沖縄・宮古島に関する歴史や魅力、独自の風習について、作家・文献学者の山口謠司さんが語った。
山口さんが登場したのは、J-WAVE『GOOD NEIGHBORS』内のコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。オンエアは7月24日(月)〜27日(木)。同コーナーでは、日本の食文化を通して全国各地で育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口氏が解説していく。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが街を訪ね、現地の人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
水の問題は、米にも影響を与えていた。中国の南方から伝わってきた米は、沖縄の島々を通して本土へ拡大していった。石垣島・沖縄本島では米を作れたが、宮古島は田んぼがなく、「さとうきび畑ばかり」と山口さん。それほど水が不足していたのは、島の成り立ちが関係している。
山口:宮古島にある「宮古島地下ダム資料館」というところに行くと、昔の写真がたくさん飾ってあります。沖縄本島と石垣島は火山が爆発して大きな山ができましたが、宮古島は珊瑚礁の死骸が集まって固まったものが隆起して島になったので、山がありません。そして、珊瑚礁は穴だらけです。雨が降っても、水がそのまま島の外に流れていってしまう。水を貯めるということができませんでした。
宮古島の4つの地域に大きなダムが作られたのは、1980年代の前半から後半。以降は、水を溜めておくことができるようになったという。
山口:座喜味一幸市長が、九州大学と一緒に研究をなさって、竪穴、そして横穴も開けて、両方からコンクリートを流し込み、宮古島に大きなダムを作りました。
そのときに水道管を島中に張り巡らせたことで、さとうきび畑にも自動的にスプリンクラーで散水することができるようになったのです。「ヒルトン沖縄宮古島リゾート」がグランドオープンしましたが、それも水のおかげ。沖縄本島、石垣島に比べて、宮古島は観光が遅れていると言われていましたが、理由は水不足だったのです。
水がある生活というのは島民にとって、革命でした。水が十分に使える島になったことによって、みんなが潤い、観光業も盛んになってきました。
まずは、バナナ。宮古島には、小さなバナナがたくさん実っているそうだ。サイズ感について、山口さんは「小学生低学年の子どもが使う野球のグローブくらいの、小さなかわいいバナナ」だと表現。宮古島の人々からは「島バナナ」と呼ばれ親しまれている。
山口:これ、おいしいんです。口に中に入れると、苦いんですが、甘みがふわっと出てきて、量もちょうどいいんです。大きなバナナはお腹いっぱいになってしまいますが、一口サイズのバナナが道端になっているので、小腹が空いたらそれを食べる。バナナは完全栄養食と言われていますから、そう考えると、宮古島って住むのにもいいなあと思いました。
バナナはマレー半島が原産だそうです。それが台湾にわたり、宮古島にタネが持ってこられて、台湾バナナの亜種のような形で自生するようになったのです。
続いてはマンゴー。山口さんが今回、宮古島に訪れたのは、取材以外に、人に会うためでもあったそう。
山口:福島県の郡山市にある日本調理技術専門学校の校長先生と、そこで野菜を作っている鈴木光一さんが「自分たちも行くから一緒に会おうよ」と。彼らが何をしに来たかと言うと、マンゴーの買い付けです。宮古島では、マンゴー栽培が盛んなのです。
日本でマンゴーの名産地というと宮崎県が思い浮かぶが、宮古島のマンゴーもおいしいのだそう。
山口:ただ、マンゴーが獲れるのは6月から8月の中頃までだそうで、日本調理技術専門学校の方たちは2ヶ月半の間に送ってもらって、マンゴーケーキを作るのだそうです。
マンゴーもバナナと同じで、マレー半島が原産です。インドという説もありますけど、緑色から黄色、赤へと変化するグラデーションの美しさ、完熟して赤くなったものも、すごくおいしいですね。
