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意思で動かせる「ロボットの腕」も。 人間の可能性を広げる技術を、ALSと闘う武藤将胤が聞く

意思で動かせる「ロボットの腕」も。 人間の可能性を広げる技術を、ALSと闘う武藤将胤が聞く

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の啓発を目的に活動する一般社団法人WITH ALS代表理事の武藤将胤がナビゲートする特別番組『NO LIMIT, YOUR LIFE.「WITH ~ALS DAY 2020」』が6月14日(日)にオンエアされた。『J-WAVE SELECTION』は、J-WAVEがいま注目するさまざまなトピックをお届けする日曜夜の番組だ。

武藤は2015年に自身がALSであると宣言。5年が経過した今、その症状は徐々に進行し、2020年1月に声を失った。しかし、武藤の声は最先端の音声合成サービス「コエステーション」の音声合成で届けることが可能に。肉声こそ失ったものの、テクノロジーの力でメッセージを伝える。

今回は、6月21日(日)の「世界ALS/MNDデー」に先駆けて、「さまざまな“限界”を超え、自由を手に入れるために何が必要か?」を探る提案型トークセッション・プログラムを展開した。


■漫画『宇宙兄弟』が繋げたALSプロジェクト「せりか基金」発足の経緯

前半のテーマは「ALSの現在地 社会課題の解決に必要なこと」。宇宙兄弟ALSプロジェクト「せりか基金」代表でコルク取締役副社長の黒川久里子さんと、北原国際病院 副委員長の脳神経外科医・林 祥史さんをゲストに、トークを繰り広げた。

武藤:宇宙兄弟ALSプロジェクト「せりか基金」代表になった経緯を教えてください。
黒川:もともとコルクで漫画『宇宙兄弟』(講談社)のプロデュースをしていて、そこに出てくるALSの病気や患者に対して何かできないか、という思いから社内のプロジェクトを立ち上げてみんなで考えていました。そこで「寄付でALSを治せる病気にできたらいいよね」という思いでプロジェクトを進めると、武藤さんをはじめいろいろな人に協力をしていただいて予想以上に大きな反響があったので、法人にして「せりか基金」という団体を立ち上げることになり、そのまま代表となりました。
武藤:林さんが『宇宙兄弟』の中でALSを取り上げる詳細をレクチャーしたと伺いました。
:もともと『宇宙兄弟』の編集者が中・高校時代の先輩で、その方から「今度始める『宇宙兄弟』の登場人物の父親が亡くなってしまうんだけど、現在は不治の病だけどそれをきっかけに宇宙飛行士を目指して研究をしていくという設定でやりたい。そのうえで適切な病気はないか?」と相談を受けました。現時点で根治する治療薬がなく、研究対象としてはよいと考えALSを提案しました。

林さんの専門領域から見て、ALSはどんな病気なのだろうか。

: ALSは運動神経のみダメージを受け、それが進行していくという病気です。感覚や意識は残りながらも、手足がだんだん動かない、ものを飲み込みづらいなど、動きの問題があります。だんだん全身が悪くなり、最後には呼吸も自力ではできなくなってしまいます。現在のALS研究の全容はわからないけれど、さまざまな研究で少しずつわかってきていることがあります。そのひとつが、運動神経が変異して、細胞レベルでもそれが悪くなっていること。その原因が遺伝子の問題なのか、何か他の原因なのかを今はいろいろな治験で少しずつわかってきている状況です。


■エンターテインメントが社会課題の解決に繋がる

エンターテインメントも病気の認知を広げるために大事なことだ。黒川さんは、「初めて『宇宙兄弟』でALSを知ったという方もいました」と話す。病気などに対して、エンターテインメントはどんな役割を果たせるか。

