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月は誰の領土なのか? 宇宙飛行士・山崎直子が語る「宇宙条約」の今

月は誰の領土なのか? 宇宙飛行士・山崎直子が語る「宇宙条約」の今

7月12日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。ASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文が宇宙飛行士・山崎直子さんと、「これからの宇宙」をキーワードに、未来の暮らしや可能性についてトークを繰り広げた。

後藤は同番組の第2週目のマンスリーナビゲーター。山崎さんはリモートでゲスト出演した。


■宇宙で変化した価値観

後藤はコーナー冒頭、「宇宙飛行士と話をするのは初めて」と興奮気味に明かす。山崎さんは2010年、スペースシャトル「ディスカバリー号」で宇宙へ。15日間の滞在中、国際宇宙ステーション(ISS)組立補給ミッションに従事した。現在は宇宙政策委員会委員、スペースポートジャパン代表理事のほか、宇宙教育などに携わっている。山崎さんは、宇宙に出たときに感じた価値観の変化を振り返った。

山崎:今まで当たり前だと思っていたことが、当たり前じゃないんだなということをすごく感じました。スペースシャトルで打ちあがって、8分30秒後には宇宙空間には到達しているので無重力になります。体がぷかぷかと浮きながら、窓に近寄って初めて見えた地球が、ちょうど朝日を浴びて青く輝いていました。でも、頭上に見えたんですね。ものすごくびっくりしました。もちろん宇宙に行く前に写真や映像はたくさん見ていたので、「こんな感じなんだろうな」という想像はついていました。そうした映像では、大体地球が下に見えていたことが多かったんです。400キロの高さまで到達するので、「400キロから見る飛行機の大体40倍の高さが、どんな感じで見えるのかな?」と勝手に想像していました。でも、実際に見てみると上も下もない世界なので、姿勢のとり方によっては地球のほうが真上に見える。「あれ、400キロまで来たはずなのに自分のほうが低く沈んでいる」という、この感覚にまずビックリしました。

また山崎さんは、地球に帰還して「重力がすごく重い」ことにも非常に驚いたという。

山崎:「こんなに重いんだ」って。手を持ち上げるのはもちろん重いんですけども、鉛筆1本とか紙1枚でも「重い!」と思うんです。重力なんて普段はあまり意識していなかったので、こんな力に押されているんだなって、ものすごくビックリしましたね。


■一般人も宇宙旅行が可能に? 民間企業の参入

2020年5月31日、アメリカの民間企業スペースX社が有人宇宙船の打ち上げに成功した。山崎さんは、民間企業による宇宙開発時代の背景や目的について解説した。

山崎:スペースシャトルが引退して9年ぶりに、アメリカの宇宙船が人を乗せて宇宙まで行けたということでニュースになりました。もちろん有人宇宙船は過去にもあったものなので、それ自体は史上初や珍しいということではありません。なぜ私がこれだけワクワクしたかというと、スペースXという民間の会社が開発した宇宙船だったからです。ロシアにしても、中国にしても有人宇宙船を持っています。アメリカのスペースシャトルにしても国が開発していて、もちろんその要所要所を民間の企業に受託をして製造をしてもらうということはありましたが、あくまで開発責任者は国でした。でも今回は、最終的にスペースXとボーイングの2社が選定されて「それぞれ宇宙船を作って下さい。それが完成したら、NASAがそのサービスを買い取りますよ」という形になったんです。

宇宙旅行に民間が参入することが、これから一般の人々が宇宙に行くきっかけに繋がっていく。ただし、コストの概念も大きくかかわってくるのも事実だ。

山崎:スペースシャトルが引退したあとは、NASAはロシアに打ち上げ代を払って、アメリカ人の宇宙飛行士をソユーズ宇宙船に乗せてもらっていました。そのときのコストがいろいろと言われてはいるんですが、値段が独占状態なのでだんだん高くなっていき、1人80億円以上とも言われています。今回のスペースX、あるいはボーイングもそうですが、民間では値段が下がり、数十億円安くなったということです。

宇宙旅行に興味を持つ後藤は「行けるなら行ってみたいけど、それこそ何千万も何億もかかるんじゃ、なかなか行けないですね」と躊躇う場面も。山崎さんによると、宇宙旅行にもさまざまな選択肢があるという。

