映画監督・是枝裕和が、本棚の様子や最近気になる書籍、最新作『怪物』の制作エピソードを語った。
是枝監督が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。6月11日(日)のオンエアをテキストで紹介。
そんな是枝監督の本棚には、どのような書籍が収められているのだろう?
小川:本棚の写真があるので拝見します。本の数がすごい。これはもう、棚じゃないですね(笑)。
是枝:そうですね。棚からはみ出ています(笑)。
小川:事務所の写真だと思うんですけど、机の上も本でいっぱいで、作業するスペースがないですね。
是枝:本をどかして作業しますね。
小川:本棚ごとにポストイットが貼っていますが、いろんな作品ごとにわけているのでしょうか?
是枝:そうですね。この先、頭のなかで考えている映画の企画のために資料集めをしたコーナーもあります。
小川:『舞妓さんちのまかないさん』(小学館)の横に『もうすぐ夏至だ』(白水社)のコーナーがありますね。こちらは歌人の方の本だと先ほど伺いました。
是枝:京都の永田和宏さんという、もう10年近くお付き合いが続いている方がいて。その方と歌人の奥さん(河野裕子)のコーナーです。
小川:交流がありつつファンでもあるということですか?
是枝:そうなんですよ。
小川:どういったところがお好きですか?
是枝:ご夫婦なので生活をしながら詩にしていて、互いに相聞歌的になっているんですよね。
小川:送り合っているん感じなんですね。
是枝:生活していて気付かない感情を詩にして出されたとき、たぶん家族でも知らない側面を詩から知っていくんです。時間差で関係が深まっていくのがとても不思議で面白いと思っています。
小川:なるほど。いつか是枝さんの作品に関わってくるんじゃないかなと感じてしまいますね。
是枝:そんなときがくるといいんですけどねえ。
是枝:昔読んでいたノンフィクションです。大学時代って小説よりノンフィクションが好きだったんですよ。その頃に読んだものをもう一度読み直す作業をこの春ずっとしていました。
小川:いいですね。
是枝:日本を代表するノンフィクションライターの本田靖春さんが書いた『誘拐』は、ちょうど僕が生まれた頃に起きた幼児誘拐事件を扱った書籍で面白かったです。
小川:改めて読んで印象が変わったり、理解が深まったことはありますか?
是枝:こちらが出版されたのは70年代(1977年)だから、出てからしばらくしてから読んでいるんだよなあ。犯罪ノンフィクションというのが気になって読んでいた時期があって。今って犯罪が起きると自己責任でしょう? 社会から切り離した形で断罪して終わるという状況が、特にテレビニュースのなかだと多いと思います。
小川:そうですね。罰になって終わってしまう。
是枝:この頃は「社会が犯罪を生む」という視座が、報道にもノンフィクションライターにも確実にあったんですよ。社会との関係のなかで犯罪が生まれてくる。だから、犯罪について語ることは社会を考えることに繋がっていく。最終的に、罪を償った人は社会が受け入れる、包摂していく。今って犯罪者を排除していくほうに伝える側もまわってしまっていますよね。改めて『誘拐』を読み直すとね、改めて際立ってくるの。かつて、ノンフィクションはこういう形で語ろうとしていたのだと再認識する。70年代80年代のノンフィクションを読むと、いかに今は変わってしまったのかわかりました。そのために読んだといっても過言ではないです。
小川:是枝さんの作品づくりにもすごく関わってくる視点というか、善悪だけでは判断できないところを社会のなかでどう捉えて考えるかみたいな。
是枝:そうなんだよね。もちろん犯罪は犯罪なんだけども、その先が大事だと思うんです。今ってむしろ先を考えないようになっているでしょう? 加害者については語るな、共感するなっていう方向性の言葉に触れたりすると、とても驚きますね。
小川:引き際の美しい映画だなと私は思いました。物語としては1つの事件を軸に、三者三葉の視点で描かれていくわけじゃないですか。大きく3つの構成にわかれていて、一つひとつのパートの引き際も“迫りすぎない”美学を感じました。最終的に、作品が核心に迫っていくんだけどすべてを明かさない。その引き際がもちろん(脚本家の)坂元裕二さんの力であり、是枝さんの演出の力なんだとすごく感じました。
是枝:ありがとうございます。たしかに、章の終わりをどうするかは一番議論したところだと思います。
小川:今回、編集をかなり重ねられたとお聞きしました。パートもすごくシームレスに変わっていくじゃないですか。あれもすごく議論されたのでは?
