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日本の15歳は、パレスチナの現状をどう見たか? “分離壁”のエピソードを聞く

日本の15歳は、パレスチナの現状をどう見たか? “分離壁”のエピソードを聞く

2023年10月に発売された、書籍『15歳の少女が見た紛争地「パレスチナ」の未来』に注目した。

この内容をお届けしたのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のワンコーナー「WORLD CONNECTION」。5月5日(日)のオンエアをテキストで紹介。

音声の再生は2024年5月12日(日)28時ごろまで

留学先でムスリムの文化を学ぶ

2023年10月、特定非営利活動法人Connection of the Childrenはパレスチナの現状を日本の少女の視点から書いた書籍『15歳の少女が見た紛争地「パレスチナ」の未来』を出版。著者で高校1年生の浅沼貴子さんは、現在マレーシアに留学中だ。リモート出演の浅沼さんから、まずは現状について聞いた。

小川:マレーシアでは何を学びに?

浅沼:私はパレスチナに行ったことがきっかけで、ムスリムの人たちに興味が出ました。生活もですし、なぜ他を受け入れられる文化なのかを知りたくてマレーシアに留学しています。

小川:ムスリムの“他を受け入れられる文化”とは、具体的にはどんなものなんでしょうか?

浅沼:私がパレスチナに行ったときに商店街みたいなところを歩いていたんですけども、「ウェルカム」と歓迎してくれたんですね。(現地の)お宅にお邪魔したときも、どんどんお茶とか食べ物を出されて、他の人を受け入れる、もてなすことが文化なのだと知りました。たった5日間行っただけでムスリムの生活のいいところに気付いたので、10ヵ月とか1年ぐらいムスリムの生活に入れたら、もっとそのよさに気付けるんじゃないのかなと思いました。

パレスチナに興味を持ったきっかけは?

紛争が続くパレスチナに、中学を卒業したタイミングで向かった浅沼さん。行動の原点には、幼少期から憧れを抱いていた職業が関係しているという。

小川:パレスチナは紛争が起こっていてとても危険な地域だと思うのですが、そもそもなぜ行くことになったのでしょうか?

浅沼:幼い頃から留学生がホームステイするところに通っていまして、そこで出会った人道支援をしている方から(人道支援についての)話を聞いたんです。そこで私は人道支援という職業に憧れを持つようになり、実際に人道支援がおこなわれている現場を見てみたいと思うようになりました。

小川:昔から人道支援に興味があったんですね。本でも触れられていましたけども、おばあさまの存在も大きかったそうですね?

浅沼:私が小学生に上がったぐらいのとき、看護師をしていたおばあちゃんが退職をしたんです。私はおばあちゃんが退職するときに花束を渡しに行ったんですね。病院ではおばあちゃんがいろんな人から頼られていたり感謝されている姿を見て、当時は医療従事者として働きたいなという思いがありました。

その後、浅沼さんはConnection of the Childrenが運営するコミュニティ拠点「カサコ」で、人道支援について知る機会を得たと話す。

浅沼:そのときはミャンマーについての話だったんですけど、私も医療従事者として人道支援をしたいなと思うようになりました。

小川:おばあさまがやられていたことと、NPOで出会った方のお仕事が結びついたんですね。

浅沼:ふたりへの憧れから人道支援への現場に行きたい思いへと繋がりました。

足を運んで知った“パレスチナの現状”

当時15歳の浅沼さんはパレスチナのエルサレム、ヨルダン川西岸地区のラマラ、ベツレヘムなどに足を運んだ。

小川:行った場所は少し安全なところを選んだのでしょうか?

浅沼:そうですね。聖地がたくさんあって観光客が訪れる場所なので、比較的安全なエリアに行きました。エルサレムは3つの宗教が集まっているところなので、それぞれの人が祈りに行く場面をたくさん見ました。

小川:実際にパレスチナに行って衝撃を受けたものはありましたか?

浅沼:パレスチナに着いて最初に見たものは、分離壁と呼ばれる高い壁でした。

小川:どれぐらいの高さですか?