黒川:たくさんの難病があるけど、希少疾患だと身近に感じられないという方がほとんどの中、『宇宙兄弟』という好きな物語にALSが登場することで、患者さんやその周りの人がどういう思いを持っているかを物語とセットで知ることができる。「自分にも何かできるんじゃないか」などを合わせて伝えやすいと思います。病気のことを正しく本で知るよりも、患者の思いとセットで知ると、その後の支援に繋がりやすいと思います。
:誤解を恐れずに言うと「助けよう」という意識じゃないほうがいいなと思います。まだ治療薬がない状況だけど、武藤さんが活動をされているように、目で動かす技術でDJをするとか、何か困難がある人が頑張っていること自体がすごいということで、それ以外の人も感動して自分ももっと頑張ろうとか考えるようになる。その中で「武藤さんってなんで目で動かしているんだろう」「それってALSって病気なんだな」と知って、それがALSの周りの人を助けることだったり、募金だったりに繋がるほうが、エンターテインメントの力なのかなと感じています。

1日でも早くALSの治療方法が生まれることが期待されている。あとどのくらいで、ALSの治療方法が確立されるのだろうか。

:いつ治療薬ができるかなどはとても難しい質問になるけれど、着実に研究は進んでいます。まず、何が原因でどこをブロックすれば麻痺がないのか、麻痺になった後の神経をどう再生させるかなどの問題を一つひとつ解決させていくしかないと思います。ただ、昔と違ってiPS細胞などが開発され、実際の患者の運動神経を顕微鏡レベルで作ることもできるようになっていますし、創薬のスピードもどんどん上がっているので、なんとか数年以内に今までよりも違う、画期的によくなるような薬ができればいいなと思っています。


■自分の意思で動かせる「ロボットアーム」とは?

後半のテーマは「テクノロジーで限界を超えていけ!」。ゲストに株式会社JINS アイウエア事業部商品企画グループデザインチームリーダーの北垣内康文さんと、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科准教授の南澤孝太さんを迎えトークを展開した。

北垣内さんはメガネのデザインをする傍ら、メガネ以外の新しい技術を使ったアイウエアの開発に携わっている。一方、南澤さんは「身体性メディア」の研究に取り組み、人の体が感じるさまざまな体験を開発している。具体的にはデジタル空間をつくり出す技術や、インターネット越しに人と人を繋ぐさまざまな感覚を伝え合うような技術、アバターと呼ばれる人の分身となるロボットを作って、人がどこにでも瞬間移動できるような技術だ。

武藤も含め、3人はミーティングを重ねているという。北垣内さんが、武藤と南澤さんの講演を聞いたことがきっかけだ。

南澤:その講演は「体はどこまで広がるか」というタイトルで、武藤さんが自身の体の可能性を高めていく活動と、僕たちの人の体の可能性を拡張する技術を組み合わせると何ができるかと話していました。そこで、「武藤さんにロボットアームを付けて武藤さんの目の動きを使ったら、動かせるんじゃないか」という話になりました。

自分の腕に加えて「ロボットの腕」を体に取り付け、自分の意思で動かせるようにする。それがロボットアームだ。

南澤:そのロボットの腕を自分の意思で動かせるようにすると、4本腕の人間になっていろんなことができるようになる。そういったプロジェクトを進めています。この技術で武藤さんや、車椅子の人に取り付けて、目の動きなどで自由自在に動く腕を新しく生みだせるのではないかと、講演のときに思いつきました。
北垣内:そのときに、武藤さんが「視線移動でロボットアームを動かすことができないか」と話されていました。JINSでは眼球の動きを感知するアイウエア「JINS MEME」を開発しているので、それがロボットアームのコントローラーとして生かせるのではないかと思い、南澤さんと武藤さんにご相談させていただきました。

南澤さんは、「そもそもテクノロジーは人間の可能性を広げるためにある」と語る。

南澤:「JINS MEME」のような技術は、武藤さんの意思や動きを外に発信することに使えます。今までだったら音声やテキストでしか表現できなかったものが、ロボットアームと繋がることによって体の動きとしても表現できるようになる。このようにどんどん技術が進化していくと、今までできなかったことが解消されていきます。これはいわゆる障害と呼ばれるものを持っている人だけではなく、人類全体が持っている障害すらなくなり、どこでも活動できるかもしれない。宇宙にだって行けるかもしれない。そうやって技術で可能性が広がっていくきっかけを、武藤さんとのプロジェクトでお見せできればいいなと思います。