ヒンディー語でマンゴーというのは「万物を支配する神様・プラジャーパティというものが化身となって現れたもの」と言われているそうです。マンゴーを食べるということは万物を支配する神様をお腹の中に入れているということなのかもしれません。
山口:もずくは、東京で食べるとだいたい酢醤油がかかっていたりしますが、宮古島では何もかけず食べました。そうしたらすごくおいしいんです。
大神島では海ぶどうも養殖されている。こちらも食べ方に工夫があり、現地の人はマヨネーズで食べるのだとか。
山口:僕は「マヨネーズも要らない」と言って、口に含むと、プチプチしていないんです。口に入れた瞬間、溶けるようにして、海の匂いが鼻腔に広がっていきます。東京で食べる海ぶどうはプチプチして、おいしい。でもプチプチしているのは「死にかけ」なんだそうです。海ぶどうは死にかけると、自分を守るために、側がだんだん固くなっていく。プチっと弾けるのではなく、ほわんと溶けていくのは新鮮な海ぶどうなのですね。
“十字”と言えば、宮古島には細かい十字の集合でできた「宮古上布」という織物がある。麻で作られているものだ。
山口:宮古上布を作るために、麻を育てて、麻の背の高さがだいたい160センチくらいになると、切って、その外皮を剥いて、煮て乾燥させ、細く裂いて1本1本を結うんです。それを宮古上布の材料にします。横糸はちょっとだけ太く、縦糸は細いものを2本重ねて、もう1回糸を作る。始めに、デザインを決めておいて、藍で染め上げます。藍染の藍も宮古島で作っているそうです。
そこから機織りをしていくそうですが、慣れた人でも、1日に20〜30センチ折り上げるのが限界だそうで、一反を折り上げるのに、1年間はかかるそうです。そのためとても高価なものなんですね。
お祭りも、その土地土地の文化が感じられるものの一つだ。宮古島では毎年旧暦の5月4日に海の神様の祭り「海神祭」が開催される。
山口:沖には爬竜船(はりゅうせん)と呼ばれる船が浮かんでいました。「爬竜(ハーリー)」とも呼ばれるお祭りで、船で競争をするんです。どちらが勝ったかで、1年の豊作を祈るのだそうです。とにかく朝から翌朝まで酒を飲みます。
また、現地の人に「伝統的な宮古島の行事で、1番大切なものはなんですか?」と聞くと、旧正月に行われる「十六日祭(シーミー)」だと話してくれたという。
山口:旧正月には朝から亡くなった方のお墓に集まって、お酒を飲むのだそうです。島外に出た人も必ず戻って参加するそうで、2年も3年も参加しない人がいると、家族が家族でなくなってしまうことを意味するそうです。
そのほか、山口さんは宮古島で「面白い慣習」を発見したという。例えば、外でつまずいたりすると、傍にあった石を拾って、自宅に持って帰って、大黒柱の下に置くのだそうだ。
山口:つまずいたり、転んだり、事故にあったりすることは「魂を落とした」ということを意味しています。その落とした魂は石に宿るんだそうです。その石を持って帰ってくることで、落とした魂が再び自分のところに戻ってくると考えられています。
そんな石の扱いを知り、山口さんが思い出したのは「宮古島まもる君」の存在だ。警察官型の人形で、島内にあちこち置かれている。作られたきっかけは、かつて赤ちゃんが交通事故で亡くなってしまったこと。赤ちゃんのきょうだいが大人になったあと、「弟が車の事故で死んでしまった。何か予防しなくちゃいけない」と安全への祈りを込めて生み出したのが宮古島まもる君なのだという。すべて手作りのため、一体一体、顔や服装が異なる。また、ポスターやキーホールダーにも起用されている。
山口:石のお話を踏まえると、魂は宮古島まもる君にも宿っているのかもしれません。交通事故でお亡くなりになった方の、魂を受けてくれている──浄化されているとでも言いましょうか。そう思いながら、帰り道に宮古島の空港近くにあった宮古島まもるくんに会いました。「これからも頑張ってくださいね」と声をかけてきたところでした。
(構成=中山洋平)
