音楽の原体験は「坂本龍一」。映画『国宝』作曲の原 摩利彦、その時の印象を語る

作曲家・音楽家の原 摩利彦が、自身の音楽的ルーツを振り返り、10月16日(金)に公開の映画『わたしの知らない子どもたち』の作曲エピソードを語った。

原が登場したのは、8月19日(水)放送のJ-WAVE『MIDDAY LOUNGE』(ナビゲーター:クリス・ペプラー)の「TWO ROOMS MUSIC EXPLORER」。世界の音楽シーンのムーブメントを「今」の視点で考察するコーナーだ。

『MIDDAY LOUNGE』はグローバルなルーツを持つ国際色豊かなナビゲーターたちが、リスナーと一緒に「新しい自分、新しい世界と出会う」3時間のプログラム。ナビゲーターは、月曜 ハリー杉山、火曜 市川紗椰、水曜 クリス・ペプラー、木曜 ジョン・カビラが日替わりで担当している。

監督との共作から生まれる映画音楽

原 摩利彦は、静けさのなかにある強さを感じるようなサウンドスケープを作り出し、映画や舞台、そしてファインアートまで、ジャンルを横断しながら音楽活動を続けている。

東京2020オリンピックの開会式で音楽を担当したほか、スケーターの羽生結弦にも楽曲を提供。また、映画『国宝』の音楽を手がけ、数々の音楽賞を受賞するなど、多くの注目を集めている。国内最大規模の国際音楽賞「MUSIC AWARDS JAPAN 2026」では、原が最優秀劇伴音楽賞と最優秀サウンドトラックアルバム賞の2部門を受賞した。

クリス:『国宝』では、いわゆる劇伴のように映像に合わせて音楽を作るのではなく、原さんの音楽を映画に持ち込むという感覚で作られたそうですね。これはどういうことなんでしょう?

原:映画音楽は、もちろん映像のために音楽を作るものです。ただ、最初から映像に合わせるという気持ちでいくのではなく、これまで自分が作ってきた音楽を、まず監督に提示するというところを最初に持ってきていますね。

クリス:なるほど。いわゆる書き下ろしというか、ドラマや映画であったりすると、その作品のテーマなどから入っていくことが多いですよね。原さんの場合は、まず自分の根幹にある音楽から派生していくんですね。

原:そうですね。「こういう音楽がほしい」という参考曲を聴かずに、まず自分で作るというやり方なんです。

クリス:作品のために作るというより、コラボレーションという感覚なんですね。

原:そうですね。実は不思議なことに「これだ!」というときは、監督もこちらも同時に納得できるんです。

クリス:まさに、それが共作の醍醐味ということですもんね。

音楽人生を変えた坂本龍一という存在

番組では、原の本格的な音楽のルーツにも迫った。1996年、原は13歳のときに訪れた坂本龍一のコンサートで大きな衝撃を受けたという。

クリス:そもそも教授(坂本龍一)のことはご存知だったんですか?

原:それが、うっすら名前を知っていたかなぐらいで。当時は、洋楽やJ-POPを中心に聴いていて、ちょうどクラシックを聴き始めたころだったんです。でも、クラシックは「過去の音楽」というか、自分が生きている時代とは少し離れている感覚があって。そのころに坂本龍一さんのコンサートに連れて行ってもらったんですけど、坂本さんは自分と同じ時代を生きている現代の音楽家でありながら、自分が好きになったクラシックの音楽からも流れがつながっていて、不思議な存在に感じられたんです。

クリス:なるほど。

原:もちろん、純粋にかっこよかったっていうのもありますけどね。

クリス:何がいちばん衝撃的だったんですか?

原:当時、坂本さんは金髪だったんですよ。『1919』という、みんながミニマルに同じ音形を弾く曲があって、照明がピカピカッとなって。大阪の大きな会場だったのに、すごく近くにいるような感じがして、迫力がすごかったですね。

1919

クリス:坂本さんにお会いしたことはありますか?

原:はい。2005年に初めてお会いして、そこから何度かお仕事をしました。

クリス:教授はどういう印象ですか?

