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 小津安二郎作品の「他にはない魅力」とは何か? クリエイティブディレクター・高崎卓馬が語る

小津安二郎作品の「他にはない魅力」とは何か? クリエイティブディレクター・高崎卓馬が語る

第36回東京国際映画祭が10月23日(月)~11月1日(水)まで、日比谷・有楽町・丸の内・銀座地区にて開催される。J-WAVEは、東京国際映画祭とコラボレーションし、映画監督 小津安二郎生誕120年を記念した特別企画を実施する。

J-WAVE『BITS&BOBS TOKYO』をナビゲートするクリエイティブディレクターの高崎卓馬は、今年の映画祭オープニング作品『PERFECT DAYS』で、ヴィム・ヴェンダース監督と共同脚本・プロデュースを担当している。開催前の10月20日の同番組では、高崎が小津作品の魅力を語った。

ここでは、その内容をテキストで紹介。トークは、radikoで2023年10月27日(金)まで再生可能だ。

再生は2023年10月27日(金)28時ごろまで

「リズム」がある、小津作品ならではの魅力

東京国際映画祭では、ほぼ全作に近い35本の小津作品が上映される。新たにデジタル修復した作品も楽しめる貴重な機会だ。高崎は「配信とかテレビとかでも観られるものもあるんだけど、やっぱりスクリーンで観ると違うので、ぜひ観てほしい」とリスナーに呼びかけつつ、作品の魅力を語った。

高崎:小津作品って、「日本の心を描いた古き良き映画」とされていると思うんですよね。教科書的な感じと思いがちなんですけど、そんなことは全然ないんです。そんな生半可なものじゃなくて、簡単に言うと変なんです。ものすごく変なんです。せりふの言い方を1つとっても、せりふの前はちょっと間があって、せりふのあとは必ずもうちょっと間があって。それが全員同じ間だったりして。一説によると、映像って1秒間で30フレームで30枚の静止画でできていて、アニメーションみたいに静止画がバーッと流れて動画になっているんですけど、1秒間30フレームの頭10フレーム、3分の1秒は必ず空いてて、お尻の5とか6フレームは必ず空いてるみたいな。小津作品って全部観ればそうなってたっていう人がいたりとか。フィルムって昔は全部触れるから、全てを切ってはめると全部同じ長さになるとか。物語と関係ないところでものすごくスクエアに作ってあったり。それが昔で言うと「小津調」って言われていて、不思議なリズムを生んでるんですよね。この間対談させていただいた方は「テクノ」って言ってましたけど、リズムを作るっていうか、映像の見えないリズムみたいなものが生まれていて、それが僕らの体の中に入ってくるという。それって普通じゃないですよね。

小津安二郎にしかできないこととは?

高崎は、小津は映画の画期的な方法を編み出した人でもあると口にする。

高崎:映像の基本として「イマジナリーライン」というものがあります。たとえば正面を向いてしゃべってる人がいるか、横に並んでしゃべってるかって、しゃべってる人だけ映してるとわからなくなっちゃうんですよ。だからちょっと肩を入れて相手を入れたりとか、位置関係をわからせるように作るのをイマジナリーラインって言うんですね。それを必ず越えないように作らないと人が混乱するってずっと言われていて。僕も映像を学ぶときに最初に学んだんですけど、世界で唯一、イマジナリーラインをぶっ壊したのが小津安二郎なんですね。「そんなの関係ない」って言って作ってるんですよね。他に観たことはないし、マネしても追いついてないというかマネでしかないので、ああいう映画の文法ごと作っちゃった人ってなかなかいないかなって思いますね。

多くの作品を世に送り出してきた小津。その作品のストーリーはたいてい日常や普段の暮らしを淡々と描いているが、高崎はそれを「なんだか残酷」と言う。

高崎:時計って1秒ずつカチカチって正確に動いていくじゃないですか。正確に動いて、しばらく経つともう戻れない時間がそこにあって。だから時って進んだら戻れないっていうのがある意味残酷で。万人に共通に訪れる残酷なものがあるっていうのは、いちばん大きなところで小津作品にある気がするんですよね。これは僕の個人的な考えなんですけど、いつも同じように人がしゃべってて同じように世界が進んでるんだけれど、物事がいつの間にか進んじゃってる、取り返しのつかないものが生まれているっていうのがめっちゃ怖いんですよね。自分もそうだから。なんかそんな感じ。一筋縄にはいかないなって感じがすごくします。

高崎は、実は小津作品にすごくハマったのは最近だと明かす。

高崎:学生時代から何度も観てるんですけど、昔は絶対1本の映画で3、4回は寝落ちしてましたね(笑)。油断してるとつまらないんですよ。理解しながら観るとめちゃくちゃ面白いんですよね。急にあの世界にグッと入ってくる瞬間があって、入った途端にそこに宇宙が現れるっていう不思議な映画ですよね。ぜひその扉を開けて、小津作品の話ができる仲間がたくさんできたらいいなって思うので、映画祭のスクリーンで小津作品を浴びてほしいなと思います。

映画の楽しみ方を、上の句と下の句で考える

高崎は以前、作家の川上未映子との対話で、面白い気付きを得たそうだ。

高崎:映画とか小説って作者が意図してるか・してないか関係なく、できあがってアウトプットされた瞬間に別の体を持ってるもので、その別の体は身体を獲得しちゃうと。シナリオを書いた人とか監督とか俳優とかが意図してなくてもそこには意味が現れちゃうっていう。たとえば主人公が立ってて、そのうしろで雲が流れているのは、意図しないものだけど、その雲の流れにこちらは何かを感じてしまう。その雲が流れていくっていうことに何かを感じたことはきっと意味があって、その意味が作品の中で連鎖していく。それが観ている人の中で残っていく。そういう意味をたどっていく作業を批評というか評論というか、そういう風に言うんじゃないかと。僕は川上さんと話しているときにそういうことをちょっと思って、それってすごく面白いなって思ったんですよね。

高崎は、映画を観賞後に「このシーンで、主人公がかかとを踏んでいたことには、こういう意味があるんじゃないか? だから、あのせりふに繋がったんじゃないか?」などと深読みすることも、映画の楽しみのひとつだと考えている。

高崎:正解とかないと思うんですよ。1つの考え方だし、イマジネーションの遊びだと思うんです。上の句と下の句みたいな。映画や小説という上の句があって、それを受け取った人が下の句を作るっていう。その遊びが最近そういえばないなっていう気がするんですよね。評とかレビューじゃない思考の遊びっていうか、考えの遊びが実はいちばん面白いんじゃないかなって思ったんですよね。絵を見て「なんだこれ」って思って、この中のこの筆のタッチでこういう気持ちになって、それにはこういう意味があって、やっぱりこの作家はそういうのを作っていて、こういう人生を歩んでる……ほらね、みたいな。そういうのってすごく楽しいですよね。エンターテインメントを本当に楽しむっていうのは、もしかしたらそっち側っていうか、下の句をしっかりやるってことで面白くなるんじゃないかなっていう気がします。

J-WAVEでは11月3日(金)、小津安二郎を特集する番組『J-WAVE SPECIAL SHOULDERS OF GIANTS』をオンエアする。

クリエイティブディレクター・高崎卓馬のショートストーリーとトークで綴る『BITS&BOBS TOKYO』の放送は毎週金曜日の25時から。

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2023年10月27日28時59分まで

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BITS & BOBS TOKYO
毎週金曜
25:00-25:30