第76回カンヌ国際映画祭で、役所広司が男優賞に輝いた。作品は、ヴィム・ヴェンダース監督による映画『PERFECT DAYS』。同作の脚本を監督とともに手がけたクリエイティブ・ディレクターで小説家の高崎卓馬が、第76回カンヌ国際映画祭の思い出を振り返った。
高崎がカンヌについて語ったのは、自身がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BITS&BOBS TOKYO』。オンエアは6月9日(金)。
カンヌ帰りの高崎は、まずレッドカーペットについてこう語る。
高崎:レッドカーペットはすごく長いと思っていたんですが、行くとめちゃくちゃ短くて。早歩きで行くと1分半とかで行けちゃうぐらいの、わりと短いところでした。「やんごとない人」がよく練り歩くレッドカーペットがあるじゃないですか、大統領が歩くみたいな。ああいうのを想像していたんですけど、全然短くて。
レッドカーペットでは、フォトセッションが行われる。
高崎:チームが1列に並んで左右にいるカメラマンたちに対してフォトセッションをしていくんです。日本人はそういうのにあまり慣れていないから、ほかの日本人のチームを見ていると、わりと早歩きで行くんですけど、外国の人たちってめちゃくちゃ慣れているから、すごく“ためる”んです。ためて「カメラマン、このポーズほしいのか? ほらするぞ」みたいなことをみんながし始めるから、全然進まないんです(笑)。すごそうな人がいっぱいいるんですけど、本物の俳優さんとかはそんなに生で見ていないからあまりよくわからなくて「すごくカメラで撮られる人がいるな」と思ってじっと見ている、みたいな。それでずっと待っているだけでした。
高崎:ハリウッドのすごい人とか、すごい監督さんとか、過去にパルムドールをとっている監督さんとかをみんな呼んでいて、「ここ数年のカンヌのなかでいちばん濃い」と言われていたらしいんです。実際に僕が行った日、「やんごとない人」がいそうだなと思って、近くのホテルにフラッと入ったんです。誰も止めないからどんどん奥まで行けて、「止めてよ」とちょっと思いながら入ったんですけど(笑)。そうしたら目の前を(レオナルド・)ディカプリオが歩いて。すごいですよね。「あ、ディカプリオだ」と思って。写真で撮ると撮り逃がすと思ったから、とにかくビデオで撮っていたんです。あとで見たらそこに(ロバート・)デ・ニーロも映っていました。目の前を歩いているのに(自分が)気づいていなかった(笑)。
Appleの最高経営責任者、ティム・クックも見かけたそうだ。
高崎:Apple TVがやっている、マーティン・スコセッシの映画のプレミアで来ていて、その一群だったみたいです。そういう人たちがバーッといて。すごく昔から好きだったアキ・カウリスマキという映画監督が新作を持ってきていたんです。「アキ・カウリスマキだ」と思って写真を撮っていると、そのうしろにジム・ジャームッシュが写りこんでいたりとか。ランチをしていると奥のテーブルに(クエンティン・)タランティーノがいたり。「うわ、タランティーノがいる!」とか思っていると、僕らと一緒にやっているヴィム・ヴェンダース監督が、タランティーノのところにスッとあいさつに行っちゃったりとかして。「なんだここ」というね。本当に映画のなかにいるみたいな10日間でした。
高崎:そこにいても、向こうからは視界に入っていない、「体の大きなアジア人がいるな」ぐらいだと思うので、場違いだなと自分でも思っていたんです。実際にそうやってカーペットで並んで待っているとき、僕の横にヴィム・ヴェンダースさんと奥さんがいて、その横に役所広司さんがいて、プロデューサーをやっている柳井康治さんがいて僕がいて、という感じで並んでいたんです。僕らを抜いてソン・ガンホさんとかがレッドカーペットを歩いていくんです。たぶん考えると、授賞式のプレゼンターだったりするので先に入るんですよね。僕らも授賞式に呼ばれているということは、なにかしらの賞をとるということが決まっているんです。そこで呼ばれているときにソン・ガンホさんが役所さんにあいさつに来たんです。役所さんのほうが年次が上だし先輩だから、そういうことでたぶんあいさつにきたんだなと思うんですけど、すごく美しい光景で。
