アーティストのナカミツキさんが、創作活動に目覚めたきっかけやメンターだった祖父との交流、コロナ禍でチャンスを掴めた要因などについて語った。
ナカさんは1997年兵庫県生まれ。電子端末によって描かれたヴィヴィットな色彩の絵で六本木や渋谷の街に彩を加える新進気鋭の芸術家だ。
ナカさんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。
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ナカ:2023年の六本木アートナイトでは、全長37mにおよぶ旧麻布警察署の仮囲いの壁面をマッピングするという取り組みをさせていただきました。テーマは行き交う人々の交流とコミュニケーション。楽器を人に見立ててモチーフとし、折り重なっているような絵柄で展開しています。手法としては、iPhoneを使って絵を描いていて。手のひらサイズの画面に仮想キャンバスを用意して、音楽を聞きながら指で描画しているんです。
ナカさんがiPhoneで描いた絵は縦3m✕横90cmの特殊シートに出力され、そのシートを37m分、41枚も貼り合わせて完成させている。では、音楽を聴きながらiPhoneで絵を描くという彼女のスタイルは、どのような経緯で生まれたのだろうか?
ナカ:iPhoneを活用した創作と出会ったのは、半身麻痺を患い入院生活を送っていた10代前半の頃です。私はもともとアート志向ではなく、どちらかといえばドッジボールで遊ぶような活発な子でした。ですが、ベッドの上での生活を余儀なくされたことで、どこか遠くへ行けたり、自分の思いが誰かに伝わってほしいと思うようになって。とはいえ、当時の私は半身麻痺で片手しか動かせず、筆を持って紙を押さえて描くことさえままなりません。そこでiPhoneを利用し、もやもやした気持ちをアウトプットするために絵日記を描き始めたわけです。
入院生活中は、人にお世話をされて生きることでプライドがズタズタにされる感覚がありました。今思えば、みんな善意で尽くしてくださっていたとわかるんですけど、やはり思春期ということもあって、誰かに全てを見せなければならないことがすごく苦しくてふさぎ込んでいたんです。そんな自分が変わるきっかけとなったのが音楽でした。当時はちょうど音楽のサブスクサービスが流行り始めた時期。そこでひたすら音楽を聴いて、音楽を通して他者を知ったというか。音楽の衝動的な部分や生っぽいところを感じ取り、悩んでいるのは自分だけじゃないと気付いたんです。そういうところから他人に対してすごく興味を持てたし、もっと音楽を通して人を知ってコミュニケーションを取っていけたら楽しいだろうなと思い、音楽をテーマとするようになりました。
ナカ:高校2年生頃から大学4年生まで、毎週大阪・梅田のとある喫茶店に集合し、工業デザイナーである祖父に企画書を見せていた時期がありました。それまで祖父とは、とくだん関係性が深かったわけではありません。だけど、「企画書を持ってこい」という指示に従い、モノづくりをこれから始めるにあたって何かアドバイスでもくれるのだろうと期待しつつ、面白半分で書いたものを提出したんですね。そしたら、もうめちゃくちゃガチで詰められるっていう(笑)。それで私も負けず嫌いだから、「絶対に祖父を納得させてやる!」と、企画書づくりに励むようになりました。
祖父と行っていたのは、今後やりたいことや手掛けたい作品をテキストおよびテストピースで伝えた上で、「お前のしたいことは何なんだ?」と詳細を詰めてもらうという作業です。実現したいことのためにはどんな人に協力してもらうべきか、どういう力が必要か、どれぐらいの費用が掛かるかなど、ひたすら質問してくれることで、自分のやりたいことが明確になっていきました。このときの経験が今の制作に生きていると思います。また、祖父は工業デザイナーということで、大きなビルのエレベーターのデザインなどをしていて、よく現場に連れて行ってもらったり、企画しているところを見学させてもらったりしました。自分が20~30cmのキャンバス上に描いているだけではわからないものを見せてくれたというか。大きな建物を作るには、どれだけの人が必要で、どれだけの時間が割かれているのか。祖父の計らいのおかげで、早い段階からものづくりの“リアル”を教えてもらえたことは、大きな意義があったように感じますね。