山崎:国際宇宙ステーションに1週間ちょっと滞在するとなると、期間も長いですし、大がかりでコストも高くなります。しかし、それとは別の宇宙旅行というものも動き出しています。たとえば、アメリカのヴァージン・ギャラクティック社などは、飛行機型の宇宙船を開発していて、滑走路から飛び立つことができます。100キロの宇宙に5分、10分滞在して、またすぐもといた空港に戻ってくる。今年中には商業運航が始まるのではないでしょうか。飛行機型の宇宙船もあれば、気球のようなバルーンを使って、100キロまでは届きませんが成層圏は超える、という宇宙旅行もあります。いくつかタイプが出てくるので「どういうのがいいかな?」と選べるのも楽しいのではないかと思います。


■星や宇宙空間は誰のもの? 宇宙開発の未来

さまざまな民間企業が参入を始めた宇宙開発。山崎さんは、その未来についても語った。

山崎:宇宙開発も本当に(範囲が)広いんです。ロケットの輸送技術から、人工衛星のリモートセンシングと呼ばれている技術、国際宇宙ステーションのような有人開発技術といろいろあります。一言で言えるのは「宇宙を知りつつ、地球をより良くしていく」ということなのかなと思っています。地球上ではわからなかったことがわかるようになってくる。私たちの目を地球の外に持っていけるということなんだと思っています。

また、宇宙への移住計画についても具体的に言及されているという。

山崎:スペースXの(共同設立者)イーロン・マスクさんなどは「これから人類を100万人単位で火星に移住させる」という目標を掲げています。そしてAmazonを立ち上げたジェフ・ベゾスさんも宇宙開発会社(ブルー・オリジン/Blue Origin)を作っていて、実際にロケットを何度も成功させています。彼は、宇宙に人を何百万人単位で住めるコロニーを作りましょう。工場や発電所、地球の環境に負荷をかけてしまうものを宇宙(コロニー)に移しましょう。そうすることで地球を守っていきましょう、ということを言っています。

後藤は、民間企業の参入によって宇宙が開かれたものになっていくと「火星は誰のもの?」「月は誰の領土?」など、所有権の問題が出てくるのではないかと疑問を投げかけた。

山崎:まさに今、それも問題になってきています。1960年代にいろいろな国で宇宙条約というものを締結して、「宇宙や月や火星や、宇宙の物体や空間は、どこの国のものでもない。みんなのもの」ということを決めました。「大量破壊兵器などは置かないで、平和目的で使いましょう」ということも定められてはいます。ただ、これだけ活動が増えてきていると、月まで行って水を使いますとか、そこでレアメタルを見つけて使いますといったときに、「それは誰のもの?」ってなるんですね。もちろん土地を所有することはできませんが、そこで民間企業が取ってきたものは、民間企業が自由に使っていいことにしよう、という形でアメリカなどはもう国内法を作ってしまっています。日本でもそれをそろそろ決めていこうということで、検討が始まっています。たとえば、広い公海は誰のものでもありませんが、そこに漁師さんが行って魚をとれば、それは漁師さんのものになります。それと同じように、宇宙も頑張って行って取ってきたものは、ある程度自由に使えるようにしましょうという動きもあります。ただし、そうやっていくと歯止めがきかなくなってしまうため、もうちょっと慎重にしたほうがいいんじゃないか、という国もあるんです。そこは今、さまざまなな議論がちょうど起こっています。

山崎さんは、宇宙における国境や法律の概念についても解説した。

山崎:国際宇宙ステーションは、日本、アメリカ、ロシア、ヨーロッパの国々、カナダといった15の国で協力して作り上げてきています。日本であれば「きぼう」と呼ばれる実験棟を開発して提供しています。その「きぼう」の中では、日本の法律が適用されるとしています。アメリカの実験モジュールであれば、アメリカの法律を適用させますというように、地上の延長を今は宇宙にまで持ち込んでいるんです。だけど、火星までいくと、片道半年はかかってしまう距離なので、そうなると新たに独自に火星に適応した法律を作っていくということも考えられます。

宇宙開発の今に迫ったこの日のオンエア。他にも、山崎さんが代表理事を務めている一般社団法人スペースポートジャパンの取り組みについても伺った。J-WAVEのポッドキャストサービス「SPINEAR」では、ノーカット版を配信中だ。ぜひチェックしてみてほしい。

・SPINEAR
https://spinear.com/shows/innovation-world-era/episodes/from-the-next-era-2020-07-12/

『INNOVATION WORLD ERA』では、各界のイノベーターが週替りでナビゲート。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。放送は毎週日曜日23時から。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年7月19日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

【番組情報】
番組名:『INNOVATION WORLD ERA』
放送日時:日曜 23:00-23:54/SPINEAR、Spotify、YouTubeでも配信
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/innovationworldera/

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