ビートルズ来日60周年!『こいつ』『涙の乗車券』『みんないい娘』に宿る“邦題文化”の奥深さを紐解く

ハリー杉山と市川紗椰が、独自の視点でビートルズの魅力を語った。

この内容をお届けしたのは、6月1日(月)・2日(火)放送のJ-WAVE『MIDDAY LOUNGE』内、「MUSIC EXPLORER」。世界の音楽シーンのムーブメントを“今”の視点で考察するコーナーだ。

『MIDDAY LOUNGE』はグローバルなルーツを持つ国際色豊かなナビゲーターたちが、リスナーと一緒に「新しい自分、新しい世界と出会う」3時間のプログラム。ナビゲーターは、月曜 ハリー杉山、火曜 市川紗椰、水曜 クリス・ペプラー、木曜 ジョン・カビラが日替わりで担当している。

ハリー杉山が初めて触れたビートルズソングは?

1966年6月に来日公演を行ったビートルズ。その熱狂は社会現象となり、日本の音楽シーンに大きな衝撃を与えた。あれから60年が経った現在も、その存在感は色あせることがない。2026年は、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが同時期にニューアルバムを発表したほか、ジョン・レノンとオノ・ヨーコによる伝説的なライブを収めた映画が公開されるなど、ビートルズへの関心は再び高まりを見せている。

そうしたなか、6月1日(月)から4日(木)に放送した『MIDDAY LOUNGE』では、ビートルズの魅力をあらためて掘り下げる特別企画を実施。「MUSIC EXPLORER」のコーナーでは「THE BEATLES:60 YEARS SINCE THEIR ARRIVAL IN JAPAN」と題し、60年前に来日公演を行ったビートルズへの愛や、ビートルズが音楽界に与えた影響について、各ナビゲーターがそれぞれの視点から語った。

本記事では、ハリー杉山が出演した6月1日(月)の放送と、市川紗椰が出演した6月2日(火)の放送内容をテキストで紹介。まずハリーは、自身の“ビートルズ原体験”を振り返りながら、彼らの音楽と出会った当時の記憶や、今なお惹きつけられる理由について語った。

ハリー:イングランドはもちろん、世界中で愛され続けているビートルズ。僕は1985年生まれなので、解散からかなり時間が経ったあとに彼らと出会いました。ビートルズが持つ魅力が、どうやって日本人だけでなく世界中の人々の心に寄り添ってきたのか。それを知るきっかけになったのは父親でした。初めて触れた曲は『I Am the Walrus』です。

I Am The Walrus (Remastered 2009)

『I Am The Walrus』は1967年にリリースされた、ジョン・レノン作詞・作曲による楽曲。ビートルズのシングル『Hello, Goodbye』のB面に収録された。

ハリー:子どものころ、父が持っていたアルバムで聴いたんですが、歌声よりもアレンジがあまりにも不思議で、まずそちらに心を奪われました。「これは何なんだろう? 音を物理的に曲げているのかな。スクラッチでもないし、逆再生なのかな」と思ったんですよね。クレジットは「レノン=マッカートニー」となっていますが、実質的にはジョン・レノンの楽曲です。非常にファンキーな歌詞とサウンドで、ジョンは『鏡の国のアリス』に登場するセイウチと大工にインスパイアされて作ったそうです。

曲構成の固定概念を取り払った『Help!』

続いて、ハリーは「僕の青春時代のちょっと苦い経験とリンクしているかもしれない曲」と語りながら『Help!』を選曲。同曲は1965年7月にシングルとして発売され、全英シングルチャートとBillboard Hot 100™の双方で首位を獲得した。

The Beatles - The Beatles - Help! (Remastered 2015)

ハリー:この曲は、心の奥にため込んでいるものを瞬時に解放してくれるような力があります。まず冒頭の一音、あの「Help!」という叫びですよね。要するに、サビから始まる曲なんです。もちろん、音楽にルールなんてないと思うんですけれども、自分のなかにある固定観念を吹き飛ばしてくれました。

同曲は、映画『ヘルプ!/四人はアイドル』のテーマ曲として制作された。

ハリー:曲のタイトルは映画監督によって決められたようで、これものちのち知ったんですけど、ポールによると、曲名を他人から与えられて制作した初めての楽曲だったそうです。つまり、それまでは自分たちのクリエイションがすべてだったということですよね。この曲は今、何かしらのフラストレーションを抱えている方には、特に響く曲かもしれません。ぜひ、冒頭の「Help!」の声から感じ取っていただければと思います。

