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77歳の漫画家が描き出すことは…「2023年上半期のイチオシ作品」をマンガソムリエが選ぶ

77歳の漫画家が描き出すことは…「2023年上半期のイチオシ作品」をマンガソムリエが選ぶ

マンガソムリエの兎来栄寿さんがおすすめの漫画を4つ紹介した。

兎来さんが登場したのは、6月23日(金)にJ-WAVEで放送された番組『ALL GOOD FRIDAY』(ナビゲーター:LiLiCo、稲葉 友)のワンコーナー「TOKYO SAVVY」。

天才が周囲を狂わせていく物語

兎来さんが2023年上半期のイチオシ漫画を紹介。最初にセレクトしたのは平井大橋さんの『ダイヤモンドの功罪』(集英社)だ。


兎来:こちらは圧倒的な天才が周りを狂わせていくという、野球を題材にして「才能」を描いた物語になっています。主人公の小学生、綾瀬川次郎くんはどんなスポーツをやらせても天才的なんですが、本人の意思としてはほかの子たちと仲よく楽しんでいたいんです。ただ、周りの大人たちがとてつもない才能を見出して、どんどんと日本代表とかの場に駆り出そうとしてしまう。でも(もし自分が)少年野球の監督をしていて、そこに大谷翔平選手とかがいたらそれはもう取り立てたいですよね。ただ、それによって誰も幸福になっていかないというのが、この物語の面白いところです。周囲の子たちは幼いころからその競技に命をかけて頑張ってきたのに、なにも努力をしていないように見える男の子がポッと出てきてその子にすべてを奪われていってしまい、プライドもズタズタになっていくという。

稲葉:そういう描き方は新しいかもしれないですね。そういう天才って物語に出てくるときに大体「拮抗するライバル」として出てきたりするじゃないですか。

兎来:なかなか変わった切り口です。スポーツ漫画は普通は勝ち負けがメインテーマになっていくと思うんですが、そういう話ではないので、逆に野球を全然知らない人でも楽しめる野球漫画になっています。

稲葉:ヒューマンとして楽しめるんですね。

LiLiCo:メインの主人公が圧倒的に飛びぬけているんだ。

稲葉:主人公の心情と周りの人たちの心情のどちらを描いているんですか?

兎来:両方ですね。天才が孤独になっていくところもそうですし、周りの人が傷ついて絶望していくところもそうです。こちらは1巻が出たときにAmazonですぐに売り切れになってしまった人気作なので、これからきっとさらに人気が出ます。

LiLiCo:1巻読み切って爽やかな気持ちになるというのとはちょっと違うんだよね?

兎来:苦しみながら楽しい作品です。

稲葉:少年漫画ではなくて青年漫画くらい?

兎来:どんな年代でも楽しめると思います。読みやすく作られています。

LiLiCo:これはまだ1巻しか出てなくて売り切れちゃってるんだ。

稲葉:でもいまは電子書籍があったりするのでね。

兎来:そうですね。次(2巻)もけっこう早く出ると思います。

SMクラブでの人間模様を描く作品

2つ目に紹介したのは『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)で連載されている新井英樹さんの『SPUNK - スパンク! -』だ。


稲葉:新井英樹さんは数々の名作を世に送り出していますね。

兎来:最初の1話で主人公の幼少期から大人になるまでの様子が描かれるんですが、とにかく自分の「好き」とか「楽しい」という気持ちに素直な主人公です。もう1人の主人公が出てくるんですけど、その子はちょっと裕福な家庭で育った女の子で、いろいろ理屈をつけて自分を抑圧してしまいがちな文学少女的な女の子。その対照的な2人がSMクラブに入るというお話なんです。

稲葉:えー!

兎来:2人とも女王様になっていくんです。その対照的な2人の化学反応だけでも面白いんですが、一見不向きな文学少女のほうも本をたくさん読んでいて語彙がすごく豊かなので言葉攻めが独特ですごかったりとか、意外な才能が開花していく様子が面白いです。あとはクラブに訪れるお客さんもいろいろな人がいて、地位が高かったり、裕福だったり、外国人だったり、余命いくばくもない人が来たりもするんです。SMクラブのお話でプレイとかも描かれるんですが、その様子を読んでいて泣きそうになってしまうような物語もいっぱいあって。普通では交わらないような濃密な人生を持っている人たちが集まり、そういう人たちの喜怒哀楽がすごく鮮やかに描かれています。

稲葉:僕も新井先生の作品大好きなんですけど、これはチェックしてなかったな。面白そう!