ナカ:私が大学を卒業した2020年はコロナ禍真っただ中で、卒業式もあるかないかわからない大混乱のタイミングでした。そんな状況で開業1年目を迎え、開催予定の展覧会が中止となり、海外でのお仕事の話もすべてなくなって、かなりの不安がありました。これからどうしていこうとなったときに、渋谷ヒカリエに企画書を提出したらアーティストを支援するという機会があって。そこで個展をさせていただいたことがきっかけでお仕事をもらえるようになりました。
振り返ってみれば、当時はある意味“席”が空いていたように感じます。パンデミックでみんなが立ち止まってしまっていたからこそ、至るところにチャンスが転がっていた。そのチャンスを一つずつ拾っていくことに、私はコロナ禍の期間、注力していたんです。そんなわけでフットワークが大事だったから、ホテルやAirbnbを利用して、様々なところを転々とする遊牧民のような生活をしていました。自分の感性が動く場所、チャンスがある場所に自ら動いていくライフスタイルを確立し、ここ3~4年は生活していましたね。 コロナ禍で渋谷ヒカリエからのチャンスをモノにしたナカさん。渋谷ストリームでは初めての大きな作品を展示したほか、長さ22mの大階段に描いた巨大サイネージが、テレビドラマの撮影舞台となったことも。さらにヒカリエの7つのショーウィンドウに作品が展示されるなど、その音楽をテーマにした生命力あふれるデジタル・アートは渋谷の街と相性が良く、彼女自身もアートを通じた都市との対話に魅力を感じているようだ。
ナカ:コロナ禍を経て社会がリハビリをしていく中で、「街を明るくしたい」「この場所をアートの力で活気づけたい」というお話をいただけるようになってから、パブリックアートに参加するようになりました。旧麻布警察署の仮囲いや渋谷のショーウィンドウ、渋谷ストリームの床面など様々なチャンスをいただいたことで、街とコミュニケーションしていくことの面白さにも気づきましたし、ある意味、逆境をチャンスにしていく力が身に付いた気がします。
ナカ:なぜデータを削除するのかというと、キャンバスや紙、街中などに、オリジナルが憑依するという考え方を持っているからです。なので、データ上のものはオリジナルから抜け落ちたものと捉え、消去しています。iPhoneでの創作活動は、手のひらから街中、あるいは、ホワイトキューブのギャラリーへ……と言った具合に、様々な場所へ作品がどんどん憑依していき、それに伴い、自分自身が移動していくような感覚があるんです。それが私の作品の特徴だし、面白いところだと思います。 さらに最近では、新たな制作手法を編み出し、表現の幅を広げているようだ。
ナカ:最近の制作手法はデジタルで出力したものに、絵具やザラッとしたメディウム材で上から線を描いたり、塗ったりしています。もしくは下地のものをザラザラにして、その上から出力したりとかもしていますね。そんなふうに、アナログとデジタルをレイヤードするような作品を作っていて。それって私たちが感じている、アナログとデジタルのボーダーレスな社会を平面のキャンパス上で表現できているんですよね。自分の身体性がプラスされたことで作品のオリジナリティー・唯一性が強調され、加えて、質量が増えたことで作品に迫力が出てきた気がします。なので、私の中では創作活動における “第2フェーズ”に入ったと手ごたえを感じているんです。
このように独自のクリエイティブを追求し、新たな手触りの作品を生み出し続けるナカさんだが、彼女にとって「未来への挑戦=FORWARDISM」とは?
ナカ:自分の中のキーワードは「デジタル」です。iPhoneをはじめとした電子端末が生活の中に入ることは悪いことではないと思うんです。人の能力を大きく飛躍させてくれたり、自分の力だけではわからなかった偶然性を生み出してくれたりするわけですし。そんな電子端末を使ってアート作品を生み出すことは、美術史の中で新しいページを作ることになると思います。そして、これまでの美術史の系譜を理解した上で、新たな1ページをこのデジタルと共に築いていくことこそ、私の挑戦になるかなと考えています。
(構成=小島浩平)
ナカさんは1997年兵庫県生まれ。電子端末によって描かれたヴィヴィットな色彩の絵で六本木や渋谷の街に彩を加える新進気鋭の芸術家だ。
ナカさんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。
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iPhoneを絵筆とするようになったきっかけは?