高崎は「ソン・ガンホさんがすごく好き」と明かし、本人を目の前にして「生で見てもやっぱりかっこよくて『すごくこの人を撮りたい。画になる』と思ったという。
高崎:僕はすっかり透明人間になっているので、ガン見していたんです(笑)。けっこうな距離で「うおお、ソン・ガンホかっこいい」と見ていたら、たぶんその視線を感じたソン・ガンホさんが僕のことを見て、きっと自分の知らない日本の役者だろうと思ったんだと思いますが、同じように会釈をしてくれて。「あのソン・ガンホさんに会釈をされた」みたいな、すごくうれしい瞬間でした。
このとき高崎は、ふと子ども時代が思い出されたという。
高崎:透明人間だな、自分は居場所がないなと思っているときに目があって、急にあいさつされたときにグッとうれしくなる気持ちって、昔味わったことがあると思って。思い出していたら、急に話が地味になるんですけど(笑)、中学校のときに転校して「居場所ないな」と思って、方言も全然違うし馴染めないなと思って、どんどん透明人間になっているときに、めっちゃ不良のリーゼントに剃りこみが入って、眉毛が半分もないフジキくんという子が話しかけてくれたんですよね。それがめちゃくちゃうれしくて。透明人間モードを解除された喜びみたいなのがあって、急にそのことを思いだしたんです。モノクロの世界が急にカラーになる感じというか。誰かに見つけてもらえた喜びみたいな。急にカンヌのレッドカーペットで中学校のときからずっと会っていないフジキくんを思い出しました(笑)。
J-WAVE『BITS & BOBS TOKYO』は、毎週金曜の25:00-25:30オンエア。
高崎がカンヌについて語ったのは、自身がナビゲーターを務めるJ-WAVEの番組『BITS&BOBS TOKYO』。オンエアは6月9日(金)。
レッドカーペットの歩き方
映画『PERFECT DAYS』は、東京・渋谷の公共トイレの清掃員の日々を描いた長編映画。全編日本で撮影されている。高崎:レッドカーペットはすごく長いと思っていたんですが、行くとめちゃくちゃ短くて。早歩きで行くと1分半とかで行けちゃうぐらいの、わりと短いところでした。「やんごとない人」がよく練り歩くレッドカーペットがあるじゃないですか、大統領が歩くみたいな。ああいうのを想像していたんですけど、全然短くて。
レッドカーペットでは、フォトセッションが行われる。
高崎:チームが1列に並んで左右にいるカメラマンたちに対してフォトセッションをしていくんです。日本人はそういうのにあまり慣れていないから、ほかの日本人のチームを見ていると、わりと早歩きで行くんですけど、外国の人たちってめちゃくちゃ慣れているから、すごく“ためる”んです。ためて「カメラマン、このポーズほしいのか? ほらするぞ」みたいなことをみんながし始めるから、全然進まないんです(笑)。すごそうな人がいっぱいいるんですけど、本物の俳優さんとかはそんなに生で見ていないからあまりよくわからなくて「すごくカメラで撮られる人がいるな」と思ってじっと見ている、みたいな。それでずっと待っているだけでした。
映画のなかにいるみたいな10日間
今年のカンヌは、新型コロナウイルスが落ち着いたこともあり、「気合いが入っていた」のだそう。高崎が滞在中に目撃した著名人たちは?高崎:ハリウッドのすごい人とか、すごい監督さんとか、過去にパルムドールをとっている監督さんとかをみんな呼んでいて、「ここ数年のカンヌのなかでいちばん濃い」と言われていたらしいんです。実際に僕が行った日、「やんごとない人」がいそうだなと思って、近くのホテルにフラッと入ったんです。誰も止めないからどんどん奥まで行けて、「止めてよ」とちょっと思いながら入ったんですけど(笑)。そうしたら目の前を(レオナルド・)ディカプリオが歩いて。すごいですよね。「あ、ディカプリオだ」と思って。写真で撮ると撮り逃がすと思ったから、とにかくビデオで撮っていたんです。あとで見たらそこに(ロバート・)デ・ニーロも映っていました。目の前を歩いているのに(自分が)気づいていなかった(笑)。