ビートルズの熱狂的ファンに感化された少年時代

さらに、ハリーは「青春時代の甘酸っぱく切ない記憶ともリンクする曲」と語り、『I Want to Hold Your Hand』をセレクト。邦題は『抱きしめたい』。1963年に発表された同曲は、イギリスでは5枚目のシングルとして発売され、アメリカや日本ではビートルズの本格的なデビュー曲として大きなインパクトを与えた。

ハリー:僕がイギリスへ留学したのは11歳のときで、同じタイミングで編入してきたのがアメリカ人の男の子でした。彼の地元はボストンの北にあるメイン州で、夏休みに彼の別荘へ遊びに行ったとき、ラジオから流れてきたのがこの曲だったんです。そこには彼のお姉さんと、別荘の管理をしていた素敵な女性がいました。

ハリーは女性たちから「ビートルズを聴くなら、中途半端に聴いちゃダメだ」と熱心にすすめられたという。

ハリー:じゃあ、全部聴くしかないでしょうと思って。彼のお姉さんは、『I Want to Hold Your Hand』が流れるたびに、ビートルズについて彼女が知っていることを力強く、楽しそうに語って、さまざまなエピソードを教えてくれたんです。その姿がめちゃくちゃかわいく見えて。でも、この曲を聴きながら「はぁ、手をつなぐことなんて……ないよな」って思っていた当時でしたね(笑)。あれ、このストーリーで曲を汚してないですかね(笑)? 最高のイントロから始まる名曲です。

I Want To Hold Your Hand (Remastered 2015)

ユニークな「ビートルズ邦題」に注目

市川紗椰がナビゲーターを務めた6月2日(火)の放送では「ビートルズのおかしな邦題」をテーマにお届け。味わいのあるユニークなタイトルなど、長年にわたり日本人に愛され続けてきたビートルズ楽曲の日本語タイトルを取り上げ、その魅力をひも解いた。

市川:イギリスで生まれたビートルズの音楽を日本で広めるために、当時のレコード会社の方が頭をひねって、愛される日本語タイトルをつけました。それが邦題なんですが、今振り返ると素晴らしい邦題もあれば、一方で少しモヤっとするものもあります。今となっては「原題のままでいいじゃないか」と思われがちな時代ですけど、昭和の邦題は単なる翻訳ではなく、解釈でもあったんですよね。なので、味わい深い邦題がたくさんあります。

最初に市川が紹介したのは、『I Want To Hold Your Hand』に付けられた『抱きしめたい』。

市川:いいですよね、『抱きしめたい』。英語の原題を直訳すると「手をつなぎたい」なのに、日本語になると急にスキンシップが2段階くらい上がっていて。ビートルズ、日本ではかなり距離感を急に詰めますねっていう。ただ、長いタイトルを日本語でひと言にまとめる素晴らしさがあって、本当に秀逸だなと思います。

なお、この邦題を名付けたのは、当時ビートルズの初代担当ディレクターを務めていた高嶋弘之だという。

市川:ちなみに、『We Can Work It Out』には『恋を抱きしめよう』という邦題が付けられています。昭和は抱きしめがちなんですね。「うまく乗り越えよう」という意味の曲が『恋を抱きしめよう』になりました。しかし、ここで私がオンエアしたいのは『I Want To Hold Your Hand』のB面だった『This Boy』です。今では日本語表記も『ジス・ボーイ』ですが、当時の日本盤シングルでは邦題が『こいつ』でした。いいよね、短い。なんか感じがいいんですよね。妙に愛しい。3声のハーモニーが見事ですので、お聴きください。

This Boy (Remastered 2009)

『This Boy』は低音部から順にジョン・レノン、ジョージ・ハリスン、ポール・マッカートニーがパートを担当している。この美しいコーラスは、ジョンとポールが練習を重ねながら作り上げたものだという。ホテルで試行錯誤を重ねるなかで、スモーキー・ロビンソンからインスピレーションを得たともいわれている。

市川:ちなみに、この曲が初めて登場するのがビートルズの映画『A Hard Day's Night』。邦題は『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』で、これもまたいい邦題です。映画のなかで、リンゴ・スターが街をふらふら歩きながらサンドイッチを持っているシーンがあるんですが、そのときに『This Boy』のインストゥルメンタル版が流れます。その際、映画では副題として『リンゴのテーマ』と表記されているんですよね。これはジョージ・マーティンがインストを作ったときにつけた副題だそうです。だから、この曲は『こいつ』でもあり、『リンゴのテーマ』でもあり、「This Boy」でもあります。