■障害があってもなくても活用できる

体を拡張させて目でロボットアームを自由自在にコントロールできれば、これまで不可能だと言われてきたことが可能になる。武藤は「僕ならDJのプレイ中にお客さんと一生にハンズアップしたい。しかもオリジナルな腕ならレーザーライトをつけるなどデザインも自由にできるとより面白い」と想像を膨らませる。

武藤:「もうひとつの腕」は、障害を越えてニーズがあると思います。
南澤:まさにそうですよね。いろんなテクノロジーが進化してきたことによってAIなどいろんな新しい技術を自分の体に組み込めるようになってきています。障害だったり障害じゃなかったりする部分の差が気にならなくなる未来がつくり出せるのかなと思います。腕が1本でも2本でも3本でも4本でもいいじゃん、みたいに人間を拡張する技術を作っている人たちの大きなゴールなのかなと思います。

武藤は「そのような技術を広げて行くためには、価格面を抑える必要がある」と言及する。南澤さんによると、ロボット技術の分野でスタートアップ企業も生まれ、これまでと比較すると「量産して価格を下げる」という道が見えやすくなっているそうだ。

南澤:ロボットアームは小さなデバイスと比べると高価にはなってしまいます。しかし、今は電動車椅子のスタートアップが活躍しているように、需要が増えてくると量産して価格を下げることが現実的に可能になります。

「身体拡張アバター」が広まり、あるときはロボットの体に、あるときは車椅子に、あるときは人が背負っている……と汎用化していくことで、価格を下げて広げていくことができるそうだ。

北垣内:サービスもお客さんが手に取る上で、いろんな選択肢があると思います。高額な機械を買って使い続けるというよりはレンタルやサブスクリプションのような方法で幅広く使ってもらうことは可能だと思います。
武藤:用途を広げ、複数人でシェアするモデルも有効になりますね。

今後、さまざまなテクノロジーのシェアリングは可能となるのだろうか?

南澤:今はアバターロボットのようなものは1台1台が高価なので、いろいろな場所に置いておいて、そのロボットをみんなが好きなように使うという仕組みができつつあります。車椅子もロボットアームと「JINS MEME」がセットになっていて、使いたいときに使えるシェアリングシステムがあると、みなさんが気軽に使ってもらえるので、すごく面白いと思います。

研究者仲間とは、「できることのシェアリングをやりたい」と話しているそうだ。

南澤:ある人が得意なことと、別の人が得意なことを組み合わせて、その人たちが連携しながらお互いの特技を生かして何かをするとか、障害を持つ方を手助けするような人が別のところから体に入って、その人と一緒になりながら何かをできるようにするとか。人の能力をインターネット越しに届けることもできるようになりつつある時代なので、いろんな人がいろんなところにいるのだけど、その人たちの能力を結集してひとつの体を作り上げる概念は、能力そのもののシェアリングもできるし、体のシェアリングもできると思うので、体に縛られずに活動できるといいなと思いますし、そういう未来が来るんじゃないかと研究者と話しています。
北垣内:ロボットアームを含めて、テクノロジーをいろいろと複合することによって、その人の経験値をいろんな人に分け与えることは、すごく未来があって面白そうですよね。

番組の最後に武藤は「ALSだけではなく、難病と闘っている仲間は世界中に大勢いる。その仲間の周りには家族、友人などかけがえのない存在がある。僕は生きるか死ぬかの選択だけでなく、自分らしさを取り戻して希望を見出すためのさまざまな活動を通じて、仲間と繋がっていこうと決めている」と話し、リスナーに向けて「このオンエアを通じて、テクノロジーの進化が大きな可能性を生んでいる現実と未来をあなたの仲間に伝えてくれるとうれしい」と呼びかけた。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年6月21日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

【番組情報】
番組名:『J-WAVE SELECTION』
放送日時:日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jwaveplus/

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