原:目がすごく強烈で。ものすごく優しいんですけど、その目の奥に厳しさみたいなものがあって、いつも口が乾きました(笑)。何度もお会いしているうちに、だいぶ落ち着きましたね。

クリス:原さんは「教授の後継者」というふうに最近はよく言われていますけども。

原:教授を継いでいくのは誰かひとりではなくて、たくさんの人で継いでいくものなのかなと思っています。そのうちのひとりになれたらうれしいと思っていますけどね。

戦争孤児の物語から生まれたテーマ曲

番組では、原が音楽を担当した、西川美和監督の映画『わたしの知らない子どもたち』から、テーマ曲『太陽と子どもたち』をオンエアした。

映画『わたしの知らない子どもたち』は10月16日(金)に全国公開される。戦後の日本を舞台に、家族を失い、社会からこぼれ落ちた子どもたちを描いた重厚な作品だ。

映画『わたしの知らない子どもたち』【10月16日公開】本予告映像

クリス:原さんは、脚本が届く前にすでに曲の原型を作られていたそうですね。

原:はい。監督から次の映画の構想をお聞きして、その日の晩に作ったんです。そういうときがいちばんインスピレーションにあふれて、曲ができるんです。戦争孤児たちの話で、しかも音楽家になりたかった女の子の話だというので、音楽教育でよく使われる典型的な「ドソミソ、ドソミソ」という音形が、ふっと浮かんだんですね。それをスタート地点にして、展開していけるんじゃないかというのが直感であって。もちろん、そのあとに書き直したり修正したりしていますが、最初にそれが湧いてきました。

クリス:『わたしの知らない子どもたち』には、原さんご自身も音楽家として出演されていますよね。最初に監督から「出てほしい」と言われたんですか?

原:いえ。脚本を読んでいるときに、「原」という音楽家がいるなと思ったんです。途中のミーティングで、「この原っていう人は誰が演じるんですか?」と訊いたら、「半分ぐらい原(摩利彦)さんと思っているんです」と言われまして。冗談かなと思ったんですけど、そのあとは自分も覚悟をだんだん決めていきました。

クリス:劇中では原さんの表情がすごく印象的でした。

原:もう、素です。脚本のなかの「原」という人物に入り込んで、自分がその状況だったらどういう気持ちになるかな、というのを考えてやりました。

『太陽と子どもたち』を彩った2つの場所の音

『太陽と子どもたち』は映画のエンディングで流れる楽曲であり、演奏に坂本龍一が東日本大震災後に立ち上げた東北ユースオーケストラが起用されている。また、東北ユースオーケストラに加え、イタリア・ローマの現地の音楽家とも録音を行ったという。クリスは原に、それぞれの音楽家を起用した意図について尋ねた。

原:イタリアで録音するというのは、自分のアイデアというより制作面の状況があって、「イタリアで録音できますが、どうしましょうか」と言われたんです。『国宝』で、いつもの日本のチームとはひとつやりきった感があったんですね。それから1年経たないうちの録音だったので、ちょっと違う状況でやってみたいと思って「イタリアでやりたい」と言いました。

クリス:なるほど。

原:東北ユースオーケストラに関しては、最初に西川監督から「この映画は子どもが主人公で、子どもたちが頑張っているけれども、それを変におとぎ話のように彼女たち、彼らに寄り添いすぎた音楽ばかりにするのではなく、大人の厳しさや現実の厳しさ、その冷たさみたいなものも音楽で表現してほしい」と言われていたんですね。イタリアで録音した多くの劇伴に関しては、そういった視点や距離感をもって作曲したんですけど、最後にはやっぱり、大人では出し切れない音、若い人たちの音楽に対する力というのが絶対に必要だと思ったんです。東北ユースオーケストラは、坂本龍一さんが東日本大震災のあとに楽器の修復のプロジェクトから立ち上げたものですけど、音楽をやりたくても楽器が壊れてできない、そういう環境がないという子どもたちが集まって、音楽を奏でる。その力というのは、もちろん何代もメンバーが変わっていますが継承されているはずなので、ぜひ一緒にやってみたいと思いました。

クリス:映画において音楽を担当するということは、原さんにとってどんな意味があるとお考えですか?

原:映画の印象を大きく左右するのは音楽ですけれども、それはただの演出にとどまらず、音楽の根っこと映画作品の根っこというものが、どこかでつながっているようなものであるべきだなと思っています。

コーナーの終盤、クリスは今後の活動について尋ねる。

クリス:今後、どのような作品を作りたいとか、ライフワークとして最終的にどういう活動をしたいですか?

原:ライフワークとしては、音楽を作るだけじゃなくて、自分で演奏する活動もしたいですね。あと、電気を使わずに反射などの自然現象だけの空間、音響建築みたいなものをいつか作りたいなと思っています。

クリス:なるほど。デジタルやAIではない世界で。

原:遠い波の音がなぜか近くで聞こえるようなこととかをやってみたいですね。

原 摩利彦の最新情報は公式サイトまで。

J-WAVE『MIDDAY LOUNGE』のコーナー「TWO ROOMS MUSIC EXPLORER」では、世界の音楽シーンのムーブメントを「今」の視点で考察する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
radikoで聴く
2026年8月26日28時59分まで

PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

番組情報
MIDDAY LOUNGE
月・火・水・木曜
13:30-16:30

関連記事