是枝:わからないから「1章」「2章」と(テロップを)入れたほうがいいというアイディアはけっこうありました。ただ、それは違うと一番思っていたのは坂元さんであり、僕でした。
小川:では、脚本の時点できっぱりとした区切りはなかったのですか?
是枝:なかったです。
小川:なるほど。脚本をほかの方に任せるのは『幻の光』以来じゃないですか。尊敬されている方からの脚本を引き受けることってどんなお気持ちでしたか?
是枝:もちろん尊敬しているんだけども、ありがたくこの通り撮りますってことではなくて。僕がみんなの意見を聞くように、坂元さんも耳を傾けてくれる方だったから、腹を立てられることは覚悟して言いたいことは全部言おうと思って伝えました。いい感じで共同作業ができたんじゃないかなと思います。
小川:今までの作品づくりだと、是枝さんって毎日現場で新しい原稿に差し替えると聞いております。
是枝:そうなんだよね。クランクアップの日にようやく決定稿が出る感じです。
小川:でも、今回はほとんどいじらなかったとお聞きしました。
是枝:そう。セリフ自体はいじっていないんだけど、同じセリフなんだけどもどういう演出をするともっと立ち上がるか、立体的になるかを中心に(考えた)。現場で役者のお芝居を見て、セリフを聞く作業だったんですけど、それはそれでとてもクリエイティブな仕事でした。
【関連記事】是枝監督×吉岡里帆が『怪物』を語り合う
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。
是枝監督が登場したのは、J-WAVEで放送中の番組『ACROSS THE SKY』(ナビゲーター:小川紗良)のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」。6月11日(日)のオンエアをテキストで紹介。
大量の書籍が詰まれた仕事場
是枝監督は1995年に『幻の光』で映画監督デビュー。その後、『DISTANCE』と『誰も知らない』の2作が連続でカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品。2018年の『万引き家族』では、日本映画として21年ぶりとなるカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドールを受賞。6月2日からは、最新作である『怪物』が公開している。そんな是枝監督の本棚には、どのような書籍が収められているのだろう?
10:05頃~
— ACROSS THE SKY (@acrossthesky813) June 11, 2023
DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF
映画監督の #是枝裕和 さんが登場!
影響をうけた本の一節を紹介していただきます。#jwave #sky813 pic.twitter.com/jlytUrJ5Ea
小川:本棚の写真があるので拝見します。本の数がすごい。これはもう、棚じゃないですね(笑)。
是枝:そうですね。棚からはみ出ています(笑)。
小川:事務所の写真だと思うんですけど、机の上も本でいっぱいで、作業するスペースがないですね。
是枝:本をどかして作業しますね。
小川:本棚ごとにポストイットが貼っていますが、いろんな作品ごとにわけているのでしょうか?
是枝:そうですね。この先、頭のなかで考えている映画の企画のために資料集めをしたコーナーもあります。
小川:『舞妓さんちのまかないさん』(小学館)の横に『もうすぐ夏至だ』(白水社)のコーナーがありますね。こちらは歌人の方の本だと先ほど伺いました。
是枝:京都の永田和宏さんという、もう10年近くお付き合いが続いている方がいて。その方と歌人の奥さん(河野裕子)のコーナーです。
小川:交流がありつつファンでもあるということですか?
是枝:そうなんですよ。
小川:どういったところがお好きですか?
是枝:ご夫婦なので生活をしながら詩にしていて、互いに相聞歌的になっているんですよね。
小川:送り合っているん感じなんですね。
是枝:生活していて気付かない感情を詩にして出されたとき、たぶん家族でも知らない側面を詩から知っていくんです。時間差で関係が深まっていくのがとても不思議で面白いと思っています。
小川:なるほど。いつか是枝さんの作品に関わってくるんじゃないかなと感じてしまいますね。
是枝:そんなときがくるといいんですけどねえ。
「社会が犯罪を生む」という視座があった時代
是枝監督が最近、おうち時間を利用して読んだ本の中で本棚に残したいと思った本は、本田靖春の『誘拐』(筑摩書房)だという。是枝:昔読んでいたノンフィクションです。大学時代って小説よりノンフィクションが好きだったんですよ。その頃に読んだものをもう一度読み直す作業をこの春ずっとしていました。
小川:いいですね。
是枝:日本を代表するノンフィクションライターの本田靖春さんが書いた『誘拐』は、ちょうど僕が生まれた頃に起きた幼児誘拐事件を扱った書籍で面白かったです。
小川:改めて読んで印象が変わったり、理解が深まったことはありますか?