山口さんが登場したのは、J-WAVE『GOOD NEIGHBORS』内のコーナー「PLENUS RICE TO BE HERE」。オンエアは7月24日(月)〜27日(木)。同コーナーでは、日本の食文化を通して全国各地で育まれてきた“日本ならではの知恵”を、山口氏が解説していく。ここではその内容をテキストで紹介。
また、ポッドキャストでも過去のオンエアをアーカイブとして配信している。山口さんが街を訪ね、現地の人から聞いたエピソードの詳細が楽しめる。
「水不足の解消」と「観光業」の関係
今回のテーマは、観光地としても人気が高い宮古島。しかし山口さんによると、沖縄本島、石垣島に比べて、観光で遅れをとっていると言われていた時代もあったそうだ。その原因は水不足だった。(山口:珊瑚礁の海、いつ見ても、走って行ってドボン🏊と泳ぎたくなります)
山口:宮古島にある「宮古島地下ダム資料館」というところに行くと、昔の写真がたくさん飾ってあります。沖縄本島と石垣島は火山が爆発して大きな山ができましたが、宮古島は珊瑚礁の死骸が集まって固まったものが隆起して島になったので、山がありません。そして、珊瑚礁は穴だらけです。雨が降っても、水がそのまま島の外に流れていってしまう。水を貯めるということができませんでした。
宮古島の4つの地域に大きなダムが作られたのは、1980年代の前半から後半。以降は、水を溜めておくことができるようになったという。
山口:座喜味一幸市長が、九州大学と一緒に研究をなさって、竪穴、そして横穴も開けて、両方からコンクリートを流し込み、宮古島に大きなダムを作りました。
そのときに水道管を島中に張り巡らせたことで、さとうきび畑にも自動的にスプリンクラーで散水することができるようになったのです。「ヒルトン沖縄宮古島リゾート」がグランドオープンしましたが、それも水のおかげ。沖縄本島、石垣島に比べて、宮古島は観光が遅れていると言われていましたが、理由は水不足だったのです。
水がある生活というのは島民にとって、革命でした。水が十分に使える島になったことによって、みんなが潤い、観光業も盛んになってきました。
小さくておいしい「島バナナ」
食にまつわる話もたっぷりお届けする同コーナー。山口さんは、宮古島の果物に関する豆知識を披露した。まずは、バナナ。宮古島には、小さなバナナがたくさん実っているそうだ。サイズ感について、山口さんは「小学生低学年の子どもが使う野球のグローブくらいの、小さなかわいいバナナ」だと表現。宮古島の人々からは「島バナナ」と呼ばれ親しまれている。
山口:これ、おいしいんです。口に中に入れると、苦いんですが、甘みがふわっと出てきて、量もちょうどいいんです。大きなバナナはお腹いっぱいになってしまいますが、一口サイズのバナナが道端になっているので、小腹が空いたらそれを食べる。バナナは完全栄養食と言われていますから、そう考えると、宮古島って住むのにもいいなあと思いました。
バナナはマレー半島が原産だそうです。それが台湾にわたり、宮古島にタネが持ってこられて、台湾バナナの亜種のような形で自生するようになったのです。
続いてはマンゴー。山口さんが今回、宮古島に訪れたのは、取材以外に、人に会うためでもあったそう。
(山口:宮古方言での看板もたくさん出ています。「クガニ」は子どもという意味です)
日本でマンゴーの名産地というと宮崎県が思い浮かぶが、宮古島のマンゴーもおいしいのだそう。
山口:ただ、マンゴーが獲れるのは6月から8月の中頃までだそうで、日本調理技術専門学校の方たちは2ヶ月半の間に送ってもらって、マンゴーケーキを作るのだそうです。
マンゴーもバナナと同じで、マレー半島が原産です。インドという説もありますけど、緑色から黄色、赤へと変化するグラデーションの美しさ、完熟して赤くなったものも、すごくおいしいですね。
ヒンディー語でマンゴーというのは「万物を支配する神様・プラジャーパティというものが化身となって現れたもの」と言われているそうです。マンゴーを食べるということは万物を支配する神様をお腹の中に入れているということなのかもしれません。
新鮮な海ぶどうは、ほわんと溶けていく
