小説家の高瀬隼子が自身のルーツや小説の書き方、新著『新しい恋愛』(講談社)について語った。
高瀬が登場したのは、J-WAVEで放送中の『GRAND MARQUEE』(ナビゲーター:タカノシンヤ、Celeina Ann)のワンコーナー「FIST BUMP」。ここでは9月26日(木)オンエアの内容をテキストで紹介する。
タカノ:まずは小説家を目指したきっかけから訊いてもいいですか?
高瀬:小学生のころから本を読むのがとにかく好きでした。愛媛の田舎育ちですが、本屋さんに通って、買えないからずっと本の背表紙を見て帰るみたいな。あまりきっかけは覚えていないのですが、とにかく「物語を作る人になりたいな」というのを小さいころから思っていました。
タカノ:実際に書き始めたのはいつごろからですか?
高瀬:ノートに手書きで、というのが9歳10歳ぐらいでした。
タカノ:早いですね。
高瀬:高瀬というペンネームで。本名ではないのですが、小学校6年生のときに「高瀬、格好いい」と思ってつけました(笑)。小中学生向けの物語コンクールに原稿用紙に手書きで書いて出し始めたのがそのころです。
Celeina:小さいときからずっとこころざしていたのですね。
高瀬がすばる文学賞を受賞し、デビューしたのが31歳。大学卒業後は10年間会社員として働きつつ、夜は執筆をして文学賞に応募する生活を続けていたという。
タカノ:人によっては朝書いてから出社する人とかいますよね。夜型派だったんですか?
高瀬:朝は全然起きられなくて、1分でも長く寝ようとしていて。大体夜に書いていました。
タカノ:でも10年ですよ。そのぐらいかかる方も多かったりしますよね。
高瀬:小中学生向けのコンクールは10代のときに出していて、いわゆるデビューにつながる新人賞に出し始めたのが20歳ぐらいのときです。そこから10年で31歳ぐらいまでかかりました。毎年どこかに出しては落選して……。年に1回は応募していたのですが、年に1回は落選し続けた10年間でした。
タカノ:モチベーションはどう維持していったのですか?
高瀬:応募して結果が出るまで2、3か月あいだが空くので、落選したと知ったときには「あ、そうか出したな」みたいな。ショックが大ダメージというより小ダメージぐらいの感じでした。そのあいだに、ほかのおもしろい小説をたくさん読むと「やっぱり好きだな」という気持ちで、それでずっと続けてこられた気がします。
タカノ:デビューが決まったときはすごく?
高瀬:「まじか」みたいな(笑)。
タカノ:お電話がくるんですよね。
高瀬:その日の会社は夕方から有休をとって家で待機して電話を待っていました。めっちゃお腹が痛くてトイレに何回も行って、電話がきたときは「嘘、まじか」みたいな。現実感が全然なくて、その現実感のなさがまだ続いている気がしています。
タカノ:僕も小説を書いて新人賞を目指しているので、高瀬さんの一言一言が身に染みています。
Celeina:応募されているんですよね。
タカノ:去年からスタートなので、あと8年あるので頑張ります(笑)。
高瀬:あまり長いプロットは書いていないんです。たとえば「家族がお風呂に入らなくなったら大変だな」とか、1行、2行のものとか。「歩きスマホ、いつもよけているけど、よけなかったらどうなるかな?」とか。疑問みたいなものを自分で立ててとりあえず書き始めて、あとでだいぶ直すという形で書いています。
タカノ:そういうスタイルなんですね。
高瀬:オチというか、結末が決まっていないまま書いています。
タカノ:ちなみに芥川賞を取られた『おいしいごはんが食べられますように』がすごい作品です。これはどういう着想から?