六本木を出発地として走り出したナカさんを乗せた「BMW iX xDrive50」。まずは、23年5月にこの街で開催されたアートイベント「六本木アートナイト2023」に出展した作品について解説してもらった。ナカ:2023年の六本木アートナイトでは、全長37mにおよぶ旧麻布警察署の仮囲いの壁面をマッピングするという取り組みをさせていただきました。テーマは行き交う人々の交流とコミュニケーション。楽器を人に見立ててモチーフとし、折り重なっているような絵柄で展開しています。手法としては、iPhoneを使って絵を描いていて。手のひらサイズの画面に仮想キャンバスを用意して、音楽を聞きながら指で描画しているんです。
ナカさんがiPhoneで描いた絵は縦3m✕横90cmの特殊シートに出力され、そのシートを37m分、41枚も貼り合わせて完成させている。では、音楽を聴きながらiPhoneで絵を描くという彼女のスタイルは、どのような経緯で生まれたのだろうか?
ナカ:iPhoneを活用した創作と出会ったのは、半身麻痺を患い入院生活を送っていた10代前半の頃です。私はもともとアート志向ではなく、どちらかといえばドッジボールで遊ぶような活発な子でした。ですが、ベッドの上での生活を余儀なくされたことで、どこか遠くへ行けたり、自分の思いが誰かに伝わってほしいと思うようになって。とはいえ、当時の私は半身麻痺で片手しか動かせず、筆を持って紙を押さえて描くことさえままなりません。そこでiPhoneを利用し、もやもやした気持ちをアウトプットするために絵日記を描き始めたわけです。
入院生活中は、人にお世話をされて生きることでプライドがズタズタにされる感覚がありました。今思えば、みんな善意で尽くしてくださっていたとわかるんですけど、やはり思春期ということもあって、誰かに全てを見せなければならないことがすごく苦しくてふさぎ込んでいたんです。そんな自分が変わるきっかけとなったのが音楽でした。当時はちょうど音楽のサブスクサービスが流行り始めた時期。そこでひたすら音楽を聴いて、音楽を通して他者を知ったというか。音楽の衝動的な部分や生っぽいところを感じ取り、悩んでいるのは自分だけじゃないと気付いたんです。そういうところから他人に対してすごく興味を持てたし、もっと音楽を通して人を知ってコミュニケーションを取っていけたら楽しいだろうなと思い、音楽をテーマとするようになりました。
多くの気付きがあった、亡き祖父との交流
小学校高学年から中学生にかけて、半身麻痺で入退院を繰り返していたナカさん。入院中にiPhoneで絵を描き始めたことに加え、アートセラピーを受けたことでアートを職業として意識するようになったという。その後、良い薬とめぐり逢ったことで日常生活を取り戻し、高校卒業後は国立大学である京都教育大学・美術領域科へ進学。そんな彼女の将来やりたいことを明確にする後押しをしたのは、つい先日亡くなった工業デザイナーの祖父だったという。ナカ:高校2年生頃から大学4年生まで、毎週大阪・梅田のとある喫茶店に集合し、工業デザイナーである祖父に企画書を見せていた時期がありました。それまで祖父とは、とくだん関係性が深かったわけではありません。だけど、「企画書を持ってこい」という指示に従い、モノづくりをこれから始めるにあたって何かアドバイスでもくれるのだろうと期待しつつ、面白半分で書いたものを提出したんですね。そしたら、もうめちゃくちゃガチで詰められるっていう(笑)。それで私も負けず嫌いだから、「絶対に祖父を納得させてやる!」と、企画書づくりに励むようになりました。
祖父と行っていたのは、今後やりたいことや手掛けたい作品をテキストおよびテストピースで伝えた上で、「お前のしたいことは何なんだ?」と詳細を詰めてもらうという作業です。実現したいことのためにはどんな人に協力してもらうべきか、どういう力が必要か、どれぐらいの費用が掛かるかなど、ひたすら質問してくれることで、自分のやりたいことが明確になっていきました。このときの経験が今の制作に生きていると思います。また、祖父は工業デザイナーということで、大きなビルのエレベーターのデザインなどをしていて、よく現場に連れて行ってもらったり、企画しているところを見学させてもらったりしました。自分が20~30cmのキャンバス上に描いているだけではわからないものを見せてくれたというか。大きな建物を作るには、どれだけの人が必要で、どれだけの時間が割かれているのか。祖父の計らいのおかげで、早い段階からものづくりの“リアル”を教えてもらえたことは、大きな意義があったように感じますね。
コロナ禍とともに始まったアーティスト人生