Appleの最高経営責任者、ティム・クックも見かけたそうだ。
高崎:Apple TVがやっている、マーティン・スコセッシの映画のプレミアで来ていて、その一群だったみたいです。そういう人たちがバーッといて。すごく昔から好きだったアキ・カウリスマキという映画監督が新作を持ってきていたんです。「アキ・カウリスマキだ」と思って写真を撮っていると、そのうしろにジム・ジャームッシュが写りこんでいたりとか。ランチをしていると奥のテーブルに(クエンティン・)タランティーノがいたり。「うわ、タランティーノがいる!」とか思っていると、僕らと一緒にやっているヴィム・ヴェンダース監督が、タランティーノのところにスッとあいさつに行っちゃったりとかして。「なんだここ」というね。本当に映画のなかにいるみたいな10日間でした。
ソン・ガンホの会釈で解除された“透明人間”
華やかな世界になればなるほど引いてしまい「透明人間みたいな気になる」と話す高崎は、その透明人間状態から解除してくれた俳優のエピソードを語った。高崎:そこにいても、向こうからは視界に入っていない、「体の大きなアジア人がいるな」ぐらいだと思うので、場違いだなと自分でも思っていたんです。実際にそうやってカーペットで並んで待っているとき、僕の横にヴィム・ヴェンダースさんと奥さんがいて、その横に役所広司さんがいて、プロデューサーをやっている柳井康治さんがいて僕がいて、という感じで並んでいたんです。僕らを抜いてソン・ガンホさんとかがレッドカーペットを歩いていくんです。たぶん考えると、授賞式のプレゼンターだったりするので先に入るんですよね。僕らも授賞式に呼ばれているということは、なにかしらの賞をとるということが決まっているんです。そこで呼ばれているときにソン・ガンホさんが役所さんにあいさつに来たんです。役所さんのほうが年次が上だし先輩だから、そういうことでたぶんあいさつにきたんだなと思うんですけど、すごく美しい光景で。
高崎は「ソン・ガンホさんがすごく好き」と明かし、本人を目の前にして「生で見てもやっぱりかっこよくて『すごくこの人を撮りたい。画になる』と思ったという。
高崎:僕はすっかり透明人間になっているので、ガン見していたんです(笑)。けっこうな距離で「うおお、ソン・ガンホかっこいい」と見ていたら、たぶんその視線を感じたソン・ガンホさんが僕のことを見て、きっと自分の知らない日本の役者だろうと思ったんだと思いますが、同じように会釈をしてくれて。「あのソン・ガンホさんに会釈をされた」みたいな、すごくうれしい瞬間でした。
このとき高崎は、ふと子ども時代が思い出されたという。
高崎:透明人間だな、自分は居場所がないなと思っているときに目があって、急にあいさつされたときにグッとうれしくなる気持ちって、昔味わったことがあると思って。思い出していたら、急に話が地味になるんですけど(笑)、中学校のときに転校して「居場所ないな」と思って、方言も全然違うし馴染めないなと思って、どんどん透明人間になっているときに、めっちゃ不良のリーゼントに剃りこみが入って、眉毛が半分もないフジキくんという子が話しかけてくれたんですよね。それがめちゃくちゃうれしくて。透明人間モードを解除された喜びみたいなのがあって、急にそのことを思いだしたんです。モノクロの世界が急にカラーになる感じというか。誰かに見つけてもらえた喜びみたいな。急にカンヌのレッドカーペットで中学校のときからずっと会っていないフジキくんを思い出しました(笑)。
J-WAVE『BITS & BOBS TOKYO』は、毎週金曜の25:00-25:30オンエア。
この記事の続きを読むには、
以下から登録/ログインをしてください。
radikoで聴く
2023年6月16日28時59分まで
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。
番組情報
- BITS & BOBS TOKYO
-
毎週金曜25:00-25:30
-
高崎卓馬