一般企業や学校のみならず、スポーツ界や芸能界でも続出しているパワーハラスメント(パワハラ)。社会問題になっているにも関わらず、次から次へと露呈する背景には日本社会のパワハラに対する常態化も指摘されている。J-WAVEで放送中の『STEP ONE』のワンコーナー「BEHIND THE SCENE」(ナビゲーター:サッシャ・増井なぎさ)では、12月18日(水)のオンエアでパワハラ問題について考えた。ゲストは、日本労働教育総合研究所所長であり、特定社会保険労務士の野崎大輔さん。
■パワハラは言葉の暴力が多い
野崎さんが所長を務める日本労働教育総合研究所では、企業のコンサルティング業務としてパワハラ対策や問題社員対応、就業規則の作成などを行っている。実際に寄せられるパワハラ相談には、さまざまな案件があるという。
野崎:殴るといったものは少なく、言葉の暴力が多いですね。日常の指導なのかパワハラなのかわからないものもあれば、仕事ができないことを注意したら部下から「パワハラをされた!」と言われて困っているという上司からの相談もあります。明確な加害者や被害者がわかりにくく、個別案件で対応しなければいけない相談が多いですね。
サッシャ:相手を思って注意したことがパワハラと言われてしまうケースもあるんですね。
野崎:そうすると、上司は「もう面倒くさいからアイツと関わりたくない」となってしまいます。
サッシャ:そうすると部下は育たないですよね。
■パワハラは「明確な指針」では防止できない
2019年はパワハラ問題に関して、大きな変化が生まれた年とも言える。ついに国も動きを見せ、企業にパワハラ防止を義務付ける通称「パワハラ防止法」が2019年5月に成立した。2020年6月から施行される。
このパワハラ防止法に際して、厚労省は実例集を提示。国が明確にパワハラの指針を出したことによって「かえってパワハラを助長しかねない」という批判も起きている。
野崎:指針の中に「これはパワハラです」「これはパワハラではありません」といった例が書かれています。しかし、そうした例も人による解釈の違いが出てきたり、「指針に書いていないのだからこれはパワハラではないだろう」と言い出す人も出てきたりするかもしれない。
そして野崎さんは、明確な指針でパワハラを防止すること自体に無理があると語る。
野崎:(パワハラをしている側も)「私は意図的に殴ろうと思ったわけではなく、たまたまゴミ箱にゴミを投げたら体が相手に当たった」と(言い訳を)言いやすくなりますよね。もし指針をもって防止するなら、詳細な事例を何百個と書かなくてはいけなくなってしまいます。ルールを作ること自体が、本来あるべきルールなんてなくてもパワハラがない社会の姿と逆方向にいっているんじゃないかと。
増井:この指針には当たり前のことしか書いていないので、レベルが低い感じがしてしまいますよね。
■パワハラ防止法は誰のための法律か
パワハラ防止法は、企業に向けてパワハラ被害の相談窓口設置の義務化や、相談したことでパワハラ被害者が解雇されるなど不利益を被ることの禁止、そしてパワハラ予防のための研修の努力義務などを課している。
サッシャ:たとえば地方だと、近い人間関係の中で働く人がたくさんいますよね。上司が隣の家に住んでいる、子ども同士が同じ学校に通っている、親戚がお世話になっているなど。そうした事情があると、こういう指針は頼り所になっていいかと思うのですが。
野崎:そうですね。大企業ではもうパワハラ対策を行っているところがほとんどなので、そういう中小企業や地方企業向けに作ったとも考えられます。
サッシャ:この法律でパワハラはなくなると思いますか?
野崎:難しいでしょうね。もう会社次第と言うしかないですね。「世の中でこういうことが起きているから気をつけよう」という注意喚起はされるでしょう。しかし、中小企業がこの指針で何か変わるのか、と。
サッシャ:大企業であれば公表されたときに話題になって企業イメージが大きく損なわれますが、地方の中小企業にとってどのくらい痛手なのかという疑問もありますよね。
野崎:そうですね。「だから何?」と開き直る社長さんもいるんじゃないかなと。
最後に、パワハラ問題に関しては「ハラスメント以前にコミュニケーション不全が問題だ」と野崎さん。
野崎:人は、人のことを知らなければ勝手な勘違いをします。「あいつは俺のことを嫌いだからこんなことをするんだ」と。また人間なので、好き嫌いもある。パワハラはそうしたことも踏まえて取り組まなければいけないので、法律ひとつで縛れるものではありません。やはり、社内でコミュニケーションをとっていい人間関係を築くことが大事になってくると思います。
サッシャ:もちろん、この法律は何も対策が取られないことで命を絶ったり退職して引きこもったりといった事態を防ぐ狙いもあるでしょうね。一人ひとりが心に余裕をもって仕事をできる社会という、大きな枠組みで考える必要もあるのかなと思います。
パワハラ防止法はそれ自体の効力よりも、それに伴って経営者側や社会全体に「パワハラは法律違反だ」と意識改革を促すことの期待値が大きいということなのだろう。
J-WAVE『STEP ONE』のワンコーナー「BEHIND THE SCENE」では、気になるニュースの裏側に光を当てる。放送は月曜~木曜の10時10分頃から。お楽しみに。
【この記事の放送回をradikoで聴く】2019年12月25日28時59分まで
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
【番組情報】
