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日本酒や焼酎に合うチーズとは? おすすめの食べ方は? チーズ熟成士のパイオニアが語る深い魅力

日本酒や焼酎に合うチーズとは? おすすめの食べ方は? チーズ熟成士のパイオニアが語る深い魅力

チーズ熟成士の鈴木荒太さんが、現職を志した経緯や本場フランスでの修業の日々、さらには日本酒と相性のいいチーズとおすすめの食べ方などについて語った。

チーズ熟成士とは生産者から仕入れたチーズの状態を見極め、おいしさを最大限引き出すための適正な処理や管理を行うプロフェッショナルのこと。鈴木さんはそのパイオニアであり、東京・目黒にあるチーズ専門店「Euro Art」のオーナーを務める人物だ。

鈴木さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。ポッドキャストでも配信中。

・ポッドキャストページ

高級食品のチーズ売り場で働き、深い魅力に気づいた

鈴木さんを乗せた「BMW 840d xDrive グラン クーペ Exclusive M Sport」は六本木ヒルズを出発。

そもそもチーズにおける「熟成」とは何なのか? 鈴木さんによれば、微生物が種を保存するために行う活動のことだという。漬物に浅漬け・中漬け、深漬けなどいくつかの段階が存在するように、微生物の分解段階を見計らって取り出したものを発酵食品と呼ぶとした上で、チーズ熟成士の仕事内容をこのように説明した。

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鈴木:僕らの仕事は自然の法則から大きく逸脱しない範囲で、風を当て、余分な水分を除去し、温度を管理することで、微生物が繁殖しやすいような環境を整えることなんです。

チーズを知り尽くす男が、その深遠な魅力に初めて触れたのは会社員時代だった。東京農業大学卒業後、高級食品を販売するスーパーの運営会社に就職した鈴木さんは、様々な現場で経験を積んだのち、旗艦店のチーズ売り場を担当。チーズを取り扱う中で探求心が芽生えて知識を蓄えていくうちに、いつしか彼の疑問に答えられる人間は社内に誰一人としていない状態になっていた。そこで鈴木さんはあるアクションを起こす。

鈴木:チーズを「チ」の字から勉強し直そうと思い、会社には内緒で、雪印さんが主催する「チーズ&ワインアカデミー東京」に休日を利用して通い始めました。この学校にいるチーズの専門家の方たちからお話を聞いているうちに、さらに興味が深まっていって。チーズを長期にわたり追求するテーマにし、いつか独立したいと思い始めて自分なりにチーズの研究を行うようになりました。

17年勤めた会社を辞めてチーズの道へ

「カッコいいことを言おうと思ったら色々あるんでしょうけど……」と続ける鈴木さんは、チーズ熟成士らしい独特な言い回しで、独立を決めたときの心境を表した。

鈴木:「風が止まった」という感覚が自分の中にあるんですよ。「あぁ、風が止まったな」となり、かき混ぜなければならない本能のようなものが沸き上がるんです。チーズに夢中になっていた当時38歳の僕は、チーズの本場とされるフランスへ行き、光や風、匂いなど、日本にいてはわからないものを現地で実際に体感してみようと、自分の中で風を起こそうと思ったんです。それに、来年の今頃に同じ気持ちでいられるか、もう1年会社にいたら「まぁ、いいや」となってしまうのではないかという不安もあって、「思ったら今行くしかない」とも考えました。それで「一身上の都合」ということで辞表を出し、荷物をまとめて日本を発ちました。もうほんとに身一つですよね。フランス語は「おはようございます」くらいしか話せない状態なのに、気が付いたらガス灯に煙るシャルルドゴールに一人立っていました。そこからフランスでの日々が始まるわけです。

フランスのチーズ専門店で3年間修業

「もっとチーズの知識を深めたい」。その気持ちを抑えきれず、17年務めた会社を辞めてチーズの本場であるフランスへと渡った鈴木さん。ブルゴーニュ地方の州都ディジョンにある大学の語学部門に入学し、同大学の国際学生寮に部屋を借りた彼がまず着手したこととは。