大学卒業後、多くの同級生が美術教師になる中、ナカさんはアーティストとして独立する道を選ぶ。しかし、彼女が卒業した春は、パンデミックによって世界経済に急ブレーキがかかる最悪のタイミングだった。ナカ:私が大学を卒業した2020年はコロナ禍真っただ中で、卒業式もあるかないかわからない大混乱のタイミングでした。そんな状況で開業1年目を迎え、開催予定の展覧会が中止となり、海外でのお仕事の話もすべてなくなって、かなりの不安がありました。これからどうしていこうとなったときに、渋谷ヒカリエに企画書を提出したらアーティストを支援するという機会があって。そこで個展をさせていただいたことがきっかけでお仕事をもらえるようになりました。
振り返ってみれば、当時はある意味“席”が空いていたように感じます。パンデミックでみんなが立ち止まってしまっていたからこそ、至るところにチャンスが転がっていた。そのチャンスを一つずつ拾っていくことに、私はコロナ禍の期間、注力していたんです。そんなわけでフットワークが大事だったから、ホテルやAirbnbを利用して、様々なところを転々とする遊牧民のような生活をしていました。自分の感性が動く場所、チャンスがある場所に自ら動いていくライフスタイルを確立し、ここ3~4年は生活していましたね。 コロナ禍で渋谷ヒカリエからのチャンスをモノにしたナカさん。渋谷ストリームでは初めての大きな作品を展示したほか、長さ22mの大階段に描いた巨大サイネージが、テレビドラマの撮影舞台となったことも。さらにヒカリエの7つのショーウィンドウに作品が展示されるなど、その音楽をテーマにした生命力あふれるデジタル・アートは渋谷の街と相性が良く、彼女自身もアートを通じた都市との対話に魅力を感じているようだ。
ナカ:コロナ禍を経て社会がリハビリをしていく中で、「街を明るくしたい」「この場所をアートの力で活気づけたい」というお話をいただけるようになってから、パブリックアートに参加するようになりました。旧麻布警察署の仮囲いや渋谷のショーウィンドウ、渋谷ストリームの床面など様々なチャンスをいただいたことで、街とコミュニケーションしていくことの面白さにも気づきましたし、ある意味、逆境をチャンスにしていく力が身に付いた気がします。
デジタルデータを削除する理由
ナカさんの制作スタイルは作品が完成したら、その作品のすべてのデジタルデータを瞬時に削除するというもの。データを消去するという行為には、いったいどんな意図が込められているのか?ナカ:なぜデータを削除するのかというと、キャンバスや紙、街中などに、オリジナルが憑依するという考え方を持っているからです。なので、データ上のものはオリジナルから抜け落ちたものと捉え、消去しています。iPhoneでの創作活動は、手のひらから街中、あるいは、ホワイトキューブのギャラリーへ……と言った具合に、様々な場所へ作品がどんどん憑依していき、それに伴い、自分自身が移動していくような感覚があるんです。それが私の作品の特徴だし、面白いところだと思います。 さらに最近では、新たな制作手法を編み出し、表現の幅を広げているようだ。
ナカ:最近の制作手法はデジタルで出力したものに、絵具やザラッとしたメディウム材で上から線を描いたり、塗ったりしています。もしくは下地のものをザラザラにして、その上から出力したりとかもしていますね。そんなふうに、アナログとデジタルをレイヤードするような作品を作っていて。それって私たちが感じている、アナログとデジタルのボーダーレスな社会を平面のキャンパス上で表現できているんですよね。自分の身体性がプラスされたことで作品のオリジナリティー・唯一性が強調され、加えて、質量が増えたことで作品に迫力が出てきた気がします。なので、私の中では創作活動における “第2フェーズ”に入ったと手ごたえを感じているんです。
このように独自のクリエイティブを追求し、新たな手触りの作品を生み出し続けるナカさんだが、彼女にとって「未来への挑戦=FORWARDISM」とは?
ナカ:自分の中のキーワードは「デジタル」です。iPhoneをはじめとした電子端末が生活の中に入ることは悪いことではないと思うんです。人の能力を大きく飛躍させてくれたり、自分の力だけではわからなかった偶然性を生み出してくれたりするわけですし。そんな電子端末を使ってアート作品を生み出すことは、美術史の中で新しいページを作ることになると思います。そして、これまでの美術史の系譜を理解した上で、新たな1ページをこのデジタルと共に築いていくことこそ、私の挑戦になるかなと考えています。
(構成=小島浩平)
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