高瀬:それこそ「会社を舞台の作品を書こう」しか決まっていませんでした。主人公の男性で「二谷」という会社員がいます。この人の日常を最初延々と書いていたら、そのうちに職場で、芦川さんというちょっと元気がない感じの、秘密の恋人ができました。書いていくうちに、だんだんその人が手料理をたくさん作るシーンが増えてきたので「これ、ご飯の話になるのかも」と途中で思って、そこから膨らませていったら『おいしいごはんが食べられますように』というところに着地しました。
タカノ:この本が本当におもしろくて。仕事ものでもあり、恋愛ものでもあり、食事というのも1個の大きなテーマですが、食欲がどんどんなくなっていくんです。
Celeina:タイトルにも「ごはん」が入っているのに食欲がなくなるというのは、聞いたことがないです。
タカノ:ある種、人によってはホラー小説っぽい読み方もできます。人間関係のえぐみのある部分や本音と建て前のやりとりとか、社交辞令の気持ち悪さとか、そういうものをあぶり出しているような作品で、僕も大好きです。
高瀬:ありがとうございます。
タカノ:二谷さんという方がスリリングな異常行動をとるタイプの方で(笑)。ぼくはやばい人が好きなので、推しは二谷さんです。
高瀬:うれしいです。めちゃくちゃエゴサーチした結果「二谷、人気ないな」と、私調べで出ました。私は好きなのでうれしいです。
Celeina:我々も読ませていただいて、一気読みしちゃいました。
高瀬:ありがとうございます。
タカノ:すごかったです。
Celeina:5つのストーリーが入っています。私はやっぱり1つ目の「花束の夜」が好きだったな。エンディングもすごくおもしろかったし、すごく考えてしまいました。
タカノ:梶井基次郎『檸檬(レモン)』の「檸檬爆弾」あるじゃないですか。あれ的な「花束爆弾」だなと僕は思って。
高瀬:その感想は初めて言われました。
タカノ:花束の使い方がすごく効果的で。
高瀬:「花束いらないな」と思って捨てようかなと考える、女性の話を書きました。
タカノ:その女性がいろいろと、職場の方とありながら……という(話ですね)。
Celeina:高瀬さんの著書を初めて読ませていただきました。視点の転換の仕方、たとえばひとつ目の「花束の夜」でも、現在進行形のいまの主人公の見えている景色と頭のなかで繰り広げられる過去の記憶との行き来がスムーズでシームレスな感じがして、頭のなかでイメージが立ち上がる感覚がしました。私は一気読みで1日ぐらいで読みました。
高瀬:うれしい。
タカノ:引き込まれる話がいっぱいです。僕は「いくつも数える」という最後の話が好きです。いわゆる「歳の差結婚」というね、よくあるじゃないですか。「歳の差なんて2人が幸せだったらいいじゃない」という考え方ありますけど、なにか違和感を覚える人も世の中にはいたりするというところにズバッとメスを入れています。我々が普段、なんとなく感じている違和感やもやもやみたいなものを見事に可視化してくれた感じがして、すごいなと思いました。
高瀬が登場したのは、J-WAVEで放送中の『GRAND MARQUEE』(ナビゲーター:タカノシンヤ、Celeina Ann)のワンコーナー「FIST BUMP」。ここでは9月26日(木)オンエアの内容をテキストで紹介する。
子どものころから本好き
高瀬は1988年愛媛県生まれ。2019年『犬のかたちをしているもの』(集英社)で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。2022年『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)で第167回芥川賞を受賞した。タカノ:まずは小説家を目指したきっかけから訊いてもいいですか?
高瀬:小学生のころから本を読むのがとにかく好きでした。愛媛の田舎育ちですが、本屋さんに通って、買えないからずっと本の背表紙を見て帰るみたいな。あまりきっかけは覚えていないのですが、とにかく「物語を作る人になりたいな」というのを小さいころから思っていました。
タカノ:実際に書き始めたのはいつごろからですか?
高瀬:ノートに手書きで、というのが9歳10歳ぐらいでした。
タカノ:早いですね。
高瀬:高瀬というペンネームで。本名ではないのですが、小学校6年生のときに「高瀬、格好いい」と思ってつけました(笑)。小中学生向けの物語コンクールに原稿用紙に手書きで書いて出し始めたのがそのころです。
Celeina:小さいときからずっとこころざしていたのですね。
高瀬がすばる文学賞を受賞し、デビューしたのが31歳。大学卒業後は10年間会社員として働きつつ、夜は執筆をして文学賞に応募する生活を続けていたという。
タカノ:人によっては朝書いてから出社する人とかいますよね。夜型派だったんですか?
高瀬:朝は全然起きられなくて、1分でも長く寝ようとしていて。大体夜に書いていました。
タカノ:でも10年ですよ。そのぐらいかかる方も多かったりしますよね。
高瀬:小中学生向けのコンクールは10代のときに出していて、いわゆるデビューにつながる新人賞に出し始めたのが20歳ぐらいのときです。そこから10年で31歳ぐらいまでかかりました。毎年どこかに出しては落選して……。年に1回は応募していたのですが、年に1回は落選し続けた10年間でした。
タカノ:モチベーションはどう維持していったのですか?
高瀬:応募して結果が出るまで2、3か月あいだが空くので、落選したと知ったときには「あ、そうか出したな」みたいな。ショックが大ダメージというより小ダメージぐらいの感じでした。そのあいだに、ほかのおもしろい小説をたくさん読むと「やっぱり好きだな」という気持ちで、それでずっと続けてこられた気がします。
タカノ:デビューが決まったときはすごく?