果物だけではなく、本場の沖縄料理についても語った。山口さんは宮古島の料理屋で、離島である大神島で獲れたもずくの“食べ方”に驚いたそう。山口:もずくは、東京で食べるとだいたい酢醤油がかかっていたりしますが、宮古島では何もかけず食べました。そうしたらすごくおいしいんです。
大神島では海ぶどうも養殖されている。こちらも食べ方に工夫があり、現地の人はマヨネーズで食べるのだとか。
山口:僕は「マヨネーズも要らない」と言って、口に含むと、プチプチしていないんです。口に入れた瞬間、溶けるようにして、海の匂いが鼻腔に広がっていきます。東京で食べる海ぶどうはプチプチして、おいしい。でもプチプチしているのは「死にかけ」なんだそうです。海ぶどうは死にかけると、自分を守るために、側がだんだん固くなっていく。プチっと弾けるのではなく、ほわんと溶けていくのは新鮮な海ぶどうなのですね。
(山口:こんな綺麗なカタツムリの貝殻や、赤い実もなっています。)
宮古島の星と、高級な「宮古上布」
美しい風景が楽しめる宮古島。山口さんが宮古島に到着したのは新月の日で、真っ暗な空に星が輝いていたそうだ。歩いている砂浜には、ヒトデがたくさん──山口さんは「ヒトデも星屑の形ですね」と、ロマンチックな光景が浮かぶエピソードを語った。現地の人からは、「島の南のほうに行くと、南十字星もキレイに見えますよ」と教わったそう。“十字”と言えば、宮古島には細かい十字の集合でできた「宮古上布」という織物がある。麻で作られているものだ。
(山口:素敵な宮古古布、まるで小さな海亀が深い海に泳ぎ出しているよう織物です)
そこから機織りをしていくそうですが、慣れた人でも、1日に20〜30センチ折り上げるのが限界だそうで、一反を折り上げるのに、1年間はかかるそうです。そのためとても高価なものなんですね。
地元の人が大事にするお祭りとは?
お祭りも、その土地土地の文化が感じられるものの一つだ。宮古島では毎年旧暦の5月4日に海の神様の祭り「海神祭」が開催される。
山口:沖には爬竜船(はりゅうせん)と呼ばれる船が浮かんでいました。「爬竜(ハーリー)」とも呼ばれるお祭りで、船で競争をするんです。どちらが勝ったかで、1年の豊作を祈るのだそうです。とにかく朝から翌朝まで酒を飲みます。
また、現地の人に「伝統的な宮古島の行事で、1番大切なものはなんですか?」と聞くと、旧正月に行われる「十六日祭(シーミー)」だと話してくれたという。
山口:旧正月には朝から亡くなった方のお墓に集まって、お酒を飲むのだそうです。島外に出た人も必ず戻って参加するそうで、2年も3年も参加しない人がいると、家族が家族でなくなってしまうことを意味するそうです。
そのほか、山口さんは宮古島で「面白い慣習」を発見したという。例えば、外でつまずいたりすると、傍にあった石を拾って、自宅に持って帰って、大黒柱の下に置くのだそうだ。
山口:つまずいたり、転んだり、事故にあったりすることは「魂を落とした」ということを意味しています。その落とした魂は石に宿るんだそうです。その石を持って帰ってくることで、落とした魂が再び自分のところに戻ってくると考えられています。
そんな石の扱いを知り、山口さんが思い出したのは「宮古島まもる君」の存在だ。警察官型の人形で、島内にあちこち置かれている。作られたきっかけは、かつて赤ちゃんが交通事故で亡くなってしまったこと。赤ちゃんのきょうだいが大人になったあと、「弟が車の事故で死んでしまった。何か予防しなくちゃいけない」と安全への祈りを込めて生み出したのが宮古島まもる君なのだという。すべて手作りのため、一体一体、顔や服装が異なる。また、ポスターやキーホールダーにも起用されている。
山口:石のお話を踏まえると、魂は宮古島まもる君にも宿っているのかもしれません。交通事故でお亡くなりになった方の、魂を受けてくれている──浄化されているとでも言いましょうか。そう思いながら、帰り道に宮古島の空港近くにあった宮古島まもるくんに会いました。「これからも頑張ってくださいね」と声をかけてきたところでした。
(構成=中山洋平)
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