是枝:こちらが出版されたのは70年代(1977年)だから、出てからしばらくしてから読んでいるんだよなあ。犯罪ノンフィクションというのが気になって読んでいた時期があって。今って犯罪が起きると自己責任でしょう? 社会から切り離した形で断罪して終わるという状況が、特にテレビニュースのなかだと多いと思います。
小川:そうですね。罰になって終わってしまう。
是枝:この頃は「社会が犯罪を生む」という視座が、報道にもノンフィクションライターにも確実にあったんですよ。社会との関係のなかで犯罪が生まれてくる。だから、犯罪について語ることは社会を考えることに繋がっていく。最終的に、罪を償った人は社会が受け入れる、包摂していく。今って犯罪者を排除していくほうに伝える側もまわってしまっていますよね。改めて『誘拐』を読み直すとね、改めて際立ってくるの。かつて、ノンフィクションはこういう形で語ろうとしていたのだと再認識する。70年代80年代のノンフィクションを読むと、いかに今は変わってしまったのかわかりました。そのために読んだといっても過言ではないです。
小川:是枝さんの作品づくりにもすごく関わってくる視点というか、善悪だけでは判断できないところを社会のなかでどう捉えて考えるかみたいな。
是枝:そうなんだよね。もちろん犯罪は犯罪なんだけども、その先が大事だと思うんです。今ってむしろ先を考えないようになっているでしょう? 加害者については語るな、共感するなっていう方向性の言葉に触れたりすると、とても驚きますね。
最新作『怪物』の撮影エピソード
映画『怪物』は、大きな湖のある町を舞台に、子どもたちの間に起きた日常の喧嘩が、大人たちを巻き込んで大事件へ発展していくストーリーだ。是枝:ありがとうございます。たしかに、章の終わりをどうするかは一番議論したところだと思います。
小川:今回、編集をかなり重ねられたとお聞きしました。パートもすごくシームレスに変わっていくじゃないですか。あれもすごく議論されたのでは?
是枝:わからないから「1章」「2章」と(テロップを)入れたほうがいいというアイディアはけっこうありました。ただ、それは違うと一番思っていたのは坂元さんであり、僕でした。
小川:では、脚本の時点できっぱりとした区切りはなかったのですか?
是枝:なかったです。
小川:なるほど。脚本をほかの方に任せるのは『幻の光』以来じゃないですか。尊敬されている方からの脚本を引き受けることってどんなお気持ちでしたか?
是枝:もちろん尊敬しているんだけども、ありがたくこの通り撮りますってことではなくて。僕がみんなの意見を聞くように、坂元さんも耳を傾けてくれる方だったから、腹を立てられることは覚悟して言いたいことは全部言おうと思って伝えました。いい感じで共同作業ができたんじゃないかなと思います。
小川:今までの作品づくりだと、是枝さんって毎日現場で新しい原稿に差し替えると聞いております。
是枝:そうなんだよね。クランクアップの日にようやく決定稿が出る感じです。
小川:でも、今回はほとんどいじらなかったとお聞きしました。
是枝:そう。セリフ自体はいじっていないんだけど、同じセリフなんだけどもどういう演出をするともっと立ち上がるか、立体的になるかを中心に(考えた)。現場で役者のお芝居を見て、セリフを聞く作業だったんですけど、それはそれでとてもクリエイティブな仕事でした。
【関連記事】是枝監督×吉岡里帆が『怪物』を語り合う
『ACROSS THE SKY』のワンコーナー「DAIWA HOUSE MY BOOKSHELF」では、本棚からゲストのクリエイティヴを探る。オンエアは10時5分頃から。
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番組情報
- ACROSS THE SKY
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毎週日曜9:00-12:00
-
小川紗良