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3Dプリンターで実現する「建築の民主化」とは? 建築系スタートアップ企業の代表が語る

3Dプリンターで実現する「建築の民主化」とは? 建築系スタートアップ企業の代表が語る

建築家でスタートアップ企業「VUILD」の代表取締役の秋吉浩気さんが、起業のきっかけや自身が取り組む「建築の民主化」、建築業界におけるAI導入のメリットなどについて語った。

秋吉さんは1988年大阪府生まれ。3D木材加工機の販売や誰もが家づくりができるアプリの開発など、デジタルテクノロジーを駆使して「建築」をより身近なものへと変えていく社会インフラの供給に力を入れている人物だ。

秋吉さんが登場したのは、俳優の小澤征悦がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BMW FREUDE FOR LIFE』(毎週土曜 11:00-11:30)。同番組は、新しい時代を切り開き駆け抜けていく人物を毎回ゲストに招き、BMWでの車中インタビューを通して、これまでの軌跡や今後の展望に迫るプログラムだ。

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小学生時代から建築に興味

秋吉さんを乗せた「BMW 120 M Sport」は六本木ヒルズを出発。車窓に流れる景色を眺めながら、建築家を志すようになったきっかけを語り始めた。

中高生時代は、平日は部活でバレーボール、週末は趣味でサッカーに熱中するスポーツ少年だった秋吉さん。大学受験を前に進路について考える中、小学生の頃に好きだった建築が頭に浮かんだという。

秋吉さんが通っていた目黒区の小学校は、日本で初めて廊下と教室の境目がないオープンスペースを取り入れた画期的な校舎として知られていた。そのため、建築関係の見学者が多く訪れていたことから、建築が身近な存在だったそうだ。


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秋吉:大学受験が迫る中、「自分は何したかったんだっけ?」と過去を振り返り、小学生時代に建築に興味があったことを思い出して、この道を意識するようになりました。浪人生だった2007年は、六本木でル・コルビジェ展が開催され、渋谷Bunkamuraでフランク・ゲーリーのドキュメンタリー映画が上映されるなど、ちょうど建築系の展示・イベントがたくさんあったタイミングで。本当は受験勉強をしなければいけないのですが、展示会に出掛けたり、関連書籍を読んだり、都内の有名な建築物を見にいったりして、建築への理解を深めていた時期でしたね。

大学院在学中からビジネスに着手

受験期間を経て、秋吉さんは芝浦工業大学工学部建築学科に入学。卒業後は慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科X-DESIGN領域にてデジタルファブリケーションを専攻し、「自分の道を切り開きたい」「誰もやっていないことやりたい」という野心を抱くようになる。

秋吉:大学生の頃から「建築とデジタルなものづくりを結ぶパイオニアになりたい」と漠然と考えていたんです。そこで、大学院では思い切って建築以外を専攻することにし、3Dプリンターを開発している研究室に所属することにしました。大学院では、どこかに就職するのではなく、自分自身で職業を創る「創職」という考え方を知りました。その考えに「面白いな」と共感しましたし、そもそも、ニッチな研究を専攻した自分が就職できるとも思っていなかったので、「自分の生きる方法を探していかなければ」とも考えていました。そんなわけで、どこかに就職するという選択は最初からありませんでしたね。

秋吉さんの「創職」は、大学院在学中から始動する。それが、コンピューターで3Dの木材加工を行う機械「ShopBot」を用いたビジネスだ。

秋吉:ShopBotに初めて触れたのは大学院の頃です。当時、研究室で購入したものを組み立てて配線し、学生に使い方を教えていました。また、ShopBotを研究のために欲しがっている大学がいくつかあったので、「じゃあ、僕が代理店をやりますよ」と販売・導入を行うという、今の仕事の原点ともいえる活動をスタートさせたんです。ちなみに2010年以降、メディアで3Dプリンターが取り上げられるようになりましたが、僕が大学院生のときはそこまで盛り上がっていませんでした。そこで重なったのが、90年代後半~00年代前半にかけて巻き起こった「ITバブル」です。当時、インターネットの隆盛に目を付けて多くの起業家たちがビジネスを興したわけですが、僕が乗った波はShopBotでした。プロダクトを現実世界に具現化するデジタルテクノロジーを目の当たりにし、「これはくるんじゃないか?」と飛びついたんです。

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孫正義氏の弟との出会いが起業のきっかけに

大学院卒業後も個人事業主としてShopBotの販売・導入をしていたほか、オーダーメイド家具の設計・販売も行っていた秋吉さんだが、そんな彼のもとに思わぬ転機が訪れる。