LiLiCo:1巻で子どもから大人でしょ? すごいスピードじゃないですか。そこからのSMはすごく興味があります。なかなか切ない世界ですからね。私も友だちでいましたけど、いつもお話が切ないなと思っていました。

稲葉:もう2巻まで出ているんですね。

兎来:1、2巻同時発売で、1話を読んでいただければそのエネルギーがわかるので、ぜひネットで検索して試し読みしていただければと思います。

独居老人たちを描く群像劇

3つ目に紹介したのは齋藤なずなさんの『ぼっち死の館』(小学館)だ。


兎来:ちょっとタイトルが不穏なんですが温かい漫画です。こちらは70歳以上の読者を対象にしている、老いや介護、看取り、終活、終の棲家などの題材を扱った新レーベルの「ビッグコミックス フロントライン」というところから出ている作品です。漫画が文化として根付いてきたので、こういう高齢者を対象とするレーベルも出てきたのかなという、象徴的な作品になります。

LiLiCo:すごいね。

兎来:この作品は、昔はニュータウンと呼ばれていた団地を舞台にして、たくさんの独居老人たちが出てくる群像劇です。本や漫画のすばらしいところって、自分の人生だけじゃ体験できないことを疑似体験できるというのがあると思うんです。団地暮らしの77歳の漫画家の方が描かれているんですけど、作者の実体験がこの作品にはすごく投影されていて。そういうものに若いうちから触れられるというのはありがたいなと。

稲葉:「70歳以上を対象読者にした新レーベルがあるんだ」と思いましたが、作者の方も?

兎来:77歳です。まさに作中にも漫画家が出てきて、一度もヒットを飛ばしたことがなくて日々締め切りに追われながら、でも国民年金だと暮らしていけないから苦しいけど描かなきゃいけないという女性が出てくるんです。ほかの人から「誰でもできない自分だけの仕事があるってうらやましいね」みたいに言われたりもして。本当に人生がいろいろと詰まっている漫画です。たとえば物語においてSNSが出てくるときって、けっこう炎上したりとかマイナスイメージで使われがちなんですが、この作品だとFacebookめたおじいちゃんがいて、独居老人だったんですけどFacebook豊かになっていくみたいな。そういう温かい話も含まれています。

稲葉:いいですね。

兎来:本当にいろいろな人生が詰まった珠玉の人間ドラマになっています。

稲葉:コマ割りとかセリフの書き方が昔懐かしい感じがある。

LiLiCo:確かに。絵的に細かくてきれいだけど顔のラインとかが懐かしいですね。

「100年以上経っても誰かの心に」という想いで描かれた作品

兎来さんが最後に紹介したのは寺田浩晃さんの『黒猫は泣かない。』(双葉社)。


兎来:こちらは短編集になっていまして、4つの物語が入っているんです。1つは「三途の川アウトレットパーク」という『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)でも実写化された作品があるんです。これは生前に積んだ徳の量によって、来世に持っていける才能や容姿や環境を買っていけるという、ちょっと面白い作品になっています。

LiLiCo:すごいね。

兎来:筆者の方が実は難病で苦しんでいらして、31歳で亡くなった文豪の梶井基次郎さんの『檸檬(れもん)』という作品を読んで感動したそうで、自分も100年以上経っても誰かの心に届いて愛される物語を描きたい、残したいという想いで漫画を描いていらっしゃるそうです。この作品集に入っている「くろいりんごときいろいそら」という作品があるんですけど、クラスでちょっと浮いてしまっている男の子の話で。作者の方は「教室の隅っこで泣いているような子を見つけて『大丈夫だよ』と言ってあげられるような作品を描きたい」ともおっしゃっていて、まさにそういう作品になっています。人と違うことで苦しんでいる人とか生きづらさを抱えている人をそっと優しく支えてくれるような作品です。無理して人に合わせなくていいし、あなただけの世界、“あなただけのあなた”をほかでもないあなた自身が大切にしてほしいというような作品で、すごくおすすめしたい漫画ですね。作者さんはYouTubeでも活動されていて、こういう漫画をYouTubeで発表するみたいなこともやってらっしゃるので、よかったら検索してみてください。

LiLiCo:とてもシンプルなキャラクターたちだけど、先ほどの3つとくらべて黒が多いような感じがする。

稲葉:最初がお葬式のシーンだからね。

兎来:荒々しさのなかにもグッとくる描写がいっぱいある作品です。

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新しい東京、まだ知らない東京をプレゼンテーションするコーナー「TOKYO SAVVY」の放送は金曜日の15時30分ごろから。

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