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RADWIMPS・野田洋次郎からのオファーも! 演出家・アニメーション作家の橋本大佑が語る半生

RADWIMPS・野田洋次郎からのオファーも! 演出家・アニメーション作家の橋本大佑が語る半生

演出家・アニメーション作家の橋本大佑さんが、独自の創造性を育んだ少年時代の活動やRADWIMPSのMVを手掛けることになった経緯、AI時代のクリエイターの在り方について語った。

橋本さんはアニメーションを活かしたプロジェクションマッピングを得意とするクリエイター。これまでに東京スカイツリーのクリスマスイベントや、温泉宿「星野リゾート 青森屋」の常設ショー「みちのく祭りや」、24年末にJ-WAVEと虎ノ門ヒルズTOKYO NODEがコラボした音楽体験ミュージアム「MUUUSE」などにてプロジェクションマッピングを手掛けて注目を集めている。

橋本さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。

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小学生時代に鳥山明へ弟子入り志願

橋本さんを乗せた「BMW X5 xDrive40d M Sport」は六本木ヒルズを出発。流れる車窓の景色を眺めながら、まずはクリエイティブに目覚めた幼少期の思い出から語り始めた。

橋本:小さい頃、絵がめちゃくちゃ好きで、しょっちゅう絵を描いていた記憶があります。最初の夢は漫画家で、憧れは鳥山明先生。そのため小学3~4年生の頃などは、自分の描いた漫画を鳥山先生宛に送ったりしていました。また、ほぼ同時期に、カプコンのアクションゲーム「ロックマン」に登場するボスキャラのデザインを募集していたので、応募したところ採用され、エンドドロールに自分の名前が載るという経験もしました。そんなふうに、幼少期からものづくりの世界で生きていきたいと考えていたんですよね。

大好きな絵の表現方法を漫画やゲームのキャラクターデザインに求めていた少年時代の橋本さん。アニメーションに目覚めたきっかけは「ちょっと特殊だった」と振り返る。

橋本:父親が古文・漢文の教師なのですが、僕にも同じ道を歩んでほしいと思っていたらしく、とにかく勉強をするよう求めてきたんです。僕はそれが嫌で嫌で堪らなくて。そこで、パラパラ漫画ってあるじゃないですか。教科書の端っこにちょこっと絵を描くやつ。それを逃避活動みたいな感じで永遠に書き続けていました。特に当時はプロレス好きが高じ、川田利明やスティーブウィリアムスなどの名プロレスラーが繰り出す、落とす角度が異なるバックドロップの動きをパラパラ漫画で再現するということに熱中していましたね。父親の書斎に置かれた多数の本にも手を出し、全てにパラパラ漫画を書き尽くすという特殊な反抗期を過ごしていました。このため父親は「こいつは勉強には向いていない。好きなことをやらせるか」となったようです。

野田洋次郎からまさかのオファーが舞い込む

パラパラ漫画制作に没頭していたことが功を奏したのか、橋本さんは山形の美術大学に進学する。当初は油絵を専攻していたものの、動かない絵を描くことに物足りなさを感じて情報デザインの映像コースに転部し、その表現方法に磨きをかけていく。

橋本:パラパラ漫画と油絵の技法をブレンドさせ、奈良東大寺の金剛力士像がプロレスをしているような現代アート風のアニメーションを作ったことがありました。その作品を映像コースの先生に見せたところ、「全く意味がわからないけど、ものすごく面白いからコンテストに出したほうがいい」と勧められて。そこで当時、映像業界の登竜門と言われていたNHKの番組「デジタル・スタジアム」に投稿したら、たくさんの賞をいただくことができました。調子に乗って、自分は映像業界でこの一風変わったテイストのままクリエイターとして生きていけると考え、東京に出てきました。そして、どや顔でその作品を電通や博報堂の偉い人に見てもらったのですが、「こんなもんは全然使えない」と全く相手にしてもらえなかったんです。自己満足の作品で食べていくのは難しいと鼻をへし折られ、ようやく社会にとって必要な映像とは何か、見てる人とどのようにコミュニケーションを取るかといった課題と向き合うようになりました。

作家性の強い独創的な表現と、クライアントの意向に沿った商業性の狭間で葛藤を強めていた若き橋本さんだったが、そんな中である人気アーティストから思いもよらぬオファーが舞い込む。
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橋本:僕が学生時代に作ったアニメーション作品を、RADWIMPSの野田洋次郎さんがたまたま何かの機会で見て、気に入ってくれたんです。それで直接連絡をくださり、ぜひ我々のミュージックビデオを自由に何の制限もなく作ってほしいとのオファーをいただきました。こうして手掛けたのが、2013年に発表された楽曲「実況中継」のMVです。テーマは日本の神々。神様といっても人間と同じように未熟な存在で、間違いを犯して喧嘩もしたりする。だから、結局世の中カオスなんだ……という曲です。そんな楽曲の世界観と僕の作品に親和性が認められ、MVを依頼されたという経緯があります。