番組名:『STEP ONE』
放送日時:月・火・水・木曜 9時-13時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/stepone
■パワハラは言葉の暴力が多い
野崎さんが所長を務める日本労働教育総合研究所では、企業のコンサルティング業務としてパワハラ対策や問題社員対応、就業規則の作成などを行っている。実際に寄せられるパワハラ相談には、さまざまな案件があるという。
野崎:殴るといったものは少なく、言葉の暴力が多いですね。日常の指導なのかパワハラなのかわからないものもあれば、仕事ができないことを注意したら部下から「パワハラをされた!」と言われて困っているという上司からの相談もあります。明確な加害者や被害者がわかりにくく、個別案件で対応しなければいけない相談が多いですね。
サッシャ:相手を思って注意したことがパワハラと言われてしまうケースもあるんですね。
野崎:そうすると、上司は「もう面倒くさいからアイツと関わりたくない」となってしまいます。
サッシャ:そうすると部下は育たないですよね。
■パワハラは「明確な指針」では防止できない
2019年はパワハラ問題に関して、大きな変化が生まれた年とも言える。ついに国も動きを見せ、企業にパワハラ防止を義務付ける通称「パワハラ防止法」が2019年5月に成立した。2020年6月から施行される。
このパワハラ防止法に際して、厚労省は実例集を提示。国が明確にパワハラの指針を出したことによって「かえってパワハラを助長しかねない」という批判も起きている。
野崎:指針の中に「これはパワハラです」「これはパワハラではありません」といった例が書かれています。しかし、そうした例も人による解釈の違いが出てきたり、「指針に書いていないのだからこれはパワハラではないだろう」と言い出す人も出てきたりするかもしれない。
そして野崎さんは、明確な指針でパワハラを防止すること自体に無理があると語る。
野崎:(パワハラをしている側も)「私は意図的に殴ろうと思ったわけではなく、たまたまゴミ箱にゴミを投げたら体が相手に当たった」と(言い訳を)言いやすくなりますよね。もし指針をもって防止するなら、詳細な事例を何百個と書かなくてはいけなくなってしまいます。ルールを作ること自体が、本来あるべきルールなんてなくてもパワハラがない社会の姿と逆方向にいっているんじゃないかと。
増井:この指針には当たり前のことしか書いていないので、レベルが低い感じがしてしまいますよね。
■パワハラ防止法は誰のための法律か
パワハラ防止法は、企業に向けてパワハラ被害の相談窓口設置の義務化や、相談したことでパワハラ被害者が解雇されるなど不利益を被ることの禁止、そしてパワハラ予防のための研修の努力義務などを課している。
サッシャ:たとえば地方だと、近い人間関係の中で働く人がたくさんいますよね。上司が隣の家に住んでいる、子ども同士が同じ学校に通っている、親戚がお世話になっているなど。そうした事情があると、こういう指針は頼り所になっていいかと思うのですが。
野崎:そうですね。大企業ではもうパワハラ対策を行っているところがほとんどなので、そういう中小企業や地方企業向けに作ったとも考えられます。
サッシャ:この法律でパワハラはなくなると思いますか?
野崎:難しいでしょうね。もう会社次第と言うしかないですね。「世の中でこういうことが起きているから気をつけよう」という注意喚起はされるでしょう。しかし、中小企業がこの指針で何か変わるのか、と。
サッシャ:大企業であれば公表されたときに話題になって企業イメージが大きく損なわれますが、地方の中小企業にとってどのくらい痛手なのかという疑問もありますよね。
野崎:そうですね。「だから何?」と開き直る社長さんもいるんじゃないかなと。
最後に、パワハラ問題に関しては「ハラスメント以前にコミュニケーション不全が問題だ」と野崎さん。
野崎:人は、人のことを知らなければ勝手な勘違いをします。「あいつは俺のことを嫌いだからこんなことをするんだ」と。また人間なので、好き嫌いもある。パワハラはそうしたことも踏まえて取り組まなければいけないので、法律ひとつで縛れるものではありません。やはり、社内でコミュニケーションをとっていい人間関係を築くことが大事になってくると思います。
サッシャ:もちろん、この法律は何も対策が取られないことで命を絶ったり退職して引きこもったりといった事態を防ぐ狙いもあるでしょうね。一人ひとりが心に余裕をもって仕事をできる社会という、大きな枠組みで考える必要もあるのかなと思います。
パワハラ防止法はそれ自体の効力よりも、それに伴って経営者側や社会全体に「パワハラは法律違反だ」と意識改革を促すことの期待値が大きいということなのだろう。
J-WAVE『STEP ONE』のワンコーナー「BEHIND THE SCENE」では、気になるニュースの裏側に光を当てる。放送は月曜~木曜の10時10分頃から。お楽しみに。
【この記事の放送回をradikoで聴く】2019年12月25日28時59分まで
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【番組情報】
番組名:『STEP ONE』
放送日時:月・火・水・木曜 9時-13時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/stepone
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