高瀬:「まじか」みたいな(笑)。
タカノ:お電話がくるんですよね。
高瀬:その日の会社は夕方から有休をとって家で待機して電話を待っていました。めっちゃお腹が痛くてトイレに何回も行って、電話がきたときは「嘘、まじか」みたいな。現実感が全然なくて、その現実感のなさがまだ続いている気がしています。
タカノ:僕も小説を書いて新人賞を目指しているので、高瀬さんの一言一言が身に染みています。
Celeina:応募されているんですよね。
タカノ:去年からスタートなので、あと8年あるので頑張ります(笑)。
結末が決まらないまま書く
高瀬は自身の小説の書き方について語った。まずは素朴な疑問から書き始めていくのだという。高瀬:あまり長いプロットは書いていないんです。たとえば「家族がお風呂に入らなくなったら大変だな」とか、1行、2行のものとか。「歩きスマホ、いつもよけているけど、よけなかったらどうなるかな?」とか。疑問みたいなものを自分で立ててとりあえず書き始めて、あとでだいぶ直すという形で書いています。
タカノ:そういうスタイルなんですね。
高瀬:オチというか、結末が決まっていないまま書いています。
タカノ:ちなみに芥川賞を取られた『おいしいごはんが食べられますように』がすごい作品です。これはどういう着想から?
高瀬:それこそ「会社を舞台の作品を書こう」しか決まっていませんでした。主人公の男性で「二谷」という会社員がいます。この人の日常を最初延々と書いていたら、そのうちに職場で、芦川さんというちょっと元気がない感じの、秘密の恋人ができました。書いていくうちに、だんだんその人が手料理をたくさん作るシーンが増えてきたので「これ、ご飯の話になるのかも」と途中で思って、そこから膨らませていったら『おいしいごはんが食べられますように』というところに着地しました。
タカノ:この本が本当におもしろくて。仕事ものでもあり、恋愛ものでもあり、食事というのも1個の大きなテーマですが、食欲がどんどんなくなっていくんです。
Celeina:タイトルにも「ごはん」が入っているのに食欲がなくなるというのは、聞いたことがないです。
タカノ:ある種、人によってはホラー小説っぽい読み方もできます。人間関係のえぐみのある部分や本音と建て前のやりとりとか、社交辞令の気持ち悪さとか、そういうものをあぶり出しているような作品で、僕も大好きです。
高瀬:ありがとうございます。
タカノ:二谷さんという方がスリリングな異常行動をとるタイプの方で(笑)。ぼくはやばい人が好きなので、推しは二谷さんです。
高瀬:うれしいです。めちゃくちゃエゴサーチした結果「二谷、人気ないな」と、私調べで出ました。私は好きなのでうれしいです。
新著『新しい恋愛』
9月に講談社から高瀬の新著『新しい恋愛』が出版された。同作品には「ひと筋縄ではいかない5つの『恋』のかたち」が収録されている。Celeina:我々も読ませていただいて、一気読みしちゃいました。
高瀬:ありがとうございます。
タカノ:すごかったです。
Celeina:5つのストーリーが入っています。私はやっぱり1つ目の「花束の夜」が好きだったな。エンディングもすごくおもしろかったし、すごく考えてしまいました。
タカノ:梶井基次郎『檸檬(レモン)』の「檸檬爆弾」あるじゃないですか。あれ的な「花束爆弾」だなと僕は思って。
高瀬:その感想は初めて言われました。
タカノ:花束の使い方がすごく効果的で。
高瀬:「花束いらないな」と思って捨てようかなと考える、女性の話を書きました。
タカノ:その女性がいろいろと、職場の方とありながら……という(話ですね)。
Celeina:高瀬さんの著書を初めて読ませていただきました。視点の転換の仕方、たとえばひとつ目の「花束の夜」でも、現在進行形のいまの主人公の見えている景色と頭のなかで繰り広げられる過去の記憶との行き来がスムーズでシームレスな感じがして、頭のなかでイメージが立ち上がる感覚がしました。私は一気読みで1日ぐらいで読みました。
高瀬:うれしい。
タカノ:引き込まれる話がいっぱいです。僕は「いくつも数える」という最後の話が好きです。いわゆる「歳の差結婚」というね、よくあるじゃないですか。「歳の差なんて2人が幸せだったらいいじゃない」という考え方ありますけど、なにか違和感を覚える人も世の中にはいたりするというところにズバッとメスを入れています。我々が普段、なんとなく感じている違和感やもやもやみたいなものを見事に可視化してくれた感じがして、すごいなと思いました。
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2024年10月3日28時59分まで
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番組情報
- GRAND MARQUEE
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月・火・水・木曜16:00-18:50
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タカノシンヤ、Celeina Ann