復興支援の仕事で芽生えた新たなモチベーション

「実況中継」の発表と同じ2013年、橋本さんはキャリアのターニングポイントとなるクリエイティブを手掛ける。それは地元・福島県からオファーされた復興支援プロジェクトの仕事だった。

橋本:震災の2年後、福島県会津若松市の鶴ヶ城で初めてプロジェクションマッピングを制作しました。復興支援ソング「花は咲く」に合わせて城の壁面に咲いていくというストーリーだったのですが、見に来てくれた多くの方が感動して涙を流し、「救われた」「本当にありがとう」という言葉をかけてくださいました。自分は今まで見ている人に「すごいと思われたい」「驚かせたい」というモチベーションで作品を作っていました。そんな中で、「救われた」と言われたのは初めてで。衝撃的だったのとともに、人を感動させる魂を震わせるようなコンテンツを本気で作っていきたいという想いが芽生えた瞬間でした。そこから徐々に空間演出やプロジェクションマッピングを手掛けるようになったんですよね。
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話をしているうちに「BMW X5 xDrive40d M Sport」は東京スカイツリーに到着。橋本さんはスカイツリーで、2022年と2023年のクリスマスイベントの演出・制作を担当し、公式マスコットキャラクターの「ソラカラちゃん」をフィーチャーしたプロジェクションマッピングは大きな話題を集めた。そんな場所で語ってくれたのは、年々進化を遂げていくプロジェクションマッピングの最新事情だ。

橋本:2012年に行われた東京駅のプロジェクションマッピングがプロジェクションマッピング時代のスタートだと僕は考えています。東京駅の壁面に投影された映像に、集まった人たちが「なんだこれは!」「建物が動いてる!」と驚いてから13年。プロジェクションマッピングは目覚ましい進化を遂げましたが、技術そのものは変わっていません。では、何が変わったかというと、そこに何を足していくかということです。たとえば、プロジェクションマッピングの演出に、レーザーや噴水を加えることによって新たな価値を生み出していくというように、「組み合わせの妙」みたいなものが進化していってます。

AI時代にクリエイターが大切にすべきこと

橋本さんの最近手掛けた仕事の一つが、TOPPAN株式会社が運営する「デジタル文化財ミュージアム KOISHIKAWA XROSS」のアートディレクションだ。TOPPANが保有する膨大な文化財のデジタルアーカイブを、見るのではなく体験することを目的とした同博物館。最先端のデジタル技術で復元した江戸時代の絵師・伊藤若冲による幻の名画「釈迦十六羅漢図屏風」をはじめとした多彩なコンテンツを制作する上で、どんなことを意識したのだろうか?

橋本:徹底してこだわったのはディテールです。一つひとつのモチーフがぼんやりしてちゃダメ。高精細でまるでそこに存在するかのようなディテールを、映像でもプロジェクションでも表現することを心掛けました。たとえば、粒子がふわっと広がるシーンを作る際には、その一粒一粒をミリ単位でしっかりと描いたりとか。でないと、TOPPAN株式会社さんが求めるものを表現できないので、そこは一番注力しましたね。
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プロジェクションマッピングによる多彩なアニメーション表現で、人々に感動体験を届け続ける橋本さん。最後に彼にとっての挑戦、そしてその先にある「Freude=喜び」とは何かと尋ねると、こんな答えが返ってきた。

橋本:これからのクリエイティブは、AIの影響を多分に受けると思います。AIの進化は目覚ましく、いずれ、誰でもすごい映像を作れる時代が来ることでしょう。そんな時代だからこそ、クリエイターとして、プロとアマの違いをどのように打ち出すか、考えていかなければいけません。また、何を作れるかではなく「自分が何を作りたいか」をより重視していくべきですし、表現したいことを明確にしないと今後埋もれてしまうと危機感を覚えています。

そんな中で僕がこれからやっていきたいことは、日本の魅力や独自の思想を後世に伝えていくことです。今の世の中を見ると、日本らしさがどんどん希薄になっている印象を受けるんですよね。だから、しっかりと日本の根源的な部分、たとえばアニミズムや八百万の神、神話などの精神性をエンターテイメントにしっかりと落とし込んで伝えていけたら、若い人たちが日本に誇りを持てると思うんです。

(構成=小島浩平)

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