浅沼:6から9メートルぐらいある、絶対に越えられない壁でした。

小川:それはイスラエルが建設を続けているものですよね。それを目の前にしたときの気持ちはいかがでしたか?

浅沼:そのときは「大きいな」という感想だったんですね。その後、薬とか医者とか看護師を乗せて遊牧民の村を巡回する巡回診療に同行したんです。

村の人々からの声を聞いた浅沼さんは、分離壁によって生じる弊害を実感することができたという。

浅沼:壁がなければ20分で行けるのに、遠回りをして2、3時間かけて病院に行く人や、妊娠してしまっても10ヵ月間一度も病院に行けないという話を聞きました。壁はただあるだけじゃなくて、ものすごく影響を持ったものだということを知りました。私が簡単に越えられる壁を越えられず命を落としてしまう人がいる。壁の影響力の大きさをそのときに知りました。

小川:他にも、現地の小学校にも行かれたんですよね?

浅沼:はい。遊牧民の村の学校と、芸術の大学付属の小学校に行きました。

小川:現地の学校はどんな状況でしたか?

浅沼:パレスチナにも貧富の差があり、遊牧民の村の小学校はテレビで観たことのあるアフリカの学校みたいなイメージです。長机にイスがぽんぽんと置かれていて、みんなで一緒に授業を受ける感じでした。行ったときは休み時間だったのですが、コーディネーターの方からは「君たちの学校に比べて本が圧倒的に少ないだろう? 机とか椅子などの環境も整っていないんだ」と言われましたね。

小川:教育は貧富の差が強く出るところですよね。もう1つの学校はいかがでしたか?

浅沼:一人ひとりに机と椅子がありました。私は音楽と体育の授業に参加したんですけども、楽器を使ったり縄跳びをしたりしました。パレスチナのなかでの違いを見ることができましたね。

パレスチナでさまざまな支援の形があること知った

パレスチナに滞在した経験は、浅沼さんにどのような変化を与えたのだろうか? 浅沼さんは医療的な側面から「人道支援」を捉えていたという自分自身に気付いたと話し、実際の「人道支援」には幅があるのだと語った。

浅沼:車を使って遊牧民の村へ行ったときに、私が車酔いをしてしまったんです。そのときに、でこぼこした道を使いやすいように平らにすることも人道支援の1つなんだなと気付いたんです。人道支援はどんなところからもアプローチできるなと、私が思う人道支援の幅がすごく広がりました。

小川:車酔いの経験さえも学びの経験として捉えている浅沼さんの感受性が素晴らしいです。帰国後も日本で講演をされていますよね。そこではどんなことを伝えていますか?

浅沼:パレスチナでの経験とか、実際パレスチナ人はどんなことを思っているのか、他にもホロコースト博物館で見たこと・思ったことを伝えています。パレスチナとイスラエルの両方に正義があって、それぞれの考えがあることを伝えたうえで、私たち一人ひとりが思う平和を作るために自分はどんなことができるのかを考えてもらう講演をしています。

小川:今のパレスチナ問題は歴史的背景や宗教的背景がとても複雑で、答えのない道を突き進んでいると思いますが、浅沼さんご自身はこれから先どういったものが必要だと感じていますか?

浅沼:私はもともとパレスチナについてあまり知らなかったのですが、知らなかったことがより紛争を悪化させてしまっている(と感じる)。声をあげる人がいなければ紛争は止まらない。どちらかが滅びるまで終わらないんですよね。「紛争をやめよう。戦争を止めよう」という世論を作ることが大切だと思っています。

小川:そうですね。外側、国際社会からの声は大きな力を持つと思うので、浅沼さんみたいにこうやって伝えてくださる存在が貴重だなと思います。最後に、浅沼さんがこれからやってみたいことを教えてください。

浅沼:留学を通してどんなことを学びたいか、人道支援をどんなアプローチでしたいか決めたいと思っています。

小川:これからどんな風になっていくのか私たちも楽しみにしています。どうか素敵な高校生活を過ごしてください。

『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「WORLD CONNECTION」では、ゲストを招き世界の最新カルチャーに迫る。オンエアは9時20分頃から。

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