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鈴木:大学で授業を受けつつ、午後の空いた時間に市内を回って歩き、「スタージュ」という賃金を伴わない労働、つまり丁稚奉公みたいなことをさせてくれるチーズ屋さんはないか訪ね歩きました。ただ、「スタージュをさせて欲しい」とお願いしても、どこのお店からも「Non Non」と断られてしまって。賃金を伴わない労働力を一人雇うということは、賃金を必要とするフランス人の雇用が一人分なくなることを意味します。そういうことを同じフランス人として私はできない、という人が多かったのでしょうね。そんなふうに空振りの日々が続いたんですけど、たった1軒「クレムリーポーシュレ」というチーズ専門店だけは、店主が「いいよ」とスタージュを許可してくれたんです。彼は若い頃にバックパックで南米を一人で旅した経験があり、奥様もアルゼンチン人ということもあって、異邦人を見る目が優しかったんですよね。

スタージュとは無給で職業体験ができる、いわゆるインターン制度のことだ。この制度を利用してチーズ専門店「クレムリーポーシュレ」で働き始めて3か月ほどが過ぎた頃。スタージュ期間の終わりが近づき、そろそろ次のスタージュ先を探さなければと思っていたタイミングで、店主から思いがけない提案をされることになる。

鈴木:店主から「賃金を伴うちゃんとした仕事をする気はあるか?」と声を掛けられたんです。すごくうれしかったのですが、意外でしたね。仕事ぶりが全くの素人でもなさそうだと評価されたのかもしれません。その後、正式に働くようになり、毎日朝7時半から地下のカーブに入ってチーズの反転作業、熟成作業、追熟作業などを行いました。午後は冷蔵車にチーズを積んで、市内のホテルや精肉店、惣菜屋などを回り、置いてあるチーズが劣化していたら新しいものと差し替えたり、そのお店の店主に適切な保存方法をアドバイスしたりしていました。夕方はお店がすごく混むので、店頭に立ってお客さんの接客をしていました。そんなことをしているうちに、あっという間に3年が過ぎていました。

カマンベールチーズは季節で味が違う

帰国後の2000年、鈴木さんは「Euro Art」をオープン。同店舗で取り扱うチーズの種類は常時約120種類。中には、季節によって味の異なるチーズもあるようだ。

鈴木:たとえば、カマンベールは春夏、秋冬に手に入るもので味が違うんですよ。乳牛は、春になると放牧されて雪解けしたばかりの野山に咲き乱れる草花を食べますが、冬場は牛舎に入れられて乾燥牧草をエサとします。食べ物の違いはミルクの味に反映され、チーズにも変化をもたらします。なので、冬場のカマンベールはひなびたいい味わいがある一方、夏場のものはフレッシュな生乳のようで、青草の青々しい、プンプンした香りが感じられるんです。

チーズと言えば、お酒の中ではワインと好相性であることが知られているが、鈴木さんは「日本酒や焼酎に合うチーズは結構あるんですよ」といい、おすすめの食べ方を教えてくれた。

鈴木:デンマークのクリームチーズなんかは鰹節をまぶし、お醤油かけてちょっとわさび乗せて食べるとすごくおいしいです。また、イタリアのモッツァレラチーズは、海苔で挟んでわさび醤油で食べると、中トロのような味わいになります。さらに、コンテというチーズは、淡い中にしっかりとミルクの深い味わいがあって、日本酒のためにあるチーズと言っても過言ではないくらい相性抜群です。ちなみに日本酒との相性の第一基準は、「白ワインに合うかどうか」。白ワインに合うものは大概日本酒にも合うんですよ。

大事にしているのは一期一会の出会い

「Euro Art」のコンセプトは、フロマージュのオートクチュール。フロマージュはフランス語でチーズ、オートクチュールとは特定の顧客に向けて作られる一点もの、つまりオーダーメイド品を意味する。「奇をてらったものではなく、原理原則をしっかりと踏襲した上で、ときを超えて飽きられないもの、残っていくもの、それでいて使ってみたいと思うものを作りたかった」と鈴木さん。イートインスペースを設けるなどせず、ひたすらにこだわりのフロマージュを手掛け続ける背景には、熟成士としての確固たる矜持があった。

鈴木:お客様から「店内で食べられるようにしてほしい」「夜にバーをやりませんか?」などご提案・ご要望をいただくことは多々あるのですが、僕の本業はあくまでも熟成師。今のお店のやり方はもう変えられませんし、この形でいいと思うんですね。それに、日々のメンテナンスや商品の維持・管理が僕のメインの仕事なので、その業務を削がれるようなものにあまり注力したくないというのも本音です。加えて自分もいい年齢ですから。事業継承する考えもないですし、一期一会というか。この時代に運よくか運悪くか私と出会ってしまった人に楽しんでもらえばいいと思っています。

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