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「該当作なし」だった第173回芥川賞・直木賞…近年の受賞作の傾向は?  書評家・倉本さおりに聞く

「該当作なし」だった第173回芥川賞・直木賞…近年の受賞作の傾向は? 書評家・倉本さおりに聞く

7月16日(水)に第173回芥川賞・直木賞選考会が東京都内で実施され、芥川賞・直木賞とも「該当作なし」という結果になった。両賞該当作なしは1998年の第118回以来27年半ぶりで6度目のこと。

『GRAND MARQUEE』では毎年、芥川賞にフォーカスをあて、選考会を深堀りしている。今年は書評家の倉本さおりさんと番組ナビゲーターのタカノシンヤが結果を予想。さらに、倉本さんが近年の受賞作の傾向を解説してくれた。

この内容をお届けしたのは、7月16日(水)放送のJ-WAVE『GRAND MARQUEE』(ナビゲーター:タカノシンヤ、Celeina Ann〈セレイナ・アン〉)のコーナー「NiEW EDITION」。オルタナティブカルチャーメディア「NiEW」と連動し、東京を面白くしているカルチャートピックスを紹介する。

第173回芥川賞・直木賞選考会の結果を予想!

タカノは音楽ユニット「Frasco」にて作詞・作曲・アレンジ、企画等を担当する音楽家であり、広告の企画やコピーライティングなども手がけてきた。本好きであり、自身も小説を執筆している。そんなタカノは結果発表前、どう予想していたのか。

【第173回芥川賞 候補作】
・グレゴリー・ケズナジャット『トラジェクトリー』
・駒田隼也『鳥の夢の場合』
・向坂くじら『踊れ、愛より痛いほうへ』
・日比野コレコ『たえまない光の足し算』

候補作が4作品となったのは、戦前の芥川賞黎明期を除けば最少となり、2017年以来2度目となる。

タカノ:駒田さんと日比野さんは初の候補で、ケズナジャットさんと向坂さんは2回目の候補となりました。すべて読みましたが、もうわかんない! どれも好きです! 向坂さんは前作の『いなくなくならなくならないで』の流れというか、ひとつのつながりがテーマになっていていいなって思いました。日比野コレコさんも、現実世界とはまた少し違う、SFの要素があって面白かったです。駒田隼也さんの作品は難解だった。現実と非現実がミックスされるような書き方が巧でした。そして、グレゴリーさんは日本語が母国語でないのに2回もノミネートされていてすごいです。読みやすさもありましたし、海外の方の孤独感と宇宙飛行士の孤独感が重なりました。すべてよかったので、今回は受賞作はなし!

セレイナ:受賞作なしを予想ですか?

タカノ:と、思わせておいて、さすがにいまの出版業界の状況を考えて、それはないかとは思うので……グレゴリーさんと予想します!

近年の受賞作の傾向は?

続いて、書評家の倉本さおりさんと電話をつなぎ、近年の芥川賞・直木賞選考会の傾向や、今回の予想を聞いた。

倉本:最近の選考委員の方は、描写がしっかりしているもの、たとえば読んでいて風景が浮かび上がるもの、小説としての土台がしっかりしているものが評価される傾向にあります。今回の最終選考に残った作品の共通点ですが、信じていたものや自分の生きていた足元が揺らぐ感じが特徴なのかなと思っています。

タカノ:なるほど!

倉本:いまの世界情勢を鑑みたうえで、私もグレゴリー・ケズナジャット『トラジェクトリー』だと思っています。

タカノ:4作品のなかでは、グレゴリーさんの小説がいちばん社会問題と接着している感じがするんですよ。

倉本:ストレートに読めますし、文章力がしっかりしていますよね。主人公は英会話教室で働いている、アメリカから来た若者です。ある日、日本人の年配の男性・カワムラと出会います。彼は、アポロ11号を打ち上げた当時のアメリカに強い憧れを抱いています。一方で、主人公はある種、没落した現代アメリカの姿を見ている。そんなふたりの対照的な視点が印象的です。そしてふたりは、英語の日記で交流をするんですね。カワムラは実際にしゃべると面倒くさいおじさんなのに、英文だとものすごく素朴で、みずみずしい情感が書かれているんですよ。複数の言語や文化の狭間に身を置きつつ、日本語表現の新たな可能性を切り拓いた作家さんならではの技が光っているなと感じました。

タカノ:構成もすごく巧みなんですよね。

倉本:ケズナジャットさんの小説を読むと、どういうふうに世界と自分との距離を置くかをチューニングできるんですよね。文学の力が、社会情勢に対するとっかかりを与えてくれるような感覚があります。

セレイナ:未来に向けて、明るい光を見たくなるような読後感がありました。ふたりとも『トラジェクトリー』に1票ということで! 結果がどうなるか楽しみです!

第173回芥川賞・直木賞は「該当作なし」

番組の終盤、第173回芥川賞・直木賞選考会の結果が発表され、スタジオにも芥川賞・直木賞ともに「該当作なし」と伝わった。

セレイナ:タカノさんは最初の予想で「該当者なしと言いたい」と言っていましたよね?

タカノ:そのあとにいろいろ言っていましたけどね(笑)。出版業界は紙の本を売るのが難しいと言われているじゃないですか。その状況を鑑みると、選考委員の方がプライドを見せたというか、かっこよさがありますね。

セレイナ:潔さがあると。

タカノ:私のようなポジティブな人間からすると、裏を返せば、全員受賞! 選べないぐらいすべての作品がよかったんだと思っています! 今回の作品は四者四様のすばらしい作品で、深く心に残るものばかりでした。

セレイナ:これからも文学を語っていきたいですね!

J-WAVE『GRAND MARQUEE』は月曜~木曜の16:00-18:50にお届け。エンタメ、カルチャーなどのトピックが多く、今回のように本を扱う放送回も多い。詳細は公式サイまで。

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