ジョージ・ハリスンの人柄が伝わる『みんないい娘』

1965年のアルバム『ラバー・ソウル』に収録されたジョージ・ハリスン作の『Think For Yourself』には、『嘘つき女』という邦題が付けられている。さらに、同作のB面ラストを飾る『Run For Your Life』の邦題は『浮気娘』。

市川:『ラバー・ソウル』には『嘘つき女』と『浮気娘』がいるっていうね。そんななかで、同じく女性をタイトルにしながらも、ちょっとほっこりする邦題の曲をお送りします。ジョージが歌った1964年リリースのカバー曲『Everybody's Trying to Be My Baby』、邦題は『みんないい娘』です。

Everybody's Trying To Be My Baby (Remastered 2009)

同曲は、カール・パーキンスの楽曲をカバーしたもの。ジョージが彼を深く敬愛していたことはよく知られており、ビートルズの初期のルーツも感じられる1曲だ。

市川:原題の内容は「みんな俺の彼女になりたがっているんだぜ」という、かなり自信満々な意味合いで。『みんないい娘』って面白いですよね。本当は「みんな俺の彼女になりたがってる」なのに、急に健全な品評会みたいになるというか(笑)。こういうところにビートルズ邦題文化の面白さが出ている気がします。それに、この独特なエコーもたまりません。片側のスピーカーから聞こえた音が返ってくるような感覚が面白いんですよね。

ビートルズ邦題に込められた思いは?

続いて市川は、名邦題のひとつとして『涙の乗車券』を挙げた。

市川:『Ticket To Ride』を直訳すると「切符」「乗車券」ですけど、それだと聴きたくないですよね。鉄道好きとしては非常に聴きたいですけど(笑)。「指定席」とか「指定券」っていう曲もあったら聴きたい(笑)。『Ticket To Ride』の歌詞の感じからは自由や恋、旅情が漂うおしゃれな響きがあります。一方で、日本語の『涙の乗車券』には昭和のロマンチシズムを感じるというか、駅のホームで見送る彼女、夕暮れ、切符、涙をぬぐうハンカチ……そんな妄想がぴったりな名邦題です。

The Beatles - The Beatles - Ticket To Ride (Official Music Video) [Remastered 2015]

市川:独特で重いリズムがありますし、当時のポップソングとしてはかなり重心が低いですよね。だから、日本盤では失恋のニュアンスを強調したくて、「涙の」を付けたのかもしれません。明るい失恋ソングではなく、悲しみよりも諦めや喪失感がある曲ですからね。それにしても、このドラムパターンはたまりません。タムを使った独特のリズムは、後世のドラマーにも大きな影響を与えました。

ビートルズの楽曲は、現在では英語タイトルをそのままカタカナ表記しているものも多い。今回、紹介した邦題のなかにも『こいつ』が『ジス・ボーイ』になったように、のちにカタカナ表記へ変更された楽曲があるほか、後期の作品の場合、最初からカタカナ表記のものが中心となっている。

市川:当時の担当ディレクターたちが日本のファンにビートルズの魅力を理解してもらいたいという思いを込めて付けた邦題、愛があると思います。実は当時、発売されていたビートルズのアルバムは、邦題に限らず、曲順や収録曲自体がアメリカ盤や日本盤でも違っていたんですよね。たとえば、本国盤には入っていないシングル曲を追加したりして、その国のファン向けにアルバムを構成していました。いわゆるローカライズという感じですかね。今の配信時代では考えられないことですが、1960年代はまだ世界との距離があったんだと思います。その結果として、今でもこうした愛すべき邦題を楽しむことができます。みなさんもぜひ味わってみてください。

また、6月3日(水)・4日(木)の放送では、クリス・ペプラーとジョン・カビラが、ビートルズの楽曲や、彼らの魅力について語っている。その模様を紹介する記事も、近日公開予定。

J-WAVE『MIDDAY LOUNGE』のコーナー「MUSIC EXPLORER」では、世界の音楽シーンのムーブメントを「今」の視点で考察する。放送は月曜~木曜の14時ごろから。
番組情報
MIDDAY LOUNGE
月・火・水・木曜
13:30-16:30

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