:いつか演じたいですね。僕はまだ『ミス・サイゴン』の稽古中だと思っています。稽古場では体験できないことを実生活の中で吸収しながら、次の『ミス・サイゴン』に活かしていけるようにと、常に思っています。
中井:次回の『ミス・サイゴン』を心待ちにしています。
最後に小野田は『ミス・サイゴン』が再演されたら中井に来てほしいとコメント。中井は「絶対に行きます。希望を持って、待っています」と固い約束を交わした。
『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』では、ミュージカル俳優の中井がゲストを迎えて、ミュージカルの話や作品の解説など、さまざまな形でミュージカルの魅力をお届けする。放送は毎週金曜の22時30分から。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年5月22日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』
放送日時:毎週金曜 22時30分-23時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/musical/
■付け焼き刃で作ったものを観せるのは嫌だった
新型コロナウイルス感染防止の観点から、多くのミュージカル公演が延期・中止となっている。そのなかには一度も幕を上げることなく東京公演や全国ツアーをキャンセルせざるを得なかった作品もある。そのひとつが、5月19日(火)から東京・帝国劇場で開幕予定だった大人気ミュージカル『ミス・サイゴン』だ。
<あらすじ>
1970年代のベトナム戦争末期、戦災孤児だが清らかな心を持つ少女キムは陥落直前のサイゴン(現在のホー・チ・ミン市)でフランス系ベトナム人のエンジニアが経営するキャバレーで、アメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちる。お互いに永遠の愛を誓いながらも、サイゴン陥落の混乱の中、アメリカ兵救出のヘリコプターの轟音は無情にも二人を引き裂いていく。
クリスはアメリカに帰国した後、エレンと結婚するが、キムを想い悪夢にうなされる日々が続いていた。一方、エンジニアと共に国境を越えてバンコクに逃れたキムはクリスとの間に生まれた息子タムを育てながら、いつの日かクリスが迎えに来てくれることを信じ、懸命に生きていた。
そんな中、戦友ジョンからタムの存在を知らされたクリスは、エレンと共にバンコクに向かう。クリスが迎えに来てくれた−−−心弾ませホテルに向かったキムだったが、そこでエレンと出会ってしまう。クリスに妻が存在することを知ったキムと、キムの突然の来訪に困惑するエレン、二人の心は千々に乱れる。したたかに“アメリカン・ドリーム”を追い求めるエンジニアに運命の糸を操られ、彼らの想いは複雑に交錯する。そしてキムは、愛するタムのために、ある決意を固めるのだった−−−。
(公式サイトより)
この作品にクリス役で再出演が決まっていた小野田は、全公演がキャンセルとなった経緯を振り返る。
小野田:『ミス・サイゴン』は濃厚接触ミュージカルだから(笑)。
中井:そうですよね(笑)。
小野田:稽古をしている段階からいろんなことに気を張って慎重にやっていました。キスシーンはしないとか、からみのシーンも段取りだけとか、そういう感じだったので、キャスト・スタッフ一同が不安ではあったんですよね。ちゃんとしたものをお客さんに観せられるのかなって不安もあったので、公演中止の話を聞いたときはすごく残念でしたけど、作品のことを思うと、どこか仕方ないなという気持ちになりました。お客さんにはいい状態で作品を観せたい。だから、なんとなく付け焼き刃で作ったものを観せるのは演じる側も嫌だった。作品を愛する我々は、上演できるときにしっかりお観せしたいという気持ちで最終的には団結しました。
■クリスは常に葛藤している人物
ミュージカルファンからは、クリスは敬遠されがちな役どころだという。しかし、同役を演じる小野田は、前回登場したこの番組で「クリスの人生の相場を変えたい」と語っていた。
【関連記事】
小野田龍之介「この役をやり続けたいと初めて思った」 『ミス・サイゴン』出演で湧き上がった感情
左:小野田龍之介、右:中井智彦(2019年10月出演時)
中井:今回の稽古を踏まえて、(小野田)龍之介くんにクリスはどう映りました?
小野田:クリスはベトナム戦争時にアメリカ軍としてベトナムにいて、混沌とした中でこの戦争を生きている人間のひとりで、特別に何かあるわけではなく本当に普通の男性なんです。戦争の中で、「なんでこんなことをしているんだろう」とか、どんどん自分の生き方に疑問を持つようになったときに、キムと出会うわけです。
そんなクリスを、小野田は「生きることに真っすぐで、そのとき最大限にできることを選択しながら生きている男性」だと感じたという。
小野田:『ミス・サイゴン』って究極の愛の物語と言われることも多いんです。でも、キムとクリスに愛はあるにせよ、クリスはキムを守ることで、自分の犯してきた罪を浄化していく。キムはそういう特別な存在です。自分はキムを守ることができると思っていたけど、結局はうまくいかなくなり、ふたりの関係は引き離されてしまった。その後、クリスはエレンと結婚するけれど、キムを忘れたわけではなく、他に気があるわけでもなく、キムに対してどこか諦めているというか。そんなときに聖母マリアのような存在のエレンに包まれて「もう一度自分はやり直したい」と強い気持ちになりました。だから、クリスは常に葛藤している人物かなと感じています。
■クリスの人生を全うに命がけで生きる
中井は、『ミス・サイゴン』第二幕で、クリスが夢でうなされ、隣にエレンがいるシーンを、小野田がどう演じるかについて注目していたという。
中井:第二幕はクリスがどんどん打ちのめされていくというか。
小野田:苦しいシーンが続きますからね。
中井:クリスは最後の最後までつらいじゃないですか。
小野田:つらくて終演後は立てなくなるんですよ。『ミス・サイゴン』ってどのキャラクターも常に緊張感があって命がけで、壮絶な物語なんです。だけど意外と、メロディアスな曲が多かったりするんです。もちろん、アタックの強い曲もあるけれど、クリスの歌やキムの歌など、バラードになると意外と優しい感じになるんです。でも、俳優としてそこに抗わなければいけない。メロディーとしてきれいに歌うのではなく、メロディーの中で鋭さとか幹の太さを絶対に離さない。そこがちょっとでも離れてしまうと、(クリスが)軟派で色仕掛けの男として嫌われる要素になっているのかなと思います。「なに都合よく言っているんだよ」って。
中井:なるほど。
小野田:都合よく思われないためには、クリスの人生をまっとうに命がけで生きることかなと思います。
クリスはキムとのラブシーンが多いが、「そこにはカジュアルなラブシーンはひとつもない」と小野田は語気を強める。
小野田:クリスはとにかくキムを守る、キムを包んでいくという感情がずっとあるので、その緊張感や強さは演じる上で絶対に離さないようにしたいなと心掛けています。
中井:そのクリス、観たいなあ。
小野田:いつか演じたいですね。僕はまだ『ミス・サイゴン』の稽古中だと思っています。稽古場では体験できないことを実生活の中で吸収しながら、次の『ミス・サイゴン』に活かしていけるようにと、常に思っています。
中井:次回の『ミス・サイゴン』を心待ちにしています。
最後に小野田は『ミス・サイゴン』が再演されたら中井に来てほしいとコメント。中井は「絶対に行きます。希望を持って、待っています」と固い約束を交わした。
『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』では、ミュージカル俳優の中井がゲストを迎えて、ミュージカルの話や作品の解説など、さまざまな形でミュージカルの魅力をお届けする。放送は毎週金曜の22時30分から。
【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年5月22日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『STAGE PIA WE/LIVE/MUSICAL』
放送日時:毎週金曜 22時30分-23時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/musical/
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