秋吉:事業を始めて2年ほどが経ったある日、孫正義さんの弟の孫泰蔵さんと出会いました。孫さんは、Yahoo!ジャパンの立ち上げに携わり、スマホゲームの「パズドラ」で知られるガンホー・オンライン・エンターテイメントを創業した起業家で、エンジェル投資家でもあります。孫さんからは「単純に機械を売り、家具をデザインして納めるだけではなくて、それを社会インフラとして供給することで、世の中を変えることを考えたらどうかな?」とアドバイスをいただきました。さらには「起業するなら出資して応援するよ」とも言ってくださって。起業するという発想はもともとありませんでしたが、お話を聞いて「面白そうだな」と思ったので、スタートアップを立ち上げることにしました。

孫さんの後押しにより、秋吉さんは2017年に「VUILD」を創業。同社では「建築の民主化」をビジョンに掲げている。その意味するところとは?

秋吉:建築学科時代、図面を引いて模型を作り、場合によってはCGを製作してプレゼンするということをひたすらトレーニングしていましたが、「果たしてこれに意味があるのか?」と疑問を覚えていました。「こんなものがあったらいいよね」と絵は描けても作れない。まさに「絵に描いた餅」というか……。社会に対する実行力が何もないように感じていたんです。しかし、ShopBotや3Dプリンターが登場したことにより、建築家以外の人でも作りたいもの・供給したいものを自由に手掛けられるようになりました。これが当たり前の世の中になれば、みんながハッピーになるんじゃないかと。やっぱり、自分が考えた建築物が実際に出来上がった瞬間の喜びって格別なんですよ。その達成感や楽しさを万人が体験できる開けたものにしていきたいという思いから、「建築の民主化」を目指すようになりました。

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「建築の民主化」の一環として展開しているサービスが「NESTING」だ。同サービスは、デジタルファブリケーション技術を用いて施主自らが設計から施工までを行う、家づくりのデジタルプラットフォーム。プラモデル感覚で建てられる住宅キットも提供しており、秋吉さんらの指導のもと、理想の住まいを組み立てることができる。

「別荘を作りたい」「能登の災害で倒れた実家を再建したい」――。そんなユーザーが実際に活用しており、建築にあたっては、親族や友人、仲間が集まって作業を手伝うなど、親しい人同士の交流の場としても機能しているという。

AI導入で「クリエイティブに割ける時間が増える」

こうした革新的で進歩的なサービスを展開している秋吉さんゆえ、建築業界のAI導入に関してもポジティブな見解を持っているようだ。

秋吉:AIによって、無駄な業務は当然ながらなくなっていきますよね。たとえばスケッチを描き、それを3Dモデルにするとか。これまで何時間もかかっていた作業が、AIに「こんな感じに仕上げて」と指示を与えさえすれば、すぐに作り出せてしまう。あとは、建築の法令を調べることもAIの得意領域。そんなふうにAIが代行してくれる仕事の領域が広がるほどに、僕ら人間が考える時間、クリエイティブに割ける時間は格段に増えると思います。こうしたAIによる効率化を重ねた結果、建築物は通常複数人のチームを編成して作り上げていくものですが、将来的には5人くらいのチームでも100人くらいのチームと同じ動きができるようになるかもしれません。

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最新テクノロジーを貪欲に取り入れながら「建築の民主化」に向けて邁進する秋吉さん。最後に彼にとっての挑戦、そしてその先にあるFreude=喜びとは何かと尋ねると、こんな答えが返ってきた。

秋吉:家具に始まり、次は住宅と作れるものが増えていきましたが、今度はマンションを作れるようにしていきたいです。マンションの作り方やセオリーは数十年間、変わっていません。そこをちょっとジグザグにしてみるとか、天井をアールにしてみるとか。そうすることで、使用するコンクリートやカーボンの量が大きく減り、コストも抑えることができる。そんなふうに、今までの業界の当たり前にメスを入れていきたいです。実際に今、既存のマンションに比べて50%以上カーボン量が減るようなサービスを作っているところです。現在、建設業界は資材の高騰とともに、慢性的な人手不足とそれに伴う工期の長期化が問題視されています。こうした中、コストと時間、さらには環境と、3つの問題をすべてクリアにするような次世代の集合住宅のあり方を今考えていて、今年中に何らかの形で発